ラブライブ! Another オッドアイの奇跡   作:伊崎ハヤテ

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錦 一は星空 凛と出会った公園に再び脚を向けていた。
彼女にまた会えるかもしれない、そう思って入った公園のベンチには――


隣で寝る君は

錦 一は学校での授業を済ませると早々と校舎を出た。あの公園に行ってみようかな、と考えての行動だった。もしかしたら、あのオッドアイの猫が、星空 凛がいるかもしれない、そう期待していたのかもしれない。

「俺も物好きだな」

 そう口から零れる。あんな友人をほったらかしにして猫を探しに行くような、語尾が猫っぽくなってる女の子に会える、そう思うと公園への足が速くなっている気がして。あの子と話したあの時間が何故か忘れられなかった。

 どうしてだろうな、と不思議に思いながら公園の入り口に着いた。すると足元からなうと一声。

 視線を落とすと猫が一匹。白い毛に金銀の瞳。あのオッドアイだ。

「どうしたお前、あの子に会ったか?」

 屈んで猫に問いかける。猫に話しかけるなんて末期かもな、と苦笑いする。こっちの声を理解したのか、していないのか、猫は後ろを向いた。自分が来た方向を示すように。ふっと鼻で答えられた。もう付き合いきれない、と言いたげな声だった。

「まさかな」

 公園の奥から視線を目の前に戻す。しかしもうあの猫はいなかった。辺りを見渡しても猫一匹もいなかった。

「行ってみるか」

 頭を掻きながら公園の中へ足を踏み出した。

 

 

「……」

 一はこの間自分が座っていたベンチにいる少女を、顔を引きつらせながら見つめていた。短く整えられた橙色の髪。星空 凛だ。一が会えるといいなと、思った女の子が眼の前にいる。ベンチに横になって。

「なんでこんな所で寝てんだコイツは……」

 頭を抑え、ため息が出る。呆れから出た疲れが一をそのベンチに腰を下ろさせた。

 一が腰を下ろしても彼女は眼を覚ますことなく、小さく寝息をたてている。凛は鞄を枕にして眠っている。時折脚が動く。スカートからすっと伸びる脚が夕日の陽を受けて、何故か一の心臓を高鳴らせた。直視できず、視線を彼女の顔に移す。夢でも見ているのか、口元がにやけている。その寝顔を見ていると起こすのも躊躇われた。

 一は手を伸ばし、彼女の髪を撫でる。サラサラとした触り心地。そんな髪をすっと梳かしていく。

――何やってるんだ俺は! こんなことしたら起きるに決まってる!――

 そう心が危険信号を出しているのにも関わらず、髪を梳かす手が止まらない。

「――っくし!」

 そんな彼の手を彼女のくしゃみが止めた。思わずびっくりして手を引っ込める。そのまま彼女の様子を確かめるが、起きる気配は一向にない。

 これ以上近くにいるのはまずい、そう思い一度ベンチから離れようとした時だった。

「猫ちゃん……」

 凛の手が一のズボンを掴んだ。一のことを猫だと思い込んでいるのか、力が入っていて抜け出せない。

「やっと、捕まえたニャ……。もう離さないニャ……」

 そう呟く彼女の寝顔は笑みを含んでいた。そんな顔を見ているとますます離れることが出来なくて。ふっと笑うと、一は彼女を起こさないようにブレザーを脱いだ。

「ほら、風邪引くぞ」

 それを彼女にかけてあげる。これで一を意識させるスカートから伸びる脚線美もカットできるから一石二鳥だ、と微笑む。彼女がズボンを掴んでいるせいで動けない一はバッグに突っ込んであったペットボトルのお茶を取り出した。

 

 

