Fate/deep diver ~天月の逆杯~   作:幻想の投影物

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本編のせりふは長ったらしくて使いにくいことこの上ない。
そうそう、うちの聖杯戦争には悲しいことなんてありゃしません。人はバッタバッタと死んでいきますがね。(快楽殺人ということでもない)


Pirate To.SUN

 ピリリという電子音に導かれ、二回掲示板には二つの影。

 それぞれが付き従えるサーヴァントの姿は見えぬままに、その二人は対峙している。片や、腰に手を当て、得意そうに不敵な笑みを浮かべる少年。自分の対戦相手であるモノの姿を見て、彼はふっ、と笑った。

 

「まさか、あんたが一回戦の相手になるとは思わなかったよ。いつもの掃除用具は無いのか? NPCモドキ」

「早々お前とは、オレも運がねぇな」

「はん、分かってるじゃないか。僕にかかれば、お前なんてチャンピオンに当たった哀れな挑戦者さ」

「分かってねぇな、オマエ」

「あ?」

 

 そう言ったアンリは一度眼を伏せる。予選の時とは違い、明確な敵となった彼に同情の余地などないのだから。再び開かれた眼は、冷やかにぎらついていた。

 

「自ら死ぬために来たガキはオマエの方だ、つぅハナシだ」

「ッ―――オマエ!?」

 

 彼と対峙していた少年。「間桐慎二」は彼に掴みかかった。身長差のために見上げる形となっているが、当のアンリは余裕な表情でニタリと笑う。その笑顔の裏にゾッとしたものを感じた慎二は即座にアンリを突き飛ばした。一連の流れが、他のマスターたちの注目を集めている。

 その視線の数が鬱陶しいと感じたのか、ばつが悪そうに慎二は吐き捨てて言った。

 

「チッ、まぁいいさ。どうせ僕に負ける奴の言葉なんてね。……アジアのゲームチャンプ、間桐慎二を嘗めるなよ…ッ、トーシロー!!」

「命短し。生き急ぎなさんな」

「くそっ、馬鹿にしやがって!」

 

 いかにも憤慨しているという様相で去っていく慎二。今まで気に入らないと思っていた相手に言いくるめられるのがよほど悔しかったようで、その怨念と言ったらマイルームに入っていく寸前にアンリへひと睨み利かせるほどである。

 取り残されたアンリにも視線は注がれているのだが、本人は少し置いたが過ぎたか? 程度にしか考えていなかった。とにかく、心理状況を大きく崩せたのは良い戦績だと上機嫌で購買部に移動する。今や、彼の頭の中には、昼食の「カレーパン」のことしか頭になかった。

 

 

 

 それから数時間後。屋上の一角で空を眺めていると、端末が現れ、情報を受け取る。画面に映っていたのは聖杯戦争からの御誘いだった。

 

―――::第一暗号鍵(プライマトリガー)を生成

第一層にて取得されたし

 

 今回の聖杯戦争で、まさしく「鍵」となる重要なデータ。これがない事には、失格して死んでしまうという重たい事実が付属している。舌を鳴らして端末を仕舞うと、早速アリーナに向かおうとアンリは立ちあがった。

 

「あら、今からアリーナ?」

「最初のトリガーが生成されたってよ。そっちにも行ってんだろ? …遠坂嬢」

「そうね、もう少し準備してから行く事にするわ。ま、アリーナ内なら思う存分暴れることも出来るしね」

「おお、怖い怖い」

 

 互いに最低限の干渉で済まそう。という暗黙の了解の元、場所を同じくしていた遠坂凛に別れを告げると、今度こそアンリは屋上を後にする。屋上へ続く階段へ足を踏み入れた途端、彼の頭の中には声が響いた。

 

≪何と言うか、敵同士なのに随分と余裕ですね、ご主人様方≫

「情が湧く程度の会話でもねーし、このぐらいは普通だろ。まぁ……傭兵同士の会話みたいなもんじゃねぇか?」

≪ふむ、ですが浮気だけは許しませんよ≫

≪何が浮気だ、何が≫

 

