そして、フーケが二回目の登場。
「アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ないそうだ」
ラ・ロシェールに早めに着けた一行であったが、明日飛ぶ船がないため、明後日しか乗れないらしい。
それは、明日は<スヴェルの夜>と呼ばれるハルケギニアに二つある月が重なる日らしく、その翌日の朝は空に浮かぶアルビオンが地上にもっとも近付くらしい。
それ故に、船乗り達が限りがある燃料である、風石を節約するために、明日は出さないと言う訳なのである。
「急ぎの任務なのに……」
「仕方ないさ、今日は二人でゆったり過ごそう」
口を尖らせ不貞腐れるルイズに、ワルドは諭していた。
その話を聞き、キュルケがイノセンスに耳打ちする。
「ねぇ、例の<世界の種子>で大きな飛べるモンスターを出さないの?」
「確かに考えたが、どうにもワルドが怪しすぎてな……使うのは避けたい」
「あ、ああ……考えあっての事なら仕方ないわよね」
イノセンスの言葉にキュルケは納得して椅子に座る。
「ところで諸君、部屋割りについてなのだが……僕とルイズは一緒の部屋としたい」
「そんな、駄目よ!まだ、わたしたち結婚してるわけじゃないじゃない!」
ワルドの言葉にルイズは否定の意思を見せるが、ワルドは簡単には折れない。
「大事な話が有るんだ……二人きりで話したい」
「で、でも……」
「待て、ワルド」
ここでイノセンスから待ったがかかる。
ルイズがホッとした顔で彼に近寄る。
ワルドは反応し、イノセンスを見る。
「……何かな?イノセンス君」
「あんたの気持ちも分かるよ、ルイズは自分の許嫁だから、彼女と夜を一緒に過ごし語らいたい……至極結構、だがルイズにその意思がないなら、それは許可しかねる」
これが使い魔としての、イノセンスの言い分だ。
しかし、それに対してワルドは気に入らない様子である。
「……君は使い魔の領分を越えたもの言いが多いな、まるで君がルイズの保護者か何かのようだね」
「使い魔だからこそ、主人を案じているのさ……どうしても納得がいかないと言うなら、ルイズに聞いて決めようか?……ルイズはどうしたい?」
「えっ?」
イノセンスの質問にルイズは考える。
正直に言うならば、女性陣と一緒か、イノセンスと一緒が一番安心出来る。
前者は同姓故に気楽に接せれる、後者は互いに信頼しているし普段通りなためだ。
だが、親の取り決めとは言え許嫁のワルドを蔑ろにしたいわけではない。
今でも彼には憧れや尊敬の念が損なわれているわけでもないし、そんな彼から大事な話があるらしいならば、聞くのが筋だと思う。
そして、今ワルドとイノセンスは対立しているような状態だ、恐らく自分に判断を仰いだイノセンスはワルドを選んでも、文句をいうわけでもないだろうが、イノセンスを選んだ場合のワルドは、イノセンスを敵視する可能性がある。
二人が争う姿を見たくなかったルイズは、答えを決めた。
「……私はワルドと一緒の部屋に行くわ、話も気になるし」
「! ああ、僕のルイズ、やはりただの照れ隠しだったんだね、……安心したよ……どうだい?使い魔君、これが僕とルイズの絆なのさ!」
「ふむ……分かった、ルイズが決めたならば俺は反対しない、二人は相部屋で……」
やたら勝ち誇った態度で胸を張るワルドに対して、納得した様に頷き、部屋割りの紙に内容を書くイノセンス。
自分の言葉を半ばスルーされたワルドは、若干ムッときたが、目的は達したために文句は無かった。
