IS BURST EXTRA INFINITY   作:K@zuKY

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変な改行が入っていた為、修正致しました。


37:対策会議兼世間話

 生徒会で会談をした翌日の放課後の自室。

 ロビンフッドとシロウとセンクラッド、楯無は顔を付き合わせていた。それぞれの手の中には簪に関するデータを纏めたペーパーが納まっており、テーブルには一夏とラウラの論争を録音した装置が置かれていた。言うまでも無く、楯無が持ち込んだのだ。

 簪・一夏対策の会議を始めてまだ僅かな時間しか経過していないのは、まだシロウが1度目の湯沸しをする為に厨房に入った事で証明している。

 ロビンフッドが、簪のプロフィールを流し読みしていた途中で、ふと視力の項目で視線を戻した。

 

「ん? 視力2.0? 楯無ちゃん、この眼鏡は伊達って事かい?」

「携帯用の投影型ディスプレイをかけてるの。実際は私と同じ位良いわ」

「携帯用、ねぇ……」

 

 ちゃん付けで呼ばれる事に抵抗があるのか、微妙な顔をして楯無は答えている。殆ど役職名か、さん付け、或いは呼び捨てでしか呼ばれていなかった為、慣れていないのだ。

 そんな楯無の顔色を意図的に無視して、センクラッドは趣味の欄で視線を止めていた。

 

「簪さんの趣味の欄にアニメ鑑賞とあるが」

「簪ちゃんは勧善懲悪のアニメが好きなの。よく独りでぶっ通しで観ているわ」

「ほう、流石盗撮女王といったところか」

「いい加減にしないと仏の私でも怒るわよ?」

 

 若干の怒気の籠った言葉に、らしいでもなく断定系で言われりゃそうも言いたいんだがな、と胸中で呟くに留め、肩を竦めてかわすセンクラッド。

 

「何だ、この子は正義の味方にでも憧れているのか?」

「どちらかというと、ヒーローに助けられるヒロイン側に憧れている節は昔からあったわね」

「成る程……」

 

 センクラッドとロビンは視線を合わせ、言葉を重ねて、

 

「勧善懲悪ものが好きな事に加えて、正義の味方にもある種の憧れがある、となると――」

「バッチリ適任がいるよなぁ、ココに」

「何故そこで私を見るのかね」

 

 センクラッドとロビンフッドの視線を受けて、予想していたけどやめれ、と言わんばかりの表情を浮かべて溜息混じりに抗議するシロウ。いや、簪のプロフィールの説明を受けた瞬間にトバッチリが来るなんて100%あると確信していたのだが、やはりそういう視線を向けられると、困るというか、もにょるというか。

 絶賛もにょり中という雰囲気を纏いながらも紅茶を作る手を休めないシロウに、空気を読まない組が言葉のワンツーパスを飛ばした。

 

「そりゃお前さんがワールドヒーローしてたからだろう」

「だよなぁ。オレもシロウの経歴聞いて思ったし」

「え。どういう事? シロウさんが正義の味方って事?」

「そこで悪役って事とならない辺り、シロウはジャパニメーション系のダークヒーロー属性ついてるんだろう、肌黒いし」

「しかも射撃得意な癖に近接もこなせる万能型だよねぇ。髪白い癖に」

 

 べらぼうに好き放題言いまくるセンクラッドとロビンフッドに対し、色は関係ないんと思うけど、と若干蚊帳の外に置かれている楯無が困った風に言いながらシロウの容姿を改めて観察した。

 鷹のように鋭い眼光、何処と無く愁いを帯びた、だが強い意志を全体的に感じさせる整った顔立ち、すらりとしつつも全身を鍛えぬいた証左である筋肉の鎧、赤と黒で構成された衣類、と確かにダークヒーローな容姿条件を満たしているのだ。

 まぁ、悪役にも見えない事は無いのだが、その物腰やセンクラッドの護衛を務めている事、千冬に助言を与えている事を情報として入手している楯無にとっては、そこは除外しているし、何より楽しそうに紅茶を作っているその姿がどうにも執事っぽいのも何ともはや。

 赤黒執事とでも呼べば良いのかしら、と脇へ暴走し始めた楯無の思考を何となくで読み取りながらも、そこはスルーするシロウ。触れてやらないのも1つの優しさなのだ。

 

