ゲーター!?お前は失踪したはずじゃ……
残念だったな、トリックだよ。
キシリア様護衛隊。それは、キシリア・ザビ中将に心酔した女性達のみで構成された、キシリア様にその身も心も捧げた部隊である。優秀な乙女達の園たるこの隊に入隊するのは容易ではなく、隊員はキシリア様を信奉する者達から尊敬の眼差しを向けられる。そして、この私、ケイ・イスルギもまた栄えあるキシリア様護衛隊の一員なのである!
「ケイ・イスルギ少佐。貴様は本日をもって、私の護衛任務を解く」
「え゛」
え、あ、キシリア様、今、なんと……?
「今言ったとおりだ。そしてこれはもう決定事項ゆえ貴様に拒否権はない。今から説明をするからよく……」
「捨てないでキシリア様ああぁあ!!」
「ぐえっふ!?」
キシリア様にダイビングハグして、そのまま放さず御胸元で泣く。
「こ、この離れろ!まったくお前はいつもいつも……!」
「だって、だって、私キシリア様に捨てられるなんて、無理です堪えられません!」
そう、だって私にとってキシリア様はお姉様であり、主であり、所有者なんだから!
冷徹な瞳に彫りの深いお顔だち、すらりとした手足にスレンダーなお身体、そして国の頂点の一角として冷酷な面を持っていながら、兄であるギレン閣下ほど鬼にはなれないそのお心!ああ、なんて素晴らしい…!
その憧れのキシリア様に四六時中お供するため、軍に入って凄くがんばって銃の扱いにMSやら車やらの操縦に、果てはメイドの仕事まで身に付けて、やっとキシリア様の護衛に選ばれたのに……
「捨てるなんてあんまりです~!」
「ああもう落ち着け!私は別にお前を捨てたわけじゃない!」
「ふぇ?ほ、本当ですか!?」
「ああそうだ!本当だから一旦離れろ!」
そう言われてはしかたない、残念だがお言葉どおり離れるとしよう。
「はぁ、まったく……お前はなんでそんなに私にひっつくんだか」
「いやー、だって私キシリア様大好きですし。もう前世からゾッコン、くびったけですから」
「お前の前世はきっと真性の色狂いだろうな」
ああっ、疲れた表情でため息をつくキシリア様素敵!悩ましげな雰囲気にぞくぞくする!
あ、それとキシリア様。信じてないみたいですけど、前世からってのは本当ですよ。だって私、転生者ですもん。
前世の私は今と違って野郎でした。そしてその当時の私にとって、キシリア様は現実には存在しない方……物語の中のお方でした。『機動戦士ガンダム』というフィクションの作品の中のお方だったのです。
ああ、そのとき私が物語の世界に行くことを、どんなに望んでいたことか!不可能なことを思い続ける私の苦悩は、とても筆舌に尽くしがたいことです。
しかし、神は私を見捨てては居なかった!トラックに挽かれてミンチよりひどくなった私を、神はこの望んでやまなかった世界に、新たな私、ケイ・イスルギとして転生させてくれたのです!事故の衝撃で自分や人間関係についての記憶は失いましたが、でもキシリア様のことは忘れずにいれたのでなにも問題ありません。
「なにやら恍惚としているところ悪いが、そろそろ本題に入って良いか?」
おっと、しまった。主人を待たせるだなんて私は従者失格になってしまう。
「では本題に入るが……まず、先程も言ったとおり貴様には私の護衛をやめてもらう。そして、貴様には私の直下の部隊として働いてもらいたいのだ」
「要するに私兵ですね!ええ、それならば喜んでお受けいたしましょう!」
「まだ待て。で、その隊にはある任務についてもらいたいのだ」
「任務、と申しますと?」
「略奪だ。我らジオンは国力において大きく連邦に遅れをとっている。その差を埋めるのがMSなのだが、もし連邦もまたMSを作ってきた場合、我らのMSはそれを上回っている必要がある。ここまでは分かるな?」
確かに、現在ジオンで開発されたMSはザクと旧ザク、あとは空中分解を起こしたヅダのみ。これでも連邦の宇宙艦隊なんて怖くないものの、もし、連邦がザクに比するMSを作ってきた場合、短期決戦で勝利する以外ジオンに勝ち目はない。なにせジオンの国力は連邦の三十分の一以下だから、こっちがザク一機造る間に相手はザク三十機造れることになる。けれどそのとき、ザクなんて目じゃない程のMSがあれば連邦ザクなどただのカカシ扱いで戦力差をひっくり返せる。
「そのためには相手の技術を盗むことが重要だ。国力の差は、そのまま技術開発に使えるコストにも差を作ることになる。しかし、相手が苦労して創った技術を奪えれば、ただで技術を開発できたのと同じだけの益を生み出す。その技術を盗むのが、貴様の隊の任務だ」
「なるほど、開戦前からそこまで考えておいでとは。さすがキシリア様!」
「世辞はよせ。隊のメンバーはお前と同じく護衛隊から廻してあるし、母艦と機体は護衛隊のお前が率いてた一隻がそのままドックに用意されているから、今すぐ行ってこい。隊員にもそう指令を出してある」
「はい!了解しました!」
ふふふ、捨てられるどころかキシリア様直々に命を受ける特殊部隊だなんて!これは私が信頼されている証に違いないでしょう。ああキシリア様、どこまでもついて行きます!
