ラブライブ! Another オッドアイの奇跡   作:伊崎ハヤテ

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錦 一は自分の気持ちを星空 凛に伝えることを決意する。
一の足は始めて凛と出会った公園へと向っていた。
そこで凛と会えると感じて――


恋のシグナル

錦 一の足は公園へと向かっていた。ただ彼女、星空 凛に会いたいと思っての行動だった。

 携帯で「会いたい」などといった連絡を彼女に入れるのも手だと思ったが、画面に移る彼女の名前を見ただけで画面を押す指が止まってしまう。情けなさでため息が出る。

 辿り着いた公園は夕方という時間帯があってか、遊んでいる子供はいない。誰もいない公園に一はふっと息を漏らし、ベンチに腰を落とした。

 ここに居れば、彼女に会えるんじゃないか、そう思い彼は待った。誰もいない公園でずっと待ち続けた。虫の音色が次第に辺りに木霊する。

 夕陽が沈み、橙色と藍色が混じりつつある空。そんな空を見て、一は苦笑いする。

 今日は帰るか、と腰をベンチから上げた所で鳴き声が一つ。

 

 なう

 

 目の前を見れば真っ白な猫が一匹。ちょこんと行儀よく座って一を見つめている。その猫に一はまさかな、と思いながらも歩み寄る。猫は一が近づいても逃げる素振りを見せなかった。

「お前に会うのも久しぶりだな」

 一は猫に対して笑いかける。一を見る猫の瞳は金銀のオッドアイズ。凛と出会った時に現れた猫だ。

「お前に会って、そこから始まったんだよな」

 猫の頭を撫でる。猫は逃げることなく目を細めてそれを受ける。猫に対して一は続けて喋る。

「星空と、凛と出会って、俺は――」

 すると突然猫は何かに反応したように一に背を向けて茂みに突っ込んだ。茂みがガサリと蠢く。揺れては止まり、揺れては止まりの繰り返し。その揺れ幅は猫が出すものとは思えない程の大きさで。その茂みから聞こえる元気いっぱいの声。

「あれ~? 猫ちゃんどこいっちゃったニャ? 出ておいで~」

 声の主は茂みから立ち上がる。短い橙色の短髪。まん丸に近いレモン色の瞳。それが一の姿を捉えると更に丸く見開かれる

「あ! はじめちんだニャ!」

「よう、星空」

 凛は茂みから出て一に問いかける。

「ねね、はじめちん。白い猫ちゃん見かけなかったニャ?」

「いや、そっちの茂みに逃げ込んだと思うんだが……」

 茂みの方に視線を向けるが、もう茂みはぴくりとも動かない。凛はしょんぼりとした顔を上げて笑う。

「じゃ、じゃあ凛、猫ちゃんを捜しに行くニャ!」

「あっ!」

 凛はくるりと背を向ける。行って欲しくなくて、もっと話がしたくて、彼女の手を一は握った。

「えっ……?」

 その行動に凛が振り向く。その頬は夕陽にも負けず劣らず赤い。

「はじめちん……?」

「えっとだな……」

 何と言って彼女を引きとめようか、視線が揺れ動く。そしてその目先は凛の膝小僧に辿り着く。

「お前、また四つん這いになって猫探してたのか。今度は血が出てるぞ」

「あ、えへへ、猫探すのに夢中になっちゃったニャ!」

「絆創膏貼ってやる。ベンチに座るか」

 凛の手をそのままにベンチまで一は連れて行く。握った手の熱さを誤魔化すように凛は苦笑いしていた。

 

 ベンチに凛を座らせ、一は屈んだ。バッグから消毒液と絆創膏を取り出し、彼女の両の膝小僧に処置をしていく。

「ほぇ~、はじめちん上手だニャ!」

 頭の方から聞こえる声に顔を上げずに答える。

「学校じゃ保健委員やってるからな、仕事柄持ってるのさ。もっとも相手は男子だけだけどな」

 保健委員なんて嘘だけどな、と一は心の中で呟く。本当は、再び彼女が怪我していた時にちゃんとした手当が出来るように持ち合わせているなんて言えるはずもなく。一は苦笑いしながらもう片方の膝小僧の処理を終えていく。

