パーティー終了後、イチカ現在作っているモノの進捗具合を確かめていた。
「Zガンダムの追加武器はあらかた終了したし、エクシアの追加装備のGNアーマーは75%...両方ともそう時間は掛からないな」
現在の所、Zだけでも十分行けるが今後、来るであろう敵に対抗できるように装備を整える必要がある。
アプロディアはデータを使えば新たな機体を使う事が出来るかも知れないと推測し、試しにやってみたが結果だけ言うなら失敗である。そのため装備の追加を優先しつつ新たな武装なども考えているのだ。
「それに何とか
イチカは新しく作った二つのハロに視線を移す。
「さて、明日も学校だし、そろそろ寝るか」
イチカは部屋の電気を消し、ベッドに横になり、夢の世界に旅立つ。
イチカのクラス代表就任パーティーの翌日。教室に入ってみるとクラスは新しく来る、転校生の話題で盛り上がっていた。
「イギ―は新しく来る転校生どんな人だと思う~?」
「さぁ、それは俺には分からないがいい奴が来ることを願うよ。後、コレ」
「わぁー!ハロだ。チャンとかんちゃんの分もある~」
「約束はちゃんと守るさ」
イチカはのほほんさんに黄色と水色のハロを渡す。
自分のハロはというとクラスの女子に玩具にされ、偶にイチカを呼ぶ声が聞こえる。
「その転入生なんだけど、中国の代表候補生らしいんだって」
「ふーん......(中国か、アイツは元気に過ごしてるのかな?)」
イチカは内心で、昔、弾達と一緒に遊んだ人物の姿を思い浮かべる。
「フリーパスの為に頑張ってね?」
「そうだよ、ギルオード君が勝ったらこのクラスは嬉しいからね」
「それに、一年の中で専用機を所持してるのは四組と一組だけだから絶対勝てるよ!」
「―――――その情報、古いよ」
すると、教室の入り口に一人の少女が扉に背を持たれ掛けながら言う。
「お前、鈴か......」
「久しぶりねイチカ。それから、宣誓布告にきたわ、覚悟しなさい」
鈴音はそう言うと、一夏に指を刺しながら言う。
「なに、格好つけてるんだ? 似合わないぞ?」
「な、なんですってっ!!」
鈴音はイチカに言われた事が癪に障ったのか、イチカの元に行こうとしたが、
バシンッ!!
「ッ!? 何よ、だ...れよ」
鈴音は頭を叩かれたので、叩いた本人を見ようと後ろを振り向くとそこには般若がいた。
「予鈴は既に鳴っているぞ。さっさと自分の教室に帰れ」
「ち、千冬さん」
「ここでは織斑先生だ。それから聞こえなかったのか? 私は教室に帰れと言ったが?」
「は、はいっ!!」
千冬による怒号で鈴は脱兎の如く、自分の教室に戻っていくのだった。
昼休み 食堂
「誰だあの小さい奴は! えらく親しげだっだな!?」
「誰ですのあの小さな方は! 随分親しいようでしたが!?」
「二人とも落ち着け」
「そんなことはどうでもいいっ!!」
「そんなことはどうだっていいですわっ!!」
「デコピンお見舞いするぞ」
「「(シーン)」」
周りの生徒の視線を気にもせず、二人に詰め寄っていたがイチカのデコピンという言葉を聞くと静かになる。
二人は一度だけイチカを怒らせた事があり、その際にデコピンをしたのだが、その威力は千冬の出席簿アタックと同等であり、その一撃を喰らいたくない二人は静かにするのだった。
「アイツは昔の知り合いでどうやら色々あったらしい」
「そそ、色々あってね」
「「っ!!」」
突然聞こえてきた声に、箒たちは振り返る。そこに立っていたのは、ラーメンをお盆に載せた鈴音であった。
イチカは最初っから気づいていたため気にせずジュースを飲んでいた。
「初対面みたいだし、ちゃんと自己紹介したらどうだ?」
「確かに、初対面の相手に挨拶も何もしないというのは礼儀知らずだからな。篠ノ之箒だ。 よろしく頼む」
「へぇ、アンタが......よろしくね、篠ノ之箒さん」
――ゴゴゴゴゴゴ――
何故だろうか、ふたりはにこやかに握手をしているはずなのに形容しがたいプレッシャーが辺りを支配している事にイチカは気づく。
(何なんだ...このプレッシャーは...)