 人も見えてきたので、口に出す会話から念話に変更する。相も変わらず破天荒な、と思わせるキャスターの性格に仕方ないのかと多少の悟りが混じりつつある中、前を見て痛かったせいで何かにぶつかった。悪いな、と言おうとしたところで、彼の思考は中断させられる。見えたのは、特徴的な神父服の一部だったのだから。

 

「聖杯戦争に積極的なようでなによりだ。トリガー生成の旨は受け取ったかね?」

「御心配なさらず。システムは正常稼働してるぜ」

「それは僥倖。では、軽くこの聖杯戦争についての詳細を語らせて貰おう」

 

 そう言ったのは、今回の主催NPC「言峰綺礼」。アンリのぶつかった相手であり、同時に聖杯戦争の進行役を務める役割を仰せつかった駒の一端だった。

 

「基本、聖杯戦争は六日間の猶予期間(モラトリアム)と最終日の決戦で構成される。この六日の内に、情報鍵(トリガー)を集めるのが決戦へ臨む条件だ。無論、集め切れなければ……」

「失格、アンド(ダイ)。ってか」

「その通り」

 

 笑ったように表情筋がつり上げられるが、当然その行為には何の意味も無い。ただ、アンリへと虚ろな感情を抱かせ、寒気を背筋へ奔らせるだけ。明らかに引き攣った彼の表情に満足したのか、神父は淡々と続けた。

 

「ああ、アリーナ内での私闘も禁じられている。万が一行ったとしても、一定時間を超えればシステム側から強制的にシャットアウト。戦闘防止のための隔壁が降ろされる。これはある程度の距離を取らねば解除されない仕組みだ。……まあ、死闘を“行うつもりがある”なら、覚えておくといい」

「言外に、遠慮なくいくらでも殺し合えっていうことだろうが。回りくどい」

「さて、私はムーンセルが第一のNPCに過ぎん。君の好きなように受け取ってくれたまえ」

 

 コイツの語源、「言葉の峰を綺麗に付いてくる」でなかろうか。アンリが頭を抱えていると、言い忘れた事がある。そうおもむろに口を開いた。

 

「アリーナではともかく、学園側の私闘はお勧めしない。そのような形で敗れるマスターなど、見たくは無いのでな。ちなみに、その際に与えられる罰則(ペナルティー)はサーヴァントのステータス低下になる。くれぐれも気をつけろ」

 

 そうか、と瞼を瞬かせる間に言峰の姿は消えていた。

 

≪とまあ、このように意外と繊細なルールもありますのでお気を付けください≫

≪規定を破るつもりなないさ。約束は破るかも知れんが≫

≪さっすがぁ♪ それでこそ、我がマスターです≫

 

 調子のいいところは主従共に似ているらしい。ツッコミとボケの役を入れ替わる参加者など、早々見れるものではないだろう。まさかとは思うが、ムーンセルはこういう連中を見るために聖杯戦争を開始したのでは? ……いや、流石にそれはないか。

 アンリが口の端からもれる、妙に悪役っぽい笑い方で他のマスターを震えあがらせていると、そのままアリーナの扉に手をかけた。いざ出陣。意気込んだ気持ちのままに潜り抜けようとして、

 

「へえ、あんたも行くのか?」

 

 聞き覚えのある声に引き留められる。

 

「……ったく、やる気削いで楽しいかっての」

「これから倒される相手に向かって、言葉遣いがなって無いじゃないか。これは、思い知らせてやる必要があるってことかい?」

「言ってろ、間桐の坊主」

 

 予選での、偽りの十日間。その間にこの上なく仲の悪くなった相手は良くも悪くも慎二ただ一人。憎んでいる、という訳でもないのだが、その突っかかり方がアンリに一点集中しているせいで、慎二に対してだけは大人らしい対応というのが取れなくなっている。逆にいえば、慎二だけがこの聖杯戦争に参加するマスターの中で一番心を開かれている存在なのだが、本人はそれを知る由も無いだろう。

