IS BURST EXTRA INFINITY 作:K@zuKY
季節は春。
新緑芽吹き、桜が舞い散る風景は日本独特のものだろう。嗚呼、懐かしき日本。これが元居た世界だったらどんなに良かった事か。だが贅沢は言うまい。あの桜舞い散る花びらは美しさの中に儚さを見出せる。そう、まるで人の世を映し出すかのようだ。その桜の花びらが気紛れな風に吹かれてヒラヒラ、ヒラヒラと舞う様は、見る人に言い知れぬ感動と切なさを与えるだろう。先頭を颯爽と歩く織斑千冬の後ろに付いて歩きながら、センクラッドは窓から見える日本風景を堪能していた。
教室の扉や窓越しから多数の視線が突き刺さる事に加え、ヒソヒソ声で自分の事やISを唯一動かした少年の事を噂している女子達の存在を無かった事にしている、云わば現実逃避をする為の、という前置きがついてしまうが。
まーだでーすかー!!千冬さーーーん!!と、キャラが崩壊しても良いので叫び出したいのをぐっと我慢し、ただひたすらに春の風景を窓越しに見ながら織斑一夏がいる一組を目指しているセンクラッド達だが、千冬が立ち止まった事でようやく目的の場所についたのかと内心安堵するセンクラッド。
「センクラッド、私が入れと言ったら入って来い。良いな?」
「了解」
表面はあくまでクールに返すが、内心では「……アレ、もしかしてコレ転校生が来ました的な紹介パターンですか千冬さん」と愕然としているセンクラッド。
千冬が消えた扉を見つめ、周囲に誰もいない事や監視されていない事を確認し、小さく肩を落とした。
ISって本当に女性しか扱えないんだな、という事実がようやく現実として入ってきたのは、ついさっきだ。千冬の許可を得て、自室から一組まで歩きながら幾つもの教室を廊下越しに内部を拝見させてもらったが、男らしい女子生徒は居ても、男子生徒の数はゼロだった。
こちらに向けられる視線の数が途中から爆発的に増えたのは、誰かがリークしたからだろう。異星人として居る以上、こういった視線に慣れなければならないんだろうと思うと、今更だが気が滅入る。
前の世界では皆生き残る事に必死だったから、この手の視線は無かったわけか、と納得し、こういった世界なら今後気をつけねば、と固く決意した瞬間。バァン!!と何か硬いもの同士が当たる打撃音が廊下まで響いた。
何事だ、と鋭い視線を教室に向け、次いで、
「げぇ、関羽!?」
という男の絶叫が教室越しでも聞こえ、再度、先程聞いた時よりも大きめの打撃音が響き渡った。
「カン・ウー、だと……」
センクラッドは戦慄していた。自身でも扱った事のあるGRM社謹製の大剣、カン・ウー。
アレがここに存在するのか!?それとも、あのカン・ウーを扱える者がここに居ると言う事か!!
