ただ、通貨が違うので膨大なコルは使い道がないですね(笑)
あれから、ご主人様となったルイズに連れられて彼女の部屋までやって来たイノセンスは彼女から使い魔について説明を受け始めた。
「良い?あんたは今日から私の使い魔よ!そして使い魔には重要な役割があるわ、覚えておきなさい!」
「わ、分かったよご主人……で役割ってのは?」
ルイズは叱るように言ってくるので、イノセンスはたじたじになりながら質問する。
「まず一つ目、使い魔は主人の目となり耳となる力を与えられるわ」
「ふむ」
ルイズの言いたいのは、恐らく視覚や聴覚の同期をしたり出来るようになると言う事なのだろうが。
「(新しいスキル習得も無し、アイテムイベントリにも何も無しとなると……このルーンだと思うんだが、使い方が分からん……これは保留だな)」
と言う事でこれは後々と言うことに。
「二つ目に、主人の欲するものを持ってくることよ……例えば秘薬とかね」
「(秘薬か……ポーションなら持ってるが……それだけだな、となると新しいスキル身に付けないとな)」
ルイズの言葉に新スキル習得を決意する、イノセンス。
「最後に、主人を守る事よ!これは何があっても絶対よ!」
「なるほど、分かったよご主人」
最後は一番分かりやすかったので、イノセンスも安心して聞けた。
「素直で大変結構だわ、もっと抵抗するかと思ったけど、これなら明日からも全く問題ないわね!」
ルイズはそう言ってクローゼットの中からネグリジェ、衣装箪笥から新しい下着を出す。
「さ、初仕事よ」
「は?」
「これ脱がせたあとこのネグリジェを着せるのよ、さあ」
イノセンスは彼女の神経を一瞬疑ったが、自分に拒否権がないのは分かっていたので仕方なく彼女の隣へ行く。
「? 何で隣に来るのよ?」
「こうしないとご主人のメインメニューが見えないからですよ」
イノセンスはルイズの右手を取ると、彼女から見て右の空間をスライドさせる。
すると何とルイズのメインメニューが現れた。
「ええっ!?」
驚愕するルイズを尻目に、メインメニューから装備画面に移行、装備を外しその後実体化させる。
「な、何がどうなってんの!?」
制服はクローゼットにかけて、洗濯物はかごの中、今度はネグリジェと新しい下着をイベントリに追加、するとネグリジェと下着が消える。
「ちょっ!」
そのまま装備画面でネグリジェと下着を装備する。
着替えは瞬く間に終った。
イノセンスはルイズのメニューを閉じて、壁にもたれる。
「はい、終わり」
「あんた!今の何よ!私に何したの!?」
「? 常識だろ?」
「んなわけないでしょ!」
ルイズの問いにさも当然の様に返すイノセンス。
それにルイズの突っ込みが入った。
「ああ、私がこんなワケわかんない使い魔を召喚しちゃうなんて……」
「……何かすまなかったな……」
落ち込むルイズにイノセンスはとりあえず謝っておく。
「もう、良いわ、疲れた、寝る!」
ベッドに潜り込み現実逃避するルイズ。
しかし、しばらくして頭だけ出してこう言った。
「……明日それの洗濯と、私を起こすの……やってね!」
「り、了解……」
イノセンスが返事をすると、ルイズは布団に潜り込みなにも言わなくなり、だんだんと寝息が聞こえてきた。
「……よし、寝たな」
イノセンスは、こっそり外に出た。
トリステイン魔法学院は火、風、水、寮、土の五つの塔が、中央の本塔を囲むように五角形の形で建っており、ルイズ達女子生徒の寝泊まりする女子寮は本塔から見て北に位置する火の塔だ。
イノセンスは、火の塔と隣にある風の塔の間にあるヴェストリの広場の端でメインメニューを操作し、イベントリから結のデータを選び実体化させる。
すると水色の宝石出てきて、光を放ち変化する。
そこに現れたのは、SAOがクリアされた時に見た結の姿であった。
「パパ?」
「良かった……結……」
「パパァ!」
