ラブライブ! Another オッドアイの奇跡 作:伊崎ハヤテ
ラーメン屋での会話で自分自身を振り返ることに。
凛にライブに来ないかと誘われ、彼は一つの決心をする。
「ミューズ? 石鹸か何かか?」
錦 一はラーメン屋で口を開いた。向いの席には、最近友達になった星空 凛が拗ねる。
「違うよ! μ’s! 凛はそのメンバーなの!」
彼女の説明によると、音ノ木坂を廃校の危機から救う為に九人の女の子が結成したスクールアイドルユニット。凛はそれに所属しているらしい。
スクールアイドル、その響きに一はぴんとこなかった。そもそも一の通っている学校は男子高なので、そういった類には無関係だった。
「あっれぇ、もしかしてはじめちんこういった情報に疎いかニャ?」
凛は口を猫のようにして煽ってくる。表情が豊かで面白い奴だな、と思いつつその煽りに乗ってやる。
「しょうがないだろ、俺は男子高に通ってるんだから、そういった情報は入ってこないんだ」
そう言いつつもふとした考えが脳裏を過ぎる。
――情報が入ってこないわけじゃない。ただ俺がスクールアイドルに反応する他の生徒の声を聞いてなかっただけかも知れない。星空の言う通り、俺が疎いだけなのでは――
「はじめちん、もうラーメン来てるよ?」
我に帰ると眼の前にはとんこつラーメンが。その脂ぎった匂いに邪推が払われる。
「ああ、じゃあ頂きます」
一が箸を割ると、横から野太い声が「おまち」と凛の眼の前にラーメンを差し出した。そのラーメンを見てむせる。
「ちょ、おま、何だそのラーメンは?!」
器にたっぷりと積まれた大量のもやしでスープ所か凛の顔も見えない。もやしの塔の反対側で凛は答える。
「この店の裏メニュー、『ギガント・もやし』ニャ! 練習の後のこれがうまいんだ~」
説明している間にうず高く積まれたもやしの半分はもう彼女の口の中に消えていた。もやしを摘まみ、口に運んでいく。嬉しそうに租借し、飲み込むとほっこりとした表情をする。そしてまたもやしを摘まむ。
そんな幸せそうに食べる凛を見て、一も改めて麺を口に運んだ。
――こいつといると、何か面白いな――
その時食べたとんこつの醤油ラーメンは格別うまかった。
「おいしかったよ。ごちそうさま」
ラーメン屋の外で凛に礼を言う。すると凛は嬉しそうに頭を掻く。
「凛はただ友達とラーメンを食べただけニャ。でも嬉しかったニャ! こーやって誰かと一緒にラーメン食べるの!」
少しだけ寂しそうな表情をする凛に一は問いかける。
「μ’sのメンバーで食べに行ったりはしないのか?」
彼の問いに凛は人差指を頭に当て、んー、と考えながら答える。
「メンバーの皆と全員で行ったことはないかニャ。にんにくとかが苦手な人もいるし。かよちん誘ってもダイエットしたいから、って一緒に行くことはあまりないんだ」
凛は寂しげな表情をするが、すぐに明るい顔に戻る。
「あ、でもね、全くないわけじゃないんだよ! たまにかよちんも一緒に食べてくれるし、最近では真姫ちゃんも付き合ってくれるしね、今日もはじめちんがいてくれたし!」
明るい笑顔で恥ずかしいセリフを言われ、一は照れ臭くなって顔を逸らす。すかさず凛は煽りの追撃を繰り出す。
「あ、照れてる、照れてる!」
「やかましい」
顔を寄せてきた凛の頭に少し強めにチョップを入れる。凛は痛いニャ~と、頭を抑える。
「はは」
「えへへ」
互いに可笑しくて笑みがこぼれる。暫くの間笑い合う。ひとしきり笑うと凛は携帯を取り出す。
「あ、そだそだ。はじめちん。メアド交換しよ!」
いきなりの彼女の提案に一に緊張が奔った。
「構わないけど、いいのか? アイドルが男とアドレス交換して?」
「大丈夫ニャ。凛達はスクールアイドルニャ。本物のアイドルじゃないから問題ないよ~」
それもそうか、と一は自分の携帯を差し出す。アドレスの交換にはそれほど時間はかからなかった。
「あ、それと一週間後、凛達ライブやるんだ!」
「ライブ? もうそんな所まで発展してるのか」
凛の説明によると、一週間後に控えた音ノ木坂学院の学校説明会にμ’sのファースト・ライブを当てるらしい。そこで知名度を上げ、母校に興味を持って欲しいとのことだ。
「しかし、女子高の説明会に男の俺が入れるのか?」
一の疑問に、彼女は頭を捻る。
「んー、はじめちんが女装して来ればいいんじゃない?」
「俺に女装しろってのか」
苦い顔をしていると凛は一の顔を覗き込む。うーん、と言いながらレモン色の瞳がじっと見つめている。
「大丈夫! はじめちんは女の子っぽい顔してるから問題なく入れるニャ!」
「うわ、嬉しくねえ!」
「さて、冗談はさておき……」
「冗談なのかよ!」
漫才のような会話をしていると彼女は鞄から一枚のチケットを取り出した。それには『ライブ招待券』と書かれている。
「これがあればライブを見る事が出来る筈ニャ。だから必ず来てね!」
半ば押し付けるようにその券を差し出す。一がそれを受け取ると、凛はくるりんと背を向ける。
「じゃあ凛、見たいテレビがあるから帰るね!」
「ああ。券、ありがとうな。出来たら見に行くぞ」
「絶対だよ! まったニャ~」
そう言うや否や、彼女は夜の街を走っていった。一はその背中をずっと見ていた。
凛と別れた後、一は夜の秋葉原を歩く。電気の街は夜でも少し騒がしく、異質な雰囲気を出している。ふと彼は自分のことを振り返る。
――刺激を求めていたのだろうか、俺は。学校に通い、授業を受ける、ただ毎日同じことの繰り返し。それに飽きてしまった。そこで得るであろう友好関係も、どこにでも有り触れた代物になってしまう。だから友人をあまり作らなかった。あまり波風立てない様に過ごしてきた――
凛の顔が浮かぶ。最近知り合った女の子。ここ数日で仲良くなった女の子。彼女との会話は、学校での学友とのそれとは違い、弾んでいた。自然に自分自身も笑顔になっていた。どうしてそうなるのか、彼は不思議に思った。
――あいつには俺を、人を明るくさせる何かがあるのかもしれない。夜空を輝く、星の様に――
一は夜空を見上げるが、電気街の光のせいで星は一つも見えない。
「行ってみるか」
一は自分の鞄を担ぎ直すと、足早に夜の電気街を歩いていった。
前回の投稿からすぐ創作意欲が湧き、投稿しました。
前回の投稿に関して感想を頂きましたぁ!(なんじょる風に)
感想をくれた方本当にありがとうございました!
主人公が掴みにくいと言われました。その件に関してはその通りです。
なんというか、ギャルゲーの主人公のように、読み手の方=一くんという感じで書いていました。でも少しでも感情移入して欲しいので、日常に飽きてしまった、渇きを求めるキャラみたいに作りました。こんな感じでいいかな?
もしも凛ちゃんとの物語を書き終えたら、残りのμ'Sのメンバーとの逢瀬を書いてみたいな~
と考えています。
誰を書いて欲しいか、ご意見おねがいします。