A,時系列を無視して書きたいのが書けるからだよ。
……はい、すみません。また番外編を挟みます。一応、鈴ちゃんにちょっと溜まってる(ように感じる)ヘイト抜きも兼ねてますので、許してください(汗)
アインクラッド62層。攻略組作戦本部。
そこでは、間近に迫ったボス攻略のための作戦会議が行われていた。
「今回のフロアボスとの戦闘では、ラストアタックは我々聖竜連合がもらう」
「は!?」
「何を言ってるんだ!?」
不意に聖竜連合のメンバーがそう発言すると、集まった攻略組のプレイヤー達は批判の声を上げた。
「おいおい、幾らなんでもそいつは欲張り過ぎじゃないのかよ」
赤いバンダナを巻いた男性、クラインは諌める様に聖竜連合のメンバーへと声をかける。
「ここに居る全員、命を張ってるんだ。それをそんな……」
「なんだ、文句あるのか?」
「今回のボス攻略は、俺達抜きでやってもらってもいいんだぜ?」
だが、クラインの苦言など知った事ではないと言わんばかりに彼らは挑発的な笑みを浮かべながらそう切り返してきた。
と言うのも、今回のフロアボスは先遣隊の調査よりタンクが多めに必要と判断されたからである。
血盟騎士団は総合的にはトップギルドと言われているが、人数的には中規模であった。そのため、今回はいつも通りのタンク数だけでは不足と判断されており、聖竜連合のディフェンダー隊に対し多めのフロアボス戦への参加が要請されていたのだが……結果は彼らを増長させる結果になっていた。
「ま、そうなったら全滅かもしれないけどな」
「違いねぇ」
「おい、いい加減にしろ。それで、もし誰かが……」
数層前のフロアボスでは犠牲者が出てしまっていた。それ故にチナツは他人の命を軽視するような彼らが許せず、そう発言するのだが……。
「なんだぁ? 二人だけの弱小ギルドが」
「黙ってろよ、ガキ」
そんなチナツに対して、彼らは侮辱するかのような態度をとる。そしてそれは唯一のギルドメンバーであるチンクの癪に障る結果をもたらした。
「貴様ら、チナツを侮辱するとはいい度胸だ」
「は、やるってのか?」
「いいぜ。潰してやんよ」
「チンクに手を出してみろ。容赦しないぞ」
彼女は、腰に忍ばせていた小剣を取り出す。それに対して、聖竜連合のメンバーも武器を取り出し、そしてチナツもまたチンクを守るべく武器に手を当てていた。
一触即発の空気。だが、そんな時だ。
「いい加減にしなさい!!」
今回のフロアボス攻略の指揮をとる血盟騎士団・副団長アスナが彼らを諌めた。
「双方、武器を収めなさい。今回のフロアボス攻略の指揮権は私にあります。勝手な事は許しません」
「む」
「ちっ」
チンクは親しい間柄のアスナに言われたため、対して聖竜連合のメンバーは血盟騎士団と敵対したくなくて武器を収めた。
「確かに、ラストアタックを必ずしも聖竜連合のメンバーが行うように調節する事は出来ません」
そうする事によって犠牲者が出てしまう可能性はゼロではない。故にそれは許せない。そうアスナは言った。
だが、今回のボス攻略では聖竜連合の協力は必須。だから彼女は……。
「ですので、今回は誰がラストアタックを取ってもラストボーナスはお譲りというのでどうでしょうか」
その言葉に、周りがどよめく。しかし、彼女がそう言うのであれば仕方ない。そう言った空気が流れ始めていた。
「ちっ」
「ふん。それで良しとしてやる」
どうやらそれ以上要求をしても意味がないと判断したのか、彼らは押し黙っていた。
「そして、ギルド・サマーラビッツ」
「な、なんだ?」
急に自分達が呼ばれ、チンクは怪訝な顔をしながら返事をした。
「騒ぎの責任として、今回のボス攻略への参加は見送らせてもらいます」
「な!?」
その言葉に、チンクは愕然としていた。
「ふ、ふざける…「分かった。今回はボス戦には参加しない」…チナツ!!?」
納得のいかない内容に食って掛かるチンクであったが、チナツはそれに対して了承をした。
「は、コイツは傑作だ」
「精々、今回は大人しくしていろよ」
「き、貴様等…「チンク」…くっ!!」
それ以上相手をするな。そう言うかのように彼女を呼ぶチナツに対して、チンクは押し黙った。
「これにて、フロアボス攻略会議は終了とします。皆さん、明日の攻略まで体を休めて下さい」
こうして、波乱に満ちた攻略会議は幕を下ろしたのであった。
「何ぶすーとした顔をしてんだよ、チンク」
「ふん!!」
「(駄目だ、こりゃ)」
今回のボス攻略から外された二人は、現在62層のダンジョンにてレベリングをしていた。
