イノセンスにとっては懐かしい奴が登場します。
そして、最後にあの人物も。
夢の中……まどろむ……。
映るのは巨大な魔物と剣士達。
「なに……これ……?」
『全隊さがれ、僕がやる!』
『なっ、ディアベル!』
駆け抜ける彼は若き日の使い魔。
まだ未熟な、力なき英雄。
「何で……こんな……!」
『βテスターのチーター……<ビーター>だ!!』
『クククッ……ハッハッハッハッハッハッ!!』
非難され、追いやられ苦悩した彼。
決断は己にとって残酷な選択肢。
「やめて……!違うわっ……!あなたは!」
『……嘘……だよな?……そうなんだろ……?』
『良い道化だったよ、お前らは……』
<偽悪>……それが彼の最初の姿……。
彼女にはその姿がとても苦しんでいるようで、今にも胸が張り裂けそうだった。
『キリト、楽しかったぜ』
『イノ……何でこんな!』
『楽しかったぜ!お前との友情ごっこォ!!』
「もう、やめてえええぇぇ!!」
彼女の叫びとともにそれらはブツンと消えた。
使い魔品評会からしばらく経った。
虚無の曜日である今日イノセンスはタバサと図書館の中にいた。
理由は、先日の契約通りハルケギニアの文字を教えてもらうためだ。
参考書とにらめっこしつつ、本能の牙を発動し思考を加速させて、出来るだけ詰め込む。
そして、タバサに問題を出題してもらい答えて覚えていく。
それにより、既にハルケギニアの文字を大分読めるようになってきた、複雑は文法などはまだ分からないところがあるが。
「頼みがある」
「ん?どうした?」
珍しくタバサから頼み事があるらしい。
イノセンスはその内容を聞く。
「仕事を手伝って欲しい」
「ああ、なるほどな……キリも良いし引き受けよう」
「ありがとう」
イノセンスの言葉にタバサは礼を言う。
魔法による戦闘は自分の得意分野だが、白兵戦と格闘戦においては彼はエキスパートだ、見て学ぶ所は多くあるし、聞けば彼は教えてくれそうだから、今回の仕事は是非彼を連れていきたかった。
二人はテーブルの物を片づけ、外にでると、誰かが走ってくる音が聞こえた。
イノセンスはふとそちらを見ると、突如腹に衝撃が来た。
「グスッ……ヒック!……うぅ……」
イノセンスが下を見ると、ルイズが泣きながら自らの身体にすがり付いていた。
「……何があった?」
聞いてみるも彼女は首を横に振るだけで、何も答えてくれない。
「仕方ない、とりあえず移動しよう」
「……分かった」
ただならぬ状況だが、このままでは埒があかず、致し方なくルイズを連れて外に出ることにした。
「そろそろ話してくれないか?」
「……」
現在三人はシルフィードに乗り、タバサの仕事の現場に向かっていた。
時間も経ち、少し落ち着いてきたのか、ルイズは口を開き始める。
「……夢を見たの」
「夢?」
「……どんな?」
ルイズの言葉に二人は耳を傾ける。
イノセンスは純粋に分かっていなかったが、タバサは女の勘と言うべきか、誰についてかは察しはついていたが内容が気になったらしい。
「イノセンスの過去の夢」
「!」
「……興味あり」
タバサは正体がいまだに謎なイノセンスの過去には、興味があったため、より耳を傾ける。
「まだ、貴方が戦い始めた頃だったのか……今の貴方に比べると若かったわ……沢山の仲間と巨大なコボルドと戦っていた」
「……」
「貴方はその手腕で、騎士の命を救い、あのコボルドを倒した……なのにも関わらず非難されて……その上で貴方は他の人のために自ら泥を被った……!」
イノセンスは黙って聞き、ルイズは思い出しながら苦しそうにその内容を絞り出す。
想像以上に重い過去を聞き、タバサは意外そうに彼を見る。
「私には堪えられなかった……見てられなかった……それに不安にもなった……だから……」
「ルイズ、もう良い……大丈夫だから」
辛そうに語る彼女をイノセンスは抱き締め、言葉を止める。
彼からしても、自分の事で誰かが悲しむのは嫌だった。
「それは昔の話だ……もう引きずっていやしない、それにその後は見てないんだろ?」
「? ええ……」
それを聞き、イノセンスは笑う。
「あの後しばらくは一人だったが……奇妙な縁で弟子が出来たんだ、その子に結構促されてからやっとこさ、仲間たちと合流する決意をしたよ」
「そ、そうなんだ……てっきりずっと一人で生きてきたのかと……良かった」
彼の言葉にルイズは安堵した。