イチカは戦場で感じたことのないプレッシャーに少し困惑する。
「コホン、そしてこの私が」
「イチカってさクラス代表なんでしょ? 来月が楽しみね」
「は、話を聞きなさい! 私はイギリス代表候補生、セシリア・オルコ―――」
「ゴメン、全く興味ないから」
「んなっ!? こ、このおチビさんはっ......!!」
鈴の言葉にセシリアはさっきよりも顔を赤くし、血管を額に浮かびあがる。
鈴のこの態度には全く悪意は無い。すべて素で言っているのだ。
もっとも、悪意が無い分タチが悪いのだが。
「ふ、ふふふ......そう余裕ぶっていられるのも今のうちですわ。すぐにでも私の実力を思い知らせて差し上げます!」
「あっそ、まぁでもやめといた方がいいわよ。あたしが勝つし」
「な、なんですって......!?」
「弱い奴ほどよく吼えるって言うし、何よりあたし、強いからね」
「......ふ、ふふ、ふふふ」
「ふっふっふ......」
「「......ふふふふふふ......」」
――ドドドドドド――
(新たなプレッシャーだと!?)
またしても、辺り一帯に圧し掛かるようなプレッシャーが漂い始めた。
鈴とセシリアは、お互い笑ってはいるが目だけは明らかに笑っていない。
完全に、宣戦布告している。
殺伐とした空気の中イチカは席を立ち、そのまま出口へと向かって再び歩き始めた。
「ん?もう、行くのか一夏?」
「俺にはやる事があるのでね」
箒の問いかけに一度は足を止めるが、イチカはそれだけ言うと出口に向かう。
「ねぇ、イチカはいつもあんな感じなの?」
「そうだな。時間があればすぐ何処かに行ってしまう」
「イチカさんは勉強の方は特に問題ありませんし、恐らくISの整備をしていると思いますわ。それに...よく考えてみましたら私達イチカさんの事知らないことが多い気がしますわ.....」
「.......」
イチカは必要最低限の事しか喋らない。
誰かに質問されれば答えるがイチカが今まで何をしていたのか聞くと一瞬だが目つきが鋭くなり、殺気が出る。
教師陣にイチカの事を聞こうとしても何も答えず、イチカ本人も答えない事から学園内ではイチカの過去を聞いてはならないという暗黙の了解が出来つつあった。
「...まぁ、向こうが話さないなら訊かなくてもいいでしょ」
「そうですわね。人には聞かれたくない事がありますから...」
セシリアと鈴はイチカが出て行った出口を向きながらそう言った。
セシリアはイチカの事は何も知らない。故にイチカについて知ろうという気持ちはあるがそれが不味い事ならお互い気分が悪くなる。
鈴はイチカが誘拐された以降の事は知らないが名前を変えた事を含め何か事情があるのだと思っている。
二人は深く言及するつもりは無く、いつかイチカ本人が話してくれると信じている。
「...やはり気になるな......今度、一夏を問いただすとしよう」
「「......」」
一名を除いて、
「あのですね、その用事と言う物がイチカさんにとって大事な事なら聞くのは些か無粋でしてよ」
「だが...気になるもんは気になるだろ?」
「少しは常識持ちなさいよ。アンタだって聞かれたくないことの一つや二つあるでしょう。イチカが答えたくないってことはそう言う事よ」
「人のプライベートを知りたがる、と言うのは感心しませんわよ」
向こうの用事と言う物が把握できない以上、迂闊に訊いてしまうのはイチカに申し訳ない。
それが常識、と言う物だ。
その後、イチカは作っていた物は完成出来たため、放課後に試射しようとアリーナに向かうと何かの音が聞こえてきた。
その音が気になり、音のした方に向かう。
