ゼロの使い魔 本能の牙-extra-   作:新世界のおっさん

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トリステイン魔法学院に帰ってきたイノセンス。

これからいつもの日常が始まる……と思いきや、少し変化があったりなかったり。



使い魔さんの日常

アルビオンから帰還した次の日。

朝早く起床したイノセンスは、いつもの調子で洗濯物を洗うために持っていこうとしたが、いつもならあるはずの洗濯かごが無かった。

疑問に思い窓から外を見ると、シエスタが自分の分を含めてルイズの洗濯物も運んでいた。

イノセンスは窓から飛び降り、シエスタに挨拶する。

 

「やぁ、シエスタおはよう」

 

「あっ、イノセンスさん!おはようございます!」

 

彼女は洗濯物を運びながら、イノセンスに笑顔で対応する。

 

「それで何でシエスタがルイズの洗濯物を?」

 

「……あれ?もしかしてミス・ヴァリエールからお聞きになってないんですか?実は昨日帰ってこられたときに、真っ先に頼まれたんですよ」

 

「……ふむ、そうだったのか、ならお願いするよ」

 

「はい!かしこまりました!」

 

イノセンスからすれば、むしろ洗わないで済むならば、それに越したことはない、身体に染み付いた習慣と言うべきか、自然と動いていただけだ。

しかし、彼が解せないのは彼女がそんな事を言い出した理由だ。

使い魔に与える仕事と言う意味でならば、ある意味ピッタリなのだが……信頼関係が不可欠故に。

まあ、それをここで考えていても仕方ないので、シエスタにまた後で、と手を振り別れ、部屋で適当に本でも読んで、時間を潰す事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして結が起きたが、まだ寝ぼけ頭で甘えてきたので、頭を撫でてやっていると、不意にルイズが目を覚ます。

 

「……おはよう」

 

「……ん……水は?」

 

「ほれ」

 

水桶は安心と信頼のイベントリの中にしまってある。

先程の帰る途中で、水は汲んでいた、準備は万全であった。

ルイズは朝に弱いが、時たま自分で起きれる時がある、今回はそれだったようで、顔を洗い、水をつけ、髪を整える。

髪質がふわっふわなルイズは、少し弄るだけで大体髪が整うので、さっさと終わらせ、服に手をかけた。

そこで彼女の動きが止まった。

 

「……? どうした?着替えないのか?」

 

「……出ていきなさいよ……き、着替えられないじゃない」

 

「え?……あっ」

 

ルイズは頬を赤く染めながら、此方をチラチラ見ている。

彼女はラムゲイルの装備以外は基本自分の手で着替えるのだが、以前はイノセンスが部屋にいようとお構いなしに服を脱いだり、寧ろ着替えさせたりまでしていたのだが……。

なんと言うことでしょう……今はすっかり恥じらいを持っていた。

流石にその様子をみて察したのか、イノセンスは結を連れて外に出る。

 

「どうしたんでしょう?ルイズさんは今まであんな反応しなかったじゃないですか」

 

「……多少なりと俺を異性と認知するようになったのかもな」

 

「ああ、なるほど……私はそう言う経験が無いのであまり分からなかったです」

 

「気を付けろよ、知らないだけで結を狙ってる奴、きっとたくさんいるぞ?」

 

「えぇっ?……き、肝に命じます」

 

イノセンスの見解としては、ルイズはアルビオンでの一見で、結婚一歩手前まで行ったりしたのだ、故に異性に対して多少敏感になったのだろうと言う物だ。

……事実それもあるだろうが、どちらかと言えば帰り際のキスが一番意識した感があるのだが……知らぬは当人ばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂に着き、食事を取ることになったイノセンスは、いつも通り床で食べるのかと思いきや、別個に椅子が一個用意されていた。

 

「一個しか入る余地無かったから……だから特別にい、一緒に座らせてあげるわ!感謝しなさい!」

 

