>アルスター一族。
>前話にて説明させていただいた“五大部族”。アルスター一族はこれの一つに数えられ、ハイネのヴェステンフルス一族とともにその名を連ねている名門。
>そもそも五大部族とは、かつての戦国時代の折、天下統一に最も近いとされた当時“五強”と言われた部族の後の総称なのである。
>アルスター一族はその特徴として、典型的な女系一族であると言える。完全な女性優先の風習で、それにより“アマゾネス”や“ヴァルキュリア”などの代名詞で呼ばれる。
>また、五大部族の中でも最大を誇っており、終戦後のその繁栄には著しいものがある。だからというのはおかしいかもしれないが、政治・経済的な権力を持つ唯一の部族でもある。
>ハイネ
>『セキレイ様はお元気です かね?』
>そして、今回出会うこととなったチドリとツバメ。この2人は、アルスターの若き担い手である。
>確認しておくが、ツバメとチドリは兄弟ではない。よく言うところの幼馴染みというやつだ。
>また、2人の赤い髪は、アルスター一族の特徴で、その血統が純血に近いほど、濃く鮮やかな赤になる。
>ツバメ
>『セキレイ姉様を知ってん の?』
>セキレイ・アルスター。アルスター一族の現族長である。
>先ほども言った通り、アルスター一族は典型的な女系一族である。なので、族長も女性が務めるのは当然のことなのだ。
>ハイネ
>『あの事件の後は、いろい ろとお世話になりました から』
>チドリ
>『え?』
>何のこと?チドリもツバメもそんな顔をしている。
>ただハイネは、少し固い表情だった。
>ハイネ
>『オレ、ヴェステンフルス なんスよ』
>チドリ、ツバメ
>『』
>とたんに2人は目を大きく見開く。
>先ほどもハイネは名乗っていたが、その時はスルーされていた。
>ヴェステンフルスという名と、それに関する事件という言葉から考察するに、おそらく…
>ツバメ
>『ウソ…。ヴェステンフル スって、何年か前、旅団 に滅ぼされたんじゃなか ったっけ?』
>チドリ
>『あの事件の生き残りはい ないって聞いてましたけ ど』
>2人がこう思っていたのも無理はないのだ。
>3年前の“幻影旅団”によるヴェステンフルス一族の殲滅。これによる一族の生き残りはいないと、当時のクロノス政府は公表したのだ。つまり、ハイネという存在は当時確認されていなかったのだ。なぜなら、クロノス政府の調査が入る前に、シドがハイネを保護し連れ出していたからだ。
>事件一年後、ようやくハイネの存在が確認されることとなった。しかし、当時のハイネの身元引受人となっていたシドとエマのはからいにより、その事実は極秘事項として処理され、ギルド上層部・五大部族の上役・政府機関のトップ等の限られた者にだけその事実が伝えられた。
>ツバメ
>『ヴェステンフルスに生き 残りがいたなんてね』
>チドリ
>『でも、よく無事でしたね 。クモって証拠隠滅のた めに、対象は絶対に皆殺 しにするって聞いてまし たから』
>そう、チドリの言う通り、“幻影旅団”はその後の証拠隠滅のために、事件の当事者はすべて皆殺しにしている。そのため、ハイネのような幻影旅団が関与した事件の生存者は極めて少ないのだ。
>ハイネもそのことは知っている。しかし、改めて考えてみると、自分が今こうして生きているということが、奇跡の上に成り立っているということを再認識させられる。
>まぁ、それは奇跡でも何でもなく、ある人物の故意であったということは、まだこの時は誰も思うまい。
>ツバメ
>『よかったら、この後、ウ チ来る?多分、セキレイ 姉様もアンタに言いたい ことはいっぱいあるだろ うし』
>ツバメはチドリの顔を見ながらこんなことを提案する。
>チドリ
>『そうだね。今ならセキレ イ様も屋敷にいるし』
>チドリも、それにうなづきながらそれに賛成する。
>ハイネ
>『いいんスか?』
>確かに、一度セキレイ本人に会って直接話をしたいとは思っていた。しかし立場的に、五大部族の族長の一人であるセキレイに謁見することはとてつもなく難しい。
>思ってもみない申し出に、ハイネは少々とまどう。
>ツバメ
>『絶対って約束はできない けど、セキレイ姉様なら きっと取り合ってくれる よ』
>ツバメのありがたい提案にハイネは甘えることにした。
>ハイネ
>『じゃ、お願いします』
>ハイネもセキレイとの面識はない。ハイネが一方的に知っているだけだ。
>しかし、今回の件で、セキレイもハイネの名前だけは知っているはずだ。
>アルスターは生前のヴェステンフルスとも深い親交があり、ヴェステンフルスが滅ぼされた時も何かと支援してくれていた。
>その意味でも、ハイネはセキレイと会いたいと思っているのであろう。
>ツバメ
>『じゃ、パッパとクエスト 終わらせっか』
>ツバメは元気よく立ち上がる。
>チドリ
>『でもツバメちゃん、マカ ライト鉱はいいの?』
>ツバメ
>『そんな場合じゃないでし ょうが。ね?』
>と、いきなりシンとハイネにふる。
>ハイネも『そうっスね』と立ち上がる。
>ツバメとチドリは、互いに17歳でHR3。片手剣の使い手だ。
>シン
>『オレたちの目的はランポ スなんです』
>ツバメ
>『ホントに?ならちょうど いいや』
>チドリ
>『ボクたちはドスランポス なんですよ』
>聞くところによれば、ツバメとチドリの標的はドスランポスらしい。
>ランポスを標的としているシンとハイネにとっては、ちょうど標的が重なった。つまり、4人でランポスの群を探し、ドスランポスをツバメとチドリが、残りのランポスをシンとハイネが狩れば、両者クエスト成功となる。実に効率的。
>そうと決まれば、早速行動開始。
>4人はランポスの群の捜索をはじめた。
>時刻は昼をまわったころ。灼熱と化した外気は、本日最高を記録している。灼熱下の死闘の始まりだ。