「ロビン、君にそれを言われたくないな。私と同じ程度にはこなせるだろう、緑色の癖に。それに、マスターにそれを言われるのは心外だな。やる事為す事、私よりもずっとダークヒーローしていただろう、全身黒くて眼帯している上に声がどう考えても黒幕の系統だ。全然爽やか路線じゃないし」

 

 やられたらキッチリとやり返すのがシロウだ。センクラッドが自身の経歴を千冬にある程度話している為、それを加味しての暴露。それをセンクラッドはあんまり予想していなかったようで、そこまで言うか普通、と顔を顰め、ロビンフッドと楯無は、あーやっぱり、と意味合いは違うが納得した風な顔を見せていた。

 余談だが、センクラッド=怜治がグラール太陽系や極東支部で行った数々の偉業と無謀さを知る者は、宇宙船に乗っている元英霊達という意味では余り居ない。話す機会が無かったり、興味が無かったり、センクラッド本人があんまり話す類のモノではないと思っているから、と理由は色々ある。シロウが知っているのは一重に性格の凸凹具合が一致したので口が軽くなったセンクラッドが話したからだ。

 まぁ、クー・フーリンあたりなら喜んで聞き出していた上に「全力で俺と戦え」的な言葉を吐いて強制バトル、なんてクー得セン損な展開になっていただろう。

 ……というかそう遠くない未来に、過去のシロウの失言でルーン魔術まで駆使して全力で戦闘を挑む元英霊vsオラクル細胞をフルバーストさせてグラール科学の結晶を用いて応戦する元英雄のカードが既に組まれているわけだが、それはまた別のお話。

 

「確か、たった独りで重要人物のテロを防いだとか聞いたけど」

「いや、アレは、まぁ、なんだ。不可抗力というか事前に情報を得ていたから……待て、そうじゃない。今必要なのは俺の話じゃないだろう、簪さんの話に戻すぞ」

 

 旗色というか都合が悪くなった為にセルフで話を戻しにいこうとするセンクラッドだったが、そうは問屋が卸さないとばかりに包囲網は形成されていく。

 

「いやいや大将、勧善懲悪モノが好きな女の子には、やはりそういう事をした英傑でないと、ねぇ?」

「そうねぇ。少なくとも話が合うようにしないといけないから、実体験を話してもらわないと、ねぇ?」

「確かに一理あるな。というわけでマスター、1つ困らない程度に話をしてみてはどうかな?」

「ものっそい現在進行形で困ってるんだがな。あとロビンは面白がらないように。ついでに更識、お前さんはただハナシを聞いてみたいだけだろ」

 

 ズバリ指摘してやったら、返答は舌打ちだった。

 判っていたが、もう遠慮が無くなって来たどころの騒ぎじゃないな、と達観の域に達しながらもセンクラッドはそれを指摘したり注意したりはしない。そもそもコレは自分が最初にやらかし続けた結果なのに、それをどうこういうのは筋違いも良いトコロだと思っているからだ。

 精神的に成熟うんぬんかんぬん的な観点から見れば、自分は確実に落第レベルだしなぁ、と自覚しているのもある。自覚しているだけで改善する気があんまり無いのだが。

 

「それで、確認するが、簪さんが不安定になっている原因は、IS関連と姉妹関係、趣味としては勧善懲悪モノのアニメの視聴、で良いんだな?」

「あってるわ」

「原因は殆ど一夏と千冬の奴と同一だな……一夏もそうなんだが、中心に自分以外を置いても、結局は本人の為にはならんからなぁ。そこをどうやって気付かせるかどうか、というのが最初にして最難関か。そこさえ自覚出来れば、視野が広がって多少のいざこざは解消できるようになると思うんだがな」

「そこなのよねぇ……」

 

 楯無からみて、姉を、更識を理由に挙げて自分を確立している簪は非常に危うい。他人を拒絶しているのにその他人に依存しているような状態だ。センクラッドもそこまでは察してはいないが、あの負の感情の推移を見る限り、自分に芯が入っておらず、それ故に大きくブレているという事は理解している。

 故の、言葉だったのだが、それを頑なにさせずに巧い事伝えるのは非常に難しい。少なくとも空気を読まないセンクラッドが言おうものなら、セシリアや鈴音以上に傷つけたり発憤させたりするのは明白だ。

