Fate/deep diver ~天月の逆杯~   作:幻想の投影物

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※今後の重要なお知らせ

結局、今って原作通りにコマ進めてるだけじゃないですか。
エクストラの性質上、それは仕方の無い事なんですが……ただ進めるって、二次創作じゃなくて原作コピペの気がするんですよね。

三回戦終わったら、大きく乖離する予定です。
都合上、どれかのキャラクターが出てこないことになるかもしれませんが、前提条件を覆すような原作乖離が嫌な方はこのあたりか、二回戦終了時にブラウザバック。もしくは想いで保存で退避した方がいいと思います。

……その代わり、三回戦のありす無双(萌)を見れないかもしれませんが。


HITMAN`s Wait

「あくまでここは“学園”だと言う事を忘れるな。君のサーヴァントとの縺れに関してはこちら側からそう多くは言わないが、このような事に時間を割く君は、聖杯を掴むに相応しいのかどうか怪しいものかもしれないのだから」

「……ハイ」

「ふむ、この辺りで止めておこう。日も高く、他のマスターたちが行動を始める時間になって来た。そのような姿を、例え赤の他人といえど見られるのは得策ではあるまい」

「……ソウデスネ」

「……まだ、足りていないというのなら…いいだろう。神父の名に恥じない高説をじっくりと語ってもいいのだが」

「は、反省した! 本当に、申し訳ございません!!」

 

 ごん、と鈍い音が廊下に響き渡り、アンリは患部から出血…いや、出靄を垂れ流しながら言峰に頭を下げた。言峰の言うようなことは彼とて望む展開ではなく、こうして睡眠や食事でもなく、説教と言うものに無作為な時間を浪費することはこの戦争中に置いて無駄にしかならないという事を重々承知しているからだ。

 そんな態度を見て、言峰は喉を鳴らした。

 

「プライドも何もないのは、この戦争において勝ち抜く秘訣かもしれんな。その意気込みで日々精進すると良い」

 

 後手を組み、言峰はコツコツとその場を立ち去った。完全にその影が消えたことを確認したアンリは、安堵と共に息を吐く。まさかこんなことをやらかしただけで本当に怒られるとは、と言う反省を抱きながら。

 しかし、そんな彼の反省もずっと後ろにいたらしいキャスターの発言で撤回されることになる。

 

≪あの……あの監督役NPC、ずっと薄ら寒い笑みを貼り付けてましたが≫

「えっ」

≪えっ?≫

 

 しばしの沈黙。

 

「……次に会ったら、ブッ飛ばす」

≪えっ≫

「えっ」

≪なにそれこわい≫

 

 哀れ、言峰神父。次にアンリが出会った時こそ、彼の本当の最後が訪れるかもしれない。

 

「……巴さん」

「ん?」

 

 背後から聞こえた声に振り返れば、どこか無機質な少女――ラニが忽然と姿を現していた。

 

「どうやら遺物を十分なだけ見つけた様ですね」

「ん、まぁ……」

「星の満る―――5日目に、空を見てみましょう」

「はいよ、サンキューな」

「それでは、ごきげんよう」

 

 彼女とてマスター。相手の情報探し…もあるだろうが、本来のマスターとしてのこの場所でするべき事は多いのだろう。彼女が去っていく様子を見ながら、アンリはどこか自分が異邦人なのだという自覚が強まったのだった。

 

 

 

 昼下がり辺りだろうか。彼が一度校庭に出てみると、太陽は真上から少し傾いた辺りの位置に在った。こればっかりは本物と寸分たがわぬ程に似た輝きを放っているのは、生まれてこの方、月が太陽の光を受け続けていたからだろう。現実で浴びることでしか味わえない温かさと言うものが存在している。

 しかし、同時に底冷えするような悪寒を彼は感じ取っていた。それは、今日のラニとの会話の後からの事である。そして、決してこの暖かさとは相いれない悪寒の正体を、人は「殺気」と呼ぶ。

 同時に降りかかるプレッシャーに、サーヴァント特有の超越者が発する覇気が存在していると言うことは? そう思った彼に心当たりが在るのは、対戦相手のサーヴァント。どこまでも主人に反抗的に見えた、何処となくキャラの被っている気だる気な青年。

 昨日、アリーナで見つけた矢の残骸が彼の常套の攻撃手段だと断定するならば、彼のクラスは間違いなくアーチャー。そして、見つけたエネミーが毒で突っ伏していた姿から予想すると、学園で直接マスターを狙うという暴挙に出ているのだろうと予測する。無論、仮称アーチャーの独断なのは間違いないが。

