ラブライブ! Another オッドアイの奇跡   作:伊崎ハヤテ

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凛のことが好きだと知った一。その「好き」をどうするかで思い悩んでいた。そんな中、ある人物に背中を押される。


花に託されて

錦 一は神田明神の境内にいた。一人で考えたいと思うと何故かここに足を運んでいた。境内は夕日の色に染まり、だんだんと薄暗くなっていく。

 ほぼここで考えることは一つだけ。星空 凛のことだった。あれから、自分が彼女の事が好きだと悟ったあの日から二ヶ月。一はμ’sのライブにほぼ毎回顔を出していた。そこで見るのは凛の顔。嬉しそうに楽しそうに踊る彼女ばかりを目で追いかけていた。それに集中しすぎて四葉木たちの声も届かない位だった。

「どうすればいい……」

 勝手に言葉が口から出ていた。自分が凛を好きな気持ちは偽りようのない事実だ。一はその気持ちをどうするかで悩んでいた。相手はスクールアイドル。仮にもアイドルだ。  自分の想いを伝えて彼女の心を乱してしまったら、乱した結果普段のパフォーマンスをライブで出来なくなってしまったら。自分のせいで彼女を駄目にしてしまったら。もしも断られてしまったら。そんな考えが一を苦しめる。

「凛ちゃーん」

 苦しみに悶える彼の耳に女の子の声が届く。人を探しているような声は外から聞こえるようだ。一の足は不思議とその声のする方へ向いていた。

 神田明神から出るとその声の主と出会った。薄茶のセミロングの髪。それを振り乱しながらきょろきょろと辺りを見回している。何故か彼女は通学鞄を二つ両肩にかけていた。薄い桃色の瞳は探し人が見つからないからか、少しうるうるしていて。

 一は彼女の顔に心当たりがあった。小泉 花陽。μ’sのメンバーの一人だ。四葉木の情報によれば、彼女の少し臆病な所が護ってあげたくなる魅力の一つらしい。

 一は思い切って声をかけてみた。

「小泉さん?」

「ひ、ひゃあぁぁ?!」

 一が声をかけるとその女の子はびっくりしてその場で飛び上がった。

「え、えと、えと、ごめんなさい! 私、人を探してて……。耳触りだったらごめんなさい!」

 必死にこちらに頭を下げてくる。そんな彼女に一は苦笑いする。

「別に怒ってるわけじゃないさ。何と言うか、知りあいの名前を聞いた気がするから」

 一の言葉に花陽は再びオロオロする。

「あぁ、すいません。友達とはぐれちゃって、探してるんです……」

「その探してる友達って、もしかして星空 凛のことか?」

 一が凛の名前を出した途端、彼女は息をのんだ。

「そうです! 凛ちゃん、花陽が目を離した時にどこか行っちゃったみたいで。必死にあちこち探してるんです……」

 再び彼女の瞳がうるうると滲む。一はまたあいつ猫を追いかけたな、と呆れた。

「俺、星空が行く場所に心当たりがあるけど、案内しようか?」

 それを聞いた瞬間、彼女の表情が明るくなる。

「本当ですか! 是非お願いします!」

 彼女はぺこりと頭を下げた。

 

「そういえば、小泉さんとは一度会ってるよな」

二人並んであの公園までの道を歩く。その道中で一は思い出した。凛と始めて会った時、彼女を探しに来ていた女の子を。

「あ、そうでしたね。あの時は凛ちゃんがお世話になりました」

 歩きながらぺこりとまた頭を下げられる。そんなに大したことはしてない、と一は笑った。

「あの時、自己紹介してませんでしたよね。私は小泉 花陽です」

「俺は錦 一。近くの男子高に通ってる一年さ」

一の名前を聞くと花陽は目を丸くした。

「一さんって、あの一さんですか?」

「ごめん、質問の意味が解らないんだけど」

 彼が反応に困っていると、花陽は苦笑いする。

「ごめんなさい。いつも凛ちゃんが話してるから、どんな人なのかなーって」

「あいつが、俺の事を?」

 その事実を聞いて、一の鼓動が脈動する。凛が自分のいないどこかで自分の事を話している。嬉しさと共に不安が駆け巡る。思い切って聞いてみる。

「あいつ、俺の事何て言ってるんだ?」

 花陽はんー、とオレンジ色の空を眺めながら考えている。そしてはっと思いだしたように口を開いた。

「面白い人、かな?」

 凛を意識していたせいか、その答えに苦笑した。しかしまだ花陽の答えは終わらない。

「ボケたらちゃんとツッコミを入れてくれる人、煽ると簡単に反応してくれる人。それから――」

「もういい。ありがとう」

 花陽を制止し、頭を抱える。もうただの芸人じゃねえか。あとでアイツを少しシメておくか、と考えていた矢先、花陽は微笑んだ。

「でも、あなたのことを話す凛ちゃん、すっごく楽しそうで、嬉しそうでしたよ。あなたのこと、大好きなんだなってわかっちゃいました」

 大好き、という言葉に一の鼓動はどくんと大きく響く。それだけでなく、顔が火照っていくのが解る。顔が熱い。そんな一の様子を見ていた花陽は柔らかく笑う。

「メンバー以外の人のことをあんなに嬉しそうに喋る凛ちゃんは始めて見たなぁ。だから、一さん」

 花陽は改まって一の方を向く。その真っ直ぐな姿勢に、思わず一も姿勢を正す。

「凛ちゃんのこと、よろしくお願いしますね?」

 少し頭を下げたあと、にっこりと笑う。その笑顔に、背中を押された気がして。

「ああ。任せてくれ」

 自然と返事を返してしまった。直後に恥ずかしくなって、この目の前の女の子をからかってやろうと一は思った。

「そういう小泉さんは誰かいないのか? 大好きって思える人は?」

 一の質問に花陽の顔はみるみる赤くなっていく。

「え、えええぇぇぇ?! い、いませんよぉ、そんな人! こんな花陽を好きでいてくれる人なんか……。でも、ちょっといいなぁって思っている人は……、あわわ、誰か助けてぇ……」