「と言うより、結がいる時点で一人で無いことは分かっていたろうに」
「焦りすぎ」
「う、うるさいわね!それでもあんなの見たら心配するに決まってるじゃない!バカ!バカ!」
照れ隠しにイノセンスの胸を叩くルイズ。
イノセンスは苦笑しながら彼女から離れる。
「二人とも、もう着いた」
タバサがイノセンスと、ルイズに声をかける。
ふとルイズが気づく。
「あれ?そう言えば私たち何処に何しに向かってたの?」
「ああ、そう言えば言ってなかったな」
「仕事でこの場所まできた……内容は魔物狩り」
「……何の心の準備も無いまま、私初の実戦なの?」
ルイズは二人の言葉に肩を落とした。
今回の依頼内容は、奇しくも先程の話題に上ったコボルドの排除。
イノセンスはデルフリンガーを実体化させる。
『ひゃあ~、やっぱ情報化ってのは何か変な気分だなぁ、聞こえはするけど喋れはしねぇから寂しかったぜ相棒!』
「悪いなデルフ、結構真面目な雰囲気だから、お喋りなお前を出してると話が拗れると思ってな」
『だ、大丈夫だぜ?俺っち空気よむぜ?』
「(不安だからしまったんだがな……)」
デルフリンガーの微妙な返しにイノセンスは苦笑する。
一方で、ルイズはアイアンレイピアを握り緊張していた。
「ぞ、存外緊張するものね」
「……落ち着かないと手元が狂う」
「わ、分かってるわよ!」
諌めるタバサに焦って返すルイズ。
そのままタバサは敵のアジトを示す。
「あそこから出てきた、それが被害者の証言」
「場所が分かってるなら、さっさと終わらすか」
『よっしゃ、頑張るぜ!相棒の主の娘っこ!』
「ええ!やってやるわ!貴族は引かない!前進あるのみ!」
覚悟を決めたルイズを含め、全員でアジトの洞窟に入っていった。
中は元々人が坑道のために掘った場所らしいが、鉱物が取れなくなり放棄されたために、コボルド達が目を付けたらしい。
「クアアアッ!」
「これでぇっ!!」
飛びかかってきたコボルドにルイズはソードスキル<リニアー>をカウンターで発動し刺し貫く。
ゲームにおいてなら血のエフェクトの簡略化やHPの存在により、視覚的刺激は少ないが、ここはリアルのファンタジー世界ハルケギニアだ、それでソードスキルを使おうものなら中々派手な光景になる。
「グギャアアア!……」
「……てい!」
死体を投げ捨てるルイズ。
最初こそ殺すたびかなりキツそうな顔をしていたが、今は大分慣れたのか、そこまで抵抗感や吐き気は無くなっていた。
「<ウィンディ・アイシクル>」
「ギギギギィ!!」
タバサは風と水の複合魔法<ウィンディ・アイシクル>で氷の矢を降らせ、複数体の敵を貫く。
その時背後から近づいてくる気配を感知したため、タバサはバッティングポーズをとる。
「<ヘヴィスウィング>」
「!? ガァーーー!!」
襲い来たコボルドにソードスキル<ヘヴィスウィング>を当てて、かっ飛ばすタバサは心なしか笑って見えた。
『相棒、娘っこらは問題なかったみたいだな!』
「みたいだな……しかし死体が残るのは流石現実だな……」
イノセンスは既に周囲のコボルドを狩り尽くしていた。
しかし、いくら戦い慣れていても、やはりリアルとゲームは感覚が違うため、いくらか抵抗感はあった。
「今ので最後?」
「分からない」
「まだ、探索は終わってないからな……しっかり奥まで」
『グオアァァァァァァァ!!!』
ルイズの質問にイノセンスが答えようとしたその時、奥から狂暴な叫び声が聞こえた。
『相棒』
「ああ、二人とも気を引きしめろ……今までとは別格だ」
「言われるまでもないわよ!」
「分かった」
三人は奥へと進むと巨大な空洞があり、その奥に巨大な影が鎮座していた。
「! イノセンス、このモンスター!」
「ああ……久しぶりだな、<イルファング・ザ・コボルド・ロード>」
「……フシュウ……!」
向こうもこちらを覚えているかのように、イノセンスを見たコボルド・ロードは鼻息を吹き、睨み付けてくる。
その手には既に野太刀をもっており、全力攻撃姿勢である。
「タバサは後方から魔法で援護!ルイズは<スイッチ>を頼む!」
「了解」
「分かった、<スイッチ>ね!」
先程の戦闘中、攻撃する人間が細かく入れ替わる戦法<スイッチ>をイノセンスから習っていたため、実践する良い機会だった。
「<ジャベリン>」
タバサは氷の槍を作り出し、飛ばす。
コボルド・ロードはそれを野太刀で切り払ったが、それが隙を生む。
