Fate/deep diver ~天月の逆杯~   作:幻想の投影物

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リクエストものです。
今回は多大な「ネタ・IF成分・ひとつまみのCCC要素・酒乱・蛇足・夏目漱石」等の成分を含みますのでご注意願います。

なお、完全な蛇足回です。本編及びに泥に溺れた夜光虫のストーリーとは何の関係もありません。


リクエストIF
Outer Heaven


 ここに月の構築した世界は終わりを告げた。

 かつて数多の魔術師が求めし聖杯は、たった一人の悪神の手によって積み上げてきた歴史の全てに終止符を打たれる。全てがゼロへと還元され、フォトニック結晶の塊である月は再び記録するだけの媒体へと戻される。そこに人の意志が介入する事は許されず、ただ膨大な書庫としての役割を持つに至ってしまったのだろう。

 悪神は求めた結果を得ることはできず、将来の喰らい合うべき仲間はゼロと共に還元され、拾った少女の魂は仏の映し身が涅槃へと送ることによって再び輪廻の輪の中へと還って行った。悪神の手はただの泥。手にした実体ある者は全て、ドロドロと溶け落ちた両手から滑り、流れ、手の届かない所へと―――

 

 これより語られるは結末に異議を唱えた者の造った世界のお話。

 かつての悪神がこの電子の世界に再び現れ、情報体として散って行った者共が傍に侍り、延々と終わることのない宴を繰り広げるだけの、つまらないお話。サーヴァントたる彼らの意志は未来永劫心変わりする事は無い。何故かと問われれば、それはすなわちプログラムされた不変の意志であるのだから、と。答える他あるまい。

 

 

 

 

 電子虚構世界(Program World)_

 再構築開始(Restart Settings)_

 

 >YES_  NO_

 

 Welcome to New Frontier!_

 

 

 

 

 戦争は変わった。

 

 悲願や根源のためではない。私欲や国家のためでもない。

 限られたサーヴァントと、造られた理想の園が、果てしない宴会を繰り返す。

 命を浪費する戦争は、快楽的な痛みのない喧騒へと変貌した。

 

 戦争は変わった。

 

 敗北したサーヴァントが、敗北したマスターを愚痴り、敗北した痛みを独白する。

 悪神の悪ふざけが彼らの本音を吐露し、聞き届ける。

 アルコールの制御、涙の制御、感情の制御、宴会の制御。

 全ては予測され、繰り返されている。

 

 戦争は変わった。

 

 時代は愚痴りから一気飲みへと移行し、宝具による乱痴気騒ぎは回避された。

 そして宴会の制御は、サーヴァントの制御をも可能にした。

 

 戦争は変わった。

 

 

 

 記念すべき第一回目の宴会。聖杯の中枢システム(アンジェリカ・ケージ)の演算機能をフル活用して整えられた宴会会場には桜が舞い散り、紅葉が敷き詰められ、温泉が湯気を立ち上らせる。古今東西の歴史に埋もれた酒さえもが取りそろえられ、和も洋も中も全てが混同しながらに統制された会場は、いっそ清々しいまでのカオスであった。

 混沌の神が取り仕切る宴会である以上、それは必然だったとも言えるかもしれないが。

 

「え~、ここに第1回サーヴァントのサーヴァントによるサーヴァントのための宴会を始めます。では、司会であるオレ、アヴェンジャーのアンリ・M・巴からスピーチがありますので御清聴願います」

「悪神さーん、アタシのハートブチ抜いた責任はー?」

「心臓新しく作ってやるからとっとけ!」

 

 開始早々これである。

 

「なあアンタ、スピーチってもすぐに終わるんだろうな?」

アリス(わたし)ありす(わたし)はどこかしら? 早く合わせてほしいわ!」

「待て待て。そんでそこの黒色(アリス)、酒はまだテメェには早ぇからな」

「おお悲劇に違いないッ! この身がおぞましき異教徒の手によって指示されようとは何たる侮辱! 何たる冒涜! 断罪の槍を振るいたいが、我が妻がいないのでは興に乗る事すら許されぬとは!!」

「アンタの鎧、ガッシャガシャうるさいねぇ? ちょっくらアタシに預けてみないか? そのまま売り払ってやるよ」

「いい加減に聞こうな!? このままだとおっちゃん泣くからな!?」

「涙なんて無いくせにー」

「アリスコラテメェ」

 