「何故我々がッ!」
「仕方ないだろ。今回の攻略じゃ聖竜連合の協力は不可欠だったんだ。ああするしかなかったさ」
それに加えて、もしアスナが二人の肩を持てば身内贔屓をする指揮官と判断される可能性もあった。
アスナは血盟騎士団の副団長と言う立場もある。もし、そんな彼女がそう言う人物と判断されてしまった場合、巡り巡って血盟騎士団の信頼性まで下がってしまう。
そうなれば、今後の攻略は全て聖竜連合の主導で行われてしまうなんて言う可能性だってあるのだ。
無論、聖竜連合は決して悪いギルドではない。
だが、攻略組中最大人数を誇るギルドという事もあり、素行の悪いプレイヤーが多いのも事実であった。
「だが、我々は侮辱されるような事はまったくしていないではないか!!」
そのチンクの言葉に、チナツは溜息を吐きながら言う。
「確かに俺達は正論しか言ってない。だけど、正論が必ずしもその場で正しいとは限らない。そんなの、俺達はアインクラッドで嫌というほど見てきただろ?」
「む……」
むしろ、それはアインクラッドでの話だけではなかった。現実にだってそう言う場面は嫌というほどある。
「謝る必要なんてないけど、アスナには普段通りに接しておけよ。あれで結構気にするタイプだからな」
「ふん。まぁ、考えておこう」
「(やれやれ)」
そんなチンクを少し微笑ましく感じながらも、ふとチナツはある事に気が付く。
「どうした、チナツ? モンスターがいる部屋はもう少し先だが?」
「いや、あんなところに扉なんてあったけな?」
「ん? 少し待っていろ」
そう言うと、チンクはマップデータを出す。すでにこのダンジョンのマッピングは完全に終わっているはずだ。だが……。
「妙だな、確かにこの先には道ができているようだ。もし、前からあるのなら前回の時点で気付いていたはずだ」
「となると、追加された場所か。条件は何だろう?」
マッピング後に一定期間経つのが条件か、はたまたこの層のボス部屋が開かれる事が条件か……。
そんな事を考えているチナツを尻目にチンクは扉に手を当てていた。
「そんな考察、帰ってからにしたらどうだ? 大事なのは目の前にある事実だ」
「なんだよ。こう言うのを考えるのもゲームの醍醐味なんだぜ?」
元々そこまでゲーマーではなかったチナツであったがこの2年近くでだいぶキリトの影響を受けているようであった。
それに比べてチンクは若干呆れながらも先に進むように促していた。
「(こんな所で考え込むなどとは、やはりチナツには私が必要だな!!)」
彼女も余計な事を考えている様子であった。
「お、結構広いな……」
扉の先は、恐らくフロアボスのいる部屋と同等のスペースがある大広間であった。
「とはいえ、何もないな……」
遺跡をモチーフにしたダンジョンなため、装飾品やら、不気味な石像は多々あるのだがそれだけであった。目ぼしい宝箱もモンスターも全然見当たらなかった。
「……ん?」
だが、しばらく歩いていると、大広間の中央に明らかに他とは違う石像が鎮座していた。
大きさは人間の二回りほど大きく、どこか人型にも見えるが、それにしては肩の部分や背中などに大きなふくらみがあり、そのシルエットは大きな鎧を部分的に纏っている人間のようにも思えた。
「この形……?」
チンクは、その形に何か親近感を覚え触れようと手を伸ばす。
だが、その時だ!!
「チンク!!」
「くっ!?」
その石像は突然動き出し、チンク目掛けて拳を繰り出した!!
チナツは咄嗟に反応して、剣でその攻撃を弾く。
「トラップか!?」
先ほどまでその石像に、モンスターを表すカーソルはなかった。だが、今はそのカーソルがはっきりと見えていた。
「すまん、チナツ! 助かった!!」
「来るぞ!!」
ゴーレムモンスターがさらなる攻撃を繰り出す。その攻撃に反応して二人は同時に左右に跳ぶ。
「いくぞ!!」
チンクが先ほどのお返しだといわんばかりに大剣を振るいゴーレム目掛けて斬りかかる。その攻撃に反応してゴーレムは後ろに跳び避けた。
「な、に?」
ゴーレムタイプのモンスターは動きが遅い代わりに攻撃力が高いのが相場だ。だが、目の前のモンスターは初動が若干遅い大剣の攻撃とは言え難なくかわしたのだ。
だが、所詮はネームドモンスターですらない通常のモンスターだ。
「はぁ!!」
避けた先に向かってチナツがスタン攻撃を繰り出しゴーレムは身動きが取れなくなってしまった。そしてその隙を狙い……。
「今だ、チンク!!」
「任せろ!!」
チンクの大剣が光り始めソードスキルが繰り出された!!
