この作品でもこれは絶対変わりません(迫真)
ルイズが一頻り泣いて、暫くしてから昼食の時間になりイノセンスは二人と共に移動しだした。
ルイズは泣いたお陰で大分胸のつかえが取れたが、その分かなり赤面していた。
「……もう、弱音は吐かないわ!だから大丈夫!」
ルイズはそう言って先頭を歩いている。
先程イノセンスの胸の中で泣きついた事が、余程恥ずかしかったのか逃げる様に早足で進んでいる。
「やれやれ、ご主人が立ち直れて良かった」
イノセンスはそんな様子の彼女を見て笑う。
「パパも言いたいこと言えてスッキリしたんじゃ無いですか?」
そう言いながらイノセンスと手を繋ぐ結。
「まあ、確かにそうだな……と、もう食堂か」
ルイズに合わせて早足だったためか話している内に、既に食堂に着いてしまったようだ。
朝同様にルイズは席につき、二人は床であったが食事の内容はグレードアップしていた。
「ゆっくり味わって食べなさい!」
フンッと鼻を鳴らした後、祈りをし、食事をとるルイズ。
イノセンスと結は料理の旨さに感動した。
「やはりSAOとは、違うな!」
「はい、とっても美味しいです!」
二人は一口一口を大事に食べ、その様子を見たルイズは無意識に微笑んでいた。
満足したイノセンスは、まだゆっくり食べている結を眺めていた。
ふとなにやら不穏な怒鳴り声と謝罪の叫びが聞こえてきた。
「何の声だ?」
「恐らく給仕が貴族に粗相を働いたんでしょ?平民はただではすまないでしょうね」
イノセンスの言葉にルイズが答える。
この時、弓の為に<遠視>スキルを取っていた結が叫ぶ。
「パパ!怒られているのはシエスタさんです!」
「!」
そう、貴族に粗相を働いた平民とは、今朝仲良くなったメイドであるシエスタであった。
「知り合いなの?」
「洗濯の時ちょいとな……行ってくる」
「そう、行ってら……ってええ!?」
ルイズの質問に軽く返し、イノセンスはまさに事件の真っ只中に向かう。
「それでこそパパです♪」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
楽しげな結と焦ったルイズは彼を追いかけた。
「君の所為で二人のレディの名誉が傷ついたんだよ、どうしてくれるんだ!」
「すみません!すみません!」
問題の現場では、貴族の<ギーシュ・ド・グラモン>がシエスタを怒鳴りつけていた。
彼が怒っているのは、自分の交際相手から貰った香水を落とした時にシエスタが拾い渡した時に、浮気相手に交際中とバレてしまい、なし崩しに交際相手にも浮気がバレて二人にフラれると言う二股による自業自得な目に遭ったから。
つまりシエスタに八つ当たりしているのである。
「さあ、どんな罰を与えてあげようか!?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
ただ無力で、謝るしか出来ないシエスタ。
こんな時思い浮かぶのは故郷の家族や仕事場の皆の姿。
貴族に捕まった以上最早どうすることも出来ない、諦めるしかない……覚悟を決めていたシエスタに、希望が手を伸ばす。
「シエスタ」
「……えっ?」
自分の名を呼ばれ顔を上げると、今朝出会った異界の人間の使い魔イノセンスがいた。
「借りを返す時が来たな」
「イノセンスさん?」
イノセンスは立ち上がり、先程まで怒鳴っていたギーシュを見据える。
「身分の差はあれど、か弱い女の子を怒鳴りつけるとは……貴族の紳士としてあるまじきじゃないのか?」
「……君は確かミス・ヴァリエールの使い魔か……」
ギーシュは割り込んできたイノセンスを睨み付ける。
「貴族に対してその強気な口調、平民が良い度胸じゃないか……それに今回の件はそのメイドに全面的に非がある、その事実は変えられないよ?」
ギーシュの言葉にイノセンスはシエスタに視線を向ける、しかし彼女は口を割れない。
ギーシュはニヤリと笑うが、そこに助け船がやってくる。
