でも人の中にゼロはいないしいらないとも思います。
シルフィードとの出会いの後、イノセンスと結はルイズと合流した。
ルイズは一緒にいない間、二人が何をしていたのか気になったので聞いてみた。
「何やってたのよあんたたちは?」
「何、少し他の使い魔とスキンシップを図ってただけですよ」
「はい、青い風竜さんは可愛らしかったですよ」
「ふ~ん、例え人間でも使い魔だから、通じあうものでもあったのかしらね」
二人の発言にルイズは特に疑うことなくそのまま受け取り、授業を受ける教室へと入る。
「ここが教室よ、基本的に授業は座学を含めてここで行うの……いい!?絶対周りに粗相が無いようにね!」
「分かったよ、ご主人」
「はい!」
ルイズが着席すると、イノセンスはその横で胡座をかいて結を抱っこした。
「……あんたら本当に仲良いわね?」
「親子だからな?」
「えへへ~」
結はイノセンスの腕に頬擦りして甘える。
イノセンスはその結を撫でる。
完全に親子なのでどこもおかしいところはない。
時間が経つにつれて人が増える中、キュルケは二人に手を振り席につき、タバサは来た時も着席してからもイノセンスに甘えて楽しそうにしている結をジッと見つめていた、彼女には何か思うところがあるのだろうか。
「皆さん、おはようございます」
しばらくして入ってきたのは、紫色のローブを着て黒い三角帽子を被った中年の女性教師だった。
彼女は微笑みを顔に浮かべながら教壇に立ち、生徒達を見回しながら語り始める。
「今年も春の使い魔召喚は大成功の様ですね。このシュヴルーズ、この時期に皆さんの使い魔の初々しい姿を見るのがとても楽しみなのですよ」
女教師シュブルーズはやはり気になったのか、ルイズの隣にいるイノセンスに視線を向ける。
「貴方がミス・ヴァリエールの使い魔の?」
「はい、イノセンスと申します……此方は血は繋がってはおりませんが娘の結です、共にご主人のために尽くす所存です」
「どうぞよろしくお願いします!シュブルーズ先生!」
二人の返事に頷き微笑むシュブルーズ。
「その年で娘さんとは、大変そうですが父娘で頑張ってくださいね、私も応援しますよ」
「ミセス・シュブルーズ……」
シュブルーズは貴族としては珍しい内面重視の人間らしく、彼女のイノセンスとの会話はルイズも驚いていた。
そこで、横槍が入ってくる。
『先生!そいつらはグルです!騙されたらダメですよ!』
『ゼロのルイズが金で抱き込んだんだろ!』
「ち、違っ……!私は本当に!」
『嘘だな!ゼロのお前が召喚できるはずないんだからな!!』
ルイズが必死に訴えようとするが、周りのヤジが止まらない。
これに見かねたキュルケが立ち上がろうとしたその時。
「少し黙れやてめぇら!!!」
イノセンスが珍しく怒号を上げた、結すら驚いている。
左手のルーンを掲げ、周囲に見せる。
「これは、俺がご主人と真に使い魔として契約した何よりの証だ……これについてはあのミスタ・コルベールも認めて下さってる、なのにそれすら否定するのか?」
イノセンスの言葉に、生徒たちは口を噤んだ。
キュルケは彼の土壇場での熱さに口笛を鳴らす。
論破したイノセンスはそのまま立ち上がり、シュブルーズに、頭を下げる。
「申し訳ありません、突然大声を出してしまって」
「問題ありませんよ、寧ろ非は彼らにあるのですから……さあ、授業を始めますよ!」
シュブルーズが授業の開始をつげ、黒板へ向かう。
イノセンスは再び座り結を抱っこする。
結はそんな父親に身を預ける。
「アリガト……」
ふと隣から小さな声でそう聞こえた気がした。
授業の内容は四系統の魔法についての座学をやり、次にその中でも土の魔法の<錬金>の基本を実践することになった。
シュブルーズはまずは見本と言う事で、小石を真鍮に変えてみせた。
この世界に来て初めて見る魔法に、イノセンスも結も驚く。
「杖一本で、ここまでの事ができるんだな……」
「これがまさに平民と貴族を隔たるもの、と言えますよね」
「シエスタの話通りだな」
シエスタとの会話で貴族と平民の格差や関係について学んではいたが、魔法が絶対的な力故にそうなっていると、これを見て改めて確信した。
「では、次は生徒の実演ですね……ミス・ヴァリエール、お願いできますか?」
「は、はい!!」
シュブルーズはルイズを指名し、実践させようとしていたが、他の生徒は机の影に隠れたりしていた。