「はぁぁあ!!」
両手剣ソードスキル・アバランシュ。
その技の輝きと共に、モンスターは一瞬にして砕け散ったのであった。
「ふん。驚いたのは最初だけか、つまらん」
「そういうなって。すでに俺達この層の安心マージンはとってるんだからさ」
「まぁ、ボス攻略にも参加する予定だったしな!」
「(まだ根に持ってるんかい)」
そんな彼女に少し呆れつつも、チナツはドロップしたアイテムを見る。
「珍しいモンスターだったけど、ドロップアイテムは大したもんじゃないな」
それはよくある鉱石アイテムであった。武器の強化には必要なものだが、それほど珍しい物でもなかった。
「はぁ、拍子抜けだな。そろそろボス戦も終わるだろう。一度街に……」
二人が部屋に背を向け、立ち去ろうとした時だ。
≪パチパチパチパチ≫
不意に、部屋に手を叩く音が鳴り響いた。
「「―――ッ!!?」」
二人は何事かと急いで振り返る。そこには一つの人影があった。
「やあ、やあ、やあ。中々やるね、少年少女よ~」
「た、たば―――!!?」
チナツはとある知り合いに似た何かを感じ、咄嗟にその名を呼ぼうとした。
「(……ちがう)」
だが、そこにいたのは自分の知る人物とは似ても似つかない姿であった。黒髪に長髪で、眼鏡をかけた白衣の女性。それが自分達の目の前に現れた人物だ。
「(けど……)」
それにしても雰囲気がそっくりだ。チナツは何となくそう感じていた。
「誰だ、貴様は」
「おおっと。自己紹介がまだだったね。私の名前はマトメ。今し方、君たちが倒したゴーレムの創造者なのさ!! ブイブイ♪」
その言葉に彼らは疑問を感じる。プレイヤーには武器を作る鍛冶屋、モンスターを使役するテイマーはいても、モンスターを造るスキルを持ったプレイヤーは聞いた事がない。
つまり……。
「コイツ、NPCか」
「だろうな」
だがそれにしては、違和感がありすぎる。あまりにも自然と会話が成立していたのだ。
「(高度AIのNPCって事か……)」
とは言え、全くない話でもなかった。このアインクラッドには彼女のような人間とほとんど変わりのないNPCがいる事にはいるのだ。(無論、このアインクラッドの住人としての世界観しか持ち合わせてないが)
「となると……」
チナツは、ある事を考える。この手のNPCが現れる意味を。
「さて、それじゃぁ、そろそろ本題に入ろっか?」
「なんだ? ゴーレムを倒したことなら謝らんぞ」
「おい、チンク」
「あっはっは。あんなあっさりやられちゃうような駄作どーでも良いよ!! けどね、私はもっと強いゴーレムを作りたいんだよね!!」
そう言うと彼女は右腕を天高々に上げながら宣言する。
「そこで、私の作品を倒した君達にぜひ協力してほしいのさ!!」
彼女のその言葉と同時に、チナツの目の前にウィンドウが展開される。
「クエスト【優レシ脳ヲ持ツ者】……か」
やはり、クエストNPCであったか。チナツはその予測が当たっていた事に内心頭を抱える。
高度IAを持つNPCが絡むクエストは難易度が高い、あるいは重要性の高い物がほとんどだ。すでにこの層のフロアボスは攻略開始されている事から、おそらくは前者であると推測できた。
で、あるのであればデスゲームである以上、無意味に難易度の高いクエストに無理に参加する必要はない。だが、素直にNOを選択できないのは偏に報酬の高さが魅力的だからだ。
難易度が高い=報酬も高い……と言うのもまた相場であったからだ。
「どうする?」
「どうするったってなぁ……」
通常の特殊クエストは、ある程度クエストフラグを立てる過程でどんな内容か分かるヒントのようなものはある。だが、今回はいつ何がクエストフラグになったのかもわからなければ、全くのノーヒントである。
精々、先程ゴーレムと戦ったくらいだ。
「おお? なんだか、警戒されているね?」
「え? いや……」
「にゃっはっは。心配しなくてもだいじょーぶ!! さっきのゴーレムとあと数体ほど戦ってもらうだけだからさ~!!」
まぁ、多少のバリエーションはあるけどね。と付け加えながら彼女はにこやかに笑っていた。
「集団戦か?」
会話が成立する。その事を逆手に取りチンクは情報を集めようとしていた。
「ノン! 欲しいのは個人戦のデータだからね。集団戦となるとまた違ったデータ取りが必要なのさ!」
「(クエストボスはいないようだな……)」
当たり前だが、ここは最前線だ。当然、出てくるモンスターも現時点でのトップクラスだろうし、クエストボスが出るようなクエストならば二人では到底クリアできない代物である。
「チンク、転移結晶は?」