 

「……ほぅ」

 

 しかしその行為は、マスターとサーヴァント共々「制限(ペナルティ)」を受けると言うことである。つまり、アンリがこの殺気を乗り切って生き残ったならば、対決の日までステータス低下という罰則が此方側にとって有利な状況を作りだすことも夢ではないのである。

 そんな事を考えながら、アンリは死角を作りながら校庭からその姿を消した。無事に校舎に戻ると突き刺すように後押しされた殺気が、狙撃手のイライラを増幅させたことを示している。それを無視しながら、アンリはキャスターと念話を繋げた。

 

≪…キャスター≫

≪はい≫

 

 キャスターが応えたころには、殺気と言う名のポインターがアンリの頭、心臓、足の腱と言った急所を次々と狙っている様に移動していた。迷い続けると言うより、殺気を浴びせて下手に相手が動く事を狙っているようにも感じられるその行為に、アンリは茂みの向こうにいる狩人に狙われたイノシシの様な気分だと、心の中で苦笑した。

 

≪アリーナに向かいましょう。あの場所なら景色を見通せますし、いくら狙撃して雇用が場所が分かれば迎撃も可能です≫

≪素早い状況判断能力に感謝だな。んじゃ、タイミングを見てさっさと走るぞ≫

≪はい≫

 

 もしかしたら、相手は学校内では必殺の時以外は矢を打たずにアリーナで初めて戦闘をする腹積もりなのかもしれない。そんな事を思ったアンリだったが、いざ戦闘が始まればそれはどうでもいい事になり下がるだろうと考えを切り捨てた。

 なにはともあれ、今すべきことはアリーナへの逃亡。流暢に考え事をすることではないのだから。

 

≪3…2…1……≫

 

 敵は完全に立ち止まったと思ったのだろうか。ちりちりと感じる殺気の焦点は、狙い違わず頭へと移動している。そして、カウントが1に差し掛かった辺りで殺気は完全に後頭部へと向けられ、固定された。

 ―――故に、それこそが好機。

 

≪≪ゼロ≫≫

 

 一気に駆け抜けるキャスター組。一瞬の照準を絞る時間を逆手にとり、引き金を引くというプロセスが発生する前にアリーナへと飛び込むことに成功した。

 アリーナ内でデータが再構成され、そこにアンリとキャスターの姿が浮き上がった時、再び中には相手の気が密集する。しかも、その規模は途轍もなく広大。先ほどまでは本気を出していたなかったと言わんばかりに両名の全身に殺気をぶつけ、何処にいるのか分からないという疑問を更に助長させていた。

 

「うぇ、緑ぃのがいやらしい目が私を見ちゃってますね」

「とにかく、ここだと狙われる。広い場所に出て―――ゥオラッ!」

 

 台詞を中断しながら、飛んできた矢の柄に刃を突き立て、アンリは悪態をつく。

 矢が飛んできたのは数本であり、その方向は全くの逆方向からアンリとキャスターそれぞれに向かっていたのだ。どんなトリックを使っているかは知らない。だが、流石に毒矢で射られるなら話は別だ。急ぎ、妙に細長い敵を無視しながら彼は突っ走って行った。

 

「狙撃……アーチャーだ。絶対(ぜってぇ)に!」

「言ってる場合じゃ―――ご主人様(マスター)後ろ!」

 

 彼女の言葉に振り向くと、三本程の矢がまとめて後方から接近していた。うげ、と声を漏らすとアンリは直前の地面に泥を投げつけ、泥の壁を生やして矢を受け止めた。流動体に囚われた矢はその勢いを霧散させ、効力を完全に失った。

 それらのプロセスを見る間もなく、二人はアリーナの広場にまで到着した。キャスターがそこに辿り着いた瞬間に幾つかの呪符を周囲の地面に投擲し、結界を一つずつ作っていった。

 一枚目――3時の方向より2本が飛来。アンリがザリチェで切り裂き迎撃。

 二枚目――12時の方向より1本が飛来。張られた結界によって弾かれる。

 三枚目――7時の方向より1本が飛来。キャスターが鏡によって弾く。

 四枚目――5時の方向より2本が飛来。一本は完成された結界が弾くが、残り一本はアンリに直撃。

 

「くそっ!」

 

 足のあたりに深く突き刺さった矢を、矢じりの返しに巻き込まれて周囲の肉がこそげ落ちる勢いで引き抜くと、急に彼はその場に崩れ落ちた。膝をつくのでもなく、完全にその場に倒れ伏したのだ。

