IS BURST EXTRA INFINITY   作:K@zuKY

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名称変更:更識→簪
前話も修正しますが、取り合えず先に話をあげます。



32:一夏・簪・ラウラvs真耶

 時計の針を数分前まで、つまり千冬が1対3を告げた頃まで戻そう。

 センクラッドは、千冬の言葉に眉を顰めていた。自らの護衛役として選ばれている真耶の実力を疑うわけではないが、同じく護衛についており、特殊部隊隊長でもあるラウラが3側に居る上に、真耶の実力をこの目で見ていないのだ。

 ISの性能差を腕で引っ繰り返そうにも人数差まであればかなり厳しいのではないか、と思った為、センクラッドはシロウに話を振る事にした。

 

「――シロウ、どう思う? 人数と性能差は如何ともしがたいと思うが」

「連携が取れていないのなら勝ち目は十分にあるだろう。問題は性能差がどの程度あるか、という点だ。加えて、誰から墜とすかでも変わる筈だ」

 

 英雄としては大先輩であるシロウがそう分析していた事を受け、成る程、それもそうか、と納得するセンクラッド。一応激励の言葉でも送るか、と思い立ち、スタスタと真耶と千冬が待機している場所まで歩み寄っていく。

 その気配に気付いたようで、若干緊張の色が滲み出ている真耶と、何時ものクールビューティを発揮している千冬が視線を向けた。

 

「真耶さん」

「は、はい?」

「ええと、そうだな……ガンバ」

 

 出た言葉がたったの3文字という、些か情けなさが滲んでいるセンクラッドだった。

 ええと、つまりこれって激励してくれているのでは?という事に気付いたのは、数秒後。ポカンとした表情が徐々に徐々に喜色に染まり、はい、と返事をする真耶を見て、千冬が、

 

「一夏達には言わないのか?」

「作戦を練っているようだからな。時間もないし、邪魔になってしまうから言わんよ」

 

 オラクル細胞を通して作戦内容が筒抜けになっていた為に、そう告げたのだが、ふと、真耶に視線を送り、確認するセンクラッド。

 

「あぁ真耶さん、ハイパーセンサーは切ったのか?」

「勿論です。といっても、先輩が言ってくれたので気付いたんですけど」

「ほうほう、流石だな」

「それほどでもないさ」

 

 肩を竦めてそう答える千冬。5分与えたのは作戦を立てさせる事もあったからだ。本来雛鳥である筈の1年だが、ラウラや簪に関しては1年の腕ではないし、一夏は戦闘を経る度に爆発的な成長をしている。5分という短い時間の中でどう足掻くのか、千冬や真耶達教師陣は興味があったし、その事を他の生徒達にインプットする事で授業効率を上げようという狙いもあった。

 付け加えれば、ISを用いた授業の殆どは録画されており、アーカイブ化する事で予習復習が出来るよう配慮されている。

 

「そろそろ時間だ。全員、位置につけ。センクラッド、シロウもこっちに」

「ん? あぁ、わかった」

 

 千冬の言葉で、4人全員が空中にふわりと浮かび上がり、距離を取って対峙し、1組、4組、5組の生徒達と千冬、それに異星人組はアリーナ内にある授業観戦用のスペースに入り込んだ。

 最後の1人であるシロウがそこに移動し終えた事を見て確認した千冬は、手にしていたスイッチをカチリと押した。すると、アリーナに張り巡らされているシールドエネルギーと同等の出力を持ったそれが、観戦用スペースを覆うようにして発生した。観戦する際に態々観客スペースやピットに移動してしまえば、授業時間が短くなる為に設置されているのだ。

 未だ、生徒達はざわめいている。無理も無い、普段ポヤポヤしている教師1名に対して、専用機持ちが2名と、未だ専用機を完成するに至ってはいないとは言え、更識の名を冠する者もいるのだ。瞬殺されてもおかしくないのでは?と考える生徒達が大半であった。

 その予想は、すぐに外れる事になるのだが。

 

「それでは、模擬戦開始!!」

 

