ゼロの使い魔 本能の牙-extra-   作:新世界のおっさん

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アルビオン皇太子ウェールズ登場。

正統派イケメンは心もイケメンです。

本当……惜しい人を(ry


風を友とし

「全く……どうしてこうなるのよ……」

 

ルイズは船倉の中でそう呟く。

何故彼女が船倉の中にいるかと言うと、あの時無理を押して出港した飛空船<マリー・ガラント号>だったが、途中で燃料である風石が足りなくなり、致し方なくワルドがスクエアの風で燃料の代わりをしていた……そこへタイミング悪く空賊に襲われてしまう、ワルドは力を使いすぎており、戦力にならず、ルイズ一人ではどうにもならない状況化だったため、大人しく捕まるより他はなかった……。

そして先程見張りに対して。

 

「トリステイン大使としての扱いを要求するわ!」

 

とおもわず高らかに宣言してしまい、お頭に報告してくるからそこで待っていろと言われた。

今にして思えばかなり迂闊だったかもしれないと、ルイズは思った、しかし状況は止まる訳ではない、きっと今に賊の前に引き出されるだろう。

 

「……イノセンス……」

 

昨日、地上に残った彼は今頃どうしているのか、彼女には分からない、だがきっと助けに来てくれるはず、ルイズはそう信じていた。

しばらくして、見張りが戻ってきた。

 

「ついてきな、頭が会うそうだ……」

 

彼は武器をルイズに向けながら、彼女を外に出す。

反対側の船倉からは、ワルドが出てきた。

 

「ルイズ、大丈夫だったかい?何もされてはいないかい?」

 

「ええ、今のところは何も……ワルドも無事で良かった」

 

心配してくるワルドが、無事だった事にルイズは安堵した。

ワルドもそれは同様だったようで、安心した顔をしている。

そのまま二人は艦長室に連れていかれた。

中には無精ひげに左目に眼帯をした、ぼさぼさの長い髪の男がいた……この男こそ空賊の頭領だ。

 

「おい、お前ら、頭の前だ……挨拶しろ」

 

見張りの言葉に、ルイズは頭領を睨むばかりだったが、頭領はにやりと笑い話し出す。

 

「気の強い女は好きだぜ……さて、名乗りな」

 

「大使としての扱いを要求するわ……そうじゃなかったら、一言だってあんたたちになんか口を利く者ですか」

 

頭領に対して強気な姿勢を曲げないルイズ。

 

「王党派と言ったな?」

 

「ええ、言ったわ」

 

「一体なにしにあんなとこへ行くんだ? あいつらは明日にでも消えちまうよ、全滅さ」

 

さも軽々しく言う頭領に、ルイズはカチンと来た。

まるで、これから会うウェールズ皇太子を、アルビオンの人々を馬鹿にされた気がしたからだ。

 

「あんたたちに言うことじゃないわ!」

 

彼女の反応に、頭領は笑うような口調で言う。

 

「貴族派につく気はないかね? あいつらは、メイジを欲しがっている……たんまり礼金も弾んでくれるだろうさ」

 

「死んでもイヤよ!」

 

ルイズは震えながら頭領の男を見つめる。

怖い、怖いが誇りに掛けて引くわけにはいかない……まっすぐに頭領の男を睨みつけた。

 

「……もう一度言う……貴族派につく気はないか?」

 

頭領が一段声のトーンを落としてルイズたちに尋ねる。

 

「お断りよ!」

 

「……ククッ……ハハハハハハッ!!!」

 

ルイズはきっぱりと否定の言葉を口にする。

すると突然頭領は笑いだした。

部屋中を支配するぐらい大声で笑った。

 

「トリステインの貴族は、気ばかり強くてどうしようもないな…… まぁ、どこぞの国の恥知らずどもより何百倍もマシだがね」

 

彼はそう言うと、再び笑い出して立ち上がる。

ルイズはあまりの豹変ぶりに困惑し、ワルドは察した様な顔をした。

 

「失礼した……名乗らせて頂く……アルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官、もっとも本艦<イーグル>号しか存在しない無力な艦隊だが……」

