「......あれ?」
ニルフィは地図と眼前の巨大な建造物へと交互に視線を上下させ、可愛らしく小首を傾げた。
「はめられた、かな」
しらけた顔をしてニルフィは地図を背後に放り投げた。直後にポイ捨てはダメだと思い、
フィンドールの嫌がらせかと思ったがバラガンが許すはずもなく、おそらく合意の上なのだろう。アーロニーロも最初から一枚は噛んでいたかもしれない。自分の方向音痴を利用されるのはいい気分ではなかった。
「まったくさ、いい歳した大人がこんなちっちゃな女の子を揃っていじめるものなのかな。あとで宮の壁に落書きしてやる」
小心者ゆえのしょぼい仕返しだ。
「......はぁ、入ろうか。これだけ前フリされちゃったら、ね」
宮の扉は鍵が掛かっておらず、特に出迎えもなく足を踏み入れた。
壁の取り払われた広すぎるホールには何もなく、中央付近では四本の極太な柱が天井を支えていた。
カツン......と、軽いはずの足音が
「だれかいませんかー?」
呼びかけも反響するだけでニルフィに返って来た。
「留守かな」
四方の柱に誰かが隠れている気配はーーあった。
「そこにいるよね。勝手に入って来たのは謝るけど、仕方なかったの。話くらいなら聞いてくれるかな」
「気づきましたか。ただの
「日和見で悪かったね」
音もなく静かにニルフィの前に男が現れた。坊主で頭部には棘のような仮面の名残があり、首には首飾り、耳には仮面が変化した髑髏のピアスをしている黒人風の男だ。
厳かな雰囲気を纏う彼は、うしろで手を組みながらニルフィを無遠慮に観察する。
ニルフィにはあまり好きではない目をしていた。
「おっと、失礼。私は
「......ニルフィネス・リーセグリンガー」
ゾマリの言葉遣いは
その直感は、ゾマリが斬魄刀の柄に手をやったことで確信に変わる。
「おや、どうされました。そのように警戒して」
「キミがどうしたのさ。出合い頭でいきなり殺気を向けられたら誰だって警戒するのは当たり前。そんなこともわからずに柄に手をかけたのかな? 口調と頭は比例しないね」
「挑発のおつもりですか。しかし貴女のような舌足らずな甘声では、幼稚きわまる甘言ですよ」
「その割には今、一瞬だけ霊圧が乱れたね。なに? こんな子供の指摘すら聞き流せないのかな、ゾマリさんは?」
相手の隙を作ろうと舌に毒を含ませながらニルフィは喋った。一応とはいえ効果はある。このまま我を忘れて激昂してくれれば楽に逃げおおせられるが、ゾマリは静かに殺気を隠さずにしてくるだけだ。
「......ま、この際には些事だったね。それよりゾマリさんが私に刀を向ける理由は?」
「とぼけないでいただきたい。既に藍染様からは
「ナニソレ知ラナイヨ」
「ウルキオラ・シファー、アーロニーロ・アルルエリ、バラガン・ルイゼンバーン。他の三人の
後半はニルフィの耳には届いていなかった。ウルキオラたちの株価がニルフィの中で大暴落だ。少しでもいい人と思ってしまったことを人生の恥とするしかない。
「とはいえ、私もみすみすこの座を明け渡すつもりはない」
「言っておくけど、私は数字なんて興味ないよ。だって私はこのままのんびり人生を生きて......」
「藍染様からの言伝だ。
「ちくしょー!」
このまま知らん顔で逃げたら、あのオサレ隊長に何をされるか分かったものではない。
穏便に済ませたいとニルフィはこの時切実に願った。
「何にせよ、私には一つ分かったことがある」
「--?」
ニルフィは疑問を胸に、かすかに息を吸った時、
「--貴女はいささか、戦いというものを舐めておいでのようだ」
「ッ!」
背後から振り下ろされた斬魄刀にニルフィが気づく。ゾマリは眼前にいるのに、なぜ? そう思うよりも前に振り返りながら背後へと跳躍。濡れたような黒髪が少しだけ削られた。シャルロッテならば即座にキレていた。惜しむ気持ちを抑え、ニルフィは右手を貫手に。