「いや、そんなわけないだろ俺。アレか、千冬の事か」
ジャーンジャーン的な意味か。それとも横山M輝的な意味か、とセンクラッドが愚考していると、扉越しに「入れ」という冷ややかな言葉が耳に突き刺さった。
静かに扉を開けた瞬間、まず気付いたのは複数の香水と、その香水と同じ数だけの女性の体臭が大量に入り混じった事による鼻を突き刺すような悪臭だ。オラクル細胞で再構成された肉体は本人の意思とは無関係に速攻で嗅覚と味覚を遮断し、不快感から逃れることに成功したセンクラッドだが、流石に眉は顰めてしまう。
「何だ今の異臭は。毒ガスか?」と言いかけ、寸での所で止めた自分を褒めてやりたい。と、阿呆な事を考えながらも、カツカツと黒い赤原礼装のブーツを響かせて教壇の横にいる眼鏡と爆乳が目立つ女性のすぐ傍まで歩む。
「自己紹介を」
千冬のその言葉に頷いて視線を教壇から生徒達へと視線を巡らすと、好嫌入り混じった視線の嵐にぶち当たった。日本人が半分、後の半分は外国籍の人種。その多種多様な人種の視線が全て、自分に降り注いでいる。大多数は好奇によるものだが、極一部の人間は好奇というよりも嫌悪と軽蔑、そして胡乱気な視線を向けている。
何ぞこれ、下手したら恐怖症になる人はなるんじゃないだろうか、と思いながらも足を一歩前に出し、口を開く。
「グラール太陽系から来たセンクラッド・シン・ファーロスだ。短期間だがIS学園に在籍……と言えばいいのかわからないが、滞在する事になった。宜しく頼む。授業は見ているだけなので、俺に気にせず授業を受けてくれると助かる」
そう言い、衣服の衣擦れする音を立てずに一礼し、一歩下がるセンクラッドに惜しみない……とまではいかないがそれなりの拍手が送られた。それを手で制し、続けて千冬が口を開いた。
「諸君らはIS学園生徒の前に一人の地球人として彼に接する様に。失礼や無礼が有った場合、その評価は地球人類全てに響くと思え。くだらん事を言うなよ、良いな?」
その言葉で一瞬にして緊張感溢れる空気となった。なんぞそれ、俺に対する嫌がらせか。と思ったセンクラッドは、己の為に口を開く。
「別に普通にしてくれて構わない。ここで起きた事は余程の事が無い限りは報告はしないし、それに……まぁ、無礼や失礼はあの記者会見の時に十分に知っているから、アレ以上悪くなることはないと思う」
皮肉に聞こえたのか、若干名が顔を引き攣らせた笑みを見せる生徒達。皮肉じゃないんだと言っても通用しないんだろうなぁ、と諦めて黙り込むセンクラッド。
そんな中、千冬は手を叩いて注目を促し、
「さて、SHRは終わりだ。諸君らにはISについての基礎知識を半月以内で覚えてもらう。その後は実習に移るが、授業で学んだ事を余すことなく実践するように。それから、必ず私の言葉には返事をしろ、良いな」
センクラッドと千冬の存在のお陰で、1年の中では良くも悪くも緊張感を持ったクラスとなったのだろう、その言葉の直後に、クラスの全員がほぼ同時にハイと答えた。
それを確認し、千冬は教科書を開いた。
「では、これよりIS基礎理論授業を始める。全員、教科書の3ページ目を開け。それと、センクラッドはコレを――」
「――あぁ、了解」
センクラッドに渡したのはISの教科書であった。ただ教科書と言っても生徒や先生が扱うそれではない。重要なところは省かれたり削除されたりしているので、あくまで参考程度で収まる資料集といったところか。それでも相当詳しく書かれている為、センクラッドは外界の情報をある程度遮断し、読み始めた。元々読書が好きなだけあって、この本はとても魅力的だった。
眼帯で覆われている眼が、負の感情――怒りを爆発的に発露させた存在を視ろとセンクラッドに注意を促した。
センクラッドは渋々と資料集から重要な項目を片っ端から脳に放り込み、吟味して記憶させていく作業を中断させ、その方角を見る。
件の人物は授業中にも関わらず、立ち上がっていた。問題なのはそこではなく、その人物が艶やかな金色の髪を縦にロールさせた女子生徒で、絵に描いたような高飛車なお嬢様としか思えないポーズをとって、男子生徒を指差していた事だ。
なので、思わずセンクラッドは呟いた。
「本当に居るもんなんだな、高飛車金髪縦ロール……」
ポツリと零した言葉だった為、その場に居る誰もが聞き逃したのはある意味運が良かったのか悪かったのか。それはともかくとして、センクラッドは左手で持っていた資料集を親指と中指のみを使って音を立てずにそっと閉じた。