どうやら本来は貴族用のテーブルなのだが、イノセンスも結も使わせてもらえるらしい。

しかも、ルイズの言葉を抜き出すなら、結と一緒にでは無く、彼と一緒にと言った言い方だった。

それ故に結はさっさと席についた。

逃げられないプレッシャーを背負うことになったイノセンスは、椅子に座りルイズを膝に招く。

 

「ほら、座れよ」

 

「う、うん……」

 

もじもじと躊躇いながらも、ゆっくり座ったルイズの、イノセンスの膝の座り心地の感想は。

 

「……なんか、圧倒的な安心感ね……」

 

だったらしい。

また、食事内容も貴族同様の待遇に引き上がっていた。

やたら周囲の生徒に見られていたが、多分平民達の間では伝説になっているだろう、色んな意味で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食が終わり、次は授業らしいが、内容は貴族としてのマナーらしく、ルイズは彼に自由にしていても良いと言う。

ならば良い機会だと、イノセンスはタバサにお願いしてシルフィードを借り、単身トリスタニアに向かった。

理由は昨日マザリーニ卿から報酬として、宝石を貰ったのだが、換金するしか使い道が無かったためだ。

トリスタニアに着くと、何処かでみた人達がお礼を言いに来た。

その人達はアルビオンの平民達らしく、艦隊に攻撃されていた時に、恐怖で逃げ惑っており、丁度そこへイノセンスがやってきたため、冗談抜きで救われていたらしい。

風を纏い、空を飛び、単騎で艦隊を退けたイノセンスは、貴族ではない事も相まって本気で英雄にしか見えなかったそうな。

しかも、それはトリスタニアに広められていたそうで、彼らと別れた後もやたらと注目を浴びており、イノセンスもこれには思わず苦笑い、ドッキリレベルのノリであった。

それらにめげずに質屋を見つけ、しっかり宝石は換金した。

どっさりあった金貨はイベントリに追加し、持って帰る。

しかし、このまま帰っても良かったが、頑張って足をしてもらったシルフィードに、肉でも買ってきてやろうかと、食品店で上等な肉を買い、彼女に貢ぐとキュイキュイ鳴いて喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

帰還すると、タバサが待っていた。

 

「贅沢は敵」

 

とシルフィードをあまり甘やかさないで欲しいと言われた。

イノセンスとしては当然の報酬のつもりだったが、主人である彼女からすれば、出来ればしないのが良いらしい。

シルフィードはその会話に瞳をウルウルさせていたが。

 

「ダメ」

 

の一言で一蹴された。

そのままイノセンスはタバサに誘われ、一緒に食事を取ることになった、ルイズにはもちろんメールを送っておいてある。

学院のすぐ外に小屋と寝床があり、そこがなんとシルフィードの住み処らしい。

しかし、寝床は竜らしい大きさなのだが、小屋の大きさは人間大のサイズであり、イノセンスは疑問を抱く。

 

「何で小屋は人間用なんだ?」

 

「……今から教える」

 

タバサはシルフィードに許可を出すと、突然喋り出す。

 

「やっとイノセンスと表だって話せるのネ!さっきはありがとうなのネ!キュイキュイ!」

 

「……<表だって>?」

 

タバサの質問にもう大分前から正体が割れていた事をイノセンスは教える。

彼女は一瞬驚いたあと。

 

「もっと早く教えてくれれば……」

 

と呟いた。

その後はぼろを出していた、シルフィードを杖で軽く殴り、指示を出す。

おねえさまは理不尽なのネと頭を押さえながら言った後、シルフィードは先住(精霊)魔法を使い、姿を青い長髪の二十才くらいの女性に変化させた。

 

「おお、凄い!流石は韻竜……だが、惜しむらくは……全裸なんだよなぁ」

 

タバサは必死に杖でイノセンスの視界ガードをしようとしているが、あまり意味をなしておらず、おまけにそれでイノセンスに抱きついてくるシルフィード、もといこの姿はイルククゥとする。

