シン
>『よし』
>シンは鏡の前でチェーンシリーズの防具をまとい、二本の剣を背中に背負った。鏡の中に“ハンター”の自分がいる、それが何より嬉しかった。
>シン
>『いけね、忘れるとこだっ た』
>アイテムボックスの上にのせていたポーチに手をのばす。
>と、いっても、入っているのは回復薬が3つだけなのだが。
>そして最後に剥ぎ取り用のナイフを腰に備え付け、準備完了。
>シン
>『それじゃ、いってきます 』
>誰もいない部屋に別れを告げ、集会所に向かう。
>外に出ると、今までとは違う気分になる。
>自分がハンターの格好をしているからだろう。少しえらくなった気分だ。
>頭防具を外し、それを片手で持って歩く。
>雑貨屋のおばちゃん
>『あれぇ、アンタシンくん かい?』
>かん高い声が、シンの左斜め後方から聞こえてきた。シン
>『おばちゃん』
>シンが駆け寄る。
>雑貨屋のおばちゃん
>『やっぱりシンくんだよ。 まぁ、立派な格好して』シンは右手を後頭部にあてて、ベタな照れのポーズをとる。
>雑貨屋のおっちゃん
>『おうおうシン。何だ、そ の格好は』
>奥からヒゲのおっちゃんが出てくる。
>ここは雑貨屋。
>多くのハンターが、クエストに出る前にこの雑貨屋で下準備を整える。
>それゆえ、この雑貨屋を切り盛りしているおっちゃんとおばちゃんは、多くのハンターと知り合いで、皆からの信頼も厚い。
>今日、この時から、シンもそのハンターの一人となったわけだ。
>おばちゃん
>『確か、今日が授章式だろ 。それなのにもう、クエ ストに出るのかい?』
>シン
>『はい。もうこの辺がウズ ウズしてて』
>シンは自分の胸を押さえる。
>おっちゃん
>『はっはっは~、若いのぉ ~。ワシも若いころは、 そりゃもう…』
>おばちゃん
>『何言ってんだい。アンタ はもう』
>おばちゃんがおっちゃんを殴った。
>ちょっと真面目に痛そう。おばちゃん
>『そうだ、これを持ってい きな』
>おばちゃんは棚の下から、ボトルを出してきた。
>見たところ、回復薬と変わりなさそうだが。
>おばちゃん
>『これは回復薬グレートっ ていうんだよ。普通の回 復薬よりもずっとよく効 くよ。アンタがハンター になった祝いだ。持って っとくれ』
>シンはありがたく受け取った。
>シン
>『ありがとう、おばちゃん 。それじゃ』
>シンは両手で回復薬グレートを受け取り、ポーチにしまうと、すぐに駆け出していった。
>おっちゃん
>『若いって、いいな』
>シンがこのティーズ村にきたのは、3週間ほど前。
>それ以来、幾度かこの雑貨屋に立ち寄っていたので、おっちゃんもおばちゃんもシンのことを覚えてくれていたのだ。
>
>雑貨屋から集会所までは目と鼻の先。
>ハイネと約束した20分後にはまだ余裕があった。
>とりあえず、駆け込む。
>そこで目にした光景は、さっきと全く変わりないものだった。
>まだ、武具の受け取りをやっていた。その列もさっきほどではないが、ちゃんと現存している。
>そしともう一つ、変わらないものが…
>アウル
>『ああいつになったらク エスト受注できんだよ』さっきからクエストの申し込み待ちをしている現役ハンターたちもいた。
>スティング
>『騒ぐな』
>ステラ
>『しー』
>ステラという女の子が、人差し指を口にあてて言っている。
>アウルはガキ扱いされたことがムカついてるようだった。
>ハイネ
>『おい、シン。こっちこっ ち』
>アウルたちの向こうにハイネがいた。
>シンは、文句をタレるアウルたちを横切ってハイネのところに駆け寄る。
>シン
>『早いな』
>ハイネ
>『まぁな。早くクエストに 行きたかったし』
>シンと同じチェーンシリーズの防具をまとい、背中には大剣。
>ハイネ
>『と、言っても、まだ武具 受け渡しが終わってない みたいだから、ちょっと 待ってようぜ』
>待合室のイスに腰かける。ハイネ
>『最初のクエストって何だ ろうな。いきなり討伐ク エストではないと思うけ ど。どっちにしろ、オレ たち2人でかかりゃ、ク リアできないクエストな んてないだろ』
>ハイネが調子よく話を進める。
>シン
>『あのさ、ハイネ。ちょっ と相談なんだけど』
>ハイネ
>『ん?』
>少し真面目な顔で話をきりだした。
>シン
>『最初のクエストさぁ、オ レ一人で行きたいんだ』シンは率直な思いをそのまま言葉にして言った。
>ハイネにすればちょっとショックかもしれないと思ったので、言うのを少しためらいはしたが。
>ハイネ
>『…』
>シン
>『やっぱりハンターってさ 、何でも一人でできて初 めて一人前になれるんだ と思うんだよ。だから初 めのクエストだけは一人 で行きたいんだ』
>シンはハイネの様子をうかがうように言葉を進めた。ハイネ
>『…』
>シン
>『ハイネ?』
>ハイネは考え込むように一点を見続けている。
>ハイネ
>『いいな、そういうの』
>シン
>『へ?』
>思わぬセリフが返ってきて、妙な声を出すシン。
>ハイネ
>『確かにそうだな。オレは 2人で行くつもりだった けど、そういう考え方も あるのか』
>思ったより明るい反応で、シンは安心する。
>ハイネ
>『よし、じゃこうしよう』何かの提案を思いついたようだ。
>ハイネ
>『オレたち2人で同じクエ ストに同時に出て、どっ ちが先にクリアするか』シン
>『つまり競争ってこと?』ハイネが笑って、親指を立てる。
>シン
>『OK、それなら』
>それならシンも問題なく賛同できる。
>ハイネ
>『負けた方はお互いの契約 金を負担すること』
>シン
>『賭けかよ。まぁ、いいけ どな』
>ハイネとシンは手を取り合った。
>契約成立の握手だ。
>そんなことを話していると、受付の辺りもすいてきた。
>ハイネ
>『じゃ、行こうか』
>シン
>『ああ』
>2人は初めての狩りに向け、立ち上がった。