「この室内でも問題なく使える様だ。どうする?」
「ん~……」
いざという時の退避手段も確立している。攻略組といえど、最前線も情報のリソースの奪い合いだ。出来る事ならば、自分達がクリアしたいクエストでもあった。
「受けよう。ただし、引き際は絶対に間違えないようにな」
「了解だ」
唯一のギルドメンバーの了承を貰うとチナツは目の前にある表示の≪OK≫を押す。
「おおう。受けてくれて嬉しいよ~♪」
そう言うと彼女はトコトコと離れた場所へと歩いていく。
「それじゃぁ、早速始めるとしますか。全部で、5連戦。しっかり頑張ってくれためへ~!!」
その言葉を聞くと、チナツはホワイトカラーの片手剣を、チンクはブラックカラーの両手剣を構える。
「それじゃぁ、スタートだぁ!!」
その言葉とともに、ポップされる人型ゴーレムモンスター。その姿を見ると同時に、チナツとチンクは同時に駈け出す。
「さっさと終わらせるぞ!!」
「あぁ! 今日は味噌カツの気分だ!!」
「脈絡ないな!? 分かったよ、作ればいいんだろ!?」
最前線でのクエストとは言え二人はそんな事を言い合えるぐらいには余裕を持っていた。
そう……。
「期待しているよ、頑張ってね~」
『持っていた』のであった……。
63層・主街区
「ん~?」
「どうしたんだよ、アスナ。そんなに、首を傾げて」
「あ、キリト君」
解放された63層の主街区の転移門にあるベンチにアスナはじっと座っていた。初めキリトは少しトラブルもあったボス攻略に疲れたのだろうと思ってそっとしていたが、自分がショップ巡りをしてもまだいる彼女を不審に思い、キリトは声を掛けていた。
「まだチンクちゃん達が上がってこなくって……」
「あぁ……」
余談ではあるがアスナはちょっとずれているチンクを妹の様に可愛がっていた。よくスイーツ専門店を探しては供に行き、ある時は(半分騙して)洋服店にも誘っていた。
おそらく彼女は、攻略会議の一件で嫌われていないか気がかりでこの場でずっと待っているのだろう。キリトは何となくそう思っていた。
「攻略会議の件はチナツがフォローしてくれてるだろう?」
「そ、そうかもしれないけど……」
ズーンと落ち込むアスナ。そんなアスナを見てキリトは溜息を吐きながら質問を続けた。
「メッセージは?」
「送ったけど、返事なくって……。チナツ君も……」
「チナツも?」
その言葉に彼は首を傾げる。
「位置情報は?」
「え?」
そう言うと、キリトは腕を振りメニューウインドウを開く。
「フレンド登録はしているんだ。細かな情報はともかく、大体の場所は特定できるだろ?」
「あ、そうか!!」
その事に気付くとアスナもキリト同様にフレンドリストを開き彼女の場所を確認し始めた。
「チンクちゃんの場所は……62層のダンジョン? チナツ君は?」
「チナツも一緒だな?」
だが、既にそこの宝箱は狩り尽された後だ。無論、モンスターはいくらでもポップするから、レベリングする場所と言う意味では最適だ。もっとも、それも63層解放までの話であるが。
「戦闘に忙しい……って事はないよな。あのダンジョンはそこまでのモンスターハウスじゃないし」
「うん」
位置情報がロストしていないという事は、まだ二人は生きているという事。しかし、メッセージを飛ばしても返信はない。
ましてや、上の層が解放されたにもかかわらず上がってこない事がアスナにとっては嫌な胸騒ぎを作る要因となっていた。
「私、行ってみる。いくら何でも様子がおかしいわ」
「分かった、付き合うよ。俺もちょっと気になってきた」
アスナは、キリトがそう言うと転移門まで走っていき転移する。目的地はチナツ達がいるであろうダンジョンだ。
だが、そこにあったものは前回まで存在していなかったはずの空白箇所のあるマップデータと、決して開かない扉だけであったのであった。
―現実世界―
「簪ちゃん……どうしてこんな事に。私がもっとあの子の話を聞いてあげてたら……」
「お嬢様……」
「御免なさいね。あなたも、妹が……」
「いえ、二人とも生きています。私達がこのように塞ぎ込んでしまうのは望んでいないはずです」
「そうね……その通りよね」
―アインクラッド―
「さぁ、次のお店に行くわよ♪ たまには狩りじゃなくてぱーっと買い物もしないとね♪」
「おー! 次行こー、シーちゃん、クーちゃん!!」
「二人とも待ってってば!」
「クキュ~♪」
「シリカも、ちょっと大人な下着を買って、キリトさんを悩殺しないとね♪」
「もう! クシナ!?」
「うふふ♪ シリカちゃん、かわいい~♪」
「かわいい~♪」
「クキュ~♪」
「こらぁ!!」