作戦開始まで僅かとなり、イチカ、箒、簪が海岸で待機していた。
「...そろそろ、時間だな」
「あぁ!」
箒は紅椿を纏うとイチカ達も展開する。
エクシアを纏ったイチカはGNアームズと合体しており、いつでも出撃できる状態だ。
「簪。もしもの時は頼む」
「わかった」
「任せろ。私と一夏だ。例えどんな相手でも負けはしない」
自信に満ち溢れた表情をする箒だがその自信は一体何処からきているのだろう。
イチカ自身ここまで頼りにならない自信に内心不安しかなかった。
「初の実戦だ...無理はするな。危険だと感じたらすぐ撤退しろ」
「私と紅椿の前に敵は無い! それに私の仕事は一夏を状況に応じて援護するだけだ。 なに、問題ない! 大船に乗ったつもりでいろ」
状況に応じて援護すると簡単に言うが実際は難しく、一つのミスで自分自身や仲間に危険が及ぶ重大なポジションなのに対し、安易な考えに自分の役割の重大さを理解していない辺り浮かれている証拠だろう。
箒に不安を感じていると千冬から通信が入る。
「篠ノ之はどうやら浮かれているな......何か仕損じるやもしれん......そのときはお前達がカバーしてやれ」
「「了解」」
通信を切り、三人は大空を飛び、各々の役割を果たす為に行動する。
「暫時衛星リンク確立......情報照合完了!!10秒後に接触する!!」
箒の言葉を聞いてイチカは更に加速し、大型GNサーベルを振るう。
だが、イチカが振るった大型GNサーベルは福音の装甲を掠めるだけで撃墜とまでは行かなかった。
「チィ!掠っただけか」
イチカはすぐさま軌道を修正し、福音に大型GNキャノンを放つ。
福音は対抗するかの様に圧縮されたエネルギー弾を放つ。
福音のエネルギー弾により、GNキャノンは相殺され、相殺から免れたエネルギー弾がイチカを襲う。
「クッ!思ってたより威力が高い...」
イチカはGNフィールドを展開し、攻撃を凌ぐがその威力と量に押される。
「箒は左側面から攻撃しろ。挟み撃ちにする!」
「分かった」
二人は左右に展開すると接近を試みるがエネルギー弾の弾幕により、接近型の二人は接近できずにいた。
箒の空裂と雨月による遠距離攻撃も打ち消されるか、避けられるかで決定打を与えることが出来ないでいた。
「ハァァァ!」
イチカは箒の遠距離攻撃を避けている福音の背後に周り、回し蹴りをする。
回し蹴りを喰らった福音は5㍍程飛ばされると態勢を立て直し、攻撃に移行するがミサイルにより、中断される。
「イチカ!!」
先の攻撃をしたのは追いついた簪だ。
福音が攻撃した時イチカは回避しようとするがイチカはある光景が目に入ると回避せず、GNフィールドで耐える。
「何故、避けなかった。一夏!」
「俺の背後を見てみろ...」
「密漁船...」
二人はイチカが言う方向を見てみると其処には国籍不明の密漁船がいる事に気づく。
「そんな犯罪者など見捨てればいいものを...!!」
「勝つためなら無関係な人間も巻き込むのか!」
「勝つための犠牲だ...。仕方あるまい」
「何が勝つための犠牲だ! そんな犠牲を伴って得た勝利なんざ何も意味がないんだ! 例え犯罪者でもアイツらは生きているんだ...。力を得た途端、お前は生きている人間を...関係ない人間を見捨てるのか!!」
「ち、違う! 私は!!」
イチカはGNフィールドで耐えながら簪に通信を送る。
「簪は箒のアシストをしてくれ。...嫌な予感がする」
簪は箒の所に行くとイチカは福音に攻撃を再開する。
イチカが福音に接近した時、福音とイチカの間に赤いビームが横切る。
「増援...」
「福音だけではなかったのか!?」
「アレは...」
イチカ達は砲撃がした方を向くと其処には金色の機体がおり、その機体後部にはエクシアと同じ太陽炉を七基搭載し、金色の粒子を放つ機体が居た。
「アルヴァトーレ...だと...」
「...あの機体を知っているの?」
「あぁ、福音より厄介な機体だ。お前らは福音を頼む。アイツは俺が相手をする」
「なら私も共に戦うぞ!!私と紅椿なら出来る!」
「ウダウダ言わず話を聞け!!この馬鹿者が!!本来の目的を忘れるな!!」
「クッ!」
箒はしぶしぶ福音の方に向かう。
アルヴァトーレの搭載する疑似太陽炉はイチカが使うオリジナルの太陽炉と異なるところがある。
一つはオリジナルの太陽炉は半永久機関なのに対し、疑似太陽炉は電力をGN粒子に変換する為、活動時間が制限される。
二つ目は武装のエネルギー用に高濃度圧縮されると有害性を秘めており、細胞障害や生物に多大な影響を引き起こす毒性を持つ事。
アルヴァトーレは後部から大型GNファングを展開すると箒達に四基とイチカに二基向かわせる。
「奴の攻撃を喰らうな! あの粒子には細胞障害を起こす毒性がある!!」