 その言葉の直後、ラウラが前進しながらレールガンを構え、真耶の胴体部分を狙い撃ち、ほぼ同時に簪がヘヴィマシンガンを構えて弾幕を張りつつ、真耶の上を取るように、高速で飛翔した。

 一夏は……動かない。武器も展開しようとしていない。その事に最初に気付いたのは後退しながら高度を取り始めた真耶だ。半瞬遅れてセンクラッド達も気付く。何か策があっての事だろうと思い至った3名はだんまりを決め込むが、生徒達はそうもいかない。

 半数は何らかの事故だと思い、半数はセンクラッド達と同様の思考をしているが、それを確かめる為に周囲と意見を交換しあっていた。

 

 真耶は感心していた。初手でもし、一夏が攻撃の為に突撃してきたら問答無用で手に持っているアサルトライフルと、アサルトライフルに追加装備として付けられているグレネードランチャーを用いて、シールドエネルギーの大半を削ろうとしていたのだ。

 こちらの思惑を看破し、一夏を温存する方向に持っていったのは、ラウラ・ボーデヴィッヒだろう、とアタリをつけていた。

 まだ一夏は、銃の恐ろしさや特性を知悉していない。感覚としては幾度かの模擬戦で養えたのだろうが、知識としてはまだまだ不十分で、それを知恵として活用する事も儘ならない。

 誘いをかけて瞬殺し、2対1に持ち込みたかった真耶としては、結構な痛手である。

 零落白夜の特性は千冬の後輩故に、もっと言えばモンド・クロッソ時代のブリュンヒルデを見ていたが故に、そして白式が似た様なワンオフ・アビリティを持っていると知った為に、一番警戒すべきものだと思っているのだ。一夏さえ潰せば、武装面ではほぼ怖いものは無い、問題があるとすればラウラが『どの作戦』を選択したか、そして、ドイツの第3世代機に何が搭載されているか、この2点程度だ。

 そう思いながらも射撃と回避は休まる事は無い。右手に持つアサルトライフルを不規則に発射して、簪の回避先に弾丸の嵐を叩き込み、左手で持つアサルトカノンを的確に近距離へと持ち込もうとするラウラに撃ちこみ続ける。

 回避先を読まれていると気付いた簪はPICを用いて急制動をかけた。骨が軋む嫌な音に軽い嫌悪感と痛みを覚えながらも、歯を食い縛って耐え、移動先を変えては真耶よりも高い高度を取る為に上昇していく。相対距離はほぼ変えずにそれをやってのける簪の距離感は抜群だと言わざるを得ないだろう。事実、真耶が後退すればその分だけ距離を詰め、前進すればその分だけ引くのだ。徹底的にミドルレンジを維持しながら弾幕を張り続けるその腕は、到底1年とは思えない。

 だが、それだけだ。

 ISの機体性能差が無い以上、更識の名に連ねる者とは言え、教師と生徒では経験も場数も雲泥の差だ。例え才能があろうとも、膨大な経験年数を覆す程は持ち得ていないし、真耶の射撃戦の才能は他の者達とは一線を画す代物だ。そもそも簪はIS操縦者よりも整備や機体開発に適性がある。操縦者の技術も相当あるが、その気質と姉の存在が大幅に足を引っ張っている。

 

 ラウラは苦々しくも感嘆を覚えていた。真耶専用としてラファール・リヴァイヴのカスタム機を受領してまだ日が浅いからか、思い切った加減速をせず、射撃にも僅かだが遊びを超えた甘さが残っている状態の真耶だが、それでも的確な射撃と適切な残弾コントロールは驚異的であり、そして何よりもその回避性能は異常だ。

 上を取り続け、弾幕を雨霰と降り注がす事に腐心している簪の射撃能力は到底1年のものではないし、ラウラ自身の射撃能力も極めて高い。自惚れるわけではないが、今から三年次に編入したとしても通用する腕だと自負している。

 それなのに、当たらない。

 ラウラが必中の勢いで放ったレールガンは悉くかわされていた。ラファール・リヴァイヴの4枚の推進翼を巧みに動かし、高速戦をこなす真耶の回避運動は匠の一言で表せる程、完成度が高い。