 

「簪さんはトーナメントに参加するのか?」

「出ないわ。専用機を組み上げるまでは出る意味が無いって……まぁ、言いたい事はわかるんだけどね――」

 

 あの子も、更識だし。

 ぽそり、と呟いた言葉は苦い思いが込められていた。成績という意味では間違いなく簪は上位クラスに入る。元々の環境や才能は上位に位置するものなのだ、これで落第レベルなわけがない。

 だが、更識であるが故に、完璧な姉がいる故に。

 簪もそうあるべきと思っている節があった。年を経る毎にそれはどんどん強まっていく事を知りつつも、自らの立場や仕事で忙殺されていた楯無は、悪く言えば放置せざるを得なかった。それに虚や本音が居ようとも、仮に簪自身が完全に拒絶してしまえば更識側がサポートできる事なんて高が知れている。

 また、授業参加という点では、更識であるという事で、IS学園側も、どの国も黙認している節があった。更識という苗字は伊達ではない。ISのみならず諜報関連では他の追随を許さない高次元で纏まっている能力は、余りにも有名だ。実際、簪の整備の腕やISの知識等だけを見るなら、今すぐ何処かの企業に就職してもおかしくないレベルだし、IS搭乗者としても性格や気質が多分に邪魔しているが十分以上の能力がある。本人に企業や軍に所属する意思もなく、結局更識に加入する事が眼に見えている事もあって黙認されているのだが、これがもし更識ではなく外部に所属する意思を表明していたら多方面から叩かれていただろう。

 

「他の機体を見てヒントにする事もせずに、単独でISを組み上げるなんて不可能だろう。篠ノ之博士やお前さん並の頭や要領の良さがあるならまだしも」

「そうねぇ……私の機体もヒントを得なければ作れなかったし」

 

 実際はヒントというよりも技術取引やら更識家の暗躍やらで幾らか引っ張ってきていたりと割とえげつない事をやってのけているのだが、そこは本当に知らぬが仏だろう。そういう意味では楯無も単独で組み上げたわけではないのだが、不幸な事に簪はそれを知らない。知らないが故に、独力で作り上げようとしているのだ。

 

「何はともあれ、此処に書いている事が確かな前提で言うが、簪さんは普段は人気が少なくなった放課後のピットや整備室、自室で打鉄弐式の開発をしている。そこで接触する事を前提として、ツーマンセル・トーナメントまで絡めさせる事が望ましい、と思うが、どうだ?」

「そうね。ただファーロスさんが行くとなると、オルコットさんや凰さんにやったように、人類を見定める云々ってなると思うから、プレッシャーになるかもしれないけど」

「……ん? あぁ、アレか。まぁ、そうだな、俺が接触するならそうなるだろうが――」

 

 一瞬何の事か全く判らなかったセンクラッドだったが、記憶を掘り起こしてようやくあの事かと思い出し、少しだけ焦りながら言い返した。嘘をついた側が忘れても、つかれた側は覚えている構図でもある。

 

「見定める、とはまた大仰な言い方だな」

「そう? こっち側からしてみれば大体そういう認識で落ち着いていると思うけど?」

「確かに。特にマスターが話しかけた時点でそう受け取られるのは当然だ。ついでに言えば、私達のいずれかが接触するにしても、そこは変わるまい」

 

 センクラッドは忘れ勝ちだが、コトリ、とそれぞれの前にカップを置き、慣れた手つきで紅茶を注いで回るシロウの言葉通り、地球側から見たグラール太陽系は、技術的に大差をつけられていると認識している。

 ジャンボジェット機よりは小さい大きさの宇宙船1つで宇宙を航行するというのは通常は不可能に近い。農耕用や戦闘用等の明確な役割を振り分けた状態の船を多数所持した船団という形で宇宙へ出るのは、既に地球の大航海時代やSFの小説でも似た様な形で存在しているし、ISを用いてもその構想は変わらないものだった。

 食料や空気の汚染の心配も無く、故障した際のスペアパーツを作成する工場船もないまま、単機で宇宙を航海し続けるなんて無茶な芸当は、当分地球世界では到達し得ないレベルだと言えよう。宇宙船が見せた無風着陸や重力を無視した動き程度はISでも再現できる些細な問題だと、少なくとも地球側の科学者はそう思っている。