「先生、あの……やめておいた方がよろしいかと……」
珍しくキュルケが青い顔で警告する。
シュブルーズは訳がわからない様子だった。
「何故です?」
「先生はルイズを教えるの初めてですから知らないでしょうが……危険だからですわ」
「? 錬金が危険?」
ますます分からなくなるシュブルーズ。
そこで意を決したルイズが教壇へ向かう。
「私やります!」
「ルイズ!やめて!」
キュルケの言葉では止まらないルイズは既に教壇に立っていた。
シュブルーズは今はキュルケの言葉は振り払い、ルイズの元へ向かい共に教壇に立つ。
「……結、もしもの準備しとけ、あのキュルケの様子尋常じゃなかったからな」
「は、はいっ」
使い魔とその娘の二人は主人を警戒しながら見守る。
「さあ、ミス・ヴァリエール……自分のイメージした金属を作るんですよ?」
「はい、行きます!」
杖を振りかざすルイズ。
すると小石を起点とした大爆発が起こり、破片などが飛んでくる。
イノセンスは装備していた愛刀<金鵄>で破片を叩き落とし、後ろの生徒達と結を守る。
爆発の後の煙が晴れてくると、気絶しているシュブルーズとほこりだらけで髪が爆発しているルイズがいた。
『だから、キュルケはやめろっていったんだ!』
『だからゼロなんだよお前は!』
『万年魔法成功率ゼロのルイズ!!』
周囲からヤジが飛んでくる。
ルイズは教壇に立ちながらこう言った。
「……ちょっと失敗したのよ」
ケホッとルイズの口から煙がでた。
あの後シュブルーズは運ばれ、教室の片付けを言い渡されたルイズは、イノセンスと結と共に片付けをしている。
涙目になりながら箒ではくルイズは、とても自らを自己嫌悪していた。
「あんた達……幻滅したわよね……?」
ルイズは心の中にあった弱音を吐き出し始めた。
「偉そうにして、周りに当たり散らして、文句ばっかり言ってた私の……これが正体よ……!」
その瞳から涙がこぼれだす、段々前が見えなくなる。
「そうよ、私は<ゼロ>なのよッ!何もないのッ!本当はあいつらの言う通りッ!才能も、心構えもないッ!ただの名前だけの女なのよッ!」
叫んでも叫んでも虚しいだけ、より自覚するだけ。
「だから私は一生……」
「ご主人」
「……えっ?」
唐突に喋りだしたイノセンスにルイズの言葉が止まる。
「その先を絶対に口に出しちゃダメだ」
イノセンスはルイズを真っ直ぐ見据える。
「才能がない?じゃあ何で俺がここにいる?」
しっかりと彼女に届くように。
「心構えがない?じゃあ何で俺と契約した?」
ゆっくりはっきりと口にだし。
「ただの名前だけの女?なら何でここにいる?」
彼女の目を、心を、魂をみて語る。
「間違えるな、お前の名前は<ゼロ>か?違うだろ、<ルイズ>なんだろうが……我が儘で、意地っ張りで、臆病で……でも強い誇りを持った貴族であり、メイジのルイズだろうが」
「……うぅ……でも……」
ルイズはイノセンスの言葉を不思議と飲み込んでいた、昨日や今日の朝までの彼と違う……そんなイノセンスの言葉は重く、説得力があるように感じられる……。
「俺を呼び出したお前は既にゼロなんかじゃない……ゼロなんて最初から無かったんだ……もっと自信を持て」
先程から一転して優しく声を掛けるイノセンス、彼女に自信をもってもらいたくて、強くなって欲しくて……彼は言葉を掛ける。
「ゼロな人間なんて存在しないんだよ、それはお前もなんだ」
「ーーーー」
ルイズは放心する。
今まで自分のためにここまで真剣に諭し、ゼロだと思っていた自分にゼロじゃないとはっきり言ってくれた……自分を認めてくれた……こんな人間と出会ったのは初めてだった。
止まりかけていた涙が、再び止めどなく溢れだす……。
「な、なにようぅ……好き勝手言ってぇ……ご主人様に向かって……なまいきなのよぉぉ……バカァ……!ウアァァァァァン!!」
ルイズはイノセンスに泣きついた。
ワンワン泣きわめいた、子供みたいに。
そう、彼女はまだ子供なのだ。
泣いて当然なのだ。
「そうだ、泣けば良い……泣くと人は強くなる……強くなってくれルイズ……俺の大事なご主人様」
成り行きとは言えファーストキスをあげたんだから、そう願うくらい許されるはず……イノセンスはそう思った。
ルイズとの親好イベント。
こうして彼女との信頼を重ね、強くなっていくのだ……頑張れイノセンス!結もいるよ!
地味に感想お待ちしてます(笑)