そろそろ研究と並行して修論を書き始めないといけなくなってきましたね。
できれば今年中には臨海学校編を終わらせたいと思っています。
東京にあるとあるホテルの会議室で男性は電話をしていた。
相手は異母妹であり、父と話す機会が欲しいというのと、その時は自分に協力してほしいといった内容だった。
男性はそのことを了承して電話を切ると、元いた席へと戻っていく。
ここには自分の出向先の上司と、外にはねた青髪のIS学園の女子生徒がいた。
「妹さんからですか?」
「ああ、父さんと話し合いたいから協力して欲しいそうだ」
「それは好都合……彼女もいいタイミングで決心してくれました」
女子生徒は扇子を広げて笑うポーズを取る。
それに合わせてマックスウェルが動き出す。
「彼女が動くのであれば、少しばかり計画を修正しなければなりませんね」
「となると、妹と一緒に父さんと取引して、IS学園や国際IS委員会で今回の件に加担した人物を差し出してもらいましょう」
「そうですね、これなら彼女を餌にせずともIS学園に潜む害虫を炙り出せる
万全を期すとはいえ、うちの生徒を危険な目にあわせたくはないですから」
目的を達成するために彼らと接触したとはいえ、彼女は生徒の身を案じている。
「私としては例のパイロットと接触できれば、今回の件に関わるつもりはありません」
「それに関しては僕から妹を通じてコンタクトが取れます。
デュノア社長との交渉については、更識さんと改めて内容を決めますね」
マックスウェルとエリックが計画の修正について意見する。
彼らもまた、シャルルたちとは違う形で行動を起こしていた。
――――――――――
会談当日、シンはある人物と待ち合わせをしていた。
それは先日のシグーのパイロットであり、おそらく自分と同じCEの人間だと思われる。
向こうも同じように思ったのか、シャルルとの会談の打ち合わせを通じて接触してきた。
「初めましてかな、私は――」
「ラウ・ル・クルーゼ……
世界樹攻防戦の功績によりネビュラ勲章を授与され、白服として隊を率いていたにもかかわらず、戦争犯罪を行い第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦で戦死。
その正体はアル・ダ・フラガのクローンであり、老化を隠すために仮面をつけていた……」
サングラスをかけているとはいえ、その姿は画像で見たラウ・ル・クルーゼそのものだった。
レイやキラ・ヤマトから話は聞いていたとはいえ、シンからしてみればZAFTのエースパイロットとして名を遺した人物であるせいか、少し緊張していた。
「これはこれは、私も随分有名になったものだ。
では、君は何者かな? その口ぶりから察するに君も元ZAFTかな」
「ああ、俺はシン・アスカ。
アンタが戦死した後にZAFTのアカデミーに入って赤服になった。
詳しい説明は省くが、俺は半年前にCE74年からこの世界に来た」
「なるほど、私がこちらに来てからの時間を考えると、時間の流れはどうやら同じようだ。
ふむ、では聞かせてもらおう、私が死んだ後のCEの歴史を……」
クルーゼに促され、シンは第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦の顛末から自分がこっちに来るまでのCEの歴史、自分の経歴、レイ・ザ・バレルとデュランダル議長について語った。
……
…………
シンの語ったCEの歴史を聞いても特に表情を変えなかったクルーゼだったが、レイやデュランダル議長の死についてはサングラス越しでも分かるように感情を露にしていた。
それは本に載るような冷徹な指揮官でも、キラ・ヤマトたちに聞いた世界に憎悪を撒き散らすような人物でもなかった。
「そうか、ギルバートだけでなくレイも……」
「……」
その表情につられてシンはレイとの最後のやり取りを思い出す。
メサイア攻防戦の直前、デュランダル議長の話しを聞いて引っかかっていたこと。
――レイの運命は変わらないのか?