 本来、ラウラが得意とする距離はクロスレンジぎりぎり手前のショートレンジだ。サブマシンガンやハンドカノン等では近すぎ、ブレードでは遠すぎる、云わば槍の距離を維持しながらワイヤーブレードを、時には飛び込んで二の腕からプラズマカッターを、時には退いてレールガンを撃ち込む事で勝利を得てきた。

 しかし、今回、ラウラは距離を詰め切れずに居た。距離を詰めようとすれば真耶が精確無比な弾丸を繰り出してくるからだ。レールガンしか遠距離武器を持たないラウラに距離を詰めさせない腕は、流石ブリュンヒルデの薫陶を受けている者の1人なだけはある、というもの。

 ……もし、ここにラウラの副官がいたのなら、状況は容易に変わっていた。阿吽の呼吸、極めて精密な連携を以って今頃には撃破していただろう。連携が取れていない即席のチームでは、此処が限界なのだ、本来は。

 ただ、この戦局は、あくまで簪とラウラのみが真耶と戦闘した場合におこる膠着状態だ。

 簪は両手で持っていたヘヴィマシンガンを右手とPICの限定強化によって固定砲台と化し、左手でブレードを呼び出して真耶の背後側に投げつけた。意図が判らず、思わず眉を顰める真耶だが、そこに、真耶に向けて地を這うようにして移動してくる機影が居た。

 織斑一夏だ。

 

「――おおおおぁぁぁあ!!」

 

 咆哮をあげながら、一夏は地表からほぼ真上にあがり、真耶のやや背面、そして足元から急襲を仕掛けた。僅かに遅れて、ラウラも急加速をして真耶に向かって突っ込む。

 真耶はコンマ2秒以下で優先順位を入れ替え、簪との距離の維持を完全に放棄し、一夏を仕留めようと自らも一夏へと向けて急降下した。

 そこで気付く。

 一夏が無手で迫ってきている事に。ブレードを出す素振りも無いのだ。簪が投擲したブレードを取るつもりかと推察した真耶は冷静にグレネードを投下し、アサルトライフルへとスイッチして発射……しようとした。

 

 瞬間、一夏の姿がブレた。

 

 瞬時加速を用いたと気付いた時には、一夏はグレネードを掴み取り、己の腹部に抱えるようにしてアサルトライフルから守った。

 当然、アサルトライフルによってシールドエネルギーはみるみる内に減少していくが、苦痛に顔を歪めながらも上昇をやめない。

 ラウラは真耶が持つアサルトライフルの形状から、近接信管型ではなく、時限式であると見抜いていたのだ。伊達に軍人を長く務めてはいない。ラウラはほぼ全ての銃器を記憶しているのだ。ラファール・リヴァイヴが装備可能な武器の中で、近接信管型の武装は2種類あったが、真耶が公式・非公式問わず使用した武器の一覧には、それらは一切記述が無かった。また、カスタム機という観点から武装も改良を行っている可能性もあったが、ドイツからの情報網や整備課の人間、その他諸々から武器をカスタマイズしたという情報は入っていなかった事も手伝って、その可能性を除外していた。

 ちなみに、万が一、近接信管型のグレネードランチャーを装備していた場合は、プライベートチャンネルで一夏と簪に別の指示を与え、ラウラはグレネードランチャー付近にワイヤーブレードを張り巡らせ、レールガンで爆風を受ける事前提で狙撃していたし、自身の記憶に無い銃器ならばこの戦法は採らせなかった。

 ラウラは、奇策でしか真耶に勝てない可能性が高い事を知悉していた。一対一ならば、シュヴァルツェア・レーゲンに搭載してあるアクティブ・イナーシャル・キャンセラー(AIC)を使用して相手の動きを強制的に停止させれば、パワータイプの、言い換えれば瞬発力に秀でたISで無ければ絶対的とまではいかないが、ある程度以上は優位に立てるのだ。

 だが、一対多や多対一、多対多の場合はそうも言えない。AICは強大な集中力を必要としている為、複数戦闘ではその価値はやや下がり、一対多の場合は複数から攻撃されてしまう為、使用が出来ない。多対一でも連携が取れていなければ、大きな隙を晒しかねない、リスキーなシステムだ。