咄嗟にゾマリが斬魄刀を盾にしようと持ち上げる。しかし間に合わない。手の形をした瞬速の槍がゾマリの胸に吸い込まれ、
仕留めた。ニルフィは殺しをしたことを嘆く前に、そう連想する。そして彼女の横顔に蹴りが叩き込まれたのは同時だった。小さな体が弾丸のように吹き飛び、一つの柱にめり込むように激突した。
ニルフィは瓦礫から這い出し、何事もなかったかのように立ち上がる。金色の目には興味と、
「なんだろう、さっきの。ゾマリさんが二人もいたみたいだけど」
そんなことはない。現にニルフィが視界に収めるゾマリは一人だし、
「
ゾマリの姿がぶれると、その輪郭が消えないうちのもう一人のゾマリが別方向に立っている。
「私の
「へぇ、
「手品とは相手を驚かせるためのものですから、目で追えず驚いたからといって、そう
感心するニルフィの両脇に、斬魄刀を振り抜こうとする二人のゾマリが立っていた。軽くホラーだ。ニルフィは右のゾマリの斬撃を限界まで硬くした
その手刀はゾマリの首元へ。しかし背後からの殺気を感じ、追撃を断念しながら
再び二振りの刀が死角からニルフィを襲う。首元と、右足のふくらはぎ。先に迫った首への斬撃を屈んで避け、もう一本を裏拳の手刀で対抗。互いに触れ合った瞬間、霊圧が爆発する。そこを中心として衝撃波が巻き起こり、床がへこみながら砕かれた。
ニルフィが開いた右手を掲げ、振り下ろす。
様々な光が乱舞する空間から離脱して空中を飛び、ニルフィが眼下を見下ろした。
「気を抜くとは暢気なものだ」
ゾマリの大上段からの剣戟。空気を裂くような一撃。
ニルフィは腰の後ろに掛けてあった己の斬魄刀を逆手で抜き放ち、居合として放った。
ぶつかり合う霊圧で空気が悲鳴を上げた。しかし二人の剣舞はこれで終わらない。ゾマリが
「守りに徹するだけでは勝てませんよ」
「............」
「勝たせるつもりなど、毛頭ありませんが」
五人のゾマリが瞬時にニルフィを取り囲んだ。逃げようにも、逃げ場は潰されている。
予備動作なくゾマリの斬魄刀が少女の服を裂き、柔肌に埋め込まれ、貫通した。
「くぁっ......!?」
心臓と内臓をかき回されたニルフィは苦悶に顔を歪ませーー消える。
ありえない出来事にゾマリは目を見開いた。
「だーいせーいこーう! ......なんてね」
無防備なゾマリの背中をトンと指先で押したのは、小悪魔のような表情のニルフィ。
ゾマリからの横なぎの剣を見て、ニルフィが背後にとんぼ返りした。軽やかに空中で着地する。
「......今のは、いったいなんの技でしょうか」
「なんの技って、ゾマリさんがさんざん見せてくれたでしょ? そんなことも見て分からなかった? 私がちょっと
「これは
「さあ、どうだろうね。ゾマリさんの言うようにコレは手品みたいなものだよ。でもキミは手品師失格。どうして手品師が同じマジックをしないのかって理由は、単純にタネをわからせないため。その点、キミは目立ちたがり屋さんだ」
ニルフィが髪を背後に流しながら笑いを隠そうともしない。右手で逆手に持った彼女の斬魄刀の刀身は不思議な色合いをしている。光の反射によって、さまざまな色に変化するように見えるのだ。
それを杖のように振りながら、茶化すように口を開いた。
「手品とは相手を驚かせるためのものですから、目で追えず驚いたからといって、そう
不思議なことに、ニルフィの喉から出た声はゾマリのもので、先程話した言葉を違えずに抑揚も一緒であった。そこまではさすがにゾマリ本人は気付かなかったが。
ゆるやかに変化が起こっているのには、少しだけ感じられたのは僥倖か。そうでなければ彼は
