皆覚えてる~?
「イッピーは元廃人ゲーマー(強制)」が始まるよー。
……言い訳は、活動報告にて(汗
「…………」
攻略組がアインクラッドの90層に到達した日、チナツ達は祝賀会を皆で楽しんでいた。アスナとチナツが高い料理スキルを駆使して作ったご馳走の数々は正に絶品で、皆は大満足していた。
特に、このSAOで食いしん坊にすっかり目覚めてしまっていたチンクは大変喜んでいたのだが……。
「どうしたんだよ、チンク」
「チナツか」
宴もたけなわ。楽しい祝賀会も終わりの兆しを見せ始めた頃、チナツはふと物思いに更けるチンクの姿を見たのであった。
「いや、なに……。ただ、楽しいなと思ってな」
「その割には、何か悩み事をしているようだぜ」
「ん、分かるか」
とは言え、どうやら本人も隠している気はないようで、チンクはあっさりとチナツの言葉を肯定したのであった。
「何かあるなら、聞くぜ?」
「別に大したことではない。ただ―――」
そう言うと、彼女は持っていた飲み物を一口飲んで、続きを語るのであった。
「私達は後どれぐらい、こうして騒げるのだろうかと……な」
「まぁ、これからは一層毎だと思うから10回くらいじゃないか? クリアしちまったら、この世界の金とか無意味だし使い切るだろ?」
「理にかなっているな。なら、聞きたい事がある、チナツ」
すでに、攻略は一層から始まって2年と少し。気が付けば既に九割が攻略された事になる。あんなに必死に頑張ってきたのに、いざ振り返ってみると長いような、短いような変な気分だ。
残り十層。ゴールは初めから決まっていたが、当初は終わりなんてとても見えなかった。
しかし、今ではその終わりがどんどん近づいてくるのを感じている。
無論、負ける事なんて微塵も考えていない。だが、そう考えるとチンクはどうしても攻略後を考えるのだ。
「現実に戻っても、私達はこうして集まれるのか?」
「……」
その言葉に、チナツはすぐに答えれなかった。気休めを言うべきなのか、自分の率直な意見を言うべきか悩んでしまったからだ。
だが、そんなチナツの雰囲気を察したのか、チンクはバツの悪そうな顔をして口を開く。
「いや、すまん。困らせるつもりはなかった。忘れてくれ―――」
「確かに、難しいかもな」
「―――ッ」
その言葉に、チンクは息を飲む。彼女も分かっていた事だ。だが、彼の口からその言葉を聞くのはやはり来るものがあった。
「クラインとエギルは社会人だし、学生の皆も現実で遅れた勉強の問題もあるし、住む場所も……特に、お前はドイツだしな」
「そう、だな」
チンクは思わず暗い表情を浮かべてしまう。だが、そんな彼女にチナツは頭を撫でながらは話を続けた。
「けどさ、忘れるなよチンク。どんなに離れていても、俺達はずっと仲間だって事を。一緒にいれなくても、心で繋がってる。傍にいるんだって事をさ」
「チナツ……」
全く無くなったわけではない。それでも、その言葉に、悩んでいたモヤモヤは嘘の様に軽くなった。
だが、同時にある願いが生まれる。例え心で繋がっていたとしても、せめて彼とだけは心だけでなく、肌を感じられるぐらい傍に居続けたいと。
そして、その願いはSAO攻略後、数か月を持って成就される事になる。
……のだが。
「ツーン」
「滅茶苦茶拗ねてるだとぉーーー!?」
なんか二人の関係は拗れていたのであった。
「あー、つらいなー。久しぶりにあったギルメンに平手打ちされるなんて、辛いなー」
「チナツゥ―――ッ!!?」
チンク、もといラウラ咆哮の瞬間であった。そもそもの原因は行き成りラウラが平手打ちを一夏にしたのが原因なのだが、それには彼女なりの理由がちゃんとあったのだ。
「い、行き成り叩いたのは悪かったが、そもそもの原因は貴様だろう! チナツ!?」
「はぁ!? なんで俺が悪いんだよ!?」
「私はずっとお前の連絡を待っていたのだぞ!! なのにこの数ヶ月、一度もしなかったではないか!! 平手打ちの一つくらい甘んじて受けろ!!」
「な!?」
その言葉にクラスは騒めく。具体的には『えー、織斑君って薄情』とか『忙しかったんだろうけど、ちょっと連絡するくらいはできたでしょー』とか、そんな感じであった。
織斑一夏、村八寸前である。
「ちょ、待ってくれって!? 俺、コイツの連絡先全然分からなかったんだぞ!?」
「言い訳をするな!! ちゃんと最後に言ったではないか!!」
「言ってないっての!! 最後まで言いきる前にログアウトしただろ!!」
「何をふざけた―――ッ!!」
その瞬間、何故かラウラの脳裏に鮮明に過去の記憶がよみがえった。
『私の現実での連絡先だが、お前も知っての通り少々環境が特殊でな? まずは……』
あれ? そう言えば自分ちゃんと言ったっけ? あれ? あれれ?