 

言いながらカツラと眼帯を取り付け髭を剥ぎ堂々と名乗った。

 

「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・デューダーだ」

 

それを見たルイズはポカーンと口をあけて呆然としている、ワルドは興味深そうに皇太子を見据えていた。

 

「その顔だと何故空賊風情に身をやつしているのか?というところか……敵の補給線を断つのは戦いの基本だ……それに奪った物資がこちらの補給物資にもなる……空賊を装ったゲリラ活動というところかな……まだ信じられないかな?これが証拠だ、我が王家に伝わる風のルビーだ」

 

依然として呆けているルイズに、説明するように笑いながらウェールズが風のルビーを見せた。

当のルイズはまだ呆けたように突っ立っている。

 

「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長ワルド子爵です……アンリエッタ姫殿下より密書を言付かって参りました」

 

こんな所で目的の人物に会えると思っておらず、呆然としていたルイズに変わりワルドがそう言った。

 

「そしてこちらが、姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢にございます」

 

「はっ!こ、これが姫様より預かった手紙と水のルビーです!」

 

ようやく我に返ったルイズがウェールズに手紙と水のルビーを手渡す。

ウェールズがそれを受け取ると、自身が身につけていた風のルビーを近付け虹色の光が部屋の中に振りまかれた。

 

「うわぁ……綺麗……!」

 

「ああ、本当だね……」

 

それを見たルイズは、その美しさに見いり、感動する。

そんなルイズを見たワルドは彼女の肩を抱こうとした。

その時、突然船内が震動し、揺れた。

 

「ッ! 何事だ!?」

 

ウェールズが叫ぶと船員が走り込んできた。

 

「申し上げます!貴族派の空戦艦に発見され、攻撃を受けている模様!」

 

「な、なんですって!?」

 

「くっ!こんな時に!」

 

「急ぎましょう!この艦を墜とす訳には行きません!」

 

急いで飛び出す、ルイズ、ウェールズ、ワルドの三人。

甲板に出た時には、イーグル号の上に敵艦の姿が見えた。

 

「! 不味い!この位置取りでは、逃げられない……戦いになっても敗北はほぼ確実です!」

 

「……すまない、君達を巻き込んでしまったようだ……」

 

「……ウェールズ皇太子……大丈夫です……まだ謝る必要はありません……」

 

ウェールズは本当に申し訳無さそうに、項垂れる。

しかし、ルイズは真っ直ぐ敵艦を見つめながら、そう返した。

 

「ど、どういう事だ、ミス・ヴァリエール」

 

「……ルイズ、まさかイノセンス君に期待しているのかい?確かに彼は凄い男だ……だがあの風竜を飛ばしても、流石にあの人数を乗せて追い付けないだろうし、期待はできない!」

 

「……<イノセンス>?それは一体……ッ!?」

 

ワルドが語る人物にウェールズは疑問を持ち、ルイズを見て、そして驚く。

彼女の鳶色の瞳が青く輝いていたのだから。

 

「お願い……助けに来て……イノセンス!!」

 

彼女がその名を叫んだ時、敵艦に巨大な白き竜がぶつかった。

 

「なぁっ!?何だあの竜は!あんな物は見たことがない!」

 

「……ありえるのか?そんな事が……」

 

驚愕している二人の視線の先の竜の背中から、人が飛び出した。

それは紛れもなくイノセンスであった。

 

「イノセンス!!」

 

それを確認した途端に、瞳の輝きが消え、元のルイズに戻っていた。

一方でイノセンスは敵艦に乗り込み戦闘を開始していた。

 

『ったく、敵さんも運がないなぁ……娘っ子の乗ってる船を襲っちまったんだから』

 

「貴族派だったら倒すまでだ……来い」

 

かかり来る兵士を総て紙一重で避けながら、斬り捨てるイノセンス。

そこには微塵も容赦はない。

自らの信念の為、主のルイズを守るため、剣を振るう。

 

「貴様ぁ!王党派の一味か!ならば殺すまでよ!」

 