「んにゃ……?」

 それから彼女、星空 凛が眼を醒ましたのは、夕日がとっくに沈み、公園のあちこちにある電灯が付き始めた頃だった。

「やっと起きたか。お前――」

「あぁ――っ!」

 一の言葉を彼女が遮る。起きたらいきなり男がいたら叫ぶのは当然かもしれない。慌てて弁解しようとすると更に凛は遮る。

「すごい、すごいニャ! 猫ちゃんがはじめちんになったニャ!」

「は? どういうことだ? てかはじめちんて俺のことか!」

 彼女の意味不明な台詞に頭を混乱させる。そんな彼の困惑を察したのか、凛は喋り始める。

「あのね、凛は今日も猫ちゃんを追いかけてたニャ。そしたら猫ちゃんがこのベンチ、今はじめちんが座っている辺りで丸まって眠り始めたんだ。凛は猫ちゃんと一緒に居たかったからその場で寝ちゃったんだニャ」

 またずいずいと顔を寄せて話しかけてくる。迫りくるレモン色の瞳に耐えきれず、その額に軽くデコピンをいれてやる。

「ニャ~」

「だからってこんな所で寝る奴がいるか。誘拐されたらどうするんだ。またお前の友人を心配させる気か?」

 額を抑える彼女に説教する。友人のことを言ってやると彼女の顔は少し青くなる。

「そっか、そうだよね。凛、脳みそのしわが少なめだから、思ったらすぐ行動しちゃうんだ。それでかよちんに迷惑かけちゃうし……」

 頭に猫耳があったらそれもしゅんと落ち込んでいるだろう。落ち込む彼女の頭にポンと手を置いてやる。

「ま、あの猫に任されたからこうやって俺が隣に居たわけだけどな」

 一の言葉に凛は自分に羽織られていたブレザーに気付く。

「あ! これはじめちんのだったんだ。凛にかけてくれたの?」

「ああ。くしゃみをしたから寒そうだと思ってな。この時間になれば少し肌寒くなるしな」

 彼女にズボンを掴まれたことは言わないでおいた。

 凛は嬉しそうに一に抱きついた。

「ありがとう! はじめちんって優しいんだね!」

 出っ張っている所はないが、女の子特有の柔らかさに一の鼓動は早鐘へと変化している。

「ちょ、こら! そう簡単に抱きつくんじゃない!」

 一の抗議に凛は顔を上げ、にやりと笑う。

「あ~、もしかして照れてるぅ?」

 煽ってくる彼女に少しムッとした一は再びデコピンを炸裂させてやる。

「ったく、そういうのは友達にやるもんだろ」

「え? 凛とはじめちんは友達じゃないの?」

 当然の様に自分のことを友達と認識してくれている彼女に、一の動揺は安らぎへと変わっていく。

「そっか、もう俺と星空は友達か」

 抱きついている彼女の頭をなでてやる。凛はそれを笑顔で受ける。すると彼女は何か思いついたようにぱっと身を離す。

「そうだ、はじめちん、これからヒマ? 凛と一緒にラーメン食べに行こうよ!」

「ラーメン?」

「そ、凛ね、練習の後にはラーメンを食べるって決めてるんだ! この間の絆創膏とブレザーのお返しと、友達記念に凛が奢るニャ!」

 凛の誘いに一は顔に手を当てる。家には友人と夕飯を食べてくると言えばいいか、本当のことだし、と考え、顔を縦に振る。

「よし、じゃあ一番うまい店を頼む」

 彼の笑顔を見て凛は鞄を片手に、一の手をとる。

「やったぁ~! じゃあ早速いっくニャ~」

「ちょ、速い、速いって!」

 こいつ、陸上部なんじゃないかと思う位の速さで彼女は駆けだす。その少し強引な勢いに、一は心地よさを覚えていた。

 




前回から一週間経たずに投稿することが出来ました。
今後はペースが落ちるかもしれませんが、楽しんで頂ければ幸いです。

読んでいる方、ラブライバーの方にお聞きしたいのですが、私の書いている凛ちゃんは、
ちゃんと星空 凛になっているでしょうか?
私は星空 凛を書けているのでしょうか?

ご感想お待ちしてます。

出来れば書いて下さい。

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