噛み合わせが悪くなった歯車のような音が、ニルフィの霊圧から漏れていく。
「何度も見せてくれたら私だって理解できるよ。ステップのコツ、筋肉の動かし方、霊圧の操作方法。ぜーんぶ、見せてもらったからさ」
三人のニルフィがゾマリの周囲をくるくるとスキップをして回っていた。
ゾマリがそれを不快そうに剣を振るうことで追い払う。
見ただけでできた? ありえない。
そしてニルフィが
「それでね、見ててよ。これが私が自分でアレンジを加えた
ゾマリより少し離れた場所にいたニルフィの姿がブレた。すると二人に。しかしブレは止まらず、四人、八人、十六人と増殖するように数を増していく。もはや
もはや、群れだ。
虚と幻の混じり合った姿。
「これは......!」
「だいたいが私の幻影だから、ホントはここまでじゃないんだけどね」
数で囲んでいたはずのゾマリが、今度は群れに包囲されている。
「加減した幻影じゃあ、ゾマリさんを殺すことなんて出来やしないよ。数の無駄ってやつかな」
「見せかけというわけですか。片腹痛い」
「そうかも。では、コレの怖さを知らないゾマリさんに問題です。デデン! この三百人ちょっとの私の中に、ゾマリさんの首を
ケラケラケラケラ。ニルフィたちが一斉に笑い出した。楽しげに、愉しげに。もはや狂気までも感じさせそうなのは、同じ少女が幾人もいるというだけではない。少女は口の端を裂けそうなほど吊り上げて笑っているからだ。
無垢な光は眼から失われた。
残った無邪気は別の色を持ち、澄んだ金色の双眸を濁りらせて少女の心を蝕み、嗤い続ける。
凄惨。その一言に尽きた。
「五体、でしょうか」
「ぶぶー、はずれー。正解は十二人でしたー。この刀で手足を切り落とせるから、よく覚えといてね」
その数に驚くよりも先に、ゾマリはこの大群の意味を理解できた。出来てしまった。
殺傷能力のある分身が、同じ姿をした何人ものニルフィの中に紛れている。幻影にはさほど力がないとはいえ、気を抜けばその隙に即座に凶器が襲い掛かってくるだろう。精神的に責めたてるのだ。
そんなゾマリを見て、堪え切れないというようにニルフィたちが腹を抱えるほど大爆笑する。ここに来る前の彼女からは想像できないほどに不敵な態度だ。もはや別人にしか見えない。
「ク、クフッ、アッハハハハハハハハハ! なにその顔、さっきまでの自信はどこいったの? もっと頑張ってくれないと私が楽しめないじゃん。遊ぼうよ、もっと、もっと、さぁ。空腹にしてよ、
ニルフィたちが笑いながらゾマリへと接近した。それを五人に増えたゾマリが迎撃し、時折
少しずつ、ゾマリの分身が消えていく。性能は良くとも、単純な数の暴力には耐えられなかったようだ。
ゾマリの体をじわじわといたぶるように、変色する斬魄刀が振るわれ続けた。
「舐めるな!」
ゾマリが立ち直るように斬魄刀を構えなおした。分身を最大まで増やし、再度のニルフィの強襲を迎撃しようとする。
「あはっ」
掛かった。そう、幼い笑い声には含まれていた。
数いる幻影たちの外に、空気からにじみ出るようにしてニルフィの分身たちが現れる。その数は十二。最初から、幻影の群れには決定打を持つ存在はいなかったのだ。
両手を銃の形にして、彼女らは幻影の包囲網の中心へと腕を向けて現れ、霊圧を瞬時に溜めた。
刀で戦うような発言はブラフ。虚言に惑わされたほうが悪い。最初からニルフィの頭には、相手を殺すためのビジョンしかない。
頭の大きさほどまで圧縮した
顔を歪ませたゾマリを
その余波は百メートル規模の柱を徐々に朽ちさせていった。瓦礫になることも叶わずに、塵としてどこかへと流されたようだ。
「あーあ、肉くらい残すの忘れちゃった」
斬魄刀を鞘に戻しながら残念そうにニルフィが零す。
心底つまらなさそうに、足もとに転がって来た小石を蹴り飛ばした。
