彼女のいない私は恐らく修論で終わると思います。(年末年始も)
インパルス、白式、ブルー・ティアーズが先行し、視界の先に銀の福音を捉える。
どうやら先に見つけたのはこちらだったようで、先制攻撃を仕掛ける。
「相手はまだこちらに気付いていないな……アスカ、オルコット狙撃しろ。
その間に近づく!」
「「了解!」」
織斑先生の指示通り、シンはスナイパーライフルで、セシリアはスターライトで狙撃をした。
こちらに気付いていなかった銀の福音は回避行動をすることなく直撃した。
「はああああ!」
そこに白式に乗った織斑先生が飛び込み、すれ違いざまに雪片弐型で一閃する。
ここでようやく銀の福音はこちらを敵と認識して高速移動をやめるが、反転と同時に瞬時加速をした織斑先生が二発目を食らわせる。
その間にシンとセシリアは別々の方向に分かれ、銀の福音がどの方向へ逃げ出しても対応できるように位置取りする。
「このまま一気に決めさせてもらう」
反転――瞬時加速――斬り抜け――
反転――瞬時加速――斬り抜け――
反転――瞬時加速――斬り抜け――
反転――瞬時加速――斬り抜け――
反転――瞬時加速――斬り抜け――
シンとセシリアが援護する相間もなく、織斑先生の反転した直後に瞬時加速からの一閃による連続攻撃が銀の福音に襲い掛かる。
だがこのまま受け続けてくれるわけはなく、翼を広げて周囲に弾をばら撒き始めた。
「逃がしませんわよ!」
織斑先生の連続攻撃から逃れた銀の福音にセシリアが攻撃する。
狙撃が命中したことで動きが止まるも、銀の福音は弾をばら撒きながら離脱する。
「逃がさないと言ったろ!」
逃げようとする銀の福音の背後に光の翼を展開したインパルスがピッタリとくっ付く。
シンは最大まで加速させたバスターソードを相手の翼に叩き付ける。
その衝撃は凄まじく、夕暮れの洋上に巨大な衝突音が響き渡る。
「なんて堅さとパワーだよコイツは」
銀の福音は剣ごとその衝撃を受けとめ、空中で静止している。
渾身の一撃を無傷で受け止めるほど堅固なバリアと空中で位置を維持するほどの出力に驚く。
そんなシンを憐れむかのように銀の福音はその両翼でインパルスを包み込もうとする。
「だが、足は止まった」
シンが離れると同時に織斑先生が瞬時加速で斬りかかる。
銀の福音は数回斬られながらもエネルギー弾で牽制して距離を取ろうとする。
そして後続の2人も合流しより、銀の福音に攻撃を加える。
ラウラがレールカノンで牽制し、回避先に龍咆を撃ち込む。
「よし、このまま奴を落とすぞ」
全員が合流したことでセシリアはBTを2基切り離してより攻撃に集中する。
さすがにこの人数が相手では逃げ切れないと判断したのか、銀の福音も応戦する。
特に織斑先生の連撃が堪えたのか、接近されないように彼女を執拗に攻撃している。
「くっ、これでは近づけん……」
簪は単発の出力を下げて連射性を上げた左の龍咆で牽制し、逆に単発の出力を上げて精密性を上げた右の龍咆で狙撃をする。
その攻撃から逃げようとする銀の福音を、シンが光の翼で機動力に対抗しながらビームライフルとビームサーベルで抑え込む。
そこにラウラのレールカノン、セシリアのBTとスターライトによる援護を受けた織斑先生が接近戦を仕掛けてはいるが、その機動力からなかなか相手に有効打を与えることができず、エネルギーだけがいたずらに消費されていった。
「私がAICで奴の動きを止める。援護を頼む」
ラウラの要請を受けてまずは簪が左右両門の龍咆を連射する。
シンはその隙にブラストに換装してミサイルを全弾放つが、銀の福音はその機動力と武装から龍咆とミサイルを全て回避する。
だがそれは想定されていたことであり、そちらに意識が向いているところにレールガンとビームランチャーのフルバーストをわざと収束させないで放つ。
意図を察したセシリアがBTとスターライトで援護をする。
「これで終わりだ、銀の福音!」
無人機である銀の福音は、センサーの情報から正確にシンとセシリアの攻撃が当たらない隙間に潜り込んで回避する。
その瞬間を狙って瞬時加速で接近したラウラがAICで拘束する。
そして背後から雪片を構えた織斑先生が近付き、銀の福音に一太刀浴びせる。
だが次の瞬間、銀の福音は体を大きく揺らしながら両翼から見境なしにエネルギー弾をばら撒き始めた。
「うぐっ」
突然の変貌に対応できなかった2人は直撃を受けてしまい、AICも解除されてしまう。