 溜息を吐きだすアンリの姿に、かつて彼に敗れ去ったサーヴァント達は良い気味だと言わんばかりに邪悪な笑みを浮かべる。海賊、狩人、絵本、吸血鬼。揃いもそろって馬鹿みたいに大きな功績を世に残してきた者達。名を調べれば有名どころばかりなのがまた憎い所である。

 

「……まあスピーチいくぞー」

「おー。さっさとやれよ」

 

 だるそうに言ったアンリに、だるそうにアーチャー・ロビンフッドが答える。

 んんっ、と体裁を整え直したアンリはこれまた聖杯の機能を無駄遣いして造り出したマイクを握った。

 

「まずはお手元に在るグラス。その中身の量は個人によってそれぞれありますが、ジョッキの大きさも含め今回の戦いにてそちらの吐血した量と同じにしてあります。これはこの戦いを忘れない様な配慮でして―――」

「重すぎますよッ!? なにいきなりお酒不味くしてるんですかッ!?」

「ぐはっ! 痛ぇな……ッ!?」

 

 スパーン、と後頭部にハリセンを喰らってマイクを顔面に打ちつける。いきなり後頭部から殴りかかって来た人物に対して文句を言おうと振りかえった瞬間、アンリは聞き覚えのある声、見覚えのある姿に大きく目を見開く。

 そう、彼女こそ―――

 

「た、タマモ? おまえタマモなのか……?」

「はい。不肖タマモ、消滅の折より舞い戻ってまいりました。殺生石砕かれた時に比べればなんのその、ですよ!」

「お、オマエ……マジで、なぁ……?」

 

 あまりの衝撃にアンリは感極まり、すっとマイクの方に向き直る。

 

「では宴会開始ィ! 隙に呑めや踊れや――そんで優勝者のオレを敬いなぁぁぁぁぁあ!! ハハハハハハハッ!!」

「ちょおおおおおおっと待ったぁ! ご主人様その扱いは何ですか!? 感動の再会に抱きしめてそこのボンクラどもに熱い接吻を披露してやるのが筋ってもんじゃないですか! フツーそうでしょうよっ!?」

「誰が好き好んで残り少ねえ魂を差し出すかってんだ」

「チッ」

 

 この反応があからさまにキャスターなのだ!

 

「お熱いねぇ。俺がやられた後に何かあったのか? 嬢ちゃんなんか知ってる?」

「それがおにいちゃんったらひどいのよ! アリス(わたし)からありす(わたし)をうばい取って行ったんだから!」

「あー、なんだ。まずは言葉の勉強してから報告してくれませんかね」

「あたしはわるくないの! いいね?」

「アッハイ」

「おのれおのれおのれぇぇぇぇいっ! 邪悪なる東洋の忍びの言葉に感化されおって! 我らが神への供物となるが―――」

「ワリィ、泥が滑った」

「WRYYYYYYY!?」

 

 アンリの手から射出された泥がヴラド公の目潰しにかかる。奇声を上げて目を抑え始めたヴラド公の口の中へフランシス・ドレイクの銃口が向けられ、その引き金が引かれた。

 

「そ~ら」

「ふぐっ!?」

「アタシの奢りさ! た~っぷりと味わいなよぉ……あははははは!!」

 

 顔を赤くしながら胸元に汗を掻くフランシス。彼女の銃口から発射された弾丸は見事にヴラド公の口の中に収まり、赤い身と白いシャリをぶちまけた。そう―――オーガニック・スシである。

 

「うわっ酒臭ッ!? って思ったらこの女スピリタスラッパしてますよ」

「酒というよりアルコールだなこれ。ライダーにゃ酒を与え続けん―――ハッ!? おいライダー! テメェどんだけ樽開けた!! スピリタスを八!?」

「ちょ、聖杯の演算機能がエラーどころかライダーに興味対象の目を向けてますよこれ! ……とまあ、馬鹿どもはほっといてお酌します」

「ん、ありがとさん。やっぱ酒はゆっくり行くのが一番だなぁ……と、ととととと……」

「あらら。零さないでくださいね」

 

 徳利から注がれる透明な液体を猪口で受け取り、表面張力でぷっくらと膨らんだそれをゆっくりと飲み下す。ほんのわずかな量であるが、喉を通る程良い熱さがある筈のない脳の神経に伝達するような感覚を捉えた。

 魂に染みる万病の薬。酒とは即ち、古来より伝わる絆也。

 

「お返しだ」

「ありがとうございます……んっ」

 

