ゼロの使い魔 本能の牙-extra-   作:新世界のおっさん

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戦場から帰還するルイズ達。

友であるウェールズの遺志を伝えるため、イノセンスはアンリエッタに会う。

その一方でアルビオンでは……。



愛と勇気と正義

最早トリステインが頼みの元アルビオンの平民や、幼かったり年老いすぎたりで魔法が使えない貴族達を乗せているイーグル号は、ルイズ達の誘導に従いトリスタニアに着いていた。

この事態は既にアンリエッタに連絡しており、魔法衛士隊の一隊である<マンティコア隊>が万全な態勢で出迎える。

と言うのも、普段は<マンティコア隊>は宮廷の警備、<ヒポグリフ隊>は国内の巡回が主な仕事であり、本来は<グリフォン隊>がこう言う事態に動くのだが、アンリエッタの決死(?)の直訴によりマザリーニ卿が動いてみたところ、ワルドは影武者だったことが判明する。

尋問の結果<レコン・キスタ>の一味であり、ワルドは完全に裏切り者だったとトリステインに知らしめる事になった。

それ故にグリフォン隊が再編まで動けず、今回はマンティコア隊が動いていたのだ。

 

「任務ご苦労である!……君がラ・ヴァリエール公爵様の三女、ルイズ・フランソワーズだろう……母君にはとてもお世話になったよ」

 

マンティコア隊隊長である、ド・ゼッサールはルイズにそう言ってニコリと笑う。

ルイズも母の過去は余り知らないが、とにかく彼女は顔が広い人物だとは知っているため、彼に礼をし、詳しい事情を話す。

ド・ゼッサールはあのワルドを捕らえたと聞き、かなり驚いた様子だったが。

 

「あの母あれば、この娘ありだな」

 

と後で妙に納得していた。

アルビオンの方々については、マンティコア隊に任せ、ルイズ達は王宮に向かった。

そして着いた先で待っていたのは、申し訳無さそうに苦笑いするアンリエッタと、静かに怒気のオーラを放つマザリーニ卿であった。

油断していたルイズは逃げられず彼に捕まり、説教を受けていたので、その間に裏切ったワルドの引き渡しと、あった事の報告をしておいた。

 

「……そうでしたか、ウェールズ様は……もうこの世にはいないのですね……」

 

とても悲しげな表情を浮かべるアンリエッタ。

イノセンスはルイズから受け持った証拠の手紙の返却をし、その後もう一枚手紙を出す。

 

「これは?」

 

「……ウェールズから個人的に俺に渡された、あんたへの手紙だ、アンリエッタ」

 

「えっ!?」

 

手紙を受け取り、中を見るアンリエッタはゆっくりと口に出し読み始めた。

 

「『アン、君がこれを見ている頃には、私は死んでいるだろう……君の気持ちは手紙で見せてもらった、だがすまない……それを受けるわけにはいかない、それは私が王族だからと言うわけではない……君を愛しているから、君に負担をかけたくないから、私は戦いに赴くのだ……だが君は私が死ねば、苦しむだろう、君はそう言う娘だから……だからこの手紙を残した……生きてくれアン、私の分まで長く……そして……私の事は忘れ、幸せを得てほしい……君には……支えてくれる何かが必要……だ……』」

 

ウェールズはずっとアンリエッタを気遣っていた。

それが文章から滲み出ており、アンリエッタの瞳から次第に涙が溢れ出す。

 

「『グスッ……負けないで……アン……現実は辛いことの連続……だ……でも……グスッ……それに……挫けないで……前を……向いて……ッ!』」

 

ここで、アンリエッタは驚きイノセンスを見る。

イノセンスはそれを見て、最後の一言を察し、彼女に向けて告げる……ウェールズの最後の言伝てを。

 

「『強く生きてくれ、アン』」

 

この言葉にアンリエッタは限界を迎え泣き崩れる。

 

「ウェールズ様ァ……うぅ……!私は、私は、こんなに弱い女です……貴方の期待に答えられるような……強くなれる女ではないのです……!」

 

彼女は本音を漏らす、自らの弱さを自覚して、変わろうとして、でも自分ではどうにもできなくて……今まではウェールズがいたから王族としての顔を保つ事が出来た、しかし彼を失った以上それすら出来るか分からなかった。

少なくとも、この場にいたのは王女アンリエッタでは無く、一人の少女アンリエッタであった。

 

「……」

 

その様子を黙って見ていたイノセンスの、ルーンが光り出す。

それに併せ彼は本能の牙を発動する。

瞳が緑色に輝き、身体に優しい風を纏う。

そして、アンリエッタに寄り添うイノセンス。

風が二人を包み始める。

 

「アンリエッタ、それは違う……何故決めつける」

 