「イノセンス!そいつはね、二股かけてフラれたのをただその子に八つ当たりしてるだけよ~!」
「なっ!?ミス・ツェルプストー!?」
「ほう……そうか、なるほどな……なら気兼ねなくやれそうだ」
キュルケの言葉を聞き、驚くギーシュの反応を見て、イノセンスは笑う。
「それはどう言う意味だい?」
「お互い気に入らないなら、力で示すだけ……決闘だ」
「! なにぃ!?」
イノセンスの答えがギーシュには理解できなかった。
平民が貴族に挑むのはほぼ死を意味すると言うのに。
「君は随分死にたがりらしい……良いだろう、受けてやる……ヴェストリの広場まで来たまえ、自分から挑んでおいて逃げるなよ?」
そう言い残し、ギーシュは広場に向かった。
「……大丈夫か、シエスタ?」
イノセンスはシエスタに声をかける。
彼女は涙目で震えながらイノセンスを見ていた。
「イノセンスさん、行かないでください……殺されてしまいます……!」
「いや、俺は行くよ……決闘にね」
「やめてください!例え異界の剣士の貴方でも貴族の魔法には勝てません!私は貴方に死んでほしくないんです!」
行こうとするイノセンスに泣きつくシエスタ。
そこに今までの流れを見ていたルイズと結がやってきた。
「ちょっと」
「あ、ミス・ヴァリエール!貴女も止めてくださるんですか!?」
「いいえ、言いたいことはあるけどね」
ルイズはため息をつき、イノセンスを見る。
「あんたは私にゼロじゃないって、そう言ってみせたわよね……<イノセンス>」
「ああ、そうだな<ルイズ>」
互いに名前を呼びあい、視線を交差させる。
ルイズの瞳は真剣そのものだった。
「なら証明して、あんたが、使い魔のイノセンスが、主人であるルイズが、ゼロではないってことを……その手で」
「……畏まったよ、ルイズ」
ルイズに頭を下げ、シエスタに視線を向けるイノセンス。
「これで、より行かなくては行けなくなった……頼むからその手を離してくれ、シエスタ……」
「……ですが……」
イノセンスの言葉に俯くシエスタ。
今度は結がシエスタの元へやってきた。
「大丈夫ですよ、シエスタさん……今朝言ったじゃないですか、パパはとっても強いんです!」
「結ちゃん……」
そう言ってシエスタに微笑む結。
シエスタはそれを見て力を緩ませ、その後イノセンスをみて言う。
「必ず戻ってきてください……お願いします」
「ああ、もちろん」
彼女の言葉にイノセンス自信をもって答え、再び広場へ向かう……イノセンスのこの世界で初めての戦闘が始まる。
ヴェストリの広場中央にてギーシュは待っていた。
周囲は貴族や平民のギャラリーで囲まれている。
その中にはキュルケとタバサ、後からやって来たルイズとシエスタ、結もいた。
「ふふっ、お手並み拝見といきましょうか」
「……」
「信じてるわよ……イノセンス」
「どうか、彼に加護を……」
「パパ!頑張ってください!」
「キュイッ!キュイキュイッ!」
さらに離れた場所からシルフィードが手を振っていたので笑顔で振り返しておく。
今、ギーシュとイノセンスが向かい合い立つ。
「遅かったじゃないか、怖じ気づいたかと思ったよ」
「安心しろよ、端から準備はバッチリだからな……やろうぜ」
イノセンスの言葉にギーシュは薔薇の形をした杖を掲げる。
「舞台は整った!始めるぞ!諸君!!」
ギーシュの言葉にギャラリーの気勢が上がる。
「僕はギーシュ、<青銅>のギーシュだ!」
ギーシュが杖を振るうと、花びらが舞い散り、それが青銅で出来た三体のゴーレムに姿変える。
「君の相手はこの<ワルキューレ>達が相手しよう」
「なるほどな……それがお前の魔法か、ならば」
イノセンスはそれを見てメインメニューを操作し、デュエルの開始ボタンを押し、さらに装備画面から武器を外し、拳で構えをとる。
それを見てギーシュは表情を変える。
「何のつもりかな?それは」
「俺はこれで十分だ、何処からでもこいよ」
ギャラリーは騒然とする。
