背後から迫る圧倒的なもの。
>焦げ茶色の防具をまとった男が、大鎌を振り上げている。
>シン
>『な…』
>その場をわかりやすく絵で表現すると、アリがゾウに踏み潰されそうになっている状況。
>もちろん、アリとはシンのこと。ゾウとは大鎌の男のこと。
>大鎌の男
>『…』
>まさしく例えの絵のとおり。
>ゾウが一歩踏み出そうとしている先にアリがいるのだ。
>アリがゾウの足を受けきれるわけがない。逃げれるわけもない。
>圧倒的にすべてが圧倒されていた。
>シン
>『な…』
>大鎌が振り下ろされる。
>シンは目を反らすことすらできなかった。
>刹那。
>明らかに鎌を振り下ろしただけとは思えない地響きが起こった。
>シン
>『』
>さすがにシンも目を閉じていた。
>目を閉じていたが、地響きの感覚は伝わってきた。
>つまり、それを感じるということはまだ生きている。一振りで地響きを起こすような斬撃をくらって生きているはずがない、と思ったがシンはおそるおそる目を開けた。
>シン
>『…』
>そこには光輝く(ように見えた)救世主様がいた。
>大鎌を刀で受け止めている男。
>シン
>『…?』
>状況がまったく理解できないシン。
>救世主様
>『何をやっているんです』その言葉は誰に対して言ったのか?シン?それとも大鎌の男?
>大鎌の男
>『…』
>大鎌の男は無言のまま、救世主様の刀と大鎌の男の鎌がすれ合う音だけが聞き取れた。
>大鎌の男
>『…』
>大鎌の男は救世主様の刀をはじき、左手で何かの玉を地面に投げつけた。
>救世主様
>『』
>紫色の煙が立ち込めた。
>[毒けむり玉]だ。
>大鎌の男はそれに紛れて逃げ去ったようだ。
>救世主様はシンを抱いて、走り出す。
>救世主様
>『息をしちゃダメだ』
>救世主様はシンを抱いて走っているにも関わらず、シンが素で全力疾走するよりも速い。
>シン
>『ん~』
>広範囲に散布された紫色の毒けむりがはれてくる。
>救世主様は安全を確認し、シンを下ろした。
>救世主様
>『大丈夫?』
>その時初めて救世主様の顔を見た。
>知的な感じの物静かで優しそうなお兄さん、って雰囲気だ。
>シンは『は、はい』とぎこちなく答える。
>救世主様
>『じゃ、オレはいくね。さ っきのやつみたいなのが いたりするから、気をつ けてね』
>救世主様はさやに戻した刀を腰にさし、先ほどの大鎌の男を追っていった。
>シン
>「あの人、太刀の使い手か …」
>太刀、切断武器の一種で、一流ハンターに最も好まれている。
>シンもそれを踏まえた上で、今の救世主様も相当の実力者だと勘ぐった。
>さっきの大鎌の男と今の救世主様、感じはまるで違うが、双方とも強大な力を持っているのに違いない。
>
>ハイネ
>『20個コンプリート』モスの後を追ってキノコを探していたハイネが、ついに目的の20個を達成した。
>後は生きてキャンプ地まで戻るだけだ。
>しかし、モスについていったためキャンプ地からだいぶ離れてしまった。
>ハイネ
>『時間も、余裕とは言えな くなってきたからな。早 く戻んねぇと。シンはも う終わってたりしてな… 』
>ハイネはシンとの賭けの勝敗を考えつつ、キャンプ地に急いだ。
>
>シン
>『…』
>目の前で起こった強大な力の激突をまだ信じれないでいた。
>裂けた地面がその力を物語る。
>シン
>『夢…じゃないよな』
>数秒後にはホントにあった出来事かもあいまいになるくらいだった。
>シンは立ち上がって状況を頭の中で整理する。
>シン
>「あれ…?オレってキノコ 探してたんじゃなかった っけ?」
>シンの頭の中に、先ほどの出来事以前の記憶がよみがえる。
>シン
>『やっべ。時間やっべ』声に出してあわてふためく。
>この時にはすでに、大鎌の男のことも救世主様のことも忘れていた。
>一つのことに意識が向けば、他のことは忘れてしまう、シンの性格だ。
>刻限まで残り2時間をきっている。
>シン
>『大丈夫か…?』
>シンはあわてて林の中へ戻っていく。
>とりあえず、走りながら周りを見回して特産キノコを探す。
>シン
>『んん~、ねぇな~』
>あわてているため見逃しも少々あった。
>そうして高台へあがってきた。
>『キノコ~』と呟きながら、シンは崖からの景色にも目を向けることなく、特産キノコを探し続ける。
>そしてその時、唯一目に止まったのが、洞窟の入り口。
>シン
>『洞窟…』
>シンはこの時に、スティングの一言を思い出した。
>シン
>「スティングさんたち、洞 窟の中にいっぱいあるっ て言ってたよな」
>今になってやっとだ。
>シンは、スティングの言っていた洞窟がこの目の前のものと信じ、その中に足を入れる。
>
>ここで思い出してもらいたい。
>この洞窟、先日ハイネが針虫セルケトと遭遇したところとまったく同じなのだ。
>シン
>『ス、スゲー…』
>感無量の光景だ。
>太陽の光がこぼれる洞窟の中には、まるでキラキラと光る宝物のようにキノコが生えている。
>少なくとも、シンの目にはそう映った。
>シンは残り5個の特産キノコを手早く採取し、一瞬考える。
>『特産キノコを採り終えた ので、今すぐ戻る』
>『このままもう少し、この 場で採取を続ける』
>2択だ。
>しかし、答えはすぐに出た。
>『このままもう少し、採取 を続ける』と言いたいところだが、時間がわからない以上、『今すぐ戻る』を選択する他なかった。
>シンは入ってきた洞窟の入り口に引き返す。
>案じていたセルケトの出現はなかった。
>シン
>『え~と、どうやって帰れ ばいいんだっけ?』
>目の前には崖。
>最後の最後に最悪な質問を投げ掛けた。
>とりあえず、崖の下を覗いてみる。
>シン
>『あれって…』
>崖下にはキャンプ地が。
>『やり~』と声をあげるシン。
>さらに運がいいことに、崖下まで伸びるつたまで発見。
>シンはつたを握り、滑るように降りていく。
>シン
>『この賭け、もらった~』急降下しながら叫ぶ。
>地面が近づいてもブレーキをかけることなく、直後に手を離し、華麗に着地する。
>目の前には、納品箱と密林まで乗ってきたいかだ。
>ハイネの姿はない。
>シン
>『やったな、賭けはオレの …』
>納品箱に、ポーチにつまっている20個の特産キノコを納めようと、蓋を開けた時…。
>ハイネ
>『やっと戻ってきたか』
>いかだの上からハイネの声が。
>シン
>『』
>シンはギョッとしていかだを見る。
>ハイネはいかだのベッドに横たわっていたのだ。
>シン
>『ハイネ…。じゃ、まさか …』
>シンは青ざめた顔で納品箱の中を確認する。
>そこには、すでに20個の特産キノコが納められていた。
>ハイネ
>『賭けはオレの勝ちだな』シン
>『マジかよ…』
>『ニシシ』と笑うハイネの前には、さらに青ざめたシンがしゃがみ込んでいた。
>残り時間、31分。
>ハイネ・ヴェステンフルス、シン・アスカ。
>両者クエスト成功。
>