「だって!私にはもう何もありません!ウェールズ様や貴方の様な、自ら死に立ち向かうような勇気も!守りたいと願う正義も!……愛するべき人もッ!何もないではありませんかぁ……!!」

 

彼女の中では、ウェールズの死は三つある柱の、残っていた最後の一本が無くなった様なもので、完全に支えを失った彼女は崩れる他はない。

しかし、それはあくまで彼女一個人の見方。

イノセンスはそうは思わなかった。

 

「何もない?そんな訳ないだろう……勇気は出そうとして出るもんじゃない、勝手に出ちまうもんなんだ、誰の中にでもそれはある……正義も持っているが、お前が理解してないだけだ、お前はお前なりにこの国を憂いて悩んでいたろ?それが何よりの証拠だろうが」

 

イノセンスは彼女に語りかけ諭す、今の彼女は見ていられない、こんな状態だとウェールズが浮かばれない、そして自分も納得出来ない。

一方でアンリエッタはイノセンスの言葉に、少しずつ落ち着いて、自分の中を見つめ直していく、しかし彼女の中で一番大きな柱が今無い以上、アンリエッタにとっては結局解決とはなっていなかった。

 

「でも……ウェールズ様は、もう戻りません……もういないんです……」

 

「……いるさ……」

 

「何を言ってるんですか!」

 

「だからいるんだって……ここにさ」

 

そう言ってイノセンスはアンリエッタを指差したあと、自らの胸に親指でトントンと突く。

 

「えっ?」

 

イノセンスの答えに呆気にとられるアンリエッタ。

その様子を見て彼は苦笑する。

 

「あいつは確かに死んだ、でもあいつの遺志は俺達が受け継いでる、そうである限りあいつが本当にいなくなったとは言えないんだ……それとも、あいつの遺志を無駄にしようと考えてたのか?」

 

「ッ!そ、そんなはずないでしょう!!」

 

アンリエッタは彼の言葉を強く否定する。

イノセンスは笑う。

 

「じゃあ強くならなきゃな、それがあいつの遺志だぜ?」

 

「あ……」

 

そこまで言われてアンリエッタは、口を抑える。

彼の言葉を否定するなら、自分は強くならなくてはならない。

イノセンスはしてやったりと言った顔で見ており、アンリエッタはため息を吐く。

 

「貴方と言う人は……」

 

「お前が色々考えまくったあげく、大事な事を疎かにするのはアイツも理解してたぜ、知らぬは本人ばかりか……」

 

「ああ、もうやめてください……」

 

アンリエッタは顔を手で覆う、イノセンスの言葉を聞き、今更になって先程の自分を思いだし、しかもそれをウェールズにも晒していたのだと、恥ずかしく感じていた。

 

「俺はウェールズにお前を頼まれてる、だからこれからは俺がお前を守るよ……まあ、ルイズも一緒だが」

 

そう言ってイノセンスは笑う。

アンリエッタは頭を振った後、彼に向き直る。

 

「それがウェールズ様の遺志ならば、守られてあげましょう」

 

「まあ、可愛くないお姫様」

 

そう言ってそっぽを向く彼女は、何だか親友のルイズに似ていたように感じた。

そのままアンリエッタは手の甲を差し出し、イノセンスはそれを察して、膝まずき手を取る。

 

「では、頼みましたよ、私の騎士様」

 

「姫の仰せのままに」

 

彼女の言葉に答え、手の甲にキスをする。

二人を包む風は、優しく暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルビオン王国は態勢を立て直したレコン・キスタと激突し、敗北、結果新生アルビオン帝国として生まれ変わった。

皇帝を名乗り、虚無の使い手を自称する、<オリヴァー・クロムウェル>は城内に転がる遺体達に謎の指輪を向ける。

すると遺体達が偽りの命を得て、彼に忠誠を誓う。

 

「クックックッ……やはり素晴らしいなこの<アンドバリの指輪>は……おっとだが先に命を与えるべきはウェールズだな」

 

クロムウェルは遺体安置所に、丁寧に入っていたウェールズを見つけ出し、アンドバリの指輪を使う。

すると、ウェールズも他の遺体同様に起き上がる、彼は目に光がなかったが、浮かべる微笑みはまさしく彼らしかった。

 

「御呼びか?皇帝閣下」

 

「……流石に殿下とは呼ばぬか、さすがは王族だな、お前はこれから私の指示にしたがってもらおう」

 

「はっ!心得ました!」

 

そう言って頭を下げるウェールズ。

それを見たクロムウェルは、ニヤリと笑った。

 




戦いは再び終わりましたが、またまた一難ありそうです。

アンドバリの指輪、邪悪にして恐ろしいマジックアイテムですね……洗脳~ブレインコントロール~から、死者蘇生まで兼用ですから(オイ,デュエルシロヨ

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