 

「えへへ~!ずっとこうしてみたかったのネ!桃髪がイノセンスに良く抱きついてるから羨ましかったのネ!キュイ!」

 

「そ、そうか……だがせめて服は着ような?」

 

イルククゥは、イノセンスに頬擦りし、匂いを嗅ぐ。

その後は満足したのか離れ、満面の笑みだった。

 

「大自然のおしおき」

 

「お、おねえさま!痛い!痛いのネ~ッ!」

 

そして唐突な怒りのタバサにバシバシ叩かれながら、小屋に入っていくイルククゥ。

イノセンスはやれやれと言った表情になり、後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

服を着たイルククゥは先程よりかは大人しくしていた、さっき肉を食べたが、彼女はまだまだ空きっ腹らしく、タバサ共々中々食べるらしい。

 

「……これ」

 

そう言ってメインメニューを操作し、イベントリから大きめのバスケットを取り出す。

中にはサンドイッチが沢山はいっており、ハム、ベーコン、卵、ジャム、レタス、チーズ、魚のフライやハシバミ草まで豊富な具材と組合せの種類が揃っていた。

 

「おお、これは美味そうだな……食べて良いか?」

 

「……ど、どうぞ」

 

イノセンスの質問に答えるタバサは、何かやたらソワソワしていた、疑問には思いつつもイノセンスは手近な一つを取り口に運ぶ。

 

「 ! うん、美味いなこのサンドイッチ!」

 

「ほ、本当?」

 

「もちろんさ、結構俺好みの味付けだし……誰が作ったんだ?」

 

タバサは目を逸らして答える。

 

「……私」

 

「へえ~、料理上手かったんだな、こりゃいつでも嫁にいけるな」

 

「ーーーーッ!」

 

彼は特に意図して言ったわけではない、タバサもそれは分かっていたのだが、思わずイノセンスに背中を向ける。

 

「? タバサ?」

 

「……こそこそ~」

 

突然背中を向けたタバサに、イノセンスが疑問に思っていると、イルククゥがこっそりタバサの前に行き叫ぶ。

 

「あはは!おねえさま珍しく真っ赤なのネ!何か朝早く起きて必死にこさえてたのはサンドイッチだったのネ!?おねえさまは乙女!乙女なのネ!キュイキュイ!」

 

「そうか……そうだったのか……」

 

「ーーーー」

 

今度は耳まで真っ赤にするタバサ。

真っ白で雪のような透き通った肌が、赤くなると本当に分かりやすい。

イノセンスもタバサの前に行き、話しかける。

 

「ありがとな、タバサ」

 

「別に……良い……」

 

そう答える彼女が可愛らしかったので、イノセンスは優しくタバサの頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の食事会とシルフィードのネタバラシをやった理由は、ルイズを見て、真にイノセンスを知るには自分も知ってもらわないといけないと学んだため、もっと自分を知ってもらいたくて……らしい。

イノセンスは今回の事で、タバサも普通の女の子の一面があるんだと改めて認識し、結果として目論見は成功したようだ。

ただ、帰り際にイルククゥが。

 

「イノセンスとの卵ならいつ産んでも良いのネ!ああ、おねえさまが産むのも可なのネ!!」

 

と言って二人を噴き出させたりしたのだが。

イノセンスが部屋に向かう途中で、ケティとギーシュが話しながら歩いているのを見かけた。

声をかけると二人とも此方に駆け寄ってきた。

 

「二人とも仲良さそうだな」

 

「あっイノセンス様!いえ、実は前の一件からわたくし達ドットが、他の皆さんに負けない活躍をするにはどうすれば良いかと談義していたのです」

 

「それで僕が考えたのは、ケティはINT重視に、僕はMND重視でビルドを組むのが一番良いかなと……」

 