 故に、AICは最後の最後まで温存する方向で考えているラウラとしては、奇策に頼るしかなかったのだが、それが効を奏していた。

 

「――巧いな」

 

 感心した風に呟くシロウの一言がISを纏っている者達のハイパーセンサー越しに伝わるのと同時、一夏は、簪が投擲していたブレードには一顧だにせず、爆発寸前のグレネードを置き去りにする形で真耶の足元から背面を経由して上空に駆け上がると、雪片二型を展開して、急降下した。

 間髪居れず、ラウラは一夏が置き去りにしたグレネードに照準を合わせてレールガンで撃ち抜いて、真耶にショートレンジに持ち込む為に加速を行う。

 簪は持っていたヘヴィマシンガンを放り捨て、距離を詰めながらアサルトカノンに持ち替えて冷静に真耶に対して射撃を行った。

 だが、真耶とて伊達で此処に居るわけではない。グレネードで大幅にシールドエネルギーを削られながらも、PICをオートからマニュアル操作へ切り替え、4枚の推進翼を小刻みに動かして1秒かからずに爆風で崩していた体勢を立て直すと同時、急降下してくる一夏の方向へ瞬時加速を行った。

 

「なっ――」

 

 急激な変化に、ルーキーは耐えられない。

 動揺した一夏が反射的に雪片二型を振るおうとして、

 

『避けろ、織斑!!』

 

 プライベートチャンネルによってラウラの絶叫が聞こえた事と、自身の背中を這いずり回るような悪寒も手伝って、一夏は雪片二型を翳しながら、真耶から出来るだけ距離を取るように移動しようとして、全身に強い衝撃とダメージを叩き込まれた。

 爆風から飛び出た真耶が両手に持っていたのは、連装型のショットガンだ。PICをマニュアル操作に切り替えた事で、反動を0にしたショットガンの命中精度は極めて高い。故に、ラウラが追い付く前に、一夏の乗るIS、つまり白式は規定以上のダメージを受けて、脱落のシグナルを発した。これがトーナメント等の公式試合ならば、エネルギー残量はまだまだあったのだが、これは授業であり、模擬戦である為、シールドエネルギー消費可能量が低めに設定されていたからだ。勿論、ギリギリまでやりあえば、流れ弾で事故が起きかねない事も考慮されての、制限措置だ。

 悔しそうな表情を浮かべながら、一夏は千冬達がいる場所まで退避していく。

 

『織斑が脱落した、更識、高度を低く保ち、中距離を維持しろ。瞬時加速には十分に気をつけろ』

『わ、判った……ッ』

 

 優位だった筈の状況から僅か数秒の間に1人脱落した事で、簪は動揺していたが、ラウラの冷えた声で幾分冷静さを取り戻し、空いている手にアサルトライフルを装備し、言われた通り動き始める。

 

「――それで、千冬、この後はどう見る?」

「ん……あぁ、山田先生の勝利は揺るがないだろう」

 

 呆けていた生徒達は、千冬に視線を向けた。当然だろう、と肩を竦めた千冬が、

 

「あぁ見えても山田先生は日本代表候補生だったんだ。しかも射撃戦のみならば搭乗機体を選ばずに対応出来る奴だし、それに、私の後輩だぞ?」

 

 最後の言葉が一番説得力があったようで、生徒達はあぁ成る程、ブリュンヒルデの後輩なら、と頷いていた。

 センクラッドは、女帝がパシリに使っていただけじゃないのか、そういえばパートナーマシナリーの略ってパシリだったなぁ、真耶型パシリか、人気出そうだ、とズレた事を延々と考えていたのだが。

 勝負はいよいよ最終局面に差し掛かる。

 シールドエネルギーを徐々に徐々に削られていくラウラ達と、一夏の行動とラウラの奇策でシールドエネルギーを大幅に減らしつつも、その後の被弾率は極限まで減っている真耶のダメージレースは、真耶に軍配が上がっている。