「イノセンス様!わ、わたくしと相部屋に!共に朝まで語らいましょう!」
「あら、それなら私も良いわよね!イノセンスと情熱的な一夜を過ごしたいわ!」
「私はパパと一緒が一番安心出来るのですが……」
「私も……貴方を知りたいから」
「ちょっ!あ、あんたら何言ってんのよ!」
男女の部屋の許可が出された以上、イノセンスと同室になりたい女子が全員意見を言う。
ルイズは文句を言うが、既にワルドと同室なのが決定しているため、異議は受理されない。
「……ワルドとルイズは許嫁特権、結とギーシュ以外のメンバーは悪いが別部屋な」
結は喜び、他はシュンとしたり、ブーイングしたりしていた。
ギーシュは苦笑しながらイノセンス耳打ちする。
「君は僕以上の薔薇っぷりだよ」
「……あまり嬉しくない」
そう言ってイノセンスはため息をついた。
ワルド自身が出費したため、ワルドとルイズの部屋はかなり立派な内装だった。
ベッドは天蓋付きで、レースの飾りのついた大きな物である。
ワルドはテーブルに座ると、ワインの栓を抜き、杯に注ぎそれを飲み干した。
「君も腰をかけて1杯やらないか? ルイズ」
ルイズは言われたままにテーブルにつき、ワインが杯を満たすと、ワルドのそれと合わせる。
「二人に」
グラスが触れ合う音が響く。
互いにワインを飲み、味を堪能した後、ルイズが切り出す。
「その……それで……大事な話って?」
彼女が本題を促すと、ワルドは急に遠くを見るような目になった。
「覚えているかい? あの日の約束……ほら、きみのお屋敷の中庭で……」
「あの、池に浮かんだ小船?」
ルイズの言葉にワルドは頷いた。
「きみは、いつもご両親に怒られたあと、あそこでいじけていたな……まるで捨てられた子猫みたいに、うずくまって……」
そういうと二人は昔話に花を咲かせる、そしてその話はだんだんルイズ自身の魔法の話にきり変わっていく 。
そうして一通り話を終えた後ワルドが意外な事を語りだした。
「きみの使い魔、彼だって只者じゃない……彼の左手のルーンを見て、思い出した……あれは<始祖ブリミル>が用いたという、伝説の使い魔<ガンダールヴ>の印だ」
「……伝説の使い魔?」
今一理解できないといった具合にルイズが聞き返す。
「<ガンダールヴ>の印……始祖ブリミルが用いたもので 誰もが持てる使い魔じゃあない……つまり君はそれだけの力を持ったメイジなんだよ」
彼女は彼の言う事を信じたかったが、ワルドの言う事が確かならば、今頃自分は魔法をもっと使えたはずだ。
イノセンスの力は、まさに伝説級に思うが、自分にはそんなものがあるとは全く思えなかった。
ふと、ワルドを見ると、彼は真剣な表情でルイズを見ていた。
「この任務が終わったら……ルイズ、僕と結婚しよう」
「……え?」
いきなりの彼のプロポーズに、ルイズは驚いた。
「僕は魔法衛士隊の隊長で終わるつもりはない……いずれは、国を……このハルケギニアを動かすような貴族になりたいと思っている」
「で、でも、私……まだ……」
「もう、子供じゃない……君は16だ……自分のことは自分で決められる年齢だし、父上だって許してくださっている……確かに、ずっとほったらかしだったことは謝るよ……婚約者だなんて、言えた義理じゃないこともわかっている!でもルイズ、僕には君が必要なんだ!」
「ワルド……」
かなり情熱的なワルドの態度に、ルイズは戸惑う。
確かにワルドのことは嫌いではない。
だが、こんな勢いに任せて結婚していいものだろうか?