この艦の責任者らしきメイジはメインブリッジの上から、大々的な魔法の詠唱に入る。

しかし、それはイノセンスにとっては格好の獲物だ。

甲板を蹴り、高く跳躍し、ソードスキル<絶>を発動、残像を残しながら高速で接近し、一呼吸のうちに四連続斬りつける。

 

「うぐはぁ……ッ!!」

 

『お疲れさん、詠唱の続きは地獄でやってな』

 

倒れ伏すメイジに、デルフリンガーは軽口を叩く。

イノセンスはブリッジから飛び下り、見据え、デルフリンガーを鞘に納める。

 

「スゥー……ハァー……」

 

呼吸を調え、柄を握り、より体勢を前傾にする。

そして、目を見開き、足を踏みしめ、デルフリンガーを高速で抜き放ち、直ぐに鞘に納める。

 

「……行こう、ここに用は無くなった……」

 

そう言って、イノセンスがブリッジに背を向けると、真っ二つになり、その後爆発した。

艦が操舵を失い、エンジンが暴走を始め、貴族派が慌てふためく中、颯爽とイノセンスはクリスタライト・ドラゴンに戻り、ルイズ達のいるイーグル号へ向かう。

物のついでにクリスタライト・ドラゴンの尻尾で、敵艦の船体を叩き、イーグル号への二次被害をしっかり避けるおまけ付きで。

敵艦は航行不能のまま、離れていき爆散した。

 

「私達が出る幕なかったわね!流石イノセンス!」

 

「今僕は本当に自分の運の良さを噛み締めてるよ、イノセンスが決闘の時本気だったら、間違いなく僕は気がついたら死んでたよ」

 

興奮しながら喜ぶキュルケ、対照的にギーシュはため息をついていた。

ケティは先程の出来事を鼻歌混じりに羊皮紙に記しており、タバサは黙ってイノセンスの隣に座っている、結は立ち上がりルイズに手を振り叫んでいる。

 

「ルイズさーん!!ご無事で何よりでーす!!」

 

「……す、凄い!彼が先程言っていたイノセンスなのかい!?」

 

ウェールズの質問に、ルイズは微笑み、こう返す。

 

「はい、私の使い魔、イノセンスです!」

 

「! 彼が使い魔だと?しかし彼は人間だが……?」

 

ルイズの答えにウェールズが驚くと、ワルドが彼に伝える。

 

「実は、彼こそあの<ガンダールヴ>なのです」

 

「何と!<ガンダールヴ>!」

 

ウェールズが竜の上に座る彼に視線を向けた時、目が合う。

運命を感じた、かつて初めてアンリエッタと出会った時のような、そんな強い何かを、彼に感じたのだ。

 

「そうか、かつてあらゆる武器を扱い、主を守ったと言う……伝説の使い魔……それが彼なんだな!」

 

イノセンス達がイーグル号に降り立つと、ルイズは真っ先に駆け出し、イノセンスに抱きついた。

 

「イノセンス!イノセンス!」

 

「おうおう、落ち着け落ち着け……これじゃ挨拶も出来んだろうが……」

 

落ち着きがないルイズを抱き止め、頭をポンポンと軽く叩いたあと、彼女を甲板に降ろし、ウェールズへと向き直る。

 

「初めまして、イノセンスと申します」

 

「ウェールズだ……ようこそ、アルビオンへ……イノセンス」

 

二人は握手し、互いを見合う。

二人の周りを風が駆け、出会いを祝福しているようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、イーグル号はマリー・ガラント号を引き連れながらアルビオンの城、<ニューカッスル>の隠れ港に船をつけ、硫黄などの物資を大量に運び込んだ。

その間にアンリエッタからの手紙をウェールズは読み、結婚する事に驚きはしたが、取り乱す様な事はなかった。

そして、目的の手紙はニューカッスルにあるらしく、ルイズ達はウェールズに続き、ニューカッスルへと向かった。

城内に着くと、王族や王党派貴族達が集まっており、ウェールズの元へ集まり、色々と話をしていた。

ルイズ達は、部屋に案内され、衣服などを調える。

それからルイズとイノセンス、ワルドはウェールズに会いに向かった。

彼は既に自室にいて、三人を待っていた。

ウェールズは椅子に腰掛けると、机の引き出しから宝石が散りばめられた小箱を取り出した。

首からネックレスを外し、その先についていた鍵で小箱を開ける。

蓋の内側には、アンリエッタの肖像が描かれていた。

 