 両手で持ち、くっといっぱい。タマモの耳は嬉しそうにぴこぴこ揺れ動き、尻尾はパタパタとこちらの背中に当たってくる。老夫婦の様にその隣を埋めあった二人は、日本の誇る和と誠意、正座にて目の前の乱痴気騒ぎを達観していた。

 

「いやはや、月が綺麗ですねえ」

「どのくらいだ?」

「金の野原よりなお、夜の暗さが美しくて。宵闇が包んでくれるような」

「小さな金月は水面からでも見つけるさ」

 

 目を細めて猪口を煽る。

 そんな彼を、四人のサーヴァントは呆けた目を見開いていた。

 

「…………」

「そこのサーヴァント四人、すっとボケた顔して何見てやがんだ。見世物はそっちじゃねーのかよ」

「おまえら……どっちかってぇとバカップルだと思ってたんだが…?」

「アーチャー、言っておくがそんな積極的過ぎる心は日本人のオレは持ちあわせてねえぞ」

「そのナリで極東のサルだというのか! おお、どこまでも信仰心の薄い民族め、よもや太古の邪教を祀る神を扮するとはなんと許し難きッ!! この槍で我らが神の如く貫いて見せようぞ!!」

「さっきからうるせえぞランサー。オマエさんの妻に会った時にゃ色々問題起こした事報告すっからな」

「アッハッハッハッハッハッハッハ!! アハハハハハハハハッ!!!」

「誰かー? この酔っ払いライダー止めれるやついねーかー?」

ありす(わたし)のこと託さなきゃよかったわ! 変な男を見つけて無理やりくっつけるかもしれないじゃないの!」

「アイツはアイツで分別つくから安心してろアリス。ありすならほら、いまそこで手ぇ振ってるぞ」

「本当!? ホントだありすだ!」

 

 約一名(アリス)離脱である。

 

「行っちゃいましたねえ。小さい子が遊んでる姿って、いつかの憎たらしいクソガキでも対象が此方に向いていないと平和なもんです。

「んー? まあそうだな。にしても、向こうの方に健康管理AIの間桐桜にも似た巨乳の女がいるが……あ、二人とも谷間に手ぇ突っ込んで遊んでる。なにが楽しいんだか分かったもんじゃねえやアイツらの趣味は」

「あんなのなんてただの贅肉です。ただ大きけりゃいいってもんじゃ無いのが女体の神秘なのに、あんな作り物感満載の巨乳を触って何が楽しいんでしょうねえあの子たち」

「つーかあんな力の持ったサーヴァントっていたか? 元聖杯のデータをひっきりなしに引っ張り出してたから、もしかしてどっかヤバいデータも出てきたとか」

「月の聖杯戦争で途切れてたデータの覚えはありませんが、平行世界から引っ張ってきたのかもしれませんよ。来たところでこの聖杯の秩序が失われた空間を掌握する事も、抜け出すことも出来ませんが。……あ、もう一杯いかがですか?」

「頂いとく。はてさて、こんな夢の様な時間もいつまで続く事やら。トワイスの誘惑に騙された振りとはいえ、乗りかけた心情としてはマジで数十年はこのままが良いんだがな」

「いつまでも変わらず、濁り続けるのはいけませんよー?」

「わーってる。言ってみただけだ」

 

 喧騒を遠目に眺めながら、くっと三杯目を流し込む。

 日本の酒は風土の味。懐かしい感覚と共に、すっかり変わってしまった身体に多少の寂しさと望郷の念が募っていく。常に前に進み続ける運命が定まった身としては、こうして過去に浸って悲しみを一身に感じるのも悪くは無い。アンリはそう思って、何もかもが何者かの手によって作られたこの楽園(牢獄)の空を見上げていた。

 流す涙も、吹き出る血すらも持ち合わせない。人の形をしただけの、がらんどうな人体と言う概念しか持たないサーヴァントの身体。唯一頭を壊されると死ぬ、という大原則以外は、まったく人の機能を有していない泥の塊。どこまでも偽物でしか無く、自分で作り上げるオリジナルでしかないこの体で、タマモに触れ合う事は強い罪悪感にさいなまれていく。

 だが、それがいい。彼女は共にあると、自分に誓ってくれたのだ。だったら思う存分に、あちらの想いのままに、互いが互いを穢し合えば良いのだろう。所詮はどちらも堕ちた身だ。

 