 そんなもんか、と呟いたセンクラッドが、うーんと1つ唸って、紅茶を1飲みし、溜息を1つ吐き出してから、言葉を紡いだ。

 

「まぁ、単独で組み上げるにしても刺激が無ければ永遠に作れんだろうし、先ずはツーマンセル・トーナメントに出場、最低でも観戦させんとな。問題は方法か」

「学園側から命令すりゃ良いんじゃねぇの、シンプルに行った方が後が拗れないし」

 

 ロビンフッドの言に、ふむ、と顔を見合わせる3人。確かに、センクラッドを噛ませるよりはその方が巧く行くだろう、と各々の共通した見解が瞳に宿っている事を確認し、頷きあった。

 

「それでいかせて貰うわ。それで、接触する人は?」

「シロウに行かせる。俺がいくわけにはいかんしな。トーナメントはどうせVIP席だろうし、平時でも俺が出ればボーデヴィッヒさんや千冬、真耶さんのいずれかが付くから、その手のハナシは無理だ……で。そういえば楯無、俺の席って何処だ? というか、どのアリーナでやるのか、まだ知らされてないんだが」

「あー……ええとね、各国の要望で市のISアリーナを借りる事になったの」

 

 音量を若干下げたその言葉に込められた響きと意味に、眼を瞬かせるセンクラッド。シロウやロビンフッドも理解しかねたようで、表情を変えて楯無を見た。

 3人の異なる感情を乗せた視線を真っ向から受け止め、楯無は胸中、ではなく、やっぱりそうなるわよねぇ、と口から零し、

 

「ISの技術を競い合う、国の威信や外交を兼ねている大会でもあるから、大々的にやる事になったの……その、今年から」

「馬鹿じゃねぇの」

 

 苦しい言葉をバッサリと断ち切ったのはロビンフッドだ。

 要は国どころか星をあげて技術を見せようとしているのだ。そんな事をしても意味が無いのは、センクラッド側のみが知っている為、外部から見れば案外妥当ではある。

 妥当ではあるのだが、再襲撃やら、異星人側が憂慮した無人機に対するリスクコントロールやらはどうした、と言いたいのだ。尤も、センクラッド達からすれば無人機の存在は千冬と一夏達しか知りえぬ情報だと思っている為、口には出せなかった。そして、口に出せないとストレスが溜まるものだ、この手の隠し事というのは。

 そこまで判っているが故に、楯無の眉も八の字になっている。

 

「ロビン、私達が来ていなくとも、市のアリーナなり、国立のアリーナなりを用いてオリンピックのように大々的に行う事は目に見えていただろう。時期的にどうかとは思うし、モンド・グロッソと被っている気がしないでもないがね」

「確かに、シロウの言う通りだな。技術をオープンにするのは悪手とも言い切れんし、それにそんな眼で見ないでやれ、楯無が可哀想だ。俺も、時期的にどうかとは思うがな」

 

 シロウとセンクラッドの時期的という言葉の意味合いはまるで違う。

 シロウは襲撃を指し示していたが、センクラッドは異星人に対して公開という意味ではなく、示威的なものが多分に含まれていると看破している。勿論シロウもロビンもその可能性には思い当たっていたが。

 

「一応確認しておくが、席は決まっているんだよな?」

「勿論。ただ、シロウさんは変えるけど」

 

 と言って、楯無は自身が持って来ていたクリアケースから案内状をセンクラッドへ直接渡した。

 ふむ、と言ってツラツラと眺めたセンクラッド。

 すぐ傍に千冬の席があり、その意図は無人機を仕向けた存在に対する牽制と、万が一現れた時の護衛を優先としたものだった。ただ、気になった点がある。自分の周囲数席の範囲が黒い太枠で覆われていたのだ。

 

「なぁ更識、俺の周囲に囲ってある黒い太枠の線って、シールドバリアーか?」

「えぇ、万が一を考えて、そこは単独で機能するわ。少なくともそれを破るには戦術級の爆弾が必要よ」

「……コレ設置したのって何時だ?」

「設計と同時だから、最初からあったけど」

 