「宝箱でね」

 

ルイズがその箱を覗き込んでいるのに気づいたウェールズが、はにかんで言った。

そして、中から古ぼけたボロボロの手紙を取りだす。

それを一読してから、ルイズに渡した。

 

「これが姫からいただいた手紙だ……この通り、確かに返却したぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「明日の朝、非戦闘員を乗せたイーグル号がここを発つ……それに乗ってトリステインに帰りなさい」

 

ルイズがその手紙を食い入るように見ていたが、やがて意を決したかのように口を開いた。

 

「あの……殿下……王軍に勝ち目はないのでしょうか?」

 

「我が軍は三百……それに対する敵軍は五万……勝つ可能性など万に一つもありはしないさ……我々にできる事は勇敢な死に様を連中に見せつけるだけのことだ」

 

ルイズの質問に、ウェールズは遠い眼をしながら答える。

 

「殿下の討ち死にされる様も、その中には含まれるのですか?」

 

「当然だ、私は真っ先に死ぬつもりだよ」

 

彼は笑ってそう言い切った。

そんな彼をイノセンスは黙って見ていた。

ルイズはウェールズに深々と頭を下げ、続ける。

 

「殿下……失礼をお許し下さい……恐れながら、申し上げたい事がございます」

 

「なんなりと、申してみよ」

 

「……この任務をわたくしに仰せつけられた際の姫様のご様子……そして先ほどの小箱の内蓋の姫様の肖像 、手紙に接吻なさった際の殿下の物憂げなお顔といい…もしや、姫様とウェールズ皇太子殿下は………」

 

とても言いづらそうなルイズがそこまで言って、ウェールズが聞く。

 

「恋仲であったと言いたいのかね?」

 

「そう想像いたしました……とんだご無礼を、お許しください……してみるとこの手紙の内容とやらは……」

 

ウェールズはフフッと微笑み、ルイズに答える。

 

「恋文だよ……君が想像しているとおりにね……彼女が始祖ブリミルの名において永久の愛を私に誓っているものだ……この手紙が白日の下に晒されれば、ゲルマニアの皇帝は重婚の罪を犯した姫との結婚を破棄し、同盟は成り立たなくなり、一国で貴族派に立ち向かわなくてはなくなる」

 

「殿下!亡命なされませ!トリステインに亡命なされませ!」

 

ワルドがよってきて叫ぶルイズの肩に手を当てるがそれでも収まらない。

 

「お願いであります!わたし達と共にトリステインへいらしてください!」

 

「それは出来ん……」

 

「……姫様の願いだとしてでもですか?姫様のご気性からしてご自分の愛した人を見捨てるとは思えませぬ! おっしゃってくださいな殿下!姫様は、たぶん手紙の末尾にあなたに亡命をお勧めになっているはずですわ!」

 

「そのような事は一行たりとも書かれていない」

 

「殿下!」

 

ルイズが詰め寄るが、ウェールズは難くなに否定する。

 

「私は王族だ……嘘はつかぬ……姫と私の名誉に誓って言うが、本当にそのような文句はない」

 

そう言うウェールズは苦しそうだった。

その口ぶりから、ルイズの指摘が当たっていたことがうかがえた。

それを見てルイズは肩を落とす。

ウェールズが絶対に決意を曲げないことがわかった。

自分が亡命すれば、反乱軍にトリステインを攻撃する絶好の口実を与える、そう考えてのことだろう。

そして、アンリエッタが国事よりも私情を優先させる女と見られるのを避けようとしているのだ。

 

「ラ・ヴァリエール嬢、君は正直ないい子だ……だが忠告しよう……そのように正直では大使は務まらぬよ……しっかりなさい」

 

寂しそうに俯くルイズに、ウェールズは微笑んだ。

他人に安心を与えるような魅力的な笑みだった。

 