どうやら二人は真面目に自分の戦い方の研究をしていた様で、決してよりを戻すとか浮わついた話ではないらしい、前に比べると本当の意味で仲良くなっていたのだ。

後ろの柱から、ギーシュを穴が空くように見つめる<モンモランシー>に苦笑しつつ、イノセンスは答える。

 

「うん、近接戦を比重に置かないならそれが一番だな、ケティはファイアーボールの威力が高まるだろうし、ギーシュはワルキューレの数を増やせる、それだけで戦略は広まるだろうしな……だが二人ももしものために、杖以外を持っていた方が良いだろうな」

 

魔法は確かに強力だが、弱点も多く、いざと言う時のためには何か必要だろう。

二人はなるほど、と言った表情をしたあと、今度三人で町に行って武器選びをしませんか?とケティが提案し、イノセンスとギーシュは賛成。

その後別れた。

ギーシュを追いかけるモンモランシーに声をかけ、誤解を解こうとしたのだが、聞く耳を持ってくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻るとルイズ、シエスタ、そしてフレイムを抱いたキュルケがいた。

何事かとイノセンスが聞くと、先程の昼食の時、フレイムが突然動かなくなってしまったらしく、何かの病気ではないか、専門家に見せるべきではないか、と話し合っていたらしい。

イノセンスはそれを聞き、イベントリから麻痺毒を治す<消痺結晶>を取りだし使ってみると、結晶が割れ、フレイムが動き出した。

三人は驚き、イノセンスに何故分かったか聞くと、人間には無害でも、モンスターには有害な食べ物もあるらしい。

今回はフレイムがそれを食べて麻痺毒にかかったのだろうと話すと、三人は納得した。

 

「でもまさか、海草で麻痺になるとは思わないわよ……」

 

キュルケの一言に三人は苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になり、辺りはすっかり暗くなっている。

ルイズ、イノセンス、結の三人は既に寝巻に着替えていた。

 

「ねぇ、イノセンス、結」

 

「ん?」

 

「どうしました?」

 

本を読んでいたイノセンスと、その横から覗き込んでいた結に、ルイズはこう言った。

 

「このベッド広いから、三人くらい余裕で寝れちゃうのよ……だから、今日は三人で一緒に寝てみない?」

 

何となく興味本意の誘いだったが、二人は互いに顔を見合わせたあと。

 

「じゃあ」

 

「一緒に」

 

と本を閉じて答えた。

寝ることが決まったので配置をどうするかでルイズと結が、イノセンスが真ん中が良いと言ったので、イノセンスは従い、真ん中に。

二人が挟むようにイノセンスに寄り添う形で、寝る事になった。

 

「……ルイズ、こりゃ寝心地最高だな」

 

「あら、それは何よりね」

 

「ふかふかで良い匂いがしますね~」

 

二人は大変満足そうで、ルイズはクスリと笑い、イノセンスに抱きつく、彼の身体はしなやかな筋肉がついており、堅い身体がとても逞しく、安心できた。

 

「イノセンス……これからもずっと一緒なのよね?」

 

「ああ、そりゃもちろんさ」

 

ルイズは信頼していたが、確認のためにイノセンスに聞く。

それを聞いたイノセンスは微笑み答えた。

 

「そうよね!貴方は私の使い魔なんだもの!」

 

彼の言葉を直接聞けて嬉しくなり、さらに甘えるルイズ。

結は最初からベッタリなので、変化はないが。

 

「安心できた……お休み……イノセンス……」

 

「ああ、お休み……」

 

優しげな彼の声に、ゆっくりと意識を落としていくルイズ。

彼女は深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日……ルイズと結の間に、イノセンスの姿はなかった。

 




本能の牙-extra-はこれにて終了です!皆様ご愛読ありがとうございました!……ってんな訳ねぇだろウェエエ!!(シューッゾン

気になる引きで次回に続きます……まあ、皆さんもうお分かりだとは思いますがね(笑)

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