ラウ・ル・クルーゼである事が本当にレイの運命だったのか……その疑問は時間が経った今でも時々考える。
しばしの沈黙の後、クルーゼは気を取り直して話し出す。
「すまない、もう少し色々と聞きたいところだが本題に入ろう。
君はどうやって“こちら”に来たと思うかね?」
「どうって……さっきも話しましたけど、直前の記憶がないのでよく分かりません」
「ふむ、では私の体験を話そう」
今度はクルーゼがこれまでの経緯を語った。
ヤキン・ドゥーエでキラ・ヤマトの乗るフリーダムに撃墜された後、青い光が見えた。
気づくとその光に向かって手を伸ばしており、目には見えなかったが周りには同じように光に向かって手を伸ばす多くの人たちの気配があった。
それらを押しのけて掴み取った瞬間に光が強く発光して視界を覆いつくした。
「そして次に意識が戻った時、私はギルバート・マックスウェルとしてこの世界にいた」
「ちょっと待ってください。その名前って偽名じゃなかったんですか!?」
「そうだ、“本物のギルバート・マックスウェル”は元々この世界に存在していた人物だ。
家族は既に居ないようだったが、友人や職場の同僚など彼の過去を知る人物が存在している。
その人たちが言うには、交通事故で生死の境を彷徨った後、何とか生還したらしい。
それがどういうわけか、“私”になってしまったと言うわけだ。
それから私は、記憶喪失のギルバート・マックスウェルとして生きることとなった」
シンは自分の時とは色々と違う状況だったことに混乱する。
自分たちの身に起きたことはどちらも同じ現象なのか?
「もしかして俺もこの世界にいた“誰か”を追いやって存在しているのか?」
「おそらく、私と君とで同じことが起こっていると考えるのが自然だろう」
そしてクルーゼはシンとの話と合わせてとある仮説を立てた。
・こちらの世界に来た理由は謎の光を掴んだからであること。
・こちらの世界で死んだ人間を自分に書き換えることで存在していること。
・周りの人間はその変化に違和感を覚えないこと。
「死んだ人間を書き換えたってどういうことですか!」
「“本当のギルバート・マックスウェル”はおそらく交通事故で死んでいる。
そして君との話からCEとこちらの世界の時間の流れは同じと考えていい。
となると、自分と全く同じ容姿の人物が存在し、転移のタイミングと同じくして死亡する確率など0に等しい。
なので仮説としては“書き換え”ていると考えた。
偶然、今まで“君”を知る人物が現れなかっただけで……
恐らく君も、転移のタイミングで死んだ“誰か”を“書き換え”てこの世界に存在しているはずだ。
そしてこの“書き換え”だが、完全に元の自分を再現しているわけではないらしい」
「やぱり、そう考えるのが自然ですよね……
でも、この体はやっぱり完全に同じだと思いますよ、違和感なんてありませんし」
仮説とはいえ誰かの犠牲によって自分が存在していることに罪悪感を覚える。
だが、“書き換え”が不完全であるというのには実感がなかった。
実際、CEにいた時と今とで健康面や身体能力に何か変化があったわけではない。
「君はこちらの世界で遺伝子検査を受けたことはあるかね?」
「いえ、ありませんが」
「私は受けた……その結果、今の私に遺伝子欠陥は存在しなかった。
これがどういう意味か、レイから話を聞いた君になら分かるだろう。
恐らく君も、CEと今とで遺伝子配列が異なっているはずだ」
「!?」
驚いた、驚いて声も出なかった。
そして思ってしまった、ここにいるのがレイだったらと……
シンの思考を知ってか知らずか、クルーゼは小さく呟く。
「皮肉なものだ、なぜレイではなく私だったのだろうか」
「……俺も、機会がったら検査を受けてみます」
「そうしたまえ。では、最後の質問だ……君は、なぜISを動かせる?」
「今は言えません……ですが、貴方とはまた話をしたいと思ってます。
できればその時に話したいと思います」
「そうか、意外と私を信頼してくれるようだな。
では、私も君の信頼に応えよう」
そう言うとクルーゼは連絡先をシンに渡した。