 聖杯戦争とは得てして残酷なものだと、内心アンリは吐露していた。

 

「じゃ、お先に」

 

 扉に手をかけていたアンリを押しのけて、慎二は扉の先にある光に包まれる。対戦相手とその本人専用のアリーナへ飛ばされたということだ。

 

≪あの海産物、ご主人様に向かって何たる口のききよう。…さぁ、早く追いかけてやりましょう!≫

「血の気が多いのは、ウチの奴も一緒か…」

≪え? 今“ウチの奴”って言いました? やだ、ご主人様ってば大胆なん―――≫

 

 色恋沙汰はまだ早い。そう考えたアンリ(精神五十路)は足早にアリーナへと突入した。キャスターの言葉は途中で中断され、しばしの転送による沈黙が辺りを覆う。光から抜けた先には、昨日も目にした寂しい風景が広がっていた。

 

「よっ」

 

 手のひらを返していつものタルウィ、ザリチェを召喚。掌で指の間を縫うようにくるくると回し、その柄をしっかり握ると逆手に構える。一連の行動にさした意味も持ち合わせてはいないのだが、一種の戦意向上のためのパフォーマンスの様なものだろう。

 そして、振り返る先にはジト目でアンリを睨むキャスター。せっかくの愛情表現を阻止された事が恨めしいと、言外に意味を乗せている。

 

「よーし、先にあいつら見えるしさっさと行くぞ」

「あぁっ」

 

 相手にするだけ慎二たちが何か哀れになりそうだ。そんな事を考えながら歩みを進めて彼女になるべく関わらないようにする。ようやく彼女も反省したようで、待ってくださいと言いながら後に続いた。途中でサイドアタックをしてきたエネミーをキャスターの鏡が一蹴しながら、ようやく慎二との“戦う者同士”の御対面となった。

 目の前に立ったアンリを見て、慎二は得意そうに口角をつり上げる。

 

「おや、遅かったね。あんまりに遅いから僕はもうトリガーをゲットしちゃったよ! これだから、凡俗は歩みが遅くて嫌になるんだよ」

「言うじゃないか慎二。中々あいつらが来ないから、内心ドキドキしながらトリガーを塵に言ったのはどこの誰だった?」

「お、おまえ何言ってるんだ!?」

「……仲のよろしいこって」

 

 まだ何も話していないのに、主従空間を作り上げた二人に呆れながら彼はぼやく。すると、その発言で顔を真っ赤に染めた慎二が焦ったように口を開いた。

 

「こいつと、僕の仲が良いって!? 冗談もほどほどにしろっ! おい、僕のサーヴァントならさっさとこの薄汚れた肌の奴をやっちまえ!!」

「おや、せっかくの本音をさらけ出せる仲なんだろ? (やっこ)さんも中々噺の分かる人間だってのに、もったいないねえ」

 

 大げさに体を振る、慎二のサーヴァント。

 装飾が美しくも、実用性に長けているだろう二丁拳銃を手にしているが、一番に目が行くのはその顔だろう。端正な顔立ちの中央には、斜めに額から鼻下まで伸びる大きな裂傷。視線がそこに言っているのを感じたのか、サーヴァントはククッ、と笑みを漏らした。

 

「……ご主人様? どこを見ておいでで?」

「おや、“コレ”が気になるかい? まぁ、正体に通じるものでもないけど戦いの名残さ。傷は勲章ってね」

「≪顔に傷あったら見ちまうのは元・一般人の悪い癖ってことで≫だがまあ、逆にいえば、それだけ失敗から何かを学んだか。はたまた……」

「っ、敵に話すことなんかないだろ! やれよ!」

「……ふぅ。ま、その根性の悪さはアタシ好みだ。報酬をたっぷり用意しておけよ、シンジィ? そう言う訳で、とっととおっ始めようや!」

 