 

「ご、ご主人様!?」

「やべ……身体ン中の魔力が掻き回され―――」

 

 キャスターが聞けたのはそこまで。これが最大の問題だった。

 確かに、人を殺すためのただの毒なら、「英霊:アンリ・マユ」である彼なら、痛みや苦しみにもだえることも無く、何事もなかっただろう。彼は転生した後、全ての苦しみを経験し、全ての毒を味わい、全ての殺し方で、生きながらにして殺され続けたのだから。だが、この毒は、そう言った「現実の」ものとは無縁の、彼の経験したことのない珍いタイプだった。

 「魔術師殺し」。そう呼ばれた者が使った弾丸には、魔術回路そのものにダメージを与え、それを無理やり切り離してから、滅茶苦茶、出鱈目に繋ぎ合わせて魔力を暴走させて身体の内側から死を与える、「起源弾」と言ったタチの悪い物があった。

 今回使用されたのは、それに似通った効果を持つ物らしい。

 「タキシン」と言う毒は、急速にそれを摂取した人間を衰弱させ、四肢をはじめとして徐々に身体機能を硬直させていく効果を持っている。そんな効果を持つ毒の打ち込まれた量は、イチイに含まれるタキシンを抽出・凝縮した「魔力に対して効果が在る」高濃度のもの。

 故に、受肉したとはいえ、特殊な理由から、魔力の泥がその体を構成する彼にとって、その矢は鬼門。いくら彼とは言え、魔力そのものに傷をつけられる様な経験は無い。

 英霊が持つ圧倒的な力の前に為す術なく崩れ落ちた彼に、急ぎキャスターは肩に手を回した。

 

「くぅっ! この匂いとご主人様の容体……毒矢に違いありません! あのアーチャー……なんて姑息なっ―――って、そんな事言ってる場合じゃ!」

 

 幸いにも張った結界は自身の移動に追従するタイプ。いざ歩き出そうと思ったところで、アンリはキャスターの横で素早く手を動かした。そして……ボトリと落ちる、彼の下半身。

 

「―――ッ!?」

 

 絶句するキャスター。そして始まったのは、彼の「再生」。切り口から漂う黒い靄は、新しい肉体を切断面から形作っていく。流れた靄に絡みつく様な泥がアンリを構成して行ったのだ。骨、神経、肉、皮を一つ一つが丁寧に、そして高速で再生され、衣服も含めた彼の足は、完全に再生されていった。

 その光景は、圧巻の一言。肉体の完全な再生。現代の移植や義肢の挿げ替えでは到底及ばない、医療の未来を先取りしたほどの偉業だ。これで患部に残る大本の原因は取り除いたが、まだ少量の身体に回った読破残っている。それでも、キャスターはそれを行って気絶した常識外れの主人に慰労の視線を投げかけると、彼を抱え直して結界を滑らせるように移動し始めた。

 

『チッ、生き残ったか。しぶといなアンタ』

「……このっ! ご主人様、もう少しです…!」

 

 何処からか響いてきた相手のサーヴァントの声に、キャスターは恨み辛みを込めた視線でにらみ返したくなるが、そのような事をしている暇は無い。アンリの身体の中で毒が暴れ回っている現在、この一分一秒たりとも無駄にできないのだから。

 だから、敵に背中を見せると言う恥を忍んで、結界に新たに飛び交う矢の雨を受けながらも、彼女はひたすらに帰還ポイントまで歩みを進めた。

 

 ようやく帰還地点へ辿り着いた時、キャスターは矢の飛んでくる方向に顔を向ける。

 笑顔とは、元来相手に対する威嚇行為として使われたということは有名である。そのような、見た相手がゾッとするような笑顔を貼り付け、キャスターの唇はアーチャーへと語っていた。

 

 ―――ゆるさない

 

 そのまま姿を消したキャスター陣営を見送り、緑の衣に包まれた青年は湧き立った鳥肌を隠すようにして舌打ちを響かせる。

 

「……アイツ、本当に英霊か…?」

 

 獲物に逃げ切られた悔しさと、此方に向けた濃密な殺気。

 反英霊、と言う言葉が在るが、彼はそのどれでもない「恐怖」を確かにキャスターから感じ取っていたのだ。

 

≪アーチャー。今どこにいる≫

「――ゲッ、マスター」

≪アリーナ、か。また独断に出るとはな。答えろ、今まで何をしていた≫

「…はいはい」

 