 うぅん、と唸るセンクラッド。戦術級の爆弾、と言っても現代地球の装備に関しての知識が全く無いセンクラッドは、威力がどの程度あればそう呼ばれるかが判らない。

 シールドラインとオラクル細胞の併せ技とどちらが上か、なんて考えるだけ無駄な事を考えてしまうのは、本当に何となくという思考のせいだ。

 

「要らないからカットしてくれ、とか言っては駄目だよな?」

「出来れば、カットして欲しくないんだけど……織斑先生もいるし、各国の首脳陣や企業のトップが座る場所だから」

「……いや、何と言うか……死にたがりなのか?」

 

 その言葉に苦笑するしかない楯無。確かに襲撃されたら一番被害が出そうな場所はセンクラッドの周囲だろう。かといってそこを空白にしたり、首脳陣クラスの要人を置かなければ、異星人を低く見ているという事にも繋がる。配慮した結果がコレなのだが、センクラッドからしてみれば襲撃される事前提で動かないのはどうかと思う、という感想を持つしかない。

 

「外部から無じじゃあない、襲撃が起きた場合、どうするつもりなんだ」

「アリーナ上空にはIS学園に設置されている以上のシールドバリアーがあるし、周囲にはアメリカ軍が警備を行う事になってるわ」

「軍のISを使うのか。それは心強いが、自国の防衛力に穴を……あぁでもアレか。俺が居るからか」

 

 センクラッドを防衛中にアメリカ本土が攻撃されれば、攻撃国は全世界から非難を浴び、事情を今知ったセンクラッドとしても非難せざるを得ないし、センクラッドを攻撃しようとすれば世界中から袋叩きに合う事は必至だ。IS学園内部で起きた事は秘密裏に処理できても、外部ではそうはいかない。それを逆手に取るつもりなのだろう。

 また、アメリカとしてはISが発表されて以来、国家間の関係が改善されたイスラエルと共同制作した第3世代機の披露も兼ねているので、自国とイスラエルの技術力と蜜月の度合いを示す良いチャンスだと考えていた。特に後者をだ。

 宗教で相容れずとも、他で迎合出来る、ISは様々な垣根を取り払い、新たな思想や自由を教えてくれた、という意味の演説を唱えた、或いは考えた両国の首脳部の評価は、過激派を除けば著しく高い。

 実際、宗教はISの台頭と共に縮小傾向が見られている。殆どの宗教において言える事だが、男性優遇を打ち出していた為、今の風潮には合わないのだ。勿論、手を変え品を変えて生き残りを図ってはいるが、それでもIS発表前と後では影響力は全然違う。

 何気なく、脳内から『アメリカ軍 ツーマンセル・トーナメント』で検索をかけてみた結果、センクラッドはその事に気付き、眼を剥いた。

 

「イスラエルとアメリカ軍の協同製作したISの披露、か……宗教観の違いをISで埋めたというのは、何とも凄まじいな」

 

 それに反応したのは、シロウだった。シロウが居た世界でも宗教関連での争いには事欠かなかったのだ。ISという文明の利器1つで解消とまではいかないが、それでも緩和したというのは流石に驚かざるを得ない。

 だが、それをこの場で言うのは流石に問題がある為、静観に徹した。

 

「グラールで宗教観の争いは無かったの?」

「グラールでは殆ど無かったと思うな。宗教観というよりも内部抗争が酷かったし。ただまぁ、他の惑星でな……」

 

 センクラッドが指した他の惑星とは、元居た地球で起きた宗教テロの事だ。宗教の対立だけではなく、人種の対立もあったが、此処でその全てを説明するわけにもいかず、言葉を濁した。

 楯無も追求するのは野暮な事だと思っていたのか、

 

「どの星も大体は同じなのね」

「自制が利くか利かないか、という問題ではないからな、宗教に限って言えば。生活に根ざし始めたり、根ざしているのなら尚更だ」

「何処もままならないものね」

 

 ちなみに。

 完全に余談であるが、千冬と束を崇める宗教なんてのも、最近になって出てきている。

 人のまま神となったという流れはどこぞの宗教でもあるが、まさか自分がそうなるとは思わなかった千冬としては、頭痛の種でしかない。

 しかも世間ではそれを許容する動きにまで発展しているのだから、質が悪い。

 2杯目の紅茶を飲み干したセンクラッドが、シロウにもう一杯とリクエストし、楯無に視線を合わせる。

 

