ゼロの使い魔 本能の牙-extra-   作:新世界のおっさん

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王族故の苦悩は沢山あると思います。

それが彼女の憂いを生み、そしてそれが英雄を駆り立てる何かに成りうるかもしれませんね。


水の王女と剣の英雄の邂逅

 

イノセンスがハルケギニアに来てから4日目。

この日コルベールにより知らされたことは、明日の夜に使い魔品評会があると言う事だ。

他の生徒は覚えていたようだが、どうやらルイズはすっかり忘れていたようで、かなり取り乱していた。

 

「ど、どうしましょう!特に何も思い浮かばない!」

 

「別にそこまで気にすること無いだろ?あくまで少し芸とかみせるだけなんだから……」

 

ルイズの焦りように、イノセンスは気楽に話すが、どうやら彼女にとってはただ事ではなかったらしい。

 

「違うの!明日は姫様が……アンリエッタ王女殿下が見に来て下さるのよ!……あの人には昔からずっとお世話になってたの!中途半端な物なんて見せられないわ!」

 

「おお、王女様が自らか……俺が考えるより大事だったのか……」

 

「ですが明日と言うことは、出来ることがかなり限られていますよ」

 

王族が主賓となると気合いを入れなければいけないが、期限は明日だ、急いで決めなくてはいけない。

 

「システムを使ったマジックは……陳腐だし」

 

『相棒、普通に剣舞すればいいじゃねぇか』

 

「まあ、それも確かに悪くはないんだが…… いや、待てよ……俺にも出来る芸あった!」

 

イノセンスは立ち上がり結を見る。

結とルイズはイノセンスをみながら首を傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、王女アンリエッタを出迎える貴族達は学院の正門前にて左右に一切の乱れもなく並んでいた。

男子学生は皆彼女を一目見ようと、焦って前の列を取っていた。

 

「どう考えても後ろの方がじっくり見れる気がするんだが……」

 

「パパ、ツッコんじゃダメですよ」

 

「そうよ、ああ言う奴らのお陰で私たちは姫様が馬車からお降りになる、このベストポジションを確保出来たのだからね……フフフ……」

 

三人は一番後方の本塔前で、彼女が学院に入るところから降りるところまで見られる場所にいた。

 

「しかし、俺からすれば王族は雲の上の存在だからな……どんな人なのか気になる気持ちは分かるかな」

 

「安心しなさい、多分あんたのイメージ通り素晴らしい方だから」

 

「少し緊張しますね!」

 

話していると呼び出しの衛士がやって来た、どうやら到着したようだ。

 

「トリステイン王国王女!アンリエッタ姫殿下のおな――り――ッ!!」

 

貴族達の緊張が一気に高まり、空気が張り詰める。

やって来たのは純白の馬車。

正門を潜り本塔へと向かっていく。

周りは馬に乗ったメイジ達が護衛しており、皆周囲を見回し警戒している。

馬車は本塔前で止まり、待機していた学院の教師陣が出迎えのため跪いている。

まず使用人が出てきて礼をする、その後顔を見せたのはとても可憐な少女だった。

その可憐さは沢山いる学生達から小さなため息があちこちで漏れだす程だ。

だがその表情が周りは気づいていないようだがどこか浮かないようにイノセンスには見えた。

 

「(……何故そんな顔をするんだ……?)」

 

気になった、ただそれだけだったが気になったのだ。

ふと、ここで事故が起こる。

なんと、降りようとしたアンリエッタの靴のヒールが突然折れたのだ。

 

「あぁ!」

 

「姫殿下!」

 

体勢が大きく崩れる彼女に、使用人も動くが、突然の事に上手く対応出来なかった。

貴族達の悲鳴が響く。

しかし、アンリエッタが地につく事は無かった。

 

「……え?」

 

イノセンスが目にも止まらぬ動きで駆けつけ、彼女を受け止めたからだ。

 

「ご無事で何よりです、アンリエッタ王女殿下」

 

「あ……あなたは?」

 

彼女を腕から下ろし、礼をする。

 

「失礼をいたしました、俺はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが使い魔、イノセンスと言います……どうぞお見知りおきを」

 

「ルイズの……使い魔……?」

 

アンリエッタは困惑した。

一番の友人のルイズの使い魔が、まさかの人間であり、自らを救ってくれた事実に。

護衛達が集まってきたのでイノセンスは最後にアンリエッタに一言ぼそりと呟く。

 

『お悩みならば、いつでも相談ください』

 

「!?」

 

イノセンスは、去っていく。

アンリエッタは驚愕の表情で彼の後ろ姿を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王女来校の夜に行われる予定だった使い魔品評会だが、主賓のアンリエッタが疲れてしまったらしく、翌日の午前中に延期となった。

それにがっかりした生徒も多くいたが、芸の見直しが出来ると喜んだものも多くいたとか。

ルイズ達は部屋で過ごしていた。

「イノセンス!姫様を助けたのは褒めるとこだけど、ちょっと大胆すぎでしょ!もっとスマートにやりなさい!あとデレデレすんな!!」

 