「終わったぞ、仮にもアイドルなんだからもう少し自分の身体は――」

 労れよ、と続けようと見上げると凛と目が合った。いつもの元気いっぱいのまん丸な瞳とは少し違う、彼女を抱き寄せてしまった時の目。

「ありがとう」

 そのいつもと違う様子の声に一の心臓はドクンと音を体内に轟かせる。顔が紅葉していくのが解り、その瞳から逃げるようにベンチに座る。一の慌てた様子を見た凛が自分の表情に気付いたのか更に顔を赤らめる。互いにそっぽを向いて沈黙した時間が続く。

「あのね、はじめちん」

 一が口を開こうとした時、凛がそれを遮る。

「この間はごめんね」

「この間って?」

 謝罪の理由が解らず、聞き返す。凛は言いづらそうに視線を斜め下に落とす。

「はじめちんとかよちんが一緒に公園に来た時ね、凛のここがちくりとしたんだ」

 彼女は自分の胸に手を当てながら続ける。

「どうしてはじめちんの隣にかよちんがいるのって、そこにはいつも凛がいたのにって」

 凛の目尻が垂れ下がり、茂みに視線を向けたまま凛は話す。

「ちょっと悔しかったから二人のこと、からかっちゃったニャ。言い返したはじめちん、少し怒ってたみたいだし。だから、ごめんね?」

 本当に申し訳なさそうに見つめられる。そのいつもと違う瞳に一の心臓は早鐘のようになっていた。

「そ、そんなに気にすることじゃないさ。今日はやけに真面目だな」

 その脈動を誤魔化そうとしてみる。しかし凛の表情は変わることはなかった。

「凛ね、自分の――、自分に正直になることにしたんだ」

 凛は言葉を選び直しつつ、真っ直ぐな眼で一を見つめる。

「あのね、凛、はじめちんと一緒にいるとすっごく楽しいんだ! この公園で遊んだり、一緒にラーメン食べにいったり!」

 最近の出来事を本当に嬉しそうな笑顔で語る凛。それを見る一の口元も緩くなる。

「最初のライブの時も、ステージからはじめちんがいるってわかると、身体からぶわーって嬉しいって気持ちとパワーが湧いてきたんだ! はじめちんに見て欲しいって思うから、凛はステージで全力で歌って、踊れたんだ」

 ふと一の脳裏にライブでの凛が過る。あの表情、ダンス、歌が自分に向けて放たれた物だと言われ、嬉しさがこみ上げる。

 そんな一の表情を読み取ることなく、凛の独白は続く。

「あの時、はじめちんにぎゅってしてもらった時、凛ね、すっごくドキドキしてたんだ」

 さっきまで元気いっぱいに話していた彼女の表情は変わっていた。とろんとした、恋する女の子がする表情に。

「それからのライブでも、はじめちんがいるかどうかいつも踊りながら眼で追っちゃうんだ。それで見つけると、心臓がすっごいドキドキして、こんなにドキドキしてる凛を見てって踊り続けたんだ」

 顔を夕陽の様に赤く染めながら、凛は一に向き合う。

「り、凛にとって、はじめちん、が特別な人になったんだと、思う……」

 特別な人、その言葉にドクンと心臓が動く。凛は一つ大きく息を吐くとにゃはは、と苦笑する。

「可笑しいよね。凛は、女の子らしくないし、はじめちんもそう思うよね?」

 苦笑いする彼女を見て、一は大きく息を飲み、腹を決めた。

―ここまで言わせといて、黙ってるわけにはいかないな―

「可笑しくねえよ」

「え?」

 彼女の声が漏れた時には一は凛を抱きしめていた。凛はそれを慌てた様子でじたばたする。

「え? え? ちょっと、はじめちん?」

「人を好きになるのに、女の子らしいもらしくないもあるか」

 身体を離し、凛の両肩に手を置く。未だ狼狽する凛の眼をじっと見つめる。

「俺にとっても星空は、凛は特別な女の子なんだよ」

 それを聞いた凛の顔は夕陽そのものの様に赤い。息を飲む凛に一は自分の想いを告白する。

「ステージで見た凛は、本当に楽しそうに踊ってた。そんな元気なお前を見ているのが俺は大好きなんだ。それだけじゃない、俺の隣で、踊っている時にも負けない笑顔を向けてくれるのが嬉しくて堪らないんだ」

