彼女の願いがイノセンスを新たな戦場に導きます。
ケティが引き起こした騒ぎからしばらく経ったある日。
風のスクエアメイジである、ミスタ・ギトーの<ありがたい>風最強論の授業を聞き流していると、突然教室の扉が開いた。
頭に馬鹿でかいロールした金髪のカツラを乗せ、着ているローブの胸には、レースの飾りやら刺繍やらがはいっている、そんな珍妙な格好のコルベールが緊張した面持ちで入ってきた。
「授業中失礼しますぞ!……おっほん、今日の授業は全て中止であります!」
「……なんですと?どう言うことです?ミスタ・コルベール」
明らかに引き気味なギトーが彼に質問をする。
コルベールは彼の様子など気にかけず話し出す。
「えーおほん……皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、よき日であります……始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります 、 恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、 本日ゲルマニアへのご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます! したがって、粗相があってはいけません!急な事ですが、今から全力を挙げて、歓迎式典の準備を行います……その為に本日の授業は中止……生徒諸君は正装、門に整列すること、いいですな?」
「姫様が……?一体何のために……」
「(……どうやら、なにか一物抱えてそうだな……メールを見れば分かる)」
コルベールの話を聞き、生徒達が移動する中、ルイズの隣を歩くイノセンスは、件のアンリエッタからのメールを眺めていた。
内容はお話したいことがあり、今日そちらに立ち寄ります、聞く用意をしてくださいと書いてあったのだ。
イノセンスはルイズに伝える。
「ルイズ、彼女また部屋に来るらしい、迎える準備くらいしとこう」
「えっ?……送るついでにフレンド登録してたの?」
「まあな」
質問に答えると納得し、分かったわと頷くルイズ。
今回のアンリエッタの訪問の目的がルイズにも何となく分かった。
前回同様門前に整列し、彼女の馬車を出迎える生徒達は二回目ともなれば、前よりかは落ち着いてそれを眺めている。
周囲には魔法衛士隊でもエリート揃いの部隊<グリフォン隊>が護衛の為付いており、他国からの帰りだと優に物語っていた。
そして、その中でも羽帽子を被り、隊をまとめあげる髭の生えた紳士が恐らく隊長なのだろうと、イノセンスは推察した。
ふとルイズを見ると、その男性を見ていた。
ただ見ているだけでなく、何となく頬も赤い。
それでイノセンスは気付く。
「(憧れの人……ないし婚約者かな )」
ある程度年齢が離れていても、この世界なら普通にありそうだなと彼はそう判断した。
「ルイズ、顔が赤いぞ……?」
「ふぇっ!?」
どうやら無意識だったようだ。
やれやれと言った感じでイノセンスはため息をついた。
歓迎の晩餐会が終わり、部屋に戻った二人は、矢作りをしながら部屋にいた結と共に。来るであろうアンリエッタを待っていた。
暫くして、一定のリズムで部屋の扉がノックされる。
「「「どうぞ」」」
三人が言うと扉が開き、フードを被ったアンリエッタが現れた。
「姫様……!」
「ルイズ……!ああ、会いたかったです!」
二人は抱き締めあい、互いの信頼を確かめる。
その後離れた後、イノセンスに向き直るアンリエッタ。
「イノセンスさんも娘さんもお変わりなさそうで……」
「それはもう、この国は平和ですから」
「皆さんいい人です!」
イノセンスは微笑み、結は元気に返す。
それを見て安堵してからアンリエッタは本題に入る。
「今回来たのは、他でもありません……私はゲルマニア皇帝と結婚するならびになったのですが……」
「げ、ゲルマニアですか!?あの野蛮な隣国の!?」
「ええ、これも国を生かすため……同盟のための政略結婚……」
驚くルイズに、黙って聞くイノセンスと結に、現在のトリステインの事情を話し出した。
同盟国アルビオンが革命の波に飲まれ、危機に陥っており、陥落も時間の問題であること。
そのままトリステインに攻め寄せられれば、確実に負けるため、大国のゲルマニアの力を借りなければいけないこと。
そして、同盟の条件がアンリエッタとゲルマニア皇帝の婚姻であること。
それらを淡々と、しかし瞳に悔しさを滲ませ、アンリエッタは語った。
「なるほど、事情は分かった……で、それらを俺達に話すってことはやってほしいことがあるんだな?」
先程まで黙って聞いていたイノセンスが、察して話を振る。
アンリエッタは頷く。
「恥知らずのアルビオンの貴族の方々は、この婚姻を妨害する材料を血眼になって探しております……二国よりも、一国の方が相手し易いですものね」
それを聞いた結がアンリエッタに質問する。
「もしかして、その婚姻を妨げる何かがあるのですか?」