現実に戻って早数ヶ月。今更になって思い出してしまって、ラウラは冷や汗を流し始めるのであった。
「ちゃ、ちゃんと言ったではないのか?」
「疑問形じゃねぇか」
「ぐぅ!?」
そして、クラスの皆は、今度はラウラの反応にまた騒めくのであった。
具体的には『えー、何? 勘違い~?』とか『織斑君、わるくないじゃ~ん』であった。
「ぐ、ぐぬぬ! そ、それなら織斑教官に頼めばよかったであろう!! 私と教官の関係を知っていたのだから!!」
「色々、事情があるんだよ!」
織斑千冬にとって、VRMMOは弟を取られた忌むべき物。今でこそ、弟の大切な場所でもあったとある程度理解はしてくれているものの、一夏からSAOに関する事を話す事はどうしても躊躇していたのであった。それが、結果的にラウラと連絡を取ることが出来ない要因となっていたのだ。
「何の事情があるというのだ!! 唯一の大切な家族と言っていたのはお前であろう!?」
「だから、色々あるんだって!!」
「何故遠慮する必要がある!! 教官は私生活駄目駄目だけど、大切な姉と言っていたのはお前であろう!!」
「ちげーよ! ビール片手にから揚げ食べてゲップするとか私生活はアレだけど、自慢の最高の姉さんだって言ったんだよ!!」
「同じではないか!!」
二人は仲良く喧嘩をしていた。その様子は喧嘩をしていながら楽しんでいるようにも見えた。だが、二人は気付いているのであろうか。
すぐ傍に、例え私生活が駄目駄目でも世界最強の女がいる事に。
こめかみには # のマークが見えるのも気の所為ではないだろう。
「や か ま―――」
「え?」
「む?」
「しぃッッッ!!!」
「「ぐぼぉおお!!?」」
あぁ、なんて事であろうか。二人の頭は鷲掴みされ、正面衝突をさせられたのであった。二人はそのままドサリとその場に倒れ、ピクピクと痙攣をおこしていた。
「い、一夏さん!!?」
ちょっと忘れかけられていたセシリアは慌てて一夏に駆け寄る。
「(血がドクドク出ていますわ!!?)」
その光景に戦慄するセシリア。一方千冬はその光景に一瞥もくれる事無く口を開くのである。
「さて、それではHRは終了とする。次は移動教室であったな。全員移動の準備をしろ」
そんな千冬の姿を見て、各自思うであった。
「「「「「(ビール片手に、から揚げ食べてゲップするんだ……)」」」」」
何となく、親近感がわく一同であった。
「つんつん、おりむー。生きてるー?」
「布仏さん!? 突くのはお止めなさい!?」
「ったく、チンクの所為でひどい目に合ったな」
「人の所為にするな!」
「あたしは、千冬さんの存在を忘れて、とんでもない事を言ったアンタ達に驚きだわ」
そんな感じで、お昼休み。一夏、セシリア、箒、ラウラに鈴が加わり交流を深めていた。
「って、あれ? シャルルの奴はどこ行ったんだよ?」
「ん? あぁ、お前がボーデヴィッヒに気を取られている内に他のクラスメイトに連行されていったぞ」
事実は箒が言った事とは少し違う。正確にはシャルルが一夏と一緒にいるのを遠慮して一人で食堂に行ったのだが……まぁ似たようなものであった。
「そっか、チンクの奴がようやくIS学園に来たのに浮かれちまってたか」
「ふふん。なんだ。私が来たのがそんなに嬉しいか?」
失敗したなぁ、と思う一夏をよそにラウラはエッヘンと胸を張って自慢げであった。
「おう。リアルに戻った仲間で連絡取れていなかったのって、お前だけだったしな。やっと会えてよかったぜ」
「う、うむ。そうか!」
そんなラウラに対して、一夏はあっけらかんと答えるのである。自分の発言をあっさり答える一夏にラウラは思わず顔を赤らめる。
そして、思うのであった。
「(相変わらずだな。これは気のある奴が近くにいるな)」