『なっ!?』
イチカの言葉を聞くと箒達は福音よりも回避に専念するがこれを好機と見た福音はその場から離脱する。
「福音が!」
「でもこの攻撃じゃ...」
回避に専念する二人だが徐々に追い込まれ始め、回避も危なっかしくなる。
「チィ!」
イチカは簪と箒の所に行くとGNビームガンとライフルモードのGNソードで破壊する。
「二人は一度空域から離脱しろ」
「待て一夏! なら私も」
「相手との実力差も分からない奴がふざけた事を言うな! 今お前がここに居ても足手纏いになるだけだ!!」
そう言うとイチカはアルヴァトーレの方に向かう。
イチカはGNキャノンを連射し、接近するがアルヴァトーレは残りのGNファングとGNビーム砲により、接近できずにいた。
機首部に1門内蔵された大型GNキャノンがイチカに向けて放たれるがイチカは回避し、GNキャノンとGNビームガンを連射しつつもう一度接近を試みる。
「ウォォォォ!!」
接近するイチカにGNビーム砲やGNビームライフルを放ち、右大型GNキャノンに命中し、爆発するがイチカは気に留めず接近し、大型GNソードをアルヴァトーレに突き刺すとそのまま切り裂き、イチカを捉えようとしたクローアームを一基破壊する。
だが、もう片方のクローアームに捉えられ、大型GNキャノンをエクシア本体に向ける。
「こんな所でやられるか!!」
イチカはGNアームズから離脱し、GNソードでアルヴァトーレを切り裂く。
連撃を受けたアルヴァトーレは所々から煙を出すと中から一機の金色の機体アルヴァアロンが姿を表すと両手に持っていたGNビームライフルを連射する。
「えぇい!」
イチカはGNビームライフルを避けつつライフルモードのGNソードを連射するがアルヴァアロンを覆うGNフィールドによって無力化される。
「やはり搭載されていたか...。 だが、その対抗策は持ってるんだよ!」
イチカはGNロングブレイドを両手に持ち接近しようとするとアルヴァアロンはGNビームライフルを放つがそれはイチカに向けて放たれず、イチカは銃口の先を見てみると其処には今となっては使い物にならないアルヴァトーレに向けており、そして自分がアルヴァトーレの近くにいる事に気づく。
「何を...まさか!」
イチカはすぐさまアルヴァトーレから離れようとするがそれよりも早くアルヴァアロンはGNビームライフルを放つとアルヴァトーレに命中し、命中したアルヴァトーレはスパークし、次第に激しくなり大爆発を起こす。
誰もがイチカの撃墜したと思っていたが大爆発を起こした所から赤い影が出てくる。
「一夏!」
「...無事だったんだ」
煙から出て来たエクシアに目立った損傷は見られないがエクシアの装甲が赤く染まっていた。
TRANS-AMを発動したエクシアは残像が残る程の高速移動し、アルヴァアロンの攻撃が頭部に命中するがそれ以外は躱し、接近すると持っていたGNロングブレイドを肩部に刺す。
「破壊する...」
次に両肩に1本ずつマウントされているGNビームサーベルを胸部に刺す。
「
腰部にマウントされたGNビームダガーを脚部に刺す。
「俺が...破壊するッ!」
振り上げたGNソードを振り下ろし、切り裂くとアルヴァアロンはスパークし、赤いGN粒子を撒き散らし、爆発する。
「敵は倒した。だが、福音は...」
「作戦は失敗だ。一度、帰還して作戦を...!?」
イチカはGNソードを構えるとクラス対抗戦の時の様に何の無い所から二機の機体が現れる。
一機は全身が青一色でイチカのエクシアからV字アンテナを無くしたような機体に刺々しい赤い両肩を除けば蒼で統一されたモノアイの機体。
イチカはこの機体を見ると先程とは比べ物にならないほどの緊張が走る。
「簪! 箒! 今すぐここから離脱しろ!!」
「な、何を」
「いいから早く離脱しろ!! 決して殺気を放つな。いいな!!」
「い、イチカはどうするの?」
「お前たちが撤退するまでの足止めをする...!」
そういうとイチカは現在、エクシアに搭載されている唯一の武装であるGNソードをソードモードにし、先程現れた敵に向かう。
簪はイチカと正体不明の二機との戦いを見るとイチカの劣勢は明らかであり、簪はイチカの言葉を無視し、援護に向かおうと思ったが今、自分が行っても邪魔になるだけであり、何よりイチカの意思や覚悟を踏みにじる行為だと理解する。
「...イチカが相手の気を引きつけている内に撤退をしないと」
「待て!お前は一夏を見捨てるのか!!」
「私だってイチカを見捨てたくない!! でも今、イチカの所に行っても今の私達じゃ、足手纏いになるだけ...少しでもイチカの事を考えるのならイチカの行為を無駄にしないで...」
「クッ!」
箒は苦虫を噛み潰したような表情で撤退を開始するのだった。