何やら口論……というよりは口喧嘩をしているようだった。極東の猿だの、イギリスのメシマズはどーのこーのという、センクラッドとしては何をどうしてそんな喧嘩をしているのか理解出来ない。何と言うか、子供の喧嘩に聞こえて仕方が無い。
そもそも何を学習しにきたんだ、あの英国式全自動金髪縦巻髪は。日本が生み出した兵器の事を学習する為に日本に来てあの侮辱は無いだろう、と思ったセンクラッドはため息を付いて手を挙げ、不思議とよく通るその尾てい骨直下型の低い声で喧嘩している二人に声をかけた。
「そこの二人、ちょっと良いか?」
その言葉に、なんですの!?となんだよ!?と同時に振り向く二人だが、発言者の姿を向いて一気に夢から醒めた様な表情を浮かべた。
「一つ疑問があるのだが、ええっと――」
「セシリア、セシリア・オルコットですわ、ファーロス様」
「あぁ、様はつけなくていい。で、オルコットさん。お前さんは一体何をしに日本に来たんだ?」
「決まっていますわ、ISの事を学び、より強くなる為ですわ」
「……そうか。なら、聞いてくれ、聞くだけで良い。恐らくは一考の価値はある」
一度言葉を切り、溜めを作る事でより集中して聞き入り易くなる手法を使い、センクラッドは言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「ISを製作したのは日本、そしてIS学園がある場所も日本。それなのにお前さんは日本を侮辱している……ように聞こえた。教えてもらう立場の人間なら、普通は敬意を持って相対するものだと思ったのだが、この星では違うのか?」
センクラッドの指摘は最もだった。例え憎い相手だろうとも、格下だと思って差別したくても、教えられる立場にいるのなら、相手をある程度は認めなければならない。そこに男女や人種など差し挟まぬものなのだ、本来は。
ISを開発した人が女性であれ、ISに乗れる性別が女――例外は出来たが――であれ、IS学園がある場所は日本であり、IS製作者は日本人である。そこを認めた上での発言とは到底思えなかったのだ。
それを教えられた事で上がっていた血の気が一気に下がったのか、謝罪したいが吐いた唾は今更飲み込めない、といった表情を浮かべるセシリアを見、軽く嘆息する。
今、謝れないなら、後で謝らせるか、それとも両成敗という形を採る他無い。が、何で俺こんな事やってるんだろう、俺は教師じゃないのに。と胸中を虚無感で一杯にしながら、何故か勝ち誇ったような表情をしている男子生徒に言葉を発した。
「それに、そこの男子も。確か織斑一夏、だったか。いくら祖国を侮辱されたからといって、同じ様に侮辱してどうする。子供の喧嘩じゃあるまいし、みっともなく思える」
グッ、と言葉に詰まり、何も言えなくなるIS学園で唯一の男子生徒。謝れる素地は作ったから後は二人でどうにかしてくれ、と願いつつ、
「豊かさにおいて文明は確かに必要だが、残念な事に精神的な成熟はそれに比例してはいかない。そして、文明は築くものであって縋るものじゃない。それに縋り付くしか出来ないのなら、いっそ捨ててしまうという選択肢もあると言う事を知っておいた方が良い」
Aフォトンという利便性の高い存在に固執した結果、グラール太陽系旧人類はSEEDと呼ばれる寄生型生命体に種族ごと滅ぼされ、グラール太陽系人類も危うく同じ道を辿りかけた事を思い出しながらセンクラッドは諭すように言った。
だが、これが裏目に出る。
彼が言ったのは聞き手にもよるが、「ISを捨てろ」と受け取られてもおかしくはない。ISを学ぶ場でISを否定する、そんな事が許されて良いのか。そして異星から来た事を抜きにして、男から言われたくも無い者も居る。男尊女卑が激しかった国の出身者や、ISがあるお陰で今の立場に立っている者達からしてみれば、面白くない事を言われていると感じるわけだ。
一気に雰囲気が険悪なそれになった事を肌と眼で感じ取ったセンクラッドは、失敗したな、と思ったので「今のは失言だった、忘れてくれ」と言おうとして口を開きかけたが、
「それは個人的意見だとしたら浅慮ですわ。貴方の今の発言は、こちらとしては内政干渉と受け取っても仕方ない事ですわよ」