 それは敵の優しさか、前口上を済ませてから発砲してくる慎二のサーヴァント。銃口が捉える先を予測した二人はその場から一気に飛びのき、狭い通路の壁を盾にして身を隠す。一連の行動と同時に、アリーナ内にはアラートが鳴り響いた。

 

―――CAUTION!! アリーナでの私闘は禁止されています。強制終了まで、カウントダウンを開始します…

 

「これが、警報ってワケか」

「ご主人様、どうします?」

 

 隣から聞いてきたのはキャスター。迂闊にクラス名も隠せないとなっては、言葉で呼び合うのも情報流出により不利になるだろう。そう考えたアンリが下した決断は一つ。アイコンタクトは土台無理な話。ならば、念話で逐次連絡を取り合って向かおうということだった。

 

「分かりました。……此処で言っておきますが、実は私も、前に何度か参加して、こう言った道中でやられた経験がありました」

「そんな報告いらねぇっつの! さっさと配置につく!」

「はい!」

 

 パートナーの死に語りをされて喜ぶ主はいない。戦いの初めから不安になりそうな言葉を受けながらも、アンリは相手のサーヴァントに突貫する準備を整える。壁から自分の体にある赤い布をひらりと見せ、銃撃が通り抜ける瞬間に身を引く。ある程度の銃弾が通り抜けた事を確認すると、今度こそ、彼はサーヴァントに突貫した。

 

「オオオオオォォォォォッ!!」

「おや」

 

 接触。互いの武器がすれ合って、激しい火花が飛び散った。身を引きながら、回転するようにその場で刃を踊らせるアンリに対し、慎二のサーヴァントは英霊の武器特有の丈夫さを使って、ソレに臨機応変に応戦する。剣閃が幾重にも積み重なる無骨な演武が続くかに思われた瞬間、アンリは得物を放り投げて跳躍しながら後退。

 投げられた逆手短剣を二発の銃声と共に撃ち落とす彼女の視線の先には、膨れ上がった魔力の炎が渦巻いていた。

 

 ――呪層・炎天。キャスターが作り出した、呪術による天下の物皆焼き尽くす炎は、愚直なまでにまっすぐに、キャスターの放った媒体である札に纏いついて飛翔した。普通なら、不意を突いた子の一撃は直撃するようなものだが、実に「運よく」、慎二のサーヴァントが蹴り飛ばしたアンリのタルウィで札は軌道を逸らされる。炎が晴れた先に見えたサーヴァントの視線は、はっきりとキャスターを捉えていた。

 

「ほらよっ」

 

 照準を付けられ、鉛玉の雨に晒されるキャスター。その場から離脱しようとしたが、何故か足が動かない事に気づく。視界の端に捉えたのは数式で構成された魔法陣。銃を持つサーヴァントの向こう側では、ハッキング体制を整えた慎二が笑っていた。

 それを見過ごすわけにはいかないのはアンリ。すぐさま、「新たな」タルウィを幾つか創造して射線上に投げ込み、弾丸をいくらか弾き飛ばす。残った分はキャスターの鏡がオートで弾き飛ばした。そこでキャスターに掛けられた慎二の魔術(コードキャスト)は破られ、鏡を手に添えて彼女もまた走りだす。にゅるん、と水のように背後に回ったアンリと、正面から当たるキャスターで追撃を行っていたのだ。

 

「やれ!!」

「藻屑と消えなぁ!!」

 

 しかし、そこで笑ったのは慎二主従。そのサーヴァントの正面と背後に出現したのは、追撃する両者を狙う船の砲台。そんな大質量の物体が瞬間的な速さで迫っていた着弾し、二人を爆発の煙にかくしてしまう。慎二はそこでやった、と思い込んでいたのだが、そのサーヴァントはまだ気配が消えていないと真剣に辺りを見渡す。

 そんな背後から、煙を抜けて人影が突っ込んできた。

 

「…ありゃ、はずれかい。となると本音は―――」

 