シンも連絡先をクルーゼに渡すと、彼はサングラスを取って手を差し出した。
「ここで出会ったのが君で良かったよ。レイもいい仲間を持ったようだ」
一連の行動に面を食らったシンだったが、恥ずかしながらもその手を取った。
そして2人は分かれ、それぞれがデュノア社長との会談の結果を考えながら帰路についた。
――――――――――
同時刻――とあるホテルの会議室で会談が始まった。
当事者のシャルルと主犯のデュノア社長、そして協力者のエリックと一夏が集まった。
各自簡単な自己紹介をした後、シャルルが今回の件を切り出す。
「父さん、僕はもう男としてIS学園にいる気はないよ。
標的だった一夏にはバレちゃったし……」
「だから手を引けと……ITDOの開発方針がISの代替である以上、我が社が第3世代型ISを開発するためにはお前がデータを取って来なければならない。
シャルロット、お前にもそれは分かるだろ」
「待てよ、ISのデータが欲しいならそんな事させる必要はないだろ。
模擬戦や試合の戦闘記録なら……」
デュノア社長の回答に一夏は反論する。
だが当然、向こう側とてそのことを考えなかったわけではない。
むしろ考えたうえで、それではダメだと判断した結果が今回の騒動の発端である。
「我が社に必要なのは目に見える情報ではなく、それらを作り出している技術だよ」
「それでシャルにこんな事をさせたのか……アンタそれでも父親かよ!」
納得のいかない一夏は憤慨する。
誰もかれもが自分勝手に子供を振り回すような親であって欲しくなかったからだ。
「一夏君、父親だからこそだよ。
IS学園に入学可能な社員はいない……だからと言って、社員の娘にこんな重大な事をさせるわけにはいかない。
となれば、会社の事情を知り、なおかつ信頼できる人物となれば、自分の娘しかおるまい」
「なんだと!?」
理屈はなんとなく理解できる。
だが、一夏にとっては到底許せることではなかった。
このままでは喧嘩になると思ったのか、シャルルは一夏を制止する。
「まって一夏、ここからは僕が言う……
父さん、今更今までの事をどうこう言うつもりはない。
僕の正体が一夏にバレてなお、IS学園にいろと言うのか?」
ここから先はリスクしか存在しない……それでもなお続けろと言うのか父親に問う。
デュノア社長は真剣な眼差しで問いかけるシャルロットを見て、彼女の母親を思い出す。
先ほどまでの発言は、当初の自分の立場と意見を相手に伝えるためであり、正体がバレてしまった以上、撤退することに異論はなかった。
「……潮時だな。お前の言う通り、正体が知られた以上ここは引くしかあるまい」
「それと虫のいい話かもしれないけど、今度は女の子としてIS学園に通いたいんだ。
ここでできた友達とこれからも一緒にいたいって気持ちが一番だけど、戦闘記録を通して第3世代型ISの情報を得られるという利点がある。
リターンは小さいけどリスクはない……悪くない提案だと思うけど」
「そうだな、悪くない提案だ……が、すまないがその願いを聞くことはできない」
こんな時ぐらい、交渉ではなく、我が儘100%で訴えてくれてもいいのにと、誰の影響か強かに育った娘に、デュノア社長は父親としては少し寂しくなった。
そして残念なことに、その願いを叶えてやることはできなかった。
「そんな……なんでだよ!」
「IS学園にいる協力者との緩衝で再入学が望めない可能性が高い……そうだろ、父さん」
「ああ、この時のために撤退の準備はしてある。
だが、再入学は考慮していない。失敗したら終わり……そういう計画だ」
この計画はデュノア社長1人で実行できた事ではない。
エリックが言うようにIS学園側に協力者がおり、計画失敗で撤退となればその尻拭いも必要になる。
そのような状況で何事もなかったかのように再入学など、協力者は認めないだろう。
「分かったよ」
「シャル、本当にいいのか?」
「うん、意外な形だけどこれで決着が着きそうだからね。
それにIS学園には戻れないだけで、日本に留学する事は問題ないからね」
「ああ、そのくらいのことは便宜を図ろう」
協力者がいることは一夏たちも事前に想定している。