「デレデレは不本意だが、もう少し上手く出来たかもしれんのは事実だから謝るよ、すまない」

 

あの後、護衛達や教師陣に色々文句を言われたので、二人とも大分参っていた。

 

「……まあ、過ぎた事だしそれはもう良いわ……それより明日の芸についてなんだけど……」

 

既に芸の内容は決まっていた、後は本番を頑張るだけ……なのだが。

 

「あんた本当にあれやるの……?いや、あんたの事は信用してるけど……曲芸どころじゃないわよあれは」

 

「いや、寧ろ俺だから出来る事をやるだけなんだ……気にするな」

 

「最初はビックリしましたが、思い返せばパパなら余裕ですよね♪」

 

不安そうなルイズを尻目に、確信を持って返すイノセンスと結。

そんな空間に突然ノックの音が飛び込んだ。

 

「あら、こんな時間に誰かしら……?」

 

『相棒』

 

「ああ、間違いないな」

「ドキドキします!」

 

「?」

 

二人と一本の反応が気になったが、とりあえず扉を開ける。

するとフードを被り、顔の分からない不審な人物がいた。

 

「なっ!」

 

「シーッ、お願い、静かにしていて ルイズ」

 

その人物は人差し指でルイズが声をあげるのを防ぎ、微笑む。

そして扉を閉めると同時にフードをとる。

 

「ひ、姫様!?」

 

その不審な人物の正体はアンリエッタ王女だった。

 

「お久しぶりね、ルイズ」

 

優しげな声で話し、ルイズを見つめるアンリエッタ。

焦って膝を突くルイズの傍まで寄り、そのまま抱き締めた。

 

「ひ、姫殿下!なりません、こんな下賤な場所へ来られるなんて……!」

 

「何を言うの!私のお友達の部屋が下賤だとは、誰にも言わせませんわよ!その堅苦しい行儀も止めて頂戴、私と貴女はお友達じゃないの!」

 

アンリエッタは普段の王女としての顔ではなく、ルイズの旧友アンリエッタとして、彼女とは触れあっていた。

やはり、王女としていつも振る舞うのは、かなりストレスがかかるのだろう。

ルイズに会い、その反動がでていた。

しばらくルイズと話した後、アンリエッタは視線を変える。

その先にはイノセンスがいた。

 

「……使い魔さん、今朝はどうもありがとう」

 

「どういたしまして、王女様」

 

アンリエッタの礼に答えるイノセンス。

 

「まさかルイズの使い魔が人間なんて、思いもしなかったわ……でも良かったじゃないルイズ、とても彼は頼りになりそうよ」

 

「ええ、まあそのお分かりだと思いますが、普通じゃありませんので」

 

不思議そうにイノセンスを眺めるアンリエッタに、苦笑しながら返すルイズ。

 

「でも羨ましいわルイズ、私には心底頼れる人はいないから」

 

「姫様……私はいつでも姫様の味方ですわ、幼少の頃からあなたと共に菓子を取り合い、宮殿の庭で冒険をした間柄ではありませんか……私は、何があっても姫様と共にありますわ」

 

「ルイズ……ありがとう……私はここに来て良かった」

 

暗い表情のアンリエッタに優しく語りかけるルイズ。

そのおかげで少しは気が楽になったアンリエッタは微笑む。

 

「どうしても貴女に会いたくて来たけれど……そろそろ限界ね、戻らなくては……」

 

そう言いながらチラリとイノセンスを見るアンリエッタ。

イノセンスはそれを察した。

 

「夜道は危険です、送りますよ」

 

「逆にあんたがいたら目立つでしょうが!」

 

「王女殿下、これを羽織ってください、フードまで被ると完全に誰か分からなくなります」

 

怒るルイズを無視し、ナイトメアローブをアンリエッタに着せるイノセンス。

すると、顔が真っ暗になり誰か分からなくなる。

「これは素晴らしい……私もこう言う物があれば、楽に変装出来ますのに」

 

「これ声まで低くなるのね……」

 

「便利だろ?」

 

イノセンスはそう言って笑う。

 

「あんたはどうすんのよ?」

 

「<隠蔽>スキルで消える」

 

そう言って姿を消す。

 

「呪文もなしに!?」

 

「うわ~、そんなものもあるのね」

 

アンリエッタは驚愕し、ルイズは素直に感心する。

 

「じゃあ送ってくるよ」

 

「それではルイズ、明日の品評会楽しみにしてるわ」

 

透明人間と怪人に話しかけられ、苦笑しながらルイズは見送った。

 

 

 

 

 

 

 

外に出た二人は、ある程度進んでから話し出す。

 

「見張りを眠らせたな?お転婆なお姫様」

 

「はい、貴方とどうしても二人きりで話したかったものですから」

 

イノセンスの質問に笑顔で答えるアンリエッタ。

しかし、その顔にはやはり陰りがあった。

イノセンスは隠蔽を解除、アンリエッタはフードを取り、互いを見る。

 

「教えて下さいますか……何故私が悩みを抱えていると分かったのか」

 

彼は笑って答える。

 