 やってられない。とばかりに吐き出した彼の愚痴を聞く者はいない。

 

 

 

ご主人様(マスター)! 大丈夫なんですか!?」

「残されている毒の量が少ないので、朝になれば全快していると思います。それでは、私はこれで」

 

 間桐桜のNPCがそう言い残して保健室の定位置に戻ると、キャスターは保健室のベッドに寝込むアンリへと視線を移した。

 息をすること自体難しそうだった呼吸の乱れは落ちついており、静かな寝息を立て、真っ白なシーツにあまりにも不似合いな姿で彼はベッドに収まっている。肌は浅い黒を帯びているにすぎないのだが、彼の正体を知る彼女にとってはそうとしか言いようがなかった。

 

「……ご主人様」

 

 どこか、今まで仕えてきたマスターとは一味違った…を超え過ぎた破天荒な存在。マスターが自ら戦う。霊装という方法を駆使してサーヴァント共に戦うのがマスターだが、彼の場合は正真正銘「共に闘う」マスター。

 この月の聖杯戦争。彼ならば勝ち抜ける……いや、そんな風に思ってしまうまで過信していたのかもしれない。サーヴァントと同じ存在とは言え、彼は自分と比べて弱い存在だと言う事を失念していたからこそのこの結果なのだから。

 

「これからは、真にお仕えさせていただきます」

 

 だから、ここで必勝と忠心を誓う。本当の心はまだ、さらけ出すには恥ずかしすぎる。

 自重と言うものがまだ存在している自分に、キャスターは苦笑してアンリを見つめ続けるのであった。

 

 

 

 翌日。何事もなかったかのようにベッドから起き上がり、毎日の決まった挨拶を交わしているキャスター陣営の姿が在った。保健委員(NPC)の間桐桜が調べた結果によると、やはりというか、使われていたのはイチイの毒。事を聞き終えたアンリが立ちあがろうとしたが、キャスターと間桐桜の手によってベッドに強制送還された。

 

「だめですよ。貴方のサーヴァントから聞いた荒療治もそうですが、イチイの毒は僅かとはいえまだ体内に残っています。保健室(ここ)に居ればその毒も権限で中和されていきますが、本来なら今も起き上がるのは困難な筈ですから、どうか安静にしていてください」

 

 私、怒ってます。とばかりのリアクションを見た彼からすれば、そうまでされれば仕方あるまい、と言った信条である。アンリが大人しくベッドに身体を預けた事を見届けた間桐桜は、いつものようにテーブルに向かって何やらを書き始めた。

 ここでも情報漏洩を防ぐためか、キャスターは念話越しに叱りつけてきた。

 

≪マスター。あの再生能力は見ましたが、身体は大事にするものであって切り捨て、投げ捨てる物ではないのですよ!? こうして心配する私の身にもなってください! 何度衝撃的な光景に心労が決壊しそうになったか!≫

「……わりぃ、タカくくってた」

≪慢心や油断はああいった大事の元になりかねません。ご主人様の行動を軽率とは言いませんが、トーナメント制の聖杯戦争は試合が続くにつれて強者ばかりが残る仕組み。もう少し計画性が在ってもいいと思います!≫

「だよな。“死なない”って思ったままで、奥の手を隠しまくってたせいで正直現実を馬鹿にしてたわ。……現実ってこと、分かってたはずなんだがなぁ―――」

 

 情けない。そう言って目を手で覆った彼に、キャスターは安堵を覚える。彼がこうして会話を続けるほどに回復したこともそうだが、これからのマスターの行動に危機的状況は早々訪れない様に考慮してくれる、と言ったような態度だったからだ。いくら忠心を尽くす気兼ねが在るとはいっても、戦う度に主人の悲惨な光景を目にすることになったら、それこそ目も当てられないのだから。

 

≪―――ご主人様(マスター)、誰か…来ます≫

 

 そんな事を考えていると、キャスターの忠告の後に保健室のドアがガラガラと開かれた。

 昨日の事が在った直後。誰が来たのかなど、アンリとキャスターの両者が理解していた。

 

「……イチイの矢のもとになった宝具を“破却”した。宝具が消滅した時点で、イチイの毒の方は消え去るだろう」

「な、に…?」

「身勝手な言い分だが、これを謝罪とさせてほしい」

 