 両肩に置いた手を凛の腕伝いに下ろし、彼女の手を握る。凛は成されるがままに、少し呆けた表情で一を見つめる。一はふっと息を吸い込むとゆっくりと言葉にした。

「俺は凛が好きだ。凛と笑って毎日を過ごしたい。もっと俺の傍に、一緒にいてくれないか」

 その言葉を聞いた凛の瞳から雫が零れ落ちる。そして凛の方から一を抱きしめた。

「うん、ありがとう、はじめちん。凛を、はじめちんの彼女にして?」

 凛の言葉が一の全身に染入る。嬉しさがこみ上げて彼女を抱き返す。暫く互いに抱き合い、少し身を離す。

「えへへ」

「はは」

 互いを見つめ合い、自然と笑顔になる。凛は顔を赤らめながらも上目遣いで覗きこむ。

「じゃ、はじめちん。誓いのキスしよ!」

「キ、キス?!」

 その単語に自分でも予想外の声が出る。頬が赤くなるのを感じる。凛はそんな一を見てにやりと笑う。

「あるぇ? もしかしてはじめちん恥ずかしいのぉ?」

「な、そんなことは!」

「照れちゃってぇ~! はじめちんもかわいいとこあるニャ!」

「こいつぅ」

 煽られた一はそんな凛の額にデコピンしてやる。凛はニャ~と痛そうにそこを押さえる。

「痛いニャ~! 暴力彼氏だニャ~!」

「おま、そういう人聞きの悪いこと言うなよ」

 わんわんと泣く凛に嘘泣きと解っていながらも一は戸惑ってしまう。そんな一を凛はにんまりと笑いながら顔を突きだす。

「じゃあ、お詫びにちゅーして?」

 凛は唇をつきだし、眼を瞑る。

「わかったよ。いくぞ?」

一は苦笑いしながらそれに応える。

「ん……」

 凛の小さな声と共に一の唇に柔らかい感触が伝わる。それは一瞬だったのか、一分もかかっていたのか、互いに顔を離す。凛の蕩けたレモン色の眼が愛おしくて、彼女の頭を撫でる。

「えへへ。なんかはじめちんにこうしてなでなでしてもらうの、気持ちいいニャ」

「そうか? じゃあ幾らでも撫でてやるよ。これからもな」

 うん、と凛は嬉しそうな表情をすると突然大声を出す。

「そうだ! はじめちん、ラーメン食べに行こ!」

「ラーメン?」

「そうニャ! あのお店、カップルで行くと、特別なラーメンを出してもらえるんだ! 二人で食べよ?」

「付き合って始めての食事がラーメンか。俺達らしいな」

「うん! そうと決まったらいっくニャー!」

 一は差し出された手を取り、それを握った。凛がひっぱるのではなく、隣に、並んで。凛もそれが嬉しいのか、いつもとは全く違う輝きの笑顔であった。

 

 なう

 

「ん?」

 ふと一の耳に鳴き声が届く。後ろから呼ばれた気がして、足を止め、振り返る。しかしそこには誰もいない。

「どうしたの、はじめちん?」

 凛の声で我に返った一は少し笑うと、なんでもないと返した。

「急がないとラーメンが逃げちゃうニャ!」

「ラーメンは逃げねえよ」

 再び並んで歩きだす。一の頭の中には先程の声の主のシルエットが浮かび上がっていた。スラリとした白毛の身体。金銀の眼。そいつに対して脳内で呟いた。

 

 ありがとう

 

 それから、一と凛は度々あの公園に訪れることがあったが、あのオッドアイの猫を見つけることは出来なかった。

 




遅くなりました。お気に入りに登録して下さった方々、申し訳ありません。かなり頭を捻ってこの回を作りました。一が凛ちゃんを好きな要因(?)は私自身が凛ちゃんを好きな理由をそのままに書きました。Music S.T.A.R.T!!で元気いっぱいに踊る彼女に惚れました。ちょっと主人公に自己投影しすぎかな?
この凛ちゃん編も次回で最終回になる予定です。あまり付き合った後の話は書かない方針です。ちょっとしたエピローグですね。なんというか、カップルのノロケとか見ても面白くないですよね? 皆さんが読んでみたいと思うなら、多めに書いてみようと思います。ご意見ご感想よろしくお願いします。

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