 慌てふためく彼女を見て、一は笑う。その笑い声につられて花陽も笑った。そんな彼らを沈みゆく夕陽は照らしていた。

 

「あ、かよちんみっけ!」

 一が花陽と公園に入った瞬間、その声は二人の耳に入った。その声の主は跳ねながらこっちに近づいてきた。

「凛ちゃん、バック持ってきたよ」

 花陽が凛の通学鞄を掲げると、凛は嬉しそうに彼女に抱きついた。

「わぁ~! かよちんいつもありがと!」

 凛は花陽に頬ずりをしている。抱擁を受けている花陽はやめてよぉ~、と言いながらそれを受ける。その光景に一は自分は邪魔者なんじゃないかとまで考えてしまう。その思考を凛の言葉が振り払う。

「あ、はじめちんも来てたんだ!」

 凛は花陽の頬から顔を離し、一の方を向く。一は彼女の嬉しそうなレモン色の瞳を直視出来ず、よお、とだけの挨拶になってしまった。

「お前、また友達を置いてきぼりして――」

「あぁ―!」

 凛の大声が一の言葉を遮る。声の主である凛は一と花陽を見てにやにやと意味ありげに笑う。

「そっかぁ、かよちんとはじめちんが一緒に来たってことはぁ、そういう仲だったんだニャ!」

「えぇ! 違うよ凛ちゃん! 花陽は……」

 花陽は少し顔を赤らめながらも声が小さくなっていく。そういう仲、その意味を理解した一は少しムッとする。

「ち、ちげえよ! 俺はお前を探してる小泉さんとばったり出会っただけだ! それに――」

 その先の言葉に詰まってしまう。俺はお前が好きなんだ、そう言えたら楽だと考えていた。しかし今言うべき言葉ではないとも一は考えていた。

 そんな一の想いも知らず、凛はにやにやと笑う。

「またまたぁ~ 凛から見れば、お似合いの二人だよ~? ベストカップルだニャ!」

「調子に乗るなっ」

 極力いつもの調子で凛の額にチョップを当てる。凛は目を瞑り、痛いニャ~、と押さえる。そして涙目になりながらもこちらを睨んでくる。

「はじめちんのばか! これで凛がおばかになったらどうするニャ!」

「あ、わ、悪い」

 ここで普通なら軽口で応戦している筈だったが、自然と謝罪の言葉が出ていた。凛も一の様子を不思議に思ったのか、一の瞳を覗きこんでくる。

「はじめちん、どうかしたかニャ? いつもと違うよ?」

「そ、そんなことないさ。俺は普通だ」

 一の答えを「うーん?」と疑いの眼差しで凛は見る。上目遣いのレモン色の瞳を直視出来ず、目を逸らす。すると凛はすっと一から離れていく。そして思い付いたように叫ぶ。

「あ! 凛、これから見たいテレビあるから帰るね!」

 一に背を向け、公園の出口へと走って行く。それを見た花陽は一に一礼すると、待ってよ凛ちゃん~、と駆けて行った。

 凛は花陽と出口で落ちあうと、一に向かってぴょんぴょんと跳ねながら手を振る。一もそれに黙って手を振ってやる。そして彼女達は一の視界から消えた。

 一人取り残された一は、先程の花陽の言葉が頭を過る。

 

「凛ちゃんのこと、よろしくお願いしますね?」

 

「よし」

 そう呟くと一は公園をあとにした。

 

 ●●●

 

 小泉 花陽は目の前を歩く星空 凛に声をかける。凛はこちらを振り向かず、なぁに、と聞いてくる。

「見たい番組があるから帰るって嘘でしょ?」

 ぴくっ、と彼女の頭が揺れ動く。顔が夕日の様に赤くなるのが、見える。それを誤魔化す様にこちらを振り向いてふにゃっとした顔で笑う。

「やっぱりかよちんには敵わないな~」

 その苦笑いが花陽には苦しそうに見えて。

「凛ちゃん」

 最近、自分に言って貰えた言葉が自然と口から出る。

「自分の好きから、逃げちゃ駄目だよ。自分の好きに正直に、ね?」

 にこりと笑って彼女に言いたいことを告げる。凛はその言葉に顔を赤らめながら、背を向けた。

「うん」

 そう言う凛の顔は、花陽から見て、恋する女の子そのものだった。

 




何と言うか、今回は難産だった気がします。一のキャラが自分でわからない方向になっています。凛ちゃんのことが好きな分、彼に自分自身を投影しているのかもしれません。なんとか更に形にまとめたいと思います。もしくは薄い本にある、男役(顔が殆ど映ってない奴)程度に楽しんで頂ければ幸いです。
 かよちんを本格的に喋らせました。かよちんの外見って表現しづらい。髪の毛の長さが微妙ですよね。セミロングでいいのかな? 彼女が最後に言ったセリフ、これが花陽をメインヒロインにした話の複線ということで。
 この作品はあと一、二回でフィナーレを迎えると思います。次回はどの子で話を作ろうか考えてます。どなたかご要望があれば御意見お願いします。

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