「しかしながら、亡国への大使としては適任かもしれぬ……明日に滅ぶ政府は、誰よりも正直だ……なぜなら、名誉以外に守るものが他には無いのだから」

 

ウェールズはルイズの肩を叩きながら続ける。

 

「そろそろ、パーティーの時間だ……君達は我らの王国が迎える最後の客だ……是非とも出席してほしい」

 

「……はい」

 

「ほら、行くぞ」

 

ルイズとイノセンスは部屋の外に出る。

 

ワルドは居残って、ウェールズに一礼した。

 

「まだ何か御用がおありかな、ワルド子爵?」

 

「おそれながら、殿下にお願いしたい議がございます」

 

「何かな?私に出来ることであれば、なんなりとうかがおう」

 

ワルドはウェールズに、自分の願いを語った。

ウェールズはにっこりと笑った。

 

「なんともめでたい話ではないか……喜んでそのお役目を引き受けよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になり、王族主催の豪華絢爛なパーティーの中、イノセンスにウェールズが話しかけてきた。

 

「やあ、イノセンス、君を探していたよ!」

 

「ウェールズ皇太子殿下が、わざわざ俺を?」

 

「ああ、君と是非語りたかった……それと私の事は呼び捨てで構わない」

 

そう言ってウェールズは微笑む。

 

「なら、ウェールズ、ここで話せることか?」

 

「いや、あちらで話そう、これは余り他の人間に聞かれたくはない話題だからな」

 

イノセンスはウェールズの言葉に、立ち上がり、二人で端の方にあるベランダへ出た。

 

「……君が単騎で艦を墜とした時、私は感銘を受けた……!……君は凄いやつだな、イノセンス」

 

「……大事な物を守るためなら、自分が思っている以上に力が出る物さ、あんただって以前はそうだったんじゃないか?」

 

ウェールズの言葉に、イノセンスはそう返す。

それは、直接口には出していないが、アンリエッタとの事を言っていた。

それを聞き、ウェールズは頭を抑え苦笑する。

 

「手厳しいな……だがそうだな、確かにそうだったと思う……彼女の為なら私は何だって出来る……そんな気がしていたよ」

 

そう言って、部屋でしたような遠い目になるウェールズ。

既に彼の覚悟が決まっているのは知っていた、だがイノセンスは伝えたかったので口に出す。

 

「……正直に言うと、俺もあんたには死んでほしいとは思わない、俺は彼女の……あんたへの想いを知ってるからな……だが、考えは変わらないんだよな?」

 

「……すまない、だがこれは決めたことだ……僕も男なら、自分の言った事は曲げたくない」

 

彼がアンリエッタを愛しているのは、昔と変わらない。

だからこそ、彼女の国トリステインとこのアルビオンの名誉を守るために、彼は死ぬのだ。

だがこれでは、互いの国の体裁は守れても、二人の心は救われない。

ウェールズは覚悟が出来ていても、未練は完全に消せていない、それでは無念の内に死ぬ事になる。

アンリエッタはこのまま何もせずウェールズが死ねば、確実に長きにわたり苦しみ続けるだろう……下手を打てば後を追いかねない。

それだけはイノセンスも許しがたかった。

 

「そうか……なら俺が出来ることはないか?」

 

「……ほう?」

 

「ウェールズが真に後腐れないように、俺が背負ってやる」

 

そう言ってイノセンスは笑う。

この言葉はウェールズにとってとても嬉しい言葉だった。

 

「……君からそう言って貰えるとは……分かった、ならば当初の予定通り、これらを君に託そう」

 

ウェールズはそう言いながら、イノセンスに、手紙と風のルビーを渡す。

 

「準備万端だな、おい」

「フフッ、まあ、最後なのだしな……この手紙には彼女への私の最後のメッセージとして、書きたかったことを総て書き綴ってある……この風のルビーは君たちの帰りまでのお守りと、私の形見として……君が持っていて欲しい」

 

ウェールズはイノセンスの肩を抱き、続ける。

「そして、これは彼女に対する言伝てだ……<強く生きてくれ、アン>と……」

 