 狙いを付け、発砲したそれはびちゃびちゃと泥を撒き散らして消滅。瞬時に状況を判断した彼女が後ろ手を回すと、案の定銃に何かが当たる感触が二つ。それらを振り払って体勢を立て直したが、あの時銃以外の場所に刃が彼女は死んでいただろう。まったく、運の良い事ばかりである。

 だが、攻撃を防がれたアンリたちはそれどころではない。単体・単騎での総合火力は此方が劣っており、出来ることと言えばこうした奇襲かキャスター頼りの一撃必殺しかないのだから。

 

≪ご主人様、そろそろ…≫

「タイムアップ、かねぇ?」

 

 キャスターに続く様に言ったのは敵サーヴァント。その言葉に反応したとでも言うように、それぞれの陣営との間には赤い防壁がぼんやりと姿を現した。あれには、いくら攻撃を加えようとも早々に壊れはしないだろう。戦闘は終わったのだと判断した彼らは気を収めた。得物は依然として握ったままであるのだが。

 

「チッ、案外やるじゃないか…でもまぁ、マスターを前線に出すなんて、とんだサーヴァントを引いたみたいだね。これは事故死もありうるかも知れないなぁ」

「まあ、そこの辺りは否定はしねぇよ。……さっきの大砲、大丈夫だったか?」

「はい。障壁結界を張っていたので、いくらか威力は軽減されています。“技”クラスの攻撃は、やっぱり響きますねえ」

「でも、このゲームに勝つのは僕だ。覚えておくと良いさ…あはははははっ!!」

 

 セラフからの干渉により、あちらも引き際だと悟ったのだろう。だが、相手のサーヴァントは去り際にこちらに視線を送っていた。アンリがその目から察するは「今後ともよろしく」と言ったところだろうか。初のサーヴァント戦、途中介入があったとはいえ、これほどのレベルが相手となると流石に戦闘も厳しくなりそうだ。

 

「…くぁっ! やっぱ、本物のサーヴァント相手じゃイマイチ届かねぇもんだな」

「ううむ……ダブル英霊で無敵、という訳には行きませんか……」

 

 そう言う彼女のクラスはキャスター。自分の実力も正面切った戦いには向いていないと分かっているからこそ、このような戦闘の際には難しいという事実を少し重く受け止めているらしい。

 

「実力不足はこっちだ。期待させるようで、“実は最弱でした”なんて…いや、カッコ悪いもんだ」

「ご主人様……そう言う割には嬉しそうですね」

「ん、分かるか?」

「はい。だって、笑っていらっしゃいますから」

 

 キャスターの言うとおり、壁に寄りかかっている彼は確かに笑っていた。戦闘が好きだから、それなりに骨の在る戦いが出来て満足、ということではない。ぶつかりあい、仲間と敵と、それでいて様々な「人のつながり」をあのやり取りで実感できた。それが、今の笑みの正体。

 人間観察や触れ合いは、彼のもっとも好きな行為であるのだ。

 

「なぁに…生きてるのは良いもんだって思った。そんだけだ」

「えぇー? 生存競争のこの戦争でソレを言うのって、皮肉ですか?」

「さて、どうだか。神様に喧嘩売るぐらいがオレの行動可能範囲だからよ」

「じゃあ、私と一緒に聖杯ゲットは…」

「オッケーに決まってんだろ……次、勝つぞ」

「了解です!」

「…………くっ」

 

 ――はははははは!!!