それを聞いてルイズはアンリエッタの顔を見る。
彼女は申し訳なさそうに肯定する。
「その通りです……」
「な、ならば急ぎませんと!その場所は……」
「<アルビオン>なんだな?」
「……え?」
ルイズは驚いてイノセンスを見る。
彼の瞳が青く輝いていた。
「……よくお分かりですね……」
「あんたの様子を考慮に入れるとそうとしか思えん、その上で信用があり自由に動ける俺たちを使うと……戦火の真っ只中は大変そうだ」
アンリエッタの様子を見て、イノセンスはそう言って苦笑する。
ルイズは膝をつき、頭を下げ言う。
「姫様、私達にその様な重要な任務を授けていただき、まことに名誉でございます!」
「る、ルイズ……これは強制ではないのですよ?」
「無駄だよアンリエッタ、ルイズはこう言う時頑固だからな……あんたも良くご存知だろ?」
困り顔のアンリエッタにイノセンスが語る。
彼女は暫くルイズを見ていたが、ため息をつき諦めた。
「分かりました、貴方がたに一任します……但し無理だけはしないでください……貴方たちを失いたくは無いのですから」
信用も信頼もある、だから死地に送り出さなければいけない……アンリエッタは自分で切り出してしまったものの、今更ながら後悔の色を浮かべる。
「それで、婚姻を妨げる物は?アルビオンの誰が何を持ってる物なんだ?それが分からないと回収出来ないからな」
「その通りですね……それは、私が書いた手紙……相手は……アルビオン次期国王、ウェールズ皇太子です」
イノセンスの質問にアンリエッタはかなり言いづらそうに答えた。
これだけでイノセンスは、理解できた、同時に以前の悩みに陥った原因もハッキリした。
しかし、ルイズと結は分かってない様子なので、イノセンスは二人を呼び耳打ちした。
二人の顔が赤くなりアンリエッタを見る。
アンリエッタもまた頬を赤く染めていた。
「……とまあ、そう言う訳で任務内容は把握した……確かにそれを発見されたら面倒だしな、それと……」
「?」
イノセンスは話を纏めた後アンリエッタに耳打ちする。
「何か言伝と渡す物があるなら今言え、後悔しないうちに」
「……はい」
彼の言葉にアンリエッタは、イベントリから小箱を実体化させルイズに渡す。
疑問に思いながらルイズが開けると、手紙と青い宝石が入っていた。
「手紙は、私の彼への最後の言葉が込めれています……そしてその宝石<水のルビー>は王家に伝わる宝ですが……必要でしたらお売りになっていただいて構いません」
「! 姫様!こんな大事な物受け取れませんわ!」
「良いのですルイズ……貴方とイノセンスさんを危険な目に遇わせているのに、私が何も出来ないなんて、それこそ後悔しますから……」
そう言って彼女は笑う。
その言葉にルイズは何も言えなくなり、イノセンスを見る。
彼はルイズの頭に手を乗せ、首を横に振る。
アンリエッタは咳払いをすると二人をみる。
「では……改めて命じます、我が国のため……そして私のために、力を貸してください」
「はい!身命をとして!」
「必ずや皆で生きて帰ります」
それぞれ対照的な返事をした。
その時。
「誰ですか!!」
結が矢を扉に向けて放つ。
三人が驚いて目を向けるとそこには、以前イノセンスと決闘騒ぎを起こしたギーシュ・ド・グラモンが、扉の前で腰を抜かしていた。
「ハ、ハハ……どうも皆さん……良い夜で……」
「ギーシュ……!あんたッ……」
「落ち着け、あと扉開いてるのに声でかいぞルイズ」
イノセンスが諌めて気がついたルイズは、口を押さえる。
そのまま彼はギーシュを引きずりこみ、扉を閉める。
「アンリエッタ、尾行けられてたぞ……次はもっと慎重にな?」
「す、すみません……因みに彼は?」
「グラモン家の子息ですわ、姫様」
アンリエッタの問いにルイズが答える。
まあ、あのグラモン家の……とアンリエッタはギーシュを見る。
「無礼をお許しください、アンリエッタ王女殿下……このギーシュ・ド・グラモンはあなた様を見かけ、何事かと案じて後に続かせていただいた次第で……」
「そうでしたか……」
「んで、ギーシュ、お前もくるだろ?アルビオン」
「「え?」」
ルイズとアンリエッタが同時にギーシュを見る。
ギーシュは微笑む。
「無論、話を聞いてしまった以上……僕も無関係ではいられないさ、国の大事、さらに王女殿下のためとあらば……僕も力を貸さざるを得ない」
「……流石はグラモン元帥のご子息です……貴方も頼ってよろしいのですね?」
「はい、この薔薇に誓って!」
ルイズはイノセンスに困惑の視線を送る。
彼は当然苦笑した。
部屋で本を読んでいたタバサに、イノセンスからメールがくる。
内容は明日アルビオンに任務で出ること、暇なら付いてこないか?と言う物だった。
「……準備しなきゃ」
タバサはイベントリの整理を始めた。
より、経験値を稼ぎ強くなるために。
そして彼を助けるために。
これで下準備が整いました、後は進むだけですね。
ルイズも近接戦闘で頑張ってくれると思います(笑)