その姿はまさしく荒れ狂う人間のようで、その自慢の機動力ででたらめに飛び回っている。
その無差別な制圧能力は圧倒的であり、フォースに戻したシンでさえ回避に専念するほどだった。
「わたくしのBTが!」
各自が回避に専念しつつも、任務を遂行しようと包囲網を維持していたが限界があった。
そのエネルギー弾を高速広範囲にばら撒く荒れ狂った攻撃の前では、セシリアといえど機体と分離した2基のBTを回避させ続けることはできず、BTが破壊されてしまった。
「ま、待って」
そんな状況が続けば包囲網を維持できるはずもなく、簪の言葉もむなしく突破されてしまう。
包囲網を抜けた銀の福音は、攻撃をやめてとある方向へ一直線に加速した。
最初の進行方向とは別の方向へ向かったことに嫌な予感がした。
そしてその予感は、織斑先生によって現実であったと知ることになった。
「アスカ、全力で追え! 奴は我々のいた島に向かっている!」
モニターに映っている位置情報を見てみると、確かに銀の福音の進行方向と自分たちが臨海学校で訪れていた島が重なっていた。
シンはインパルスの翼を全開にして最大出力の光の翼とスラスターで加速する。
他の皆もそれに続くように各自最大速度で追従する。
「くっ、間に合ええええ!」
自分以外を置き去りにするほどの速度で追っているのに、銀の福音との距離は開く一方だった。
それでも島に居る皆を守るために必死に追い続けた。
その時、頭の中で何かが弾けた――
頭の中がクリアになり、全ての感覚が広がるのを感じた。
CEの戦場で幾度となく経験したこの状態に懐かしさを感じながら、シンは銀の福音を追う。
――――――――――
銀の福音が接近しているという通信を受け一夏たちは迎撃態勢を取る。
今旅館では、万が一に備えて避難の準備をしている。
「皆大丈夫かな……」
「ターゲットは包囲を振り切って来たって話だから心配しなくて大丈夫よ」
不安になった一夏を鈴が励ますが、その表情は硬かった。
あの5人を振り切るような奴を相手に、専用機を貸した自分たちが抑えなければならない。
「先生、相手の状態はどうなってますか?」
『エネルギーは減っていると思いますが、機体の損傷はありません』
シャルが山田先生に相手の状態を聞く。
こちらの戦力では撃破は無理――となれば島の安全を確保したうえで、追いかけてくるであろう交戦部隊と挟み撃ちにするのが最善だと判断する。
「私と箒であいつを抑えるから、2人は島への流れ弾を防いでちょうだい。
特に一夏! あんたは今白式じゃないんだから、無茶して前へ出ようとしないでよ!」
「う……分かったよ」
鈴は皆に指示を出すと、一夏に前へ出ないように釘をさす。
先手を打たれた一夏は、鈴の勢いに乗せられて了承する。
「それと箒、あんたは何も考えずにその新型で暴れてきなさい」
「何故だ? 私とシャルロットは逆の方がいいと思うのだが……?」
「言いたくないけど、篠之ノ博士が作ったそのISしかスペックで対抗できないのよ。
それに私が使ってるISは未完成の機体を急造で動かせるようにしてあるだけ……
ベースが第3世代型ISだから、訓練機よりはましだけどね。
あと、このISの武器は銃器中心だから、近接型のあんたと足並みが揃わないの。
性分じゃないけどフォローは全部私がやるから、あんたは何も考えずにその機体のスペックを引き出してくれればいいわ」
「分かった、なら後ろは任せたぞ」
残存戦力の機体性能を考えると、紅椿しか対抗できるISがないため箒に頼んだ。
だが、専用機を受領したばかりの彼女にこの非常事態においても戦闘をしながら周りに気を配る事まで要求するのは無理がある。
そのため鈴は、箒を戦闘に集中させることにして、それによって必要となるフォローを自分がすべて受け持つことにした。
『まもなくターゲットが来ます。皆さん気を付けてください』
役割分担が決まったところで山田先生から通信が入る。
各自のセンサーにも高速で島へ向かってくる銀の福音が映る。
「さあて、来たわね。良い、千冬さんたちが来るまでここで抑えるわよ!」
鈴の号令に気合いを入れるように返事をする。
紅椿に乗った箒が銀の福音に向かって飛び出し、そのあとを鈴が着いていく。
そして一夏とシャルがその場に残り、島の防衛に備える。
人数が多い戦闘シーンを書くのって難しいですね。
せっかく乗り換えたのにうまく表現できなかった気がします。
こういう一時的に別の機体に乗る展開が好きなので、また機会があればやろうと思ってます。