箒達が撤退を開始したのを確認するとイチカはGNソードを構え直す。
イチカはこの二つの機体を知っている。
地球連邦軍に亡命した元フラナガン機関所属の研究者、クルスト・モーゼスが開発したニュータイプ殲滅システムで「ニュータイプがやがて
EXAMシステムはニュータイプの脳波を検知した場合、システムはニュータイプ殲滅を優先としパイロットの制御を離れた行動を行い、また戦場にEXAMシステムを搭載した機体が複数存在した場合にはお互いをニュータイプと認識して同士討ちに加えて、多数の人間の死と殺気を感知した場合でも同様の反応が起こり無差別な殺戮を開始してしまう。
だが、イチカにはある疑問があった。
戦場にEXAMシステムを搭載した機体が複数存在した場合、同士討ちを始めるのだがどういう訳か同士討ちをしないでいた。
『EXAMシステム...スタンバーイ』
イチカが思考の渦に囚われている時に聞こえた言葉はイチカを戦慄させるには十分なモノだった。
「クソッ!」
イチカはまだGN粒子のチャージを終えていないが機体を動かし、接近戦に持ち込む。
「ハァァァァァァ!!」
イチカはGNソードで両肩が赤い機体イフリート改に接近し、攻撃するが二つのヒートサーベルによって防ぐと脚部に装備していたミサイルポッドで反撃する。
「クゥ...ガッァァァ!!」
完全に躱すことが出来ず、脚部の装甲の一部が破壊され、後退しようとすると
ミサイルランチャーと格闘の衝撃で態勢を崩し、立ち直ると目の前に接近した、BDがエクシアの頭部を鷲掴みするとそのまま投げつけ、マシンガンを連発する。
「...ハァ...ハァ...ハァ。ここで負けるわけにはいかない...!」
イチカはイフリート改に接近するがBDのマシンガンと頭部と胸部にあるバルカンとミサイルの連撃を喰らい、エクシアの装甲は破壊され、左腕はミサイルランチャーが直撃し、最早、満身創痍の状態だがイチカはGNソード突き出しイフリート改の頭部に直撃する。
だが、イフリート改も只ではやられず、GNソードを抜いた瞬間、ヒートサーベルを使った最後の連撃を繰り出し、GNソードの刀身は叩き折るとその場で爆発する。
「クソッタレ...」
イフリート改の爆炎から現れたBDのビームサーベルを喰らい、エクシアとイチカに限界が来たのかツインアイから光が消え、重力に従い海に沈んでいく。
「そんな...」
簪達は撤退行動しつつ、イチカの状態を確認していたが先程までイチカが表示されていた所には『LOST』と表示されていた。
イチカが落とされた事にショックを受けていると自分達に近づいてくる一機の反応が現れる。
接近する反応には『UNKNOWN』と表示されており、ハイパーセンサで確認できる程接近するとその機体に驚くと同時に怒りが露わになる。
何故ならそれは先程、イチカを落とした機体そのものだからだ。
「貴様が一夏ォォォォ!!」
平常心を無くし、獣の様な叫び声を上げながら空裂と雨月をコールし、襲うが直線的な攻撃は当たる素振りを見せず、BDは箒の腕を掴むと開いた腕で箒を殴り続ける。
「その手を離せ!」
簪は背中に搭載された2門の連射型荷電粒子砲――春雷を放つがBDはその手に持っていた
「...!?...大丈夫?」
「あぁ、すまない...」
簪は箒をキャッチするが投げると同時に移動していたBDは簪のすぐ近くまで接近していた。
BDはビームサーベルを大きく振りかぶり、箒達は目を瞑るがいつまで経っても攻撃が来ないことに不思議と思った箒達はゆっくりと目を開ける。
箒達が見たのは自分達を護るよう配置された緑色の板とその上空にイチカと同じ淡い緑色の粒子を放つ、深緑の機体が居た。
「貴様は一体何者だ!」
箒は雨月を深緑の機体に向ける。
「私はお前達の味方だ。信じるか信じないかはお前たちの自由だがな」
「私達の味方...」
「あぁ、その証拠として貴様達の撤退の援護をしてやる」
そう言うと肩に装備してある一つの折り畳み式のスナイパーライフルを取り出す。
「早く行け!あの人の行為を無駄にするな!!」
今ここで敵味方の議論しても何にもならない事は二人は理解している。
「...すまない」
簪は箒に掴まり、紅椿の今出せる最大のスピードでその場から離脱する。
深緑の機体否、深緑の狙撃手は二人が戦域を離脱したのを確認する。
「さて、
深緑の狙撃手――マドカはBDに向けてGNミサイルを放つがBDに当たる前に爆破し、そこから煙幕が発生し、BDの周辺を覆う。
この煙幕にはセンサー類に対し、妨害電波を発生させ、無力化させることが出来る代物である。
マドカは速やかに撤退し、煙幕がはれBDは周りを索敵するが反応は無く、その場から撤退した。
最後にマドカが使ったのはハイパージャマーをミサイルにしたものです。