素早く駆け寄り、イノセンスは払った野太刀にデルフリンガーを当てて弾く、大きな隙を狙いルイズがリニアーで追撃、それなりにはダメージが入ったが、ルイズのレベルではコボルド・ロードはかなりの格上。
向こうは余裕な表情だ。
しかし、タバサがここぞとばかりに魔法を使う。
「<アイスストーム>」
氷の粒を纏った竜巻は、コボルド・ロードを襲い、視界が封じられ、かなり動きづらくなる。
しかし、彼は王、ボスとしての意地で野太刀によるソードスキル<浮舟>で空中に飛び上がり、アイスストームから脱する。
しかし、それが彼の敗因だった。
「!?」
「よう、よく来たな」
『歓迎するぜぇ!!』
イノセンスは予測して既に飛び上がってコボルド・ロードの前にいた、そのままソードスキル<絶>を発動し、残像を纏いながら王を切り刻み地に落とす。
「トドメいけ、ルイズ」
「これでホントに……最後よぉ!!」
渾身のリニアーがコボルド・ロードを貫く。
牙の王はその一撃によりHPがゼロになり、光の結晶になり爆散した。
「き、綺麗……」
「……」
二人はその美しさに見とれていたが、イノセンスは別の事を考えていた。
「どうやらSAOから来てるのは、俺だけじゃなさそうだな……」
『どういうこった相棒、心あたりがあんのか?』
「まあな……こんな奴を配置出来るのはあの男ぐらいだしな」
イノセンスは瞳を閉じ、この世界に来る前の会話を思い返していた。
『私たちの理想を君に託す……<また会おう>』
「ったく、本当にまた会う事になりそうだな……<茅場>」
この場にはいない、しかし頭に焼き付いて離れない男に、イノセンスは呟く。
「ちょっとイノセンス!このラストアタックボーナスってなに!?」
「っと、それはボスに最後の一撃を入れた奴が確実に貰えるレア装備またはアイテムだ」
「へぇ……どれどれ!どんなのかしら!」
イベントリから選び、装備してみる。
すると、エメラルドの刃に、銀の装飾と鍔、柄をした豪華な細剣であった。
「<ラムゲイル>……格好いい!これ気に入ったわ!イノセンス!」
振るたびに光輝く碧の刃が残す軌跡、そして外観の美しさにルイズはすっかり虜だった。
「ははっ、良かったな……アイアンレイピアから大出世だ」
「……」
「……ん?」
ルイズを見て笑っていると、何やら後ろから引っ張られた感覚がしたため振り返る。
そこには、無表情だが瞳が潤み、感情を隠しきれていないタバサがいた。
「……分かった、次ボスにあった時はタバサが取れ」
「……絶対だから」
そう言ってタバサはイノセンスに寄りかかる。
そんなタバサに苦笑しながら頭を撫でるイノセンス。
坑道の中で、しばらく風を切る音が止まなかったと言う。
一方、学院ではトラブルが起こっていた。
夜の本塔前で結は巨大なゴーレムと対峙している。
「パパのいない間に盗みに入るとは……何者かは知りませんが、この私が目の黒い内は許しませんよ!!」
「くそ!あの化け物が出掛けたから盗みに入ったのに、このガキが残っているとはね!」
結に対する女はフードで顔を隠し、正体がうかがい知れない。
ゴーレムを操る女の手には杖と箱があった。
「まあ良いさ!少し勿体ないが、命が惜しいしね……悪いが引かせてもらうよ!」
女は何と、メインメニューを開き、箱をイベントリにいれ、回廊結晶を取り出した。
「逃がしません!!」
結は一瞬驚いたが、直ぐ様矢を放つ。
凄まじき速度のそれを、女はぎりぎり反応し避け、冷や汗を流す。
「おお、危なかった!だが賭けはあたしが勝った!さらば!」
笑った女は回廊結晶で去ってしまった。
「ああ!そんなぁ!……ご、ごめんなさいパパァ!うわぁぁぁん!!」
賊を捕り逃した結は、自責で泣き出してしまった。
騒ぎを聞き付け、ようやくたどり着いた貴族達が調査した結果、厳重な宝物庫の扉がどうやったかは分からないが解錠されており、中からとある宝が盗み出されていた。
そして、宝物庫にはこんな紙が残されていたらしい。
『お宝<世界の種子>確かに頂きました フーケ』
ルイズがゲットした<ラムゲイル>は、ラムがフランス語で刃、ゲイルは英語で烈風(フランス語にしたかったけど格好いい響きじゃなかったため英語に……)を意味しています。
要約すると<烈風の刃>です、彼女の母が烈風の騎士姫故の命名(おおげさ)です。
次回はフーケとの対決です。