ゼロの使い魔 本能の牙-extra-   作:新世界のおっさん

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ケティ・ド・ラ・ロッタの事も、時々思い出してあげてください。

と言う訳でケティがメインの回です(笑)

彼女がヒロインになるかは永遠の謎。


風の行方
恋に恋する少女の物語


トリステイン魔法学院の図書館、そこで読書をしている、まだ未熟な一年生の生徒がいた。

名前を<ケティ・ド・ラ・ロッタ>といった。

彼女は一時期、あのギーシュ・ド・グラモンと恋仲であったが、彼が<モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ>とも恋仲だと発覚し、二股を掛けれたことに怒り破局した経緯がある。

決闘騒ぎの後は、モンモランシーは最近ギーシュと少しずつ距離を戻してきている、しかしケティは、あれで熱が冷めたと言うのもあるが、まだ一年生と言う事もあり、恋に関してはそこまで本気ではなかった。

故にこうして勉学や、趣味の読書に時間を費やしているのだ。

 

「ふぅ……この作品も読み終わってしまいました」

 

彼女の読む作品は、程度は違えど恋愛描写があり、既に何十冊も読んでいる。

今の彼女はただ恋に恋する乙女なのだ。

 

「ああ、わたくしもこの作品の様に、甘い蕩けるような恋愛をしたいものですね」

 

物語に思いを馳せ、本を胸に抱きその場をくるくると回るケティ。

本来は咎められるだろうが、今は誰も近くにいないので特に何も言われることはない。

 

「と、それよりも戻して新しい作品を見ませんと……」

 

彼女は本を元あった本棚に戻し、次の本棚に目を移す。

そこで彼女は思わぬ事態に遭遇した。

 

「た、高いですね……」

 

本棚の一番上に次の作品があるのだが、彼女からすればかなり高い位置だ。

風の系統メイジなら<フライ>の魔法で、近づくのも容易であろうが、彼女は火のドット……使えはしなかった。

致し方なかったので、ケティは近くにあった梯子で上がり取ることに。

 

「よいしょ……よいしょ……あっ、これですね」

 

彼女は目的の本を見つけたので、手を伸ばした……しかしそれが油断を生んだ。

手を伸ばした時、足も力を入れたケティは足が滑り、踏み外れた。

 

「きゃあッ!!」

 

悲鳴を上げるも、先程見たときは近くに誰もいなかった、ケティは地面に激突することしか思い浮かばず、痛みに備え目を瞑る。

その時、一陣の風が流れた。

 

「……あれ?」

 

何故か痛みが来ないため、不思議に感じ、彼女は目を開く。

すると彼女の目の前には、茶髪茶目の美青年がいた。

 

「大丈夫か、お嬢さん?」

 

そう言って彼は優しく微笑んだ。

ケティは一瞬で恋に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後は緊張して長くは話せぬまま、逃げ出すようにその場を飛び出した彼女は、その日は自室で悶々していたらしい。

次の日になり、彼女は浮かれた顔で友人と出会ったため、何があったか問い詰められた。

彼女が事の説明をすると、またか……と言う顔をされてしまった。

どうにも、ケティは本で恋愛物を愛好しているせいか、大して知り合ってもいない相手でも、ちょっとした切っ掛けでコロッと落ちるらしく、学校に来る以前からそれで何人もの男性と破局していた。

それで付いた二つ名は<破局>。

魔法に関係なく二つ名が付いた異例の存在らしい。

彼女は今回は本気だ、と話しているが友人達は信じていなかった、どうせ大した男でも無いと視線を前に向けた時、対面から歩いてくる男女達がいた。

友人達は彼らを知っていた。

桃色髪を揺らしながら、何やら文句を言っている様子の美少女は<ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール>。

水色の髪を上下させながら、隣の人物の袖を掴んでいる眼鏡の美少女は<タバサ>。

黒い髪にカチューシャを着け、他の人物達を見ながら笑顔を振り撒くメイドは<シエスタ>。

そして、その中心で苦笑しながらも優しく、だが逞しさも感じさせる茶髪茶目の美青年、<イノセンス>。

四人はこちらに向かって歩いてきていた。

そこで友人達は思い出す。

今回ケティが惚れた人物の特徴が、茶髪茶目であることに。

友人達がケティを見るとどうもそんな感じなのか、頬を染めながら、彼をボーッと見つめていた。

ふと、イノセンスが気づいたようで、ケティ達に挨拶した。

 

「おはよう」

 

彼の爽やかな笑顔には友人達も好印象だが、ケティは緊張で固まったと思うと、いきなり。

 

「おはようございます!」

 

と大声で言うと、大急ぎで駆け出してしまった。

友人達も挨拶した後にケティをダッシュで追いかけた。

取り残されたイノセンス達。

ルイズ、タバサ、シエスタの三人が彼にどうしたのか聞くと、彼はこう答えたそうだ。

 