セシリアからの反論と、そうだそうだ、それに追従する女子生徒達によって肺から押し出された音は、ふぅ、という溜息へと変わっていく。
「……確かに、今のは内政干渉と受け取られるか。なら忘れてくれても構わん。だが、考えておいてくれ。自分を高く見せる為に相手を下に下げるやり方は、決して上策ではない事を」
そう言って、この会話は終わりだと言わんばかりに資料集を指で開いて続きを読み解こうとするセンクラッドに、セシリアは待ったをかけた。
「お待ちなさいな。わたくしがそういったやり方をしているとでも?」
「……俺はそう言う風に感じた」
「わたくしは事実を言ったまでですわ。それに、元々はわたくしとこの猿の問題です。貴方にとっては関係ない事なのに何故首を突っ込むようなマネを?」
「視野狭窄に陥っている者を諭そうとしただけだ、他意は無い」
心の底から「うわぁこいつめんどくせぇしうぜぇ……略してめんどうぜぇ……」と関わった事を後悔しながら、オラクル細胞を無駄に駆使して表情を変えずに呟いた。
「日本語をよくご存知ですのね。日本人よりも日本人らしいですわ」
「……俺がグラール太陽系デューマンではなく、日本人だと?」
うわぁ、なんか嫌な雲行きになってきたなぁ、と心の奥深くから冷や汗が滾々と湧き出てくるのを感じながら、センクラッドは返答を返した。
「そうは言っておりませんが、そう聞こえましたか? そう聞こえ――」
「そこまでにしておけ、オルコット」
「織斑先生……」
「センクラッドの言う事は概ね正しい。お前からしてみたら事実かもしれないが、それで気分を害する人間もいるという事を忘れるな。そして、私は極東の猿と呼ばれた男の姉だ」
指摘された事に、今度は顔を青褪めさせて陳謝するセシリアを見て、「男尊女卑も女尊男卑もロクなモンじゃねぇなオイ」と辟易していた。
「センクラッド、何か言いたそうだがどうした?」
むしろ、何か言い足そうものならより大変な事になる気がしてならないのだが、と益体も無い事を思いつつ、センクラッドは口を開く。
「いや……もう何というか、二人とも殴り合いでも話し合いでも良いからとっとと決めてくれとは思う」
「野蛮な事を……ならば、先の言った通り、決闘ですわ!! もしわたくしが勝った場合、貴方を奴隷にしますわよ」
「良いぜ、その代わりお前も負けたら何かしろよ」
一夏のその言葉に幾人かは失笑し、セシリアは、
「わたくしに勝つ気ですの? イギリス代表候補生にして専用機が与えられているこのわたくしに? 冗談は国籍だけにして欲しいですわね」
と、見紛う事無く、嘲笑していた。
お前は先程注意や説教されたにも関わらずまだ言えるのか。というか決闘って言い方変えただけの殴り合いだろうに、と呆れながらも傍観者に戻るセンクラッドだが、千冬と一夏の怒りのボルテージが見えるか見えないかの差があるだけで、勢いとしては強烈という言葉をぶっ飛ばす勢いで上がっていくのを眼で感じ取り「あぁ~このギスギスした空間超心地良い、負の感情が凄い勢いで俺の眼に染み込んできて良いなぁ」と、普通の人間では有り得ない快楽を感じながら、センクラッドは現実逃避していた。
「俺はお前なんかに負けはしない。で、ハンデはどれくらいつける?」
その言葉に、とうとう堪え切れなくなったと言わんばかりに、失笑や嘲笑、苦笑などがクラス中で巻き起こった。セシリアは極まったのか高笑いなぞしている。
「わたくしに負けないと言ったそばからお願いとは、貴方、コメディアンの才能がありましてよ」
「違ぇよ、お前にハンデをつけてやるって言ったんだよ」
「益々笑えますわ。貴方、本気で仰ってるのなら、コメディアンとして売り出してはどうかしら?オルコットの名において支援してあげましてよ」
「織斑君、男が強いというのは前時代的な考えだよ」
「そもそも代表候補生は何百時間と練習しているんだから、ハンデつけてもらっても勝てるかどうかじゃん、バッカじゃないの」
御覧の通りというよりも、常識的に考えてもまず圧倒的に一夏の分が悪かった。性格は現代の風潮に染まっているせいで難あれど、客観的に見て美少女の代表候補生に、イケメンだがズブのド素人で前時代的な考えを持つ男子。普通ならば万に一つの勝率すら無い、出来レースとも言える勝負。
四面楚歌と言っても良い程の悪意や嘲笑に囲まれ、流石の一夏も気圧されたのか、一瞬だが怯んでしまったその時――
ダンッ!!