それを聞き、イノセンスはウェールズを見てニヤリとする。

やはり、何か自分と近しい物をウェールズに感じていたイノセンスは、言伝てが以前彼女に自分が言った事だったのに、思わず笑っていた。

 

「? 何が可笑しいんだい?」

 

「いや、やっばり考える事が似てるなぁと……」

 

「……プフッ……まさか同じ事を彼女に言ったのかい?それは面白い、思った以上に私達は近い人間なのかも知れないな!」

 

「ああ、そうだな!」

 

二人は笑いあった、共に同じ女性を心から案じていた二人は、語らいあううちに、短い間で深い友情で結ばれたのだ。

互いの内面が似ていたのも、それを後押ししていた。

 

「やはり、最初に君と目が合った時……感じたものに間違いはなかった……これからのアンの事、君になら託せる……助けてやってくれ、君の主人共々ね」

 

「あんたの直々の頼みだ、元よりそのつもりだったが……これはより気張らなきゃダメだな」

 

握手を交わし、より互いの友情を理解し合う。

風は二人に優しく吹き注いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウェールズと別れ、部屋に戻ってみると、ルイズが物憂げな表情で待っていた。

 

「ルイズ?」

 

「あっ、イノセンス……話があるの」

 

「……分かった、聞こうか」

 

彼女の様子から、かなり重要な案件であることは察する事が出来た。

ルイズはゆっくりと口を開きはじめた。

 

「私……明日、結婚式をあげる事になったのよ」

 

「! なるほど……ワルドだな?」

 

突然の話題に、珍しく驚いたイノセンスだが、すぐに察した。

 

「ええ……どう思う?」

 

「そうだな……やっぱり結婚って重要だからな、軽々しく決めたらダメだろうな」

 

「……やっぱりそうよね?」

 

イノセンス返答に、ルイズは再度確認する。

彼は頷いた後、言葉を続けた。

 

「特に最初はな……やっぱり後悔しない選択が一番だ」

 

「……後悔しない?」

 

「ああ」

 

ルイズの頭に手を置き、イノセンス語る。

 

「自分にとって何が最善かって、後から悩んだり、悔やんだりしないのがそれだって、俺は思う……だから、ルイズもそう言う選択をすれば良い」

 

「最善……」

 

ルイズにとって、ワルドは許嫁で、憧れで、好きか嫌いかなら間違いなく好きと言えると思う。

だが結婚に踏み切れないのは、もし自分が結婚して、イノセンスとの絆が損なわれたら……そう考えてしまうからだ。

ルイズは不安げに聞く。

 

「もし、私が結婚しても……イノセンスは私の側にいてくれる?」

 

「……はぁ……ルイズ、そんな事悩んでたのか?」

 

「……うん」

 

彼女の問いかけに、イノセンスは呆れた様にため息を吐く。

 

「あのな、俺はお前の使い魔だ……主を守り、助けるのが仕事なんだろうが……それを主人であるお前が否定してどうするんだよ……」

 

「あっ……」

 

簡単な話だった。

イノセンスはぶれない……守ると決めた以上、ルイズの立場がどう変わってもついてきてくれる。

彼は暗にそう言っていた。

ルイズは嬉しかった、とにかく彼の口からそれが聞けて、嬉しかった。

そして、彼女の心は決まった。

 

「なら、私決めた……ワルドと結婚するわ」

 

「……そうか、ルイズが決めたなら、俺は反対しない」

 

二人は見つめあい、微笑む。

主従の絆は、いつまでも健在なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、結婚式の準備が慌ただしくなされているのを、ルイズ以外のメンバーは眺めていた。

 

「まさか、ルイズが結婚なんて……先越された気分ね……イノセンス!私達もこのまま式……」

 

「自重」

 

ルイズの結婚に焦ったキュルケは、イノセンスにダイブしようとしたが、タバサに無呼吸ヘヴィスウィングで一発ホームランされた。

 

「主であるルイズさんの事も、しっかり記入しませんと」

 

「ケティさん、その台詞まわしは誤用だと思います」

 