こんな時にイノセンスの事が頭にちらつく。
彼はこう言う時、いつもそばにいて悩みに答えてくれた。
だが、今彼はいない……途端に寂しく感じた。
「ルイズ……」
「ッ! ダメ!!」
ワルドはルイズに近づいて、唇を合わせようとした。
ルイズの体が一瞬こわばり、ワルドを押し戻した。
「私はまだ、あなたに釣り合うような立派なメイジじゃない……<ゼロ>だもの…… 」
「……僕はそうは思わないが、ルイズがまだと言うならば仕方ない……僕は急がないよ」
ルイズに拒絶されたため、ワルドは一旦手を引き、部屋を出る。
一人残った彼女は呟く。
「イノセンス……」
己の使い魔の名を。
一方でイノセンスは、部屋に押し掛けてきた女子達の相手をしつつ、アンリエッタからのメールを確認していた。
「どうだったんだい?」
「どうやら<黒>だったようだ」
ギーシュの質問にイノセンスは答える。
アンリエッタからの返事は、ワルドに助けを依頼した覚えはないとの事だ。
となると、ワルドはわざわざ偽って仲間に入ってきた事になる。
怪しさが増すワルド。
『相棒、そりゃ娘っ子とアイツを一緒にしたのは不味くねぇか?』
「だから、今彼に問いただしに行こうかなと考えている」
デルフリンガーの質問に、軽く答え、女性陣を見る。
「感動的です!あのメインメニューを私が開いているなんて!まるでSAOの世界に来たかのような気分になります!」
「良かったわね、それかなり便利だから、上手く使うと良いわ」
「こうやって仲間が増えていくのは、私も嬉しいですよ」
「……どうかした?」
ケティは先程ギーシュと共に、イノセンスとフレンド登録をすませ、メインメニューを使用出来る様になっていた。
そしつ感動し、キュルケと語り合っていた……何気にこの二人は同じ属性故か、仲が良かった。
結は、ケティやギーシュも加わり賑やかになっている今に喜んでいた。
タバサはずっとイノセンスを見ながら、話が出来るのを待っていた様で、視線を変えた事に反応した。
「いや、実はワルドに……」
タバサの言葉にイノセンスは答えようとした。
その時、彼は気づく、窓の外にゴーレムがいた事に。
「……これまた懐かしい人が来たな」
イノセンスがデルフリンガーを抜き放つ、すると全員が理解した、今からここは戦場になるのだと。
ベランダから外に出ると、以前見た巨大なゴーレムがおり、その上には捕まったはずのフーケと白い仮面を着けたメイジがいた。
「よぉ、何故あんたがここにいるんだ?やっぱりそこの仮面が関係してんのか?」
「そうさ、あたしはこの男に助けられたからね、恩義には報いるつもりさ!」
そう言ってフーケはゴーレムに命令を出し、宿に攻撃させる。
「させるかっての」
イノセンスは飛び、体術スキル<旋風脚>で身体を回転させ、強烈な蹴りでゴーレムのパンチを跳ね返す。
「ちぃっ!相変わらず化け物だね!」
フーケは悔しそうに言うが、その顔は分かっていたと言う顔だ。
それを見てイノセンスは、フーケは本気で此方を襲うつもりがないのを理解した。
仲間たちが飛び出してきて、臨戦態勢になる。
「イノセンス!どうするんだい!?」
「結、あの仮面は中々の手練れみたいだ……あいつの相手を頼む」
「お任せを!」
「残りはフーケを頼む、無茶はしないレベルで良い」
「……貴方は?」
「……離れていくルイズの反応を追う」
「分かった……なら今すぐ行って」
話を聞き、全員がそれぞれの相手に向かう。
それを見た後イノセンスは飛び出す。
「おや?あの使い魔は来ないのかい?まあ良いさ!あんたらを土くれに変えてやるよ!!」
「うぅ、麗しい女性には手を上げない主義なんだが……」
「そんな事言ってられませんよ!貴方はいつもそれなんですから!」
「それに、あんな悪女に手加減する理由がないでしょ」
「……人の事は言えない」
「……」
「何者かは知りませんが!倒します!」
今、戦いは始まった。
「ワルド!待って!どこに向かってるの!?」
「港だよ!どうやら貴族派に場所がバレてしまったようだ!最早一刻の猶予もない!」
イノセンス達が戦っている間、ワルドはルイズを連れて、この場の離脱を図っていた。
「で、でもまだ皆が!イノセンスが!!」
「彼なら問題ない!彼は強い!すぐに追いつけるさ!」