「で、更識。今更大前提を聞いて悪いが、お前さん、簪さんの事は大切に想っているんだな?」

「当然でしょう。簪ちゃんは私の大切な妹よ?」

「……まぁ、その癖、距離感が掴めていないのはどうかと思うが、それはさておこう。重ね重ね言うが、腹割って話せる素地までは俺達が作るが、その後は知らんぞ」

「判ってる」

「なら良い。一夏は俺が行こう。千冬が悩んでいるしな」

 

 感情を読んだの?と楯無が何気なく聞いてみたが、首を振ってセンクラッドは否定した。

 

「千冬の事なら大体もう判る」

「……何と言うか、随分情熱的な言い方ね」

「ん? そうか? まぁ、あぁ言うタイプの性格は前にも居たし、一夏からも助言めいた言葉を聞いていた。これ位は当然だろう」

 

 あのシスコンが助言したのか、と一瞬だけ呆気に取られた楯無だったが、脳裏に閃いた事を口に乗せてみる。ニヤリと、実に悪い笑みを浮かべて。

 もうその手の笑顔は見飽きたよ、と呆れ顔になるセンクラッド。流石にシロウも追従する気はなく、閉口していた。

 

「ふぅん……あながち間違いじゃないのかもね、あの噂」

「また何と言うか、聞かなくても判る噂だが、一応聞いてやろう」

「織斑先生と貴方が恋愛関係目前という噂よ」

 

 シロウとセンクラッド、そして伝えた本人である楯無すらも苦笑を刻んでいた。ただ、意味合いがほんの少し違っている。

 シロウ達からすれば、陥っている状況から有り得ないと思っている。楯無の場合は、単に千冬がそういう感情を持つわけが無いと思っている。いや別に、千冬が誰かに恋愛感情を抱くのは有り得るとは思うが、デリケートな、政治的通り越して惑星間のトラブルに繋がりかねない人物と態々関係を進展させることは無いだろう。

 まぁ、1名程、ちょっと違った感想を持っているわけだが。

 

「あぁ、大将、クールビューティ系好きだもんな」

「いや……流石に此処で恋愛云々はしないと思うぞ。それにクールビューティ系が好きと言われてもな。シロウと同じだと思うし」

「ふうん。シロウさんはどういう女の子が好きなの?」

「え」

 

 まさかそこでそういう風にハナシを振られるとは思わなかったようで、ぽかんとした表情を浮かべ、だが一瞬にしてそれを消し去っていつもの皮肉気な――センクラッドやロビンフッドからすればスカした笑みと共に、

 

「私の好みか。可愛い子は皆好きだよ」

「でたよ、出た出た。あぁオレそういうトコロ嫌いなんだよ、マジで、マジで……ッ」

 

 とサブイボ出しながら呻くロビンフッド。そういう事を言ってもサマになる厨二系執事型イケメンに嫌気が差したようで、ブツクサ呟いているヴィレッジレベルのナイスガイを取り合えず放置したセンクラッドが、

 

「いやまぁ、シロウ程守備範囲が広いわけではないが、俺も可愛い子と綺麗な子は好きだ」

「ファーロスさんは外見だけで良いの?」

「まさか。性格も含めて可愛いなり綺麗なり特化しているなりじゃないと、もう付き合えんよ。周りがそうだったからな」

 

 少なくとも、グラール太陽系と極東支部で誰が見ても美人や美少女と談笑したりデートまがいの事をしていたのだ。また、サーヴァントの中にも傾国クラスの美女が居た。

 更に言えば性格面や性質面では相当に屈折した者から慈愛の象徴とも言える程良く出来た者まで、癖のある美人達と交流していたというのもあり、それに慣れてしまった結果、凡庸な容姿や性格ではあんまりピンと来なくなっていたのだ。

 まぁ、コレで明確に付き合った事が無いのだ、ハードルをやたらめったらにガン上げしている事に気付いていないセンクラッドは不幸なのかもしれない。

 その後、虚がこの部屋をノックして、仕事が滞っていると告げて楯無の首根っこを掴んで引きずって行くまで、この手の世間話に花が咲いていた。


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