 言葉を繕う事もせず、ただ実際に証明することで淡々と真実を告げる彼は、どんな見苦しい謝罪よりも深いものだった。言葉通りに受け取ったアンリが手足の動作を確認してみると、射られる前の状態と寸分違わぬ復活を遂げている。

 信じられない、とばかりに目を白黒させたアンリに対し、ダン・ブラックモアは己の両こぶしをわなわなと震わせて後悔と憤怒を滾らせていた。勿論、怒りの矛先は―――彼のアーチャーだ。

 

「そして失望したぞ、アーチャー。この全てにおいて公正なルールが敷かれている世界。その中で規則を破ると言うことは、人としての誇りを貶めることだ。国と国の戦いでもない、個人の闘い。畜生に墜ちる必要など無いと言うのに……」

 

 それに対し、ダンの命令があったのか、実体化したままのアーチャーは面白くなさそうに視線をそらした。首を振り、仕方ないとばかりにアーチャーに伸ばしたダンの手の甲には、令呪が刻まれている。その行動の意味を知ったアーチャーが止めようとしたが、ダンの口はそんな物では止められなかった。

 

「アーチャーよ、ダン・ブラックモアが令呪を以って命ずる」

 

 絶対命令権の行使。決してこの場で争うつもりはない、身内に投げられた怒りにアンリは寒気を抱いた。そして、その誇りと言う名のダン自身にも。

 

「学園サイドでの、敵マスターへの“祈りの弓(イー・パウ)”による攻撃を永久に禁ずる」

「正気か!? 旦那、この戦いで勝つつもりじゃなかったのかよ!!」

 

 一画、その存在をすり減らす赤の軌跡が消えると同時に、アーチャーの手のあたりが大きく弾かれた。おそらくは、先程言った宝具の名称であろう「祈りの弓」とやらを、いつでも顕現できるようにしていたのだろう。

 忌々しく舌打ちするアーチャーに、ダンはその意志を静かに述べた。

 

「無論、勝つつもりだよ。わしは自身に懸けて負けられぬし、当然の様に勝つ。だが、何をしてもと言う訳にはいかんのだ。先ほどもいったが、我々はルールの中で生きる人でしかない。態々墜ちた行動を取らずとも、貴君でもクラス名になるほど誇れるものが在るだろうに」

「…………」

 

 沈黙。それは驚愕対してか、言葉を受け取ったが故か。少なくとも、アンリたちには悟らせる暇もなく、彼は緑の衣をはためかせて霊体化する。彼の行動を見届けたダンは、再びアンリへと視線を移した。

 

「サーヴァントの無礼、不躾だとは思うが許してやってほしい。もちろん、君との約束を違えるつもりもない」

「分かってるさね、オレも今回の件で目が覚めた。それに、あんたが相手じゃ遊んでなんかいられねぇっての」

「感謝する。では、ここで失礼するよ」

 

 踵を返して立ち去ったダンの姿を見送ると、アンリはパス越しにキャスターが震えているらしいと気付いた。どうしたのかと尋ねてみれば、アレはありえない。と、去った老人のいた方向へ様々な感情が入り混じった視線を向ける。

 

「自分のサーヴァントの宝具名を漏らすどころか、その使用について令呪を使ってまで制限? ペナルティがついて今のでステータス効果は絶対でしょうし、本当にアレは恐ろしい馬鹿です。マジありえません。

 あの手の武人は、理屈を蹴っ飛ばして心と意志で動いてますから尚更……マスター、僭越ながら申し上げておきます。戦う時は相応の御心構えを。さもなければ…喰われますよ、アレに」

「……分かった」

 

 らしくない、彼女からの真剣実を帯びた忠告。今日はこればかりだと思いながらも、アンリ自身、ダンの強さは最初の邂逅から感じ取っていた。負ければ消滅が待っている正真正銘のデスゲーム。

 全てが順風漫歩だった彼らに、初めての暗雲が立ち込めたのであった。

 





前書きならみんな見ると思い、あのような警告を出させていただきました。
実は、更新するまでメンバーの三人ほどがpi×ivの冬木ちゃんねる巡りをしていたのですが、その際にどうせやるなら二次創作の作者らしく、原作から大幅にずれたオリストーリー造らないか? っていうことになりました。
そもそも、Fate/EXTRAという作品自体が勝ち抜いて進むゲームですし、淡々とその実況をするような形で終わるとこれじゃだめだ! と私達が感じたからです。

これから展開の大幅組み立てなおしとして書きためを全部書き直しますので、またお会いしましょう。

……さて、元治と一緒に期末試験を諦めますか。

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