もっと早くIS学園に来るべきかと本気で頭を抱えるラウラであった。既に、箒と鈴は自分を完全に警戒しているのが見て取れた。(恋愛的な意味で)
因みにセシリアはラウラがSAO生還者という事もあってか、過去の負い目があるのかどうにも煮え切らず苦笑いであった。
「む、そうだ。チナツ、少し頼みがあるのだが良いか?」
「なんだよ、頼みって?」
「ちょっと待っていろ」
そう言うと彼女は鞄から明らかに容量オーバーの袋を取り出し始めた。
「どうやって入れてたのよ?」
「ふふん、気合だ」
「そういう問題ではないだろう」
自信ありげにその袋を取り出すラウラに皆呆れるしかなかった。唯一一夏は、仕方ないなぁと苦笑いであった。
「で? なんだよ、その袋?」
「今朝、売店で適当に買ってきていたのだ。調理パン一式だ」
見てみれば、コロッケパン、焼きそばパンと色んなパンがある。と言うか、本当にパンしか入ってない。
「急いで買ったのでな。とりあえず目の前の物全て購入した」
「他の人の事も考えろよ!!?」
因みに、この日パンが買えなくて、整備室で昼食しながら作業できなかった少女が幼馴染と一緒に久しぶりの学食利用をしていたりする。
「つーか、こんなに買ってきてどうすんだよ?」
「無論、お前の弁当のおかずと交換するまでだ!!」
自信満々にそう宣言するラウラ。そんな彼女に一同は……。
「「「「え?」」」」
ぽかんと口を開くのであった。当たり前のように好きな男子に飯を求めるラウラ。特に、セシリア達は、それぞれ一夏の胃を掴もうと密かに料理を練習しているのに、こんな行動に出る女子がいるのに驚いていたのだ。
そして、一夏は彼女の相変わらずの食いしん坊っぷりに呆れながら言うのであった。
「あぁ、悪い。俺弁当は作ってねぇんだよ」
加えて言うのであれば、IS学園の学食が美味しくて入り浸っている日々だ。学食も複数あるのでまだまだ飽きは来ていなかった。
だが、その事実にラウラはショックを隠しきれない様子であったのだ。
「なん……だと……?」
「いや、その。勉強も遅れてるからさ、中々料理とかは……」
「そ、そうか。そうなのだな。それなら仕方ない……」
しょんぼり。その言葉が似合うように落ち込むラウラ。
「チナツの、料理……楽しみにしていたのだが……」
「う……」
「食べると、気持ちがあったかくなって幸せだったんだが……」
「う、うぐぅ……」
「ドイツにいた頃は、アインクラッドに戻りたいとすら感じていたのにな……」
いじいじとするラウラを見て、堪りかねた一夏は叫ぶのであった。
「今度の休み作ってやるから元気だせ!!!」
その言葉に、ラウラの表情は―――。
「そ、そうか!! さすがは私の嫁役だ!!」
「誰が嫁役だ!!」
ぱぁと、明るくなるのであった。そして、そんな二人を見て、箒達は思うのであった。
「(それで良いのか、一夏)」
「(あぁ、もしやと思っていたけど、『料理出来る』から『料理好き』になってたのね……あんた)」
「(まぁ、一夏さんは料理がお上手ですの!? 是非わたくしのサンドイッチを召し上がってもらいませんと!!)」
そんなこんなで、一時はどうなるかと思ったラウラの出現ではあったが、彼女もまたうまく彼らの輪に溶け込むことに成功したのであった。
因みに、大量の調理パンは5人で仲良く分けあって食べました。
「パンだけって、結構きついわね」
「わたくし、飲み物買ってきますわ」
「私も行こう」
「チナツの作った焼きそばパンのほうが旨かったな」
「まぁ、売店にしては良い方だろ?」
ちょっときつかった様であった。
「…………(´;ω;`)」
「あの、会長。ドイツ軍出身の代表候補生が今日……」
「簪ちゃんが、雑誌取材断った……」
「…………いや、あの」
「もう知らない! クララの馬鹿!!」(←精一杯、妹と話を合わせようとして間違った方向のアニメを見た姉の図)
「(……下剋上、ありか)」