「どうにも、俺は暗い感情に敏感みたいでしてね……馬車から降りてる時のあんたは、かなり浮かない表情に見えたんですよ」

 

「……なるほど、それで貴方は……」

 

イノセンスの言葉を聞いたアンリエッタの表情の、陰りが深くなった。

 

「なあ、話してくれないか?あんたの悩みを……溜め込むのは良くない、それであんたが倒れたりダメになったら本末転倒なんだからな……この国の宝だろ、あんたは」

 

「使い魔さん…………では聞いて頂けますか……この浅はかな私の我が儘を……」

 

アンリエッタは涙ぐみながら、自らの悩みを打ち明け始めた。

トリステインは現在王が少し前に亡くなったらしく、王位が空位である故に、アンリエッタが女王に即位するか、国を守る為に他国の王と結婚して王妃となるか、誰か王女と結婚させてその者を王配とするかで揉めており、その何れもが本心では嫌だったアンリエッタは、そんな生活から逃げたくなっている事を吐露した。

 

「ふむ……」

 

「私は、もうどうしたら良いか……!」

 

泣き崩れるアンリエッタはジレンマで未だに苦しんでいた。

そんな彼女にイノセンスは聞く。

 

「……あんたが全部嫌だと思うのもやっぱり理由があるんだよな?」

 

「! そ、それは……」

 

イノセンスの質問に明らかに動揺するアンリエッタ。

 

「言いにくいなら言わなくて良い……それがどんな理由でも、思うだけならあんたの自由だ」

 

「……」

 

優しく優しくイノセンスはアンリエッタに語りかける、彼女は今精神的に参っているのだから。

 

「だが、このままじゃずっと苦しいままだろ?そりゃそうだ、だってあんたは王女である前に一人の女の子なんだ……それが国の運命を左右する選択肢選べなんて……重たすぎる」

 

「……はい……」

 

自らを案じてくれるイノセンスの言葉に、しっかり耳を傾けるアンリエッタ。

そして、イノセンスは彼女に提案する。

 

「なら、王女殿下……いや<アンリエッタ>、強くならなきゃな」

 

「……え?」

 

イノセンスはアンリエッタを力強く見つめる。

 

「力をつけて誰にも文句を言わせなくなるほど、強くなれば良い……そうすればお前だってもっと自由でいられるはずだ」

 

「私が、強く……自由に……」

 

今まで暗かった彼女の瞳に光が灯る、イノセンスは語り続ける。

 

「そのためにはやっぱり女王にならなきゃいけないけどさ……っと、これは俺の考えだ……正直自分が納得する答えがあるならそれが最良なんだが?」

 

「……そうですね、やはりすぐには答えは出せません……」

 

イノセンスの言葉にアンリエッタは頷く。

 

「やっぱりもうしばらく考えて、自分で決めます……ただ貴方の意見もその案の一つにしようと思いますが」

 

「ああ、やっぱりそれが良い……変に俺なんかが介入するべきじゃなかった」

 

彼女の答えにイノセンスは頷き、隣に並ぶ。

 

「だが、それで何もしないのはあまりにも酷なんで、これからの心の支えとして、一つ秘密の魔法を教えよう」

 

「えっ?」

 

イノセンスはアンリエッタにフレンド申請し、受諾させ、フレンドになる。

驚いている彼女にメインメニューについて軽く教える。

 

「んで、これがフレンドリスト、フレンドになった人間の名前があるんだが……」

 

フレンドリストからアンリエッタを選び、イノセンスはメールを送信する。

すると、アンリエッタの元にメールが通知される。

 

「一瞬で相手に手紙が送れる……これなら何かあって助けが必要ならすぐ伝えられる」

 

「こ、こんな……本当に貴方は不思議な使い魔さんですね」

 

「誉め言葉と受けとるよ……さて、そろそろ戻らないとルイズに怪しまれるからもどるとするか……またなアンリエッタ」

 

「……はい、明日は貴方をじっくり見させてもらいます」

 

アンリエッタの言葉に背うちで手を振るイノセンス。

彼を見送ったアンリエッタは部屋に戻り、ベッドに身をなげうつ。

 

「……ウェールズ様、私は逃げています……今のこの現実から、そして貴方からも……こんな私が強くなれる、そんな希望を持って良いと思いますか?」

 

語れど答えは帰ってこない、途端に寂しくなる。

 

「そんなの無理です、私なんかが強くなれるわけ……折角彼にあれだけ言ってもらったのに……結局わたしは……情けない……ウェールズ様……私はどうすれば?」

 

彼女は迷子だった、どうすれば良いのか分からずさ迷う……幼い子供のようだった。

 




初期のアンリエッタは、普段は清楚で可憐なお姫様ですが、その内面の本質はウェールズへの依存による情緒が不安定な少女。
そんなイメージがあります。

助かりたいけど、逃げ道が別にあるとそっちに逃げ込んで、でもそれがまた彼女を苦しめる。

でもそれが後の彼女の変化に必要なのだと思います。
変化のきっかけがウェールズの死なのが皮肉と言えそうですが。

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