 拮抗状態であった3対1が2対1になったのだ、当然の帰結とも言える。鍵となるのは、やはりラウラのAICだ。アレを用いて真耶を強制停止させ、レールガンかアサルトカノンを撃ち込めば、鮮やかな逆転勝ちを演出出来よう。

 だが、現実は、そうはならない。

 簪が低空へ移動し、下がったのを受けて真耶がラウラに牽制射撃を行いつつ、簪に狙いを付けて大きく前進したのだが、それを待っていたのか、ラウラは地表へと降下、簪が投擲し、地表に刺さった状態のブレードを器用に抜き取って投げた後、レールガンを発射してから瞬時加速で真耶に迫った。目まぐるしく位置を変え、高度を変えての戦いで、簪を狙いに行くと確信していたが故の、行動だった。

 遅れて、簪が弾幕を張り巡らす事で、真耶に効果的な回避機動を採らせず、結果としてラウラはクロスレンジへと持ち込むことが出来た。

 ワイヤーブレードとプラズマカッターを駆使して徹底的なインファイトに持ち込むラウラと、4枚の推進翼とアサルトライフルとショットガンを駆使して距離を稼ごうとする真耶を見て、センクラッドは眉を僅かに顰めた。

 

「……使わないのか」

 

 勿論、AICの事である。クロスレンジに持ち込んだのなら、即座にアレを使えば良いだろうに、と胸中で呟いているセンクラッドだが、実際に使用していたら、ラウラの敗北は――この場合は脱落判定だが、そこで決定していた。

 AICは、多大な集中力を必要とする。相手がインファイターならば、誘いをかけて発動可能範囲に来るまで集中を高めれば良い。だが、相手が距離を取るタイプならば、それが出来ない。加えて、必要となる集中力が高い為に一瞬でAICが発動する事は無い。どうしたって足を止めるなり、機動が甘くなるなりしなければならない。そこで攻撃を加えられれば衝撃や痛み等で集中は酷く途切れやすくなる。そんな状態ではAICは発動出来ないのだ。

 加えて、模擬戦であるが故に脱落判定となるシールドエネルギー値は高く設定されている。ダメージをものともせずに発動するには、ラウラはダメージを受け過ぎていた。

 故に、この模擬戦ではAICを使用する事は無い。

 発動しなければ逆転は出来ず、だが発動するには時間が足りない、そんな状況が続いてしまえば―― 

 

「終わったか」

 

 そうセンクラッドが呟いた。

 最後の奇策である、簪のブレードを用いてのクロスレンジに持ち込むという方法自体は成功したが、ダメージを受けすぎていたラウラ達では、真耶を止める事は出来なかった。

 最後はショットガンでの神掛かった置き撃ちの直撃を受け、ラウラが脱落し、動揺した、もっと言えば何処かしら諦めた簪がアサルトカノンの直撃を受けて脱落して、模擬戦は終了となった。

 ラウラ達代表組と真耶が同時に千冬達がいるスペースに戻ると同時、スペースに張られていたシールドバリアーが解除されると、惜しみない拍手が代表組と真耶へと降り注がれた。暫くしてから、手を叩いた千冬が言葉を発する。

 

「良いか貴様等。例え専用機を持っていたとしても、第三世代と第二世代に性能差があったとしても、山田先生のように腕と状況次第で容易に覆す事が出来る。貴様等の目的は、専用機持ちになる事ではない。そして、我々教師は貴様等生徒達を、専用機持ちを打倒せしめる実力を身に付けさせる事だ。覚えておけ」

 

 千冬の言に、大半は感じ入ったようで、真耶を見る目が変わった。

 シロウは上手く乗せたな、と素直に賞賛していた。あぁも言われてしまえば、専用機持ちは一層の研鑽を積み上げるだろうし、そうでない生徒達も追い付け追い越せと必死になって努力するだろう。

 専用機持ちではない真耶が専用機持ち複数を相手取るという構図を見せた事で、説得力も十分にあった。普段頼りなく見える真耶を巧く使った形だ。

 ただ、それだけで終わらせないのが、教師織斑千冬だ。

 俯きがちな一夏やラウラ、簪に視線を合わせてから、ラウラに歩み寄り、

 