抱きついてきた結を抱き締めるイノセンス。
優しく頭を撫で、互いに存在している事を確かめる。
「つい最近まで一緒の筈なのに、何か感慨深いよ」
「私もです、パパ」
二人は身体を離し、手を繋ぎながら話しだす。
「結はこの世界がどんな場所か分かるか?」
「そうですね……恐らくですが、ここはVRMMOの世界では無いですね」
イノセンスの質問に、結は冷静に答える。
「やっぱり違うのか……最初はこれも何かのVRMMOだと思って行動していたんだが、どうにもご主人の反応からして違うなとは思い始めたんだが……」
ルイズとの接触により、何と無くわかりはじめてはいたが、イノセンスは確信に至れていなかった。
結が続ける。
「パパは何らかの手段によって、現実の身体とリンクが切れてしまい独立した存在になっていると考えられます……今ごろ本当の身体がどうなっているのかは、推測の域を出ない事しか浮かびません……ごめんなさい、パパ」
「気にするな、結が謝る事じゃない……多分俺の運が悪かっただけだ」
結は申し訳なさそうに謝り、イノセンスはそれに対して笑って頭を撫でる。
「何らかの手段ってのは多分この世界の魔法って奴らしいからな……寧ろ何か運命を感じるしこっちで頑張って行こう、結と一緒にね」
「えへへ……パパァ……」
気持ち良さそうにイノセンスに撫でられる結。
「んじゃ、僅かだが分かった情報を与えるから、今後生活する上でそこを考慮してくれ」
「はい、分かりました!」
二人は仲良くプチ会議を始めた。
夜が明けて、朝になる。
イノセンスは結と共にルイズの部屋に戻ると、洗濯物を持つ。
「そういや、洗濯スキルはVRMMOじゃ存在しないよな?」
「はい、勝手に綺麗になりますから」
「じゃあ、完全に手洗いだな」
結の返答にイノセンスは苦笑し、再び外に出る。
ヴェストリの広場にある水場を探しに来ると、メイドの少女が歩
いているのが見えた。
ちょうど良いと思い、イノセンスは声を掛ける。
「すみません、洗い物が出来る水場を知りませんか?」
「?」
振り返った少女は黒髪ショートヘアの可愛らしいメイドだった。
彼女はイノセンスの言葉と持っている物を見て、何者か理解する。
「洗い場でしたら、私も今から向かうところですよ!一緒に行きましょう!」
メイドはそう言って微笑む。
「なら、ありがたくご一緒させてもらうよ……俺はイノセンス、こっちは結だ」
「よろしくお願いします!」
「はい、こちらこそ!私はシエスタです!」
イノセンスは彼女の誘いに乗っかる事にした。
「へぇ~、本当に別の世界なんて物があるんですね!ビックリです!」
シエスタから、出自を聞かれたのでここまでの経緯を話すとかなり驚かれた。
やはり、この世界が別の世界なのだとイノセンスと結は改めて理解した。
「まあ、それはお互い様さ……俺もいきなり召喚された時は驚きの連続だったからな」
「パパは良く巻き込まれますよね、神がかりなレベルで」
イノセンスは洗濯しながらあの時の事に思いを馳せる。
結はそんな父を同情する。
「それにお二人の血の繋がりは無いけど親子って言う特殊な関係は、何かロマンがありますよね!私は良いと思います!」
「シエスタさん……貴女は天使です」
シエスタはイノセンスと結の関係を全面的に支持しており、結はそれに感動していた。
「これからも、大変でしょうが……お二人とも頑張ってください!応援してますので!それでは、私はこのあと他にも仕事があるので……ごきげんよう!」
「おう、ありがとな!今度何か礼するよ!」
「また会いましょう!」
シエスタは二人を激励し、去っていった。
「良い人でしたね」
「ああ、何か一緒にいると元気になるな」
二人はシエスタを見送った後、互いに笑いあった。
結との再会とシエスタとの出会いでした。
不思議な縁でこの世界に来たイノセンスには、一般人の彼女はとても癒しだと思います。