ケティは今回の事を一生懸命書き込んでおり、結はそれに対して添削や意見をしている。

 

「しかし、良いのかい?彼女が子爵と結婚するの?」

 

『あの髭面にやるのは、俺は反対だぜ?相棒』

 

「良いんだ、ルイズが自分で決定したことだし……それに二人は何だかんだで古い付き合いなんだから、問題ないさ」

 

ギーシュとデルフリンガーはワルドが好きではないため、やたら反対していたが、イノセンスは昨日ルイズと語らい、昔の彼の話を聞く限りなら問題は無さそうだと判断した。

しかし、念のために彼は結婚式にも出席することにしている。

式の準備が滞りなく終わり、貴族達も出席してくれる。

イノセンス達も列席し、いよいよルイズとワルドの準備も整ったらしい。

 

「新郎、新婦、入場ォー!」

 

兵士の掛け声に式場の扉が開かれる。

そこには純白のドレスを身に纏ったルイズと、黒いマントを身に纏ったワルドの対照的な二人が、レッドカーペットを歩く。

 

「綺麗ですねぇ……」

 

数ある恋愛物語を読んできたケティであるが、実際の結婚に立ち会うのはこれが初めてで、ルイズの花嫁姿に見とれていた。

二人の歩みが、神父であるウェールズの前で止まる。

いよいよ式が始まる、その時、式場全体が大きく揺れる。

 

「な、何が起こってるの!?」

 

「(……まさかッ!)」

 

ワルドには心当たりがあった。

それは今日について、あらかじめ報告し、こちらの情勢を知っていた、上司である貴族連合レコンキスタ総司令官<オリヴァー・クロムウェル>だった。

 

「(式のタイミングを伝えたのは不味かったか!功を焦ったな!?クロムウェル!!)」

 

ワルドはこのままでは、自らの計画がご破算になってしまう、かなりピンチな事態だった。

また、ウェールズ達王党派からしても、この敗北の仕方では自らの勇気を示す事が出来ない。

万事休すかと思われたが、その時、イノセンスが立ち上がった。

 

「式はそのまま続けてくれ、ウェールズ……急用ができた」

 

「なッ!友よ、まさか君は……」

 

ウェールズの言葉には反応せず、扉に向かうイノセンス。

 

「待って!イノセンス!何処へ行くつもりよ!」

 

しかし、ルイズの叫びに足を止めた。

彼は振り返る。

 

「ルイズを頼んだ、ウェールズ……ルイズ……幸せになれよ」

 

そう言って彼はその場を後にした。

ウェールズもルイズも、言葉を失い、呆然と立ち竦んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イノセンスが外に出ると、外には十数隻の艦隊がアルビオンに対して、攻撃を行っていた。

メインメニューを操作し、<金鵄>を装備したイノセンス。

 

『相棒、そいつも一緒ってことはガチだな?』

 

デルフリンガーの言葉には返さず、彼を右手で抜き、左手で金鵄を持ち、どちらも逆手に切り替えて、艦隊に向かい歩き出すイノセンス。

その横に結とタバサが駆けてくる。

 

「パパ!私に手伝わせてください!」

 

「結はいい……タバサは……」

 

「分かってる」

 

タバサにはイノセンスの言いたいこと事が分かっていた。

恐らく、万が一のためにルイズの側にいて欲しいと言いたいのだろう。

 

「だけど、これくらいは」

 

そう言って口笛を吹くと、シルフィードが下から上がってきた。

 

「使って」

 

「……恩に着る」

 

「……ん……死なないで……死んだら許さない」

 

多少怒気を含んだ言い方でタバサは言うと、彼女は式場に戻っていった。

 

「……じゃあ、<生きますか>……死なない程度に」

 

「はい!」

 

二人はシルフィードに飛び乗り、空へ向かう。

今、アルビオンが滅ぶまでのカウントダウンが始まった。

 




いよいよ、アルビオンもクライマックスTIME!

艦隊に立ち向かうイノセンス、結婚式に踏み込んだルイズ。

彼らの運命は!待てェ!次回ィ!

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