「俺は彼女に<悪いこと>をしたようだ」

 

と、苦笑しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

一年生の午前の授業が終わった頃、友人達に囲まれるケティ。

彼女が何事かと聞くと、友人達は彼女に彼はやめておくよう話された。

ケティが惚れたイノセンスは、実は口には出されない物の、最近平民貴族問わず人気であるらしく、競争率が高い事や、さらに彼は身近な人間すらいまだに謎が多い存在、加えて平民であることを彼女に話した。

しかし、ケティは聞く耳を持たなかった。

競争率があると言う事は逆にいえばまだ誰とも付き合っていない、謎が多いのも最近やって来た存在なのだから当たり前、恋に身分の差など無意味と全てを切り捨て、彼女は友人達の前から立ち去った。

そんな彼女を止める事を友人達は流石に諦めてしまった。

 

「皆は分かってくれませんね……どうしてこうも私は信用が無いのでしょう……」

 

教室から飛び出してきた彼女は、そう言った物の、確かに自分は彼を知らないなと思い返した。

そう考えると、一時の恥ずかしさから彼から逃げてきた事が、途端に勿体無く思えてきた。

 

「そうです!もっと勇気と覚悟を持って……」

 

彼女は廊下でそう言いかけて、ふと広場を見ると、何と自分が会いたくて仕方ない人物が丁度いたのだ。

イノセンスは何やら特殊な構えをとると、持っている剣が光り出す。

その光の輝きにケティは見いる。

そして、放たれた剣技は凄まじき速度で、風を生み、ケティの横を通り過ぎた。

彼女は完全に彼に魅せられていた。

先程の剣技の衝撃を皮切りに、どんどん彼の事が知りたくなってきた。

ケティは勇気を出して前に出ようとして、突然イノセンスが彼女を見た、当然ケティは驚く。

 

「そんな所で見ていないで、話でもしないか?」

 

どうやら最初から気づかれていたらしく、ケティは羞恥で頬を染めながら頷いた。

イノセンスは剣を鞘に納めると、彼女に手を差し出す。

紳士的な対応にケティは喜びながら彼の手を握る、二人はヴェストリの広場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェストリの広場には今誰もいない、強いて言えば大きめな使い魔達が外で待機していた位だ。

そこに配置された椅子に二人は腰掛け、話し始めた。

 

「あの……昨日はありがとうございました」

 

ケティは昨日は満足に伝えられなかった感謝を、彼に伝える。

それを聞きイノセンスは微笑み、言葉を返す。

 

「どういたしまして、本当にたまたま近くにいて良かった……まさか女の子が本棚の上から落ちるとは思わなかったから、かなり焦ったよ」

 

「あ、あれは……たまたま足を踏み外して……」

 

「分かってるよ、いつもあんな調子なら流石に可笑しいよ」

 

ケティがイノセンスの言葉に弁明しようとしたが、彼は分かっており、笑って彼女の言葉を止める。

 

「そ、そうですよね……えと、わたくし名乗っていませんでしたがケティ・ド・ラ・ロッタと申します」

 

ケティは名乗り、手を差し出す。

 

「ケティか、俺はイノセンス……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが使い魔にして、別世界の人間だ、よろしく」

 

それを受けてイノセンスも名乗り、彼女と握手する、その時ケティ初めて聞く単語があったことに気づいた。

 

「よろしくお願いします……それで、別世界の人間と言うのは……?」

 

「ああ、実はね……」

 

イノセンスは待っていたとばかりに話し出した。

大まかな自らの過去、ここまで来た経緯、そしてこの世界に来て体験したことなど。

何故彼がわざわざ、こんな内容を先に持ってきたか。

それは、彼女が自らのことを知らないにも関わらず、好意を持ってしまった事に、今朝の様子で気づいたからである。

なので、まずは自分を知ってもらい、その上で話さないと彼女に悪いと考えて、話した。

ケティは最初は緊張していたが、その後は話が進むにつれて、泣いたり、笑ったり、恐がったり、喜んだり、そして最後は彼に拍手を送った。

ケティはイノセンスの話がある種一つの冒険譚に感じ、そして彼はそれに登場する主人公として捉え、聞き、思わず感動した。

まさに文学少女ならではの感じ方であった。

 

「ありがたいお話ありがとうございます!とても感動しました……そんな物語の英雄に救われて、わたくし運命と始祖ブリミルと貴方に感謝しています!」

 

「そこまで喜んでもらえると、話した甲斐があったと思うよ」

 