ルイズの叫びにワルドは必死に言い聞かせる。
その時、二人の上を影が通過した。
「その通り、大正解だ」
逃げていた二人の前にイノセンスが着地した。
その目はワルドを見据えている。
「イノセンス!良かった、貴方無事だったのね!」
「……いやぁ、本当に良かった、流石はルイズの」
「それ以上此方に近づくな、それからルイズからも手を離せ」
近づこうとする二人だが、イノセンスは冷たく制し、デルフリンガーをワルドの首もとに向ける。
「イ、イノセンス!?」
「な、何を」
「つべこべ言わず言う通りにしろ、頭と胴体が泣き別れしたくなければな」
「ッ! わ、分かった!言う通りにする……」
指示通りルイズから手を離し、手を上げて無抵抗な事を示すワルド。
ルイズはイノセンスの豹変に驚愕と困惑が入り雑じった複雑な表情なる。
イノセンスはワルドに問いただす。
「まず最初に、何故此方に合流もせず港へ向かった?」
「そ、それは船を出す準備を早めにしなくては、ここから離脱するのが遅れてしまうからね!それに君たちの実力は分かっているから信用していたんだよ!」
ワルドの答えに頷くイノセンス。
「筋は通ってはいる、では次に、何故前の通り道の傭兵同様此方の居場所が判明していると思う?」
「も、もしかしたら偵察がいたのかもしれんな!そう言う事に特化したメイジを味方につけていたとか!」
イノセンスはフーケの存在を思いだし、その可能性も加味する。
「なるほど、では最後に……何故嘘をついた?」
「……え?」
この問いにはルイズも驚き、ワルドを見る。
「……何のことかな?」
「とぼけるのか?アンリエッタからの依頼は無かったそうじゃないか……彼女に直接確認したらそう言っていたよ」
「ッ!」
ワルドは追い詰められていた。
そこにはすぐに返答できなかった。
それは紛れもない事実であり、最初は侮っていたイノセンスが凄まじい人物だと知っている今、彼なら何かしらでアンリエッタと連絡をとる手段くらい、持ち合わせていて不思議ではなかった。
イノセンスとルイズから、疑惑の視線が突き刺さる。
そこでワルドが意を決してとった行動は、誇り高き貴族としてはある意味最高の恥辱である<土下座>であった。
「許してくれ!確かに私は君たちに嘘をついた!だが僕はどうしてもルイズを守りたかった!側にいたかったんだ!君たちが王女殿下の密命を受けたと知った時、マザリーニ卿に報告するかで迷った!だが僕は君たちを取った!それはルイズの気持ちを優先するため!そして久しぶりに二人で語り合いたかったんだ!君たちに後ろ暗い事は一切ない!信じてくれぇ~!」
「ワ、ワルド……貴方……」
「……」
地面に額を擦り合わせ、必死に懇願するワルド。
それを見て、ルイズは彼に寄り添う。
一方で、イノセンスは完璧に信じるわけは無かった。
だが、彼がルイズに対して強い気持ちがあるのは伝わった。
その時、イノセンスの背後に巨大な物が落ちてくる。
「……ったく……空気が読めないやつだな……」
振り向くとそこにはSAO第四層フロアボス<ザ・ライトニング・クラブ・ジャイアント>が稲妻を身体に走らせながら、此方を見据えていた。
「なんだ!?この化け物は!?」
「イノセンス!!」
「来るなッ!!!」
イノセンスが突然激昂し、二人はビクリと動きが止まる。
「行け、ワルド……船とルイズを頼む……俺の気が変わらない内にな」
「! わ、分かった!行こうルイズ!」
「い、イノセンス!ダメよ!一緒じゃなきゃ嫌ァ!!イノセンスーーーーーーーッ!!!」
ルイズはワルドに抱えられながら港へ向かった。
離れていくイノセンスの背中に叫びながら。
「そろそろ潮時かねぇ……」
タバサ、キュルケ、ケティ、ギーシュと戦うフーケだったが、手抜きの戦いかたに加えて、四人の連携が思いの他良かったので、ゴーレムがすっかりぼろぼろであった。
「残念だけどあたしはここまでだ、あとの事はあたしは知らないからね!あばよ!」
フーケは転移結晶を取りだし、叫ぶ。
「転移!サウスゴータ!」
結晶が音をたて壊れ、フーケは消える。
「……逃げられた」
「もうっ!後少しだったのに!」
「やれやれ、僕はもう疲れたよ」
「! 皆さま!船が!」