音がした方に向かい移動するとアリーナに着き、そこには一人の少女が打鉄を纏って訓練をしていた。
『彼女は一年四組の更識 簪。この学園の生徒会長である更識 楯無の妹であり、日本の対暗部用暗部である更識家の次女。日本の代表候補生です』
『よく知ってるな。もう、個人情報もくそもないよ』
個人情報保護という言葉は無いのかと思ったがイチカはアプロディアが世界中の情報を統括する存在であったことを思い出し、その中には個人のプライベートな部分のデータも統括しているのだとしたら彼女にとっては日常的な行動なのかもしれない。
その顔からは疲労と焦りが色濃く出ていた。明らかにオーバーワークであったが、本人は訓練に集中していて気付かないのだろう。
簪は自分の限界も忘れて無我夢中に訓練を続けていく。
「え?」
だが、肉体に限界が来たのか機体の制御を誤り落下し始める。
彼女の反応を見る限り、自分の意思に身体が付いてきていなかったのだろう。
「危ない!!」
イチカはZガンダムを展開し、WR形態になり、簪の近くまで行くとMS形態になり、簪を受け止めた。
簪はいきなりのことに理解が追いつかないのか、一夏の腕の中でポカンとしていた。
「訓練に集中するのはいいけど、自分の限界を把握出来ていない訓練は只の毒だぞ」
淡々と話すイチカの言葉を聞いて、簪はやっと自分がどのような状態なのかを理解する。
「キャッ!? ご、ごめんなさい」
急いでイチカの腕から離れると、ぺこぺこと頭を下げイチカに謝り始めた。その様子は、普通に見れば可愛らしいものだろう。
イチカは簪が無事なのを確認すると、Zガンダムを解除する。
解除した姿を見て、簪は自分を助けたのが『あの』イチカ・ギルオードであることに気付いた。
「あ、一年一組の...イチカ・ギルオード...」
イチカの知名度は高く、IS学園では知らない生徒はいないだろう。
何せ、『世界初の男性操縦者』であり、数回しかISを起動してないのにイギリスの代表候補生であるセシリアを倒したほどの実力者。
イチカの過去を知る者はいなく、そのせいで学園の一部の人から『裏に関係する人物』『戦争に参加していた』『あの殺気は人を殺したことがある人のモノ』等と言われていた。
過去を話さないイチカから出た憶測でしかない噂は彼女の耳にも入っていた。
「怪我は無いみたいだな。無理して訓練しても何にもならないから今日はそこまでにしておけ」
だが、簪は目の前にいるイチカからはそれを肯定するようなモノは感じず、寧ろ暖かく、優しいと感じた。
「IS作りから離れて起動訓練するのもいいけど両方とも程々にな」
「!? な、なんでISを作っていると思ったの?」
「ここ一週間、俺の事チラチラ見ていたのお前だろ。それにあそこにあるISは恐らく、お前ので未完成だからここに通い完成させようとしている。違う?」
「...う、うん。正解...」
簪はイチカの言った通り過ぎて内心恐怖した。
「まぁ、一人で頑張るのもいいけど、誰かを頼るのも時には大事だよ。...自分一人で出来る事なんて限られてるからさ。1年4組の更識簪さん」
そう簪に告げると、イチカはアリーナから去って行った。
簪はイチカが告げた言葉の意味を少しして理解した。
(もしかして......私を気遣ってくれた...のかな......)
そう理解した途端に受け止められたときのことを思い出した。
自分が危険になったときに颯爽と現れ、自分を助け気遣ってくれた。
自分を助けてくれたイチカの姿は正義の味方の様に見えた。
そして簪は無意識に呟いていた。
「...格好いい...」
それを自覚した瞬間、自分の中で何かが熱くなった気がした。
あやや、簪の様子が?