拳を机に叩き付け、立ち上がったのはポニーテールと眦をキリリと鋭く上げた、言わば怒りの表情と感情と髪型が特徴的な女子生徒だった。
はてさて、誰だこいつ、とセンクラッドが思うのと同時、その女子生徒は唖然とする全員に対し、怒りの咆哮を上げた。
「黙って聞いていればゴチャゴチャと!! 寄って集って一人を嘲笑うのが正しいのか!!」
「ほ、箒……」
渇ッ!!という文字が浮かびそうな程、見事な啖呵を切ったのは、ええと、やっぱり誰だコイツ?と思ったセンクラッドだったが、孤立無援な状況下に置かれていた一夏が表情を明るくさせて言った呼び名で気付いた。
え?あ、あぁ、ホーキね、ホウキ。うん、知ってる知ってる。モップとか掃除用具の……って違うだろ俺、やっぱり誰なんだこの女子生徒??とか思っていたりするのは一先ず置いておこう。
まさか、さしもの彼もホウキなんて呼び方の女子が居るとは思わなかったのだ。素で聞き違いだろう、コウキとかそういう類の名前かな?と思っていたのだから仕方ないと言えば仕方ないのだ。
「一夏も一夏だ!! あんなにまで言われて言い返せず、勝てるとも言い切れず、ただ気圧される馬鹿者がどこに居るか!!」
其処(此処)に居ますよ箒(コウキ)さん、と思うのは男側の共通した心理だが、そもそも答えなど求めていなかったのか、箒は更に声を張り上げる。
「そして、そこのイギリス代表候補生のセシリア・オルコットといったな!!」
「え、えぇ、それが何か?」
さしもの高飛車お嬢様も、触れれば斬れるカミソリガールにはタジタジのディフェンスにならざるを得なかったらしく、若干腰が引けていた。
「一夏は、弱くない!!」
「……数十分も乗ってないズブの素人に、わたくしが負けるとでも?」
「あぁ、勝つのは一夏だ」
自身満々だと言う風に言い切った箒に、苛々とした表情で返すセシリア。
「その根拠は? まさか、この中で唯一殿方だから、とか――」
「何を勘違いしている。お前は忘れているようだが、一夏はブリュンヒルデの弟だぞ?」
「それで?まさか織斑ファミリーには秘められた力がある、とでも? そう思っているならジャパニメーションの見過――」
「そして私は……篠ノ之束の妹だ」
ざわり、と空気が変わった。
成る程、篠ノ之博士の妹ならばISを知り尽くしている可能性もあり、ブリュンヒルデの弟ならば、或いは。
熱狂的なブリュンヒルデのファンや日和見側に立っている者達は一夏に期待の視線を送り始め、その空気を敏感に感じ取ったセシリアは髪を掻き揚げ、不敵に微笑んだ。
「成る程、貴女があの……貴女が鍛え、鍛えた彼に私が倒される。ヒロイックサーガに有り勝ちな展開ですけど、そうなるとは限りませんわよ?」
「やってみなければわかるまい」
「確かに」
熱く激しい火花を散らす二人。
それが物理的に視えるのは俺だけだろうなぁ、と場違いな事を考えるセンクラッド。
え、俺の意思は……?と思う一夏。
中々にカオスである。
「……話は纏まったな。それでは勝負は一週間後の月曜の放課後、第3アリーナで行う。織斑とオルコットはそれぞれ準備をするように」
割とうんざりとした風に言った担任の言葉の直後にチャイムが鳴り響き、授業の終了を知らせた。
うんざりしているのはどちらかと言うと、ブリュンヒルデと呼ばれた方にうんざりとしていたのだが、どうでも良い事だ。