「--舐めるなと、言ったはずだ」
その声は唐突に、石材が溶けたことで噴き出し続けている煙の中央から届いた。
「鎮まれ『
クレーターの中央に鎮座していたのは、白くて丸い球体だ。まんま南瓜のように見える。その頂点の部分からまず左手が突き出し、次に右手、そして頭部から胴体にかけて現れた。
これがゾマリの
しかしタイミングが遅かったのか、所々肉が焦げているようだった。
あの集中砲火に耐えたことにニルフィが驚くよりも先に、嬉しそうに顔をほころばせた。
「あぁ、よかった、生きてたんだね。せっかくのご飯がパァになるところだったよ」
「......はっ、はっ......ぐぅ、おのれ......!」
「キミは
「......成程。貴女のそれ自体も、すでに傲りであるとは......気付いていない、ようですね」
「また手品?」
「いえ、その傲岸不遜たる貴女の醜悪に尽きる内面を、直々にすり潰して差し上げましょう」
ゾマリの全身の目が黒くなっていった瞬間、ニルフィは咄嗟に
なにかが、起こった。
とても静かな変化なのか、攻撃でもないそれはどこかに破壊痕を残すこともない。
ニルフィが
そして、ニルフィの右手が別の生物のように彼女の首元へと突き出された。少しだけ目を見開いてニルフィが自分の首を絞める己の右手を見つめる。華のような文様が手の甲に浮かんでいた。
「その右手は、既に私の物となりました」
背後に現れたニルフィへとゾマリが振り返りながら、勝ち誇ったように告げた。
「なに、これ......?」
「全てのものには『支配権』があります。部下は上官の支配下にあり、民衆は王の支配下にあり、雲は風の支配下にあり、月光は太陽に支配下にある」
「............」
「我が『
「これが、私の力です」
「まさか」
「私は貴女をもうすでに見ている」
ゾマリの複数の目が黒く染まると同時に、ニルフィの体に同じ数だけ文様が刻まれる。
見るだけならば、光と同じ速度を実現する。つまり遮蔽物のない場所で使われると実質回避不可能なのだ。
左太もも、わき腹、左肩、右足の甲、胸。そして、頭。体への指示を出す部位が掌握されると、肉体のすべての支配権を奪われるのが特徴だ。
ニルフィから表情が抜け落ち、だらりと体から力が抜ける。
「どうやら傲っていたのは貴女のようだ。たしかに力はある。しかしそれだけだった。内なる狂暴性に踊らされ、呆れるほどの隙を晒した」
語り掛ける間にゾマリは体の節々の痛みに眉をしかめる。
こうして支配権を握っても、苛立ちが募る。
「この傷の恨みは、貴女にむごい醜態と痴態を晒させることで消しましょう。そのあとは私直々に首を刎ね、死を与える」
歯をむき出しにして、ゾマリが宣告。
その視線の先でニルフィがゆっくりと右手を持ち上がり、自分の死覇装に手を掛け、肌を覗かせてた。白く、歳不相応に艶めかしいうなじが露わになる。服がはだけて小さな肩が見え、そこを濡れたような黒髪が流れた。人形のようだとは、使い古された表現ではあるが、今の少女にはとても当てはまる。
そうして彼女はーー消えた。
「ねぇ、良い夢は見れたかな?」
ゾマリの耳元で、失望がにじみ出ている幼い声で囁かれた。
バッと振り返るも、声の主の姿はどこにもない。せわしなく首をまわしながらゾマリが叫ぶ。
「どこだ!」
「そんなのどこだっていいじゃん」
「ぐ......くそォッ! 私の愛をッ。受けろ! 受けろ! 受けろオオオオオ!!」
「ああ、まったくね。いい
ゾマリの声だけが虚しく反響し、ニルフィの声があらゆる方向から聞こえてくる。
「少しは思い出してきたかな、昔のこと。それにバラガンさんのいたころの
「なぜだ! 貴様は
「あれってもちろん偽物だよ。というか、気づかなかった? キミが最初に私を蹴った瞬間から、