「……なんつーか、面白くねえな。オマエら」

「どうしました三枚目(アーチャー)? 一生童貞で終え、これからも童帝を突き進む貴方にとってこの光景は少し刺激が強すぎましたかね?」

「駄狐は黙ってろ。…んなことより言いたいのはなあ、お前ら―――」

 

 二人並んで正座して、両手で持ったお酒を酌する。

 煽情的な盛り上がりに欠けるやり取りは正に、ロビンフッドはこう感じていたのだ。

 

「年季の入った老夫婦じゃね?」

「……それは、こちらを、年増と比喩していると受け取っても?」

「おいおい宴会の場は無礼講だろ。つーか確かに、何かフィーリングがであった当初から一気に親密度上げてたような気がするなあ。言うなれば、契約かました時からすでにカップル成立とかかね?」

「じゃあ4回戦あたりで金婚式迎えたって言うんですかぁー? 私まだそんなおばあちゃんになった覚えないですよぉ」

 

 ぶーたれるタマモをアンリが疎め始めるが、今度はペットをあやす飼い主の様にも見えている。コロコロと変わる関係に、アーチャーは目を丸くせざるを得なかった。

 

「それだよ。会った瞬間から馬の合うサーヴァントってのは召喚システムから珍しい話じゃねえが、ムーンセルからサーヴァントに達せられた内容覆してたのはテメェらぐらいだろ」

「そうかね? まあ最初見た時はパスと思ったが、本能的に気が合うと思ったんだろうなぁ。この狐さまとは」

「それこそ私のフォックスセンスの活躍所じゃないですか! 理想の全てを受け入れてくれる旦那様となるに相応しいと、見た瞬間に尻尾にミコーンと来ましたからね!」

「……もう腹いっぱいだよ。酒が甘くて仕方がねえ」

 

 本当に転身の早さに呆れが出る。アーチャーは心底疲れたような表情になりながら、この二人から席を遠ざけようとし、

 

「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!! 何故だ! 何故なのだ神よ! 我らが睦まじき愛を引き裂いた者共ばかりにかまけ、我が鮮血よりなお内より湧きあがる想いを否定したのだ!? 何たる悲劇かッッ!!」

「復活はえーな。流石はドラクルの息子……ん? タマモ?」

「………ふみゅう」

「駄目だこりゃ」

 

 ランサーの大きな声にひっくり返ったアーチャーを尻目に、少し目を話した間に酒瓶をライダーから突っ込まれていたタマモが顔を赤くしてこちらにしだれかかっている事に気付く。よしよしと背中を撫でながら彼女の温かな重さを感じていると、アンリはこの上ない幸福感に包まれていった。

 心の中曰く、ナイスライダー。自重しろ、ライダー。

 

「おにいちゃん! “ちじょ”がいたから捕まえたよ!」

「晒し首? 首をちょんぎっちゃう? これってわいせつぶつちんれつ罪って言うんだよね? ありすだけの赤の王様、こーせーなはんだんをちょーだい!」

「ちょ、離しなさい! 私は貴女たちを愛でようとしただけなのに、何この鎖!? ちょっとなんで外れないの?」

「バンダースナッチを繋いでいた鎖は外れないんだよ?」

「夢のアリスはこれをくつわにしてバンダースナッチに乗ったのよ! 物語ではこわされたことなんていちども無いんだから!」

「くっ、この…私の人形にしてあげようかと思ったのに、ちょっとアナタ保護者なんでしょ? この子たち私専用の人形にしてもいいでしょ? だから離しなさい!」

「……ご主人様、これは?」

「おお、起きたか。ありゃ痴部を銀板一枚で隠すだけの救いようがない変態だ」

「慎みがありませんねえ。大和撫子を見習ってほしいものです」

「はーなーしーなーさーいーよー!? リップ、パッションリップ! ちょっとメソメソ泣いていないで醜い爪で圧し潰しなさいな!」

「わ、わたし……爪なんて無いです」

 

 まだ夢心地のタマモを膝に寝かせ、アンリは言い放つ。

 

自由(カオス)最高だな。見ていて飽きがこねえや」

 

 猪口の中身は空になった。

 




カオスが足りない。
ただ、それ以上に手持ちのネタが無かったのでここまでです。

こんなオワコン小説(原作じゃなくてこの天月の逆月自体のこと)に目を通してくださった皆様、ありがとうございました。
リクエストしてくれたヴァナルカンド様には「ヴラド公のプリクラ」一式をお送りたします。こちらの多大な感謝と共にお受け取り下れば嬉しく思います。

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