 彼女の言葉から一拍の間をおいて、アリーナには笑い声が響き渡る。戦いのときは真剣にならざるを得ないが、結局、彼らに真剣な空気ほど似合わない物は無いのである。

 だが、だからこそ「これでいい」。どこまでも気楽に、それでいて命をかける。他のマスターが聞けば怒り心頭であろう、この理由こそがアンリの、二人の「戦う理由」なのだから。

 

「うーし、ほらほら」

「きゃふぅ」

 

 よく頑張ったと、御褒美代わりに頭を撫でる。一見乱雑に見えて、丁寧に慈しむ感触にキャスターは目を細めて受け入れた。その間に忍び寄った敵が轟音と共に爆砕したのは、彼女の邪魔するなと言う裏の顔が鏡にうつされているからだろうか。女って怖い。

 

「満足満足。っと、そういえばあのサーヴァントですが、銃使ってたってことはあれ、“アーチャー”なんでしょうか?」

「さぁ? “乗り物”である船の一部があるから、“ライダー”かもな」

「なんにせよ、これかの索敵はお任せください。情報を得ることも協力して行きましょうね」

「ソイツはいい! 実に願ったりだ」

 

 何か通じるものがあるからか、はたまた単に相性が良かったからか。その詳細は知ることはできないだろうが、この速さでここまで親密になった参加者もいなかっただろう。

 そして二人はアリーナを何度か衝撃で震わせながらも先に進む。先にあったトリガーを入手して、第一階層を全て走破してしまうのだった。

 

 

 

 

 

「おお、それなりに時間かかったか」

「星が綺麗ですよね。これ、ムーンセルが記録した景色を再現しているんですよ」

「…道理で、少し星の位置がずれてるわけか。月から見た配置なのか」

 

 帰還した二人を待っていたのは、夜空の星光で青白く照らされた御殿の寂寥感ある風景。満天の空に輝く星たちは、空の数式と被って「をかし」な様相を晒している。

 

「いや~ロマンチックですねえ」

「服装と反対なナウい言葉って……どこの英霊だよ」

「ふふふ、乙女の秘密なのでまだ教えて差し上げることはできません。それからご主人様?」

「ん?」

「ナウいって、古臭くありません?」

「ぐはっ」

「あ、倒れた」

 

 オーバーに倒れながらも確実に布団の部屋の方へ倒れこむアンリ。教室の広さがそれなりにあるおかげで、結構まとまった部屋が出来ている。その中で寝床として使うスペースの方へと倒れこんだのだ。

 

「はぁ、布団が落ち着く」

「今日は疲れましたからねぇ。……あーあ、ムーンセルもお風呂用意してくれたらなー」

「キャスター、地が出てんぞ。地が」

「はっ!?」

 

 なんかもう、色々と台無しである。

 聖杯戦争での休息の地になり、唯一の帰る場所と言えばこのマイルームなのだが、明らかにこの二人の使い方はおかしい。そして、生活空間をそっくりそのまま整えるマスターも彼以外にはいない。言うなれば、戦争中の前線基地で自宅同然の振る舞いをしているようなものなのだ。

 マイペースと言えば聞こえがいいが、此処までくればただの空気の読めない連中だ。

 

 そんなごろごろしていたアンリがは、おもむろに口を開いた。

 

「そうだ、ちょっとした語りでもするかね」

「語り……ですか?」

「昨日の自己紹介の続きみたいなもんだ。とりあえず話せる分には全部話しとこうと思ってな」

 

 何気なく言ったそれは、彼の二度目の人生について。砕けた態度ながら、少しだけ瞳が真剣実を帯びている事を見てとったキャスターは、正座で座りなおした。

 

「ご主人様がそうお望みとあらば、お聞かせください」

「それでは参りましょう。昔々。あるところに一つの泥がありました―――」

 

 語られるのは過去話。

 安全が保障されたこの部屋で、キャスターはその話を聞いて一喜一憂。其れを見るアンリも反応があるたびに一喜一笑。外の陰鬱とした、暗い雰囲気のある参加者たちと違い、この部屋だけは、ただただ明るく光が灯っているようだった。

 

 

 …………そして、ソレを聞くのはキャスターだけに在らず。月の細胞もまた、耳を澄ましていたのだとか。

 




お疲れさまでした。
やっぱりFate/EXTRA一万字近く行きやすいですね。
…え? CCCの設定? ……やだなぁ…………その、どうしろと?
いえ、なんでもないです。

それでは、ありがとうございました。
実はこんだけで150字到達という。意外と短いのね、文字って。

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