~ムサイ級軽巡洋艦、ウネビ艦内~
「みんなおまたせー」
「あら、ケイちゃん。遅かったじゃない、指令が下ってなかった?」
彼女はウネビ艦長のミロリー姐さん。階級は大尉で部隊のお姉さんみたいな人だ。
「あはは、それがついさっきキシリア様からご命令を承ったばかりでさ」
「まあ、直前にだなんてキシリア様もお人が悪いわ」
「あれ、それじゃ皆はいつ伝達されたの?」
「昨日ッスよ。それもマ・クベ少佐がミロリー姐さんに通達しただけで、アタシ等は姐さんから聞いたッス」
話に入ってきたのは、私と同じくMSパイロットのイドゥン曹長。軽い感じだけど腕は逸品。
「隊長はキシリア様に一番気に入られてるっすからねぇ。昨日だってずっとキシリア様と一緒で、命令はキシリア様直々に。ほんと、羨ましいッス」
「ほんとですよ。私達だって栄えある護衛隊だったのに、隊長ばっかりずるいですよー」
イドゥンと同じ曹長でMSパイロットのマリンも、頬を膨らませて抗議する。他の隊員達も、皆ぶーぶーと文句を言っている。私としては、あなたの豊満な双丘に物申したいけどね。
「はいはい、嫉妬はそこまで。隊長が着任なされたんだから、改めてお話してもらわないといけないでしょ?」
流石姐さん、ぶー垂れる皆を収めてくれた。なら、私も隊長としてちゃんとしなきゃね。
「えー、皆知っての通り、護衛隊より異動し、この隊の隊長となったケイ・イスルギ少佐よ。私達はこれまでキシリア様護衛隊として任務を全うしてきたわけだけど、これからはキシリア様直下の特殊部隊として新たに活動することになるわ。
私達に課せられた任務は、敵技術の略奪。いずれ来るであろう連邦製MSとの戦いに向け、敵兵器を鹵獲することが、私達の仕事よ」
設計図の奪取とかは諜報部の仕事だしね、と付け加える。
「この任務は戦局に大きな影響を与える重要なものだという認識を持って。隊の戦力はムサイ一隻にザク三機と、決して潤沢とは言えないけれど、私達を見込んでこの任に着かせていただいたキシリア様の期待に応えるよ!全員、尽力しなさい!」
隊員達から歓声が上がる。士気は十分、これから頑張っていきましょう!
性懲りもなく新作をあげる作者の屑。ゲーターです。
どうも、皆様お久しぶりです。成績がもうどうしようもなくなって高卒公務員を目指そうかと思っている今日この頃。勉強から逃げてちまちま書いてましたが、友達とガンダム談義で盛り上がったこととMS IGLOOを見たことで、ガンダム書いちゃいました。恋姫とか待ってる人はすいません。夏休み終わってテストが一段落したら一話くらい上げれるかな…
それでは皆様、よい夏を!