それに対しギーシュは怒りを露にする。
「ぼ、僕を馬鹿にしてるのか!行け!ワルキューレ!」
ギーシュはワルキューレ達をイノセンスに差し向ける。
次々に襲いかかるワルキューレ、誰もがイノセンスの死を予感したが、そうはならなかった。
イノセンスは一体目のワルキューレの攻撃を避けつつ腹に膝げりを入れる。
鈍い音と共にひしゃげて吹き飛ぶワルキューレ。
二体目にそれが直撃し怯んだところに飛びまわしげりで地面に叩き伏せられ、踏み潰されるワルキューレ。
三体目が剣を振りかぶり襲い来るので、速攻で間合いを詰め腕をとり投げ飛ばす、地面に埋まるワルキューレ。
「ほい、まだ来るか?」
ギャラリーもギーシュも唖然としていた。
動きもさることながら、青銅のワルキューレ達を素手で全滅させるイノセンスのパワーは、とてもではないが人間とは思えなかったからだ。
表情が恐怖に染まるギーシュは、急いで杖を振るう。
「う、うわあぁぁぁぁぁ!!ワルキューレェ!!」
今度は一気に八体も現れるワルキューレ。
イノセンスは笑う。
「まあ、そうなるよな……今度は大胆にこっちから行くぞ!」
イノセンスは高い敏捷性により凄まじい速度で接近、ワルキューレ一体を殴り倒した後、両足を腋に挟み、ジャイアントスウィングをして周囲のワルキューレを纏めて巻き込む。
「オラアァァァァァ!!」
壊れいくワルキューレ達を見ながらルイズが結に聞く。
「お、教えて……イノセンスは何をやってた人間なの?」
結は笑顔で答える。
「パパは数多の強大で巨大な魔物達に立ち向かい、多くの人を救い守った英雄です!青銅のゴーレムなんて素手でも屁のカッパですよ?」
イノセンスは最後に手に持っていたワルキューレを地面に叩きつけ、無言でギーシュに近づいていく。
「……」
「ヒィッ!」
思わず口から悲鳴が出るギーシュ。
殺されると思った、無慈悲にも。
しかし、イノセンスはギーシュからただ杖を取り上げただけだった。
「これでチェックメイトだな」
イノセンスはニヤリと笑う。
ギーシュは一気に力が抜け膝をつく。
「ぼ、僕の負けだ……」
イノセンスの頭上で勝利のエフェクトが表記される。
ギャラリーの貴族は呆然とし、平民は声をあげ歓喜した。
「さあ、立てるかギーシュ?」
「え?」
不意にイノセンスから手をさしのばされる。
「互いにやりあったんだ、今度から俺らはダチだ」
「ダチ?」
「友達ってことな、お前根っこは良い奴だと思うし、仲良くしたい……ああ、忠告としては女好きは良いが、相手の気持ちは考えろよ?んじゃなっ」
イノセンスはそう言って去る。
「……友達か……それも悪くないかもしれないね」
ギーシュは彼の後ろ姿を見ながらそう一人ごちた。
「イノセンスさん!」
「イノセンス……あんたってやつは」
「パパ!」
「只今戻りました、ご主人」
イノセンスは三人の元に戻ってきた。
結は抱きつき、シエスタは満面の笑顔で駆け寄り、ルイズは感動を通りこして呆れていた。
「貴方と結ちゃんを信じて本当に良かった!もうすごすぎです!かっこよすぎです!」
「ははっ、とりあえず約束はしっかり守ったぜ」
「はい!」
イノセンスは笑顔でシエスタの頭をポンポン叩く。
「私は寧ろかなりハードル上がった気がするんだけど……どうしてくれんのよ!バカ!」
「なぁに、使い魔が主の資質を表すなら、ご主人は絶対強くなるさ」
「ったく……でもゼロでない証明、確かに見させてもらったわ」
いつも通り我が儘を言ったあと、ルイズは微笑み、イノセンスを見る。
「これからもよろしく!イノセンス!」
「よろしくな、ルイズ」
二人は見つめ合い、笑い合う。
互いに曖昧だった主従が、はっきり結ばれた瞬間だった。
初戦闘回でした。
マジでSAOの攻略組アバターが召喚されれば大体こうなるかな……と言う想像。
だってゼロ使で言うヨルムンガンドクラスとかと普通に戦ってる訳ですしね、これくらいは余裕かと(ハイパーボッ