その事実にゾマリは何も言葉を返せないでいた。今までの戦いが人形相手の茶番とは、夢を見せられていたようで現実味などあるはずもない。
「ねえ、自称手品師さん。もうネタは切れたの?」
「ぐ......ぅう!」
「そっか、残念。
「なんだ! なにをするつもりだッ!」
「真似だよ。記憶通りなら、これも使えるはずだから」
からかうような口調から一変し、寂れた空間に流れるのは悲しげな旋律。
聞く者が聞けば、その危険性で身がすくむほどの。
『
黒棺
光さえ奪い取るような闇色の牢がゾマリを幽閉した。彼の叫びも、悲鳴も、重力の奔流によってかき消された。
「オサレだよね、この技」
ニルフィが指を鳴らす。黒棺は崩れるように溶け、中からは全身から血を噴き出すゾマリが吐き出される。
いつの間にか、ニルフィがゾマリの眼前にいた。
恐怖で反射的に
「アッハハハハハハ! ホントに最初の威勢はどこいったのさ! ねえ、答えてよ、
「じ、慈悲を......」
「慈悲。慈悲かぁ......。そっか」
苦しみ悶えるゾマリを見ているうちにニルフィは醒めていき、落ち着きを取り戻していく。
一度、手の平へと視線を落とし、そして傷つき死にかけたゾマリを見た。
光を取り戻したはずのニルフィの目に、悲哀がよぎる。やってしまった。これが自分の本性だ。獣。ハリベルの言っていた言葉が頭に浮かんだ。
乾いた笑いが、ニルフィの体を震わす。
「ダメだったよ......私、変わることなんて、できないよ」
独り言だ。
「でも、壊したのがキミでよかった」
安心だ。何しろ、相手は出会ったばかりの他人なのだから。これからあるはずもないのだが、目の前にいたのがハリベルやウルキオラだったらニルフィには耐えられなかっただろうから。ゆえに、心を痛める必要はない。
「私が戦った理由なんて、高尚なものじゃない。ただ殺されるのが怖かったから、生きるためにキミを殺そうとする。保身のために刀を血で濡らすし、食べるために肉を食いちぎる」
悲しげにニルフィが斬魄刀を右の逆手で抜いて、ゆらりゆらりと身体を揺らしながらゾマリへと近づいていく。
隠すこともしない霊圧にゾマリは反応した。
「く、来るなァ! 我等は同志のはずだ! 仮面を砕き、力を手に入れた眷属であるはずだ! それに、貴様は私欲のために刃を向けるというのか!? 忌避も、躊躇も、悲壮もなく! 私を殺すのならば貴様はケダモノと同意義なのだ! 違う? それはただ思い上がっているからに過ぎない! 畜生へと身を堕としたくなくばーー」
言葉は続かなかった。
ニルフィの斬魄刀がゆっくりとゾマリの首に添えられていた。口の端をわななかせながらゾマリが潰された目でニルフィを射殺さんばかりに睨む。
「貴様のことを、藍染様は許さぬぞ」
「そう? 藍染様が関心を持つのはキミみたいな弱者なんかじゃないと思うよ」
「藍染様が、いや、神が我らを創造なされたのだ! そのうちの一人である私を斬るだと? このクズにも劣る売女めがなにを」
刀が薙ぐように頭部を斬り飛ばした。
「ごめんね。ーーうるさかったから斬っちゃった」
回転しながら落ちてくる物言わぬ首をニルフィが左手で掴んで抱える。血が服に付くことも躊躇わず、そっと抱きしめた。聖女のようにニルフィが微笑みを浮かべた。
「キミは気にしなくていいんだよ。だって藍染様が関心を持つのは強い人だけ。だからこんなところで死ぬような弱者になんて見向きもしないからさ。失望も嘲笑もされる価値はキミにないから、安心して寝ててよ」
刀を仕舞い、崩壊していくゾマリの肉体を見る。
「さて、早く食べないとなくなっちゃう。
気を紛らわすように呟いて、ニルフィは口を引き結ぶ。
そうしないと
「だっておいしそうだったから」
オリジナル技
ニルフィの無数の幻影に