彼女の様子にイノセンスは笑う。

もし話して、ケティが離れていったならそれはそれで良かったが、喜んでくれたならそれも良かった。

ケティが後で後悔しないならば、どっちに転んでも彼はそれでよかったのである。

ふとケティが何かを決意した様子でイノセンスを見る。

 

「わたくし決めました!この思いを書物に書き記します!」

 

「……おう?」

 

キョトンとするイノセンスにケティは熱く語る。

 

「イノセンス様はとても素晴らしい方です!ですが、その真の素晴らしさを知る人間はこの学院において何人いるでしょう!?きっと主のミス・ヴァリエールも完全には知らないでしょう!しかしわたくし、それは勿体無いと思うのです!もっとイノセンス様の事を皆に知って欲しい!そう思いわたくしは……貴方様の物語を書き、皆に伝える覚悟をしました!どうか、協力と許可をいただけませんか!?」

 

彼女の熱弁にさしものイノセンスもたじたじだった。

彼は思った、間違いなく彼女は火の属性のメイジだろうと。

燃え上がった情熱は簡単には冷めない、彼女は今まさに業火だった。

そして、一度冷静に考えてから、こう答えた。

 

「ルイズの許可を貰えたら良いよ」

 

「行きましょう!今すぐに!!」

 

イノセンスの回答にケティは直ぐ様、彼の手を掴み、食堂に走った。

今の彼女を止められるものは、恐らくこの場にはいないだろう。

一部始終を見ていたシルフィードも、彼に哀れみの視線を送っただけのだから。

その後、食事中のルイズの元に、イノセンスを連れた燃え盛るケティがやって来て、彼女が噴き出し、その場の人間達は、ついに修羅場になったかと三人を噂の種にしたそうな。

結果として、ルイズの返答は。

 

「別にいいんじゃない?イノセンスが有名になるのは私としても嬉しいし、内容も気になるしね」

 

と、やたら軽いものだった。

それにケティは喜び、二人に礼をすると早速自室で軽く薄めの一冊分を書ききり、次の日には刷った物語を周囲に無料配付し、著者のケティも、主役のイノセンスも学院全体に知れ渡ることになった。

因みにこの物語、彼が戦い抜いた世界の名前がタイトルとして使われていた。

<ソードアート・オンライン>と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厳重な事で有名なチェルノボーグの監獄 ……そこでは捕まったフーケが投獄されていた。

彼女は出る気力もなく、ただ横になり、毛布を被っていた。

 

「……ったく、今更後悔しても遅いのに……何で私はあんな事したかね……いやさ、あいつらへの復讐だろうに……」

 

彼女には憎むべきアルビオンの王族に復讐するために、強い力と金を欲し、父と呼んだ男から得た力を利用して、貴族から財宝を盗んでいた。

しかし、その結果自分は何も得られぬままこんな場所にいる。

やったことがやったことだ、極刑は免れまい。

ここに来る途中、彼に言われた事が頭で反響する。

 

『復讐など何も生まないよ、フーケ……』

 

「ッ!……分かっていたんだよッ!そんな事はッ!!」

 

叫び、魔法の掛かった鉄格子を蹴ったフーケ、当然激しい音だけでびくともしない。

より虚しくなった彼女は再び毛布に潜り踞った。

するとコツコツと誰かが近づいてくる音が聞こえる。

フーケが反応し、起き上がると暗がりから現れたのは看守ではなく、白い仮面をかぶった貴族の男だった。

 

「<土くれ>だな?」

 

「……何だいあんたは?」

 

フーケは怪しい仮面の男を警戒する。

彼はその様子に笑い口を開く。

 

「我らに仕えて欲しい……<マチルダ・オブ・サウスゴータ>」

 

「ッ!!」

 

その名は彼女が貴族としての地位を、奪われてから、捨てられた名であった。

 

「その名を知る我らとやらが、あたしに何をさせる気だい?」

 

「なに、革命を起こすのさ、アルビオンにな……その為には優秀なメイジが欲しい……協力して欲しいのだがどうかね?<土くれ>よ」

彼の提案は、まさに自分の復讐に繋がっていた。

しかし、彼女にはもうその気がかなり薄れていた。

 

「……断るといったら?」

 

「無論死んでもらう」

 

仮面の男はフーケに杖を構える。

ここで断り死ぬのは簡単だ。

しかし、これは彼女にとってもチャンスだった。

足を洗い、新たな人生を歩む為の。

故に彼女は答える。

 

「分かった、あんたらに従うよ……だがその前にあんたらの名前を教えてくれないかい?」

 

フーケの問いに白仮面の男は鍵を開けながら答えた。

<レコン・キスタ>と。

 




ケティに勝手にキャラ付けして、半ばオリキャラになりましたがいかがでしたでしょうか?
作者は楽しんで書けました(笑)

そしていよいよ、レコン・キスタが関わり、アルビオン編が始動します。

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