であれば、これ以上の条件で交渉が成立するとは思えないため了承する。
これで大筋合意となりそうだったが、ここにきてエリックが深刻な顔をして話を切り出す。
「……残念だけど、それはできないよ父さん。
既にIS学園の一部にそのルートは監視されている。
もしそれを使えば、父さんと協力者が捕まる上にこの件を揉み消すことはできない。
すまないシャルロット、本来はお前が不利になるようなら切るカードだったんだが……」
「う、嘘でしょ兄さん」
「エリック、続けろ……」
エリックの言うように、これは本来ならシャルロットの主張を認めないデュノア社長への脅迫のために用意されたカードだった。
さらに言えばこのカードの本来の持ち主はエリックではなく、彼のところに事前に交渉に来たIS学園の一派のものだった。
そのため、このままカードを伏せたままにしておくことは、本来のシャルロットへの協力になるどころか妨害になるためできなかった。
「だから父さん、僕らと取引をしよう。
こちらの目的は父さんに協力した人物を炙り出すこと……
だから父さんの罪状を見逃す代わりにその人物たちを売って欲しい。
でも本当に何もしないっていうのは無理だから、形式的には何かしてもらうよ。
おそらくデュノア社を国営化するか、社長辞任のどちらかになると思うけど」
「それは本気で言っているのか?」
「嘘だと思うなら僕のことは無視して強行すればいい。
その場合IS学園の理事長と更識が相手だからお勧めはしない」
エリックの言う更識に簪は含まれているのかは分からないが、突然のことで2人は驚く。
そんな彼らをよそに、デュノア社長はこれらの発言が嘘ではないこと、相手が相手だけにこちら側の勝ち目がないことを悟り、その条件を飲んだ。
「まあ、しでかしたことに対しては小さく済んだと思うしかないな。
名残惜しいが私も引退か……エリック、次期社長として準備しておけよ」
「結局、シャルはどうなるんだ?」
「大丈夫だよ、そのあたりも含めて僕が交渉の窓口になってる。
具体的な決定は向こうと父さんの交渉次第だけど、期待してくれて良い」
「なんだよ、不安にさせやがって」
突然の切り出しで一夏は不安になったが、結果として当初の予定通りの条件が成立しそうで安心する。
これで今度こそこの会談における交渉が成立した。
実際にこれからどう行動するのかは、エリックを仲介役としてデュノア社長とIS学園側で行われる交渉において決定する。
そして全員が会議室を後にする時、デュノア社長はシャルルに声を掛ける。
「シャルロット、お前は織斑一夏の事をどう思う?」
「正体を明かしても一緒にいて良いって言ってくれて嬉しかった。
だから、“シャルロット”として一緒にいたいと思う……かな」
僕の正体を明かした後、最初にここにいても良いって言ってくれたのが一夏だった。
そこからシンや皆が僕のために力を貸してくれた。
「ははは、真実を知ってもお前を庇うためにここに来るほどの好青年だ。
これなら不正などせず、普通に入学させて彼の婿入りを期待するべきだったな。
いや、今からでも遅くはないか、彼なら私は歓迎するよ」
「と、父さん……一夏とは友達であって、そういうのじゃないから!?」
社長とテストパイロットではなく、父と娘としての久々の会話だった。
彼女は恥ずかしがって父の傍から駆け足で離れ、一夏の方へ向かっていく。
そして追いついたところで、気持ちを切り替えるために一夏に語りかける。
「ねえ一夏、なんで呼び方かえたの?」
「そりゃあ、あの場でシャルルって呼びたくなかったからかな。
今までの癖で呼んじゃいそうにならないようにシャルにしたんだけど、嫌だったか……」
「そんなことないよ……それと、今日はありがとう」
先ほどの父親の発言からか、一夏の言葉ひとつひとつを意識してしまい顔が赤くなる。
もう少しこの時間をゆっくりと過ごしたいと思いつつも、今は協力してくれた仲間たちに早く報告するために急いで帰ろうとする一夏に続いた。
今回はシャルをどうやって再入学させる流れに持ってくか悩みました。
そしてシグーの中の人はバレバレのあの人でした。