皆が口々に言う中、ケティが港から出た飛空船を見つけた。
「どうなってるの?」
「……まさか」
タバサはフレンドリストを確認すると、ルイズがあの中にいる事が把握できた。
「……あの中にルイズがいる」
「「は!?」」
「僕らは置いていかれたのかい?参ったね……絶対子爵の仕業だよ」
「皆さん!無事ですか!」
全員が落胆していると、先程まで戦っていた結がやってきた。
「……あのメイジは?」
「倒しましたが、風の魔法で出来た<偏在>でした」
タバサが聞くと、結はそう答えた。
<偏在>とは、風で自らの分身を作り出す、スクエアクラスの魔法だ。
「となると、あとはイノセンスだけだね」
「そうです!イノセンス様は!」
その時遠くから、物凄い爆発音がした。
「! 行くわよ!」
その場にいた全員が駆け出した、イノセンスがいるであろう場所へ。
イノセンスはふぅ……と一息つく。
ステータスは遥かに自分が上だったが、本来大多数で相手すべき相手なため、強くはなかったが、厄介だった。
「さて、ラストアタックボーナスは……あんまり俺には必要ない物だな」
今回は<雷切>では無かったらしく、夢の<金鵄>二刀流は叶わなかったようだ。
『そう落胆するなよ相棒!俺がいるだろ!?』
「もちろん、お前は大事だよデルフ、戦略の幅が欲しかっただけさ」
デルフリンガーの言葉に、苦笑しながらイノセンスは答える。
「イノセンスさまぁー!!」
「おっ?」
イノセンスが声に反応し、振り替えると、ケティを先頭に皆が此方に来た。
「無事?」
「見た感じ、何とも無さそうで何よりだよ」
「まあな、軽く蟹とやり合っただけだし」
安堵する皆にイノセンスは話す。
「とりあえず、皆疲れてるだろ……今日はもう休もう」
「えっ?今すぐ追いかけるのでは?」
彼の言葉にケティが質問をする。
「向こうは無理を押して出た船だからな、アルビオンまでは時間が掛かるだろう……そこまで焦らなくても実は問題はない」
「……でもここは危険」
イノセンスの答えにタバサは意見する。
事実この場所は貴族派にバレているため、安全ではない。
「だから、移動しながら休むのさ……」
イノセンスはイベントリから<世界の種子>を実体化する。
今ならワルドはいないため、これが使える。
彼はイメージしながら叫ぶ。
「<クリスタライト・ドラゴン>!!」
呼び出したのは第五十五層西の山に生息するボス、<クリスタライト・ドラゴン>だった、リズベットと<金鵄>を得るために戦った思い出深いモンスターだ。
この姿を見たハルケギニアの方々は唖然とした、町の人も含めて。
「こいつは夜行性だから、皆が寝てる間も飛んでくれる……さぁ乗った乗った」
イノセンスの言葉に皆緊張しながら乗り込む。
竜と言ってもクリスタライト・ドラゴンはハルケギニアの竜より遥かに大きかったからである。
全員が乗ったのを確認し、クリスタライト・ドラゴンは飛び立った。
みるみる内に、ラ・ロシェールが離れていく。
その光景を皆で眺めた。
「あ、そう言えばタバサ、約束してたっけな……待ってろ」
「?」
イノセンスはタバサにそう言うと、イベントリから先程のラストアタックボーナスのユニーク装備<オラージュマント>と言う、青いグラデーションのマントを取りだす。
それを見て思い出したのか、タバサは自分のマントを脱ぎ、オラージュマントをイノセンスに着せてもらう。
「……どう?」
タバサはマントをヒラヒラと靡かせながら、チラリとイノセンスを見る。
「似合ってるよ……悪いな、お前を待てるほど余裕が無くて……」
本来の約束は、タバサがラストアタックを取ると言うものだったので、イノセンスは彼女に謝る。
しかし、タバサは寧ろ喜んでいた。
「いい……嬉しいから……」
そう言って、タバサはイノセンスの横に座り、彼の身体に身を預ける。
「ありがとう……覚えてくれてて……」
「ん、どういたしまして……」
クリスタライト・ドラゴンはゆっくり安定した速度で飛ぶ、タバサの意識もまた、彼の隣でゆっくりと落ちていった。
タバサが貰ったマントのオラージュはフランス語で雷雨です。
性能としては、雷に対して無効になるのと、魔法詠唱速度が上がるユニーク効果が付いています。
この<雷無効>が後の戦いを有利にします。