「まずボーデヴィッヒ。5分間という短い間で良く作戦を練り、立てたな。3対1という数の暴力を巧みに使った点、各員の武装を把握し、順当な行動を採らせた点、織斑を用いて奇策を用いた点は流石と言える。惜しい点としては、最初から連携をアテにしなかった点と、プライベートチャンネルを多めに使って指揮を採る側に回らなかった点だ。前衛を務めるよりも変化する状況に対応させるように指揮を採れ」

「はっ!!」

 

 思わず敬礼してしまうラウラ。かつてのブリュンヒルデに教えられていた時代を思い出した為だ。あの頃と違うのは、褒められる点と駄目出しされる点の数が逆転したところだ。言外に成長しているという事を教えられたようで、隠し切れない喜色がラウラの表情を掠めている。

 普段、厳格な、或いは表情が殆ど変わらないラウラの浮かべた笑顔は小さくとも、日光に照らされるそれは、鮮やかな光を放っていた。 センクラッドは、やはり笑顔が似合うと頷き、ラウラの笑顔を見た生徒達は、見惚れていた。

 次いで、1つ頷いた後、簪の眼の前まで歩み、立つと、簪はピクリ、と体を震わせた。

 

「続いて、更識。ボーデヴィッヒが立てた作戦を遂行した点、援護役として適切に動いた点は流石だ。だが、後半でペースダウンした点や織斑が撃墜された際に集中力を乱したのは頂けない。今の技術を磨き、集中力を途切れる事なく維持する事、そして、例え誰が撃墜されても動揺する事無く行動を維持する事を忘れないように」

「……っ……わかりました」

 

 思うところがあったのか、それとも千冬に諦めを言外に指摘された事が堪えたのか、暗い顔をしたまま俯いて、消え入るような声を喉から出す簪。

 昏い感情が胸の奥に蟠っているのを視抜いたセンクラッドは、オラクル細胞に表情の擬態を任せ、じっと簪を観察していた。怨念とまではいかないまでも、自身を痛めつけるような心の動きを視て、コレは随分と根が深いな、と思っている。ちなみに眼帯で覆われている左眼で視ている為、簪は気付けないのだ。

 そして、一夏の下へと歩み寄った千冬は、

 

「最後に、織斑。更識と同様、ボーデヴィッヒの指示を受けて行動した点、銃弾を恐れずに瞬時加速を用いてグレネードを掴み取り、それを相手に対する攻撃に用いた点は評価する。しかし、変化する状況に対応出来ずに反射で行動した点は全く以って駄目だ。思考と同期していない行動は愚の骨頂であり、お前が最も直さねばならない点だ」

「はい」

「――だが、新米にしてはよくやる」

「はぃ……へ?」

 

 最後の言葉を聞き取れたのは一夏と、ISを展開したまま、かつ傍に居た簪、ラウラに加えて、オラクル細胞を持つセンクラッドのみだった。

 嬉しそうに破顔する一夏には一瞥もくれずに、生徒達の方へと歩き出した千冬は、

 

「それでは、次に、残った時間でISに搭乗し、基礎訓練を行う。オルコット、前に出ろ。篠ノ之は打鉄を纏ってからこっちに来い。織斑、簪、ボーデヴィッヒと共に苗字順に並べ」

 

 観戦後、しかも千冬の言の後の授業は、さぞ効率が上がるだろう、と思っているシロウは、ふと、横にいる元マスターの表情を見て、怪訝な顔をした。

 表情は何時も通りに見える。だが、その雰囲気はまるで観察者だ。何を見ているのか、と視線をぶち当ててみると、

 

「シロウ、後で話す」

 

 と言葉少なに返されたのだが、それでピンときたのか、シロウは簪に視線を向けた。

 件の少女は俯き、拳を握り締めている、水色髪の少女の眼は、何処までも昏く、底知れぬ深みを宿していた。




今後は、活動報告で後書きを記載していきます。
「(小説に)言葉は不要だ」
という電波を受信したので。

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