今までの激動が嘘のように思えるほど、炎の領域が空中へと拡大していく。
拡大。
拡大。
拡大。
滅びの炎は大気中にその
ふと、空からゆらゆら降ってきた雪のようななにかのひとつが、ニルフィの頬に柔らかな綿のようなものがくっつく。
反射的にぬぐい取ると、ソレの正体は灰であることが解った。あの炎はまさしく、大気の霊子ごと侵食して灰に変えていってるのだろう。
これだけ近くに太陽があるのに熱さは感じない。
ただ、死の形がたまたま炎のように見えるだけだ。
そうしているうちに、
中央に立っているのはやはりアネットだった。
体を浮き上がらせるような締めつけのある白いドレスを纏い、少女であるニルフィにさえ劣情を抱かせそうな艶やかさがにじみ出ていた。所々に紅の羽を模した装飾が散らされ、腰辺りからは赤い翼がレースのように伸びている。
そして質量を増大させた炎は、両腕を覆うロンググローブにとして形作っていた。
「ふぅ~……、この姿も久しぶりね」
たしかに、アネットが最後に『
「あ、まだ逃げてはいなかったみたいですね」
「……逃がそうなんて、思ってないくせに」
「まあ、そうですけど」
アネットは手を握ったり開いたりして感触を確かめている。
「アタシは」
「……?」
「こーいう能力のせいで相手がすぐに死んじゃうから、あまりこの姿で戦ったことがないのよ。そもそも威力とかパワーとか関係ないし? 燃費も悪すぎるけど、バラガンにも負けない自信があるわよ。たとえば……効果範囲、とか」
ニルフィとは非常に相性が悪いものだ。
範囲攻撃というのは、制限の受けるフィールドにおいて効果を発揮する。紙装甲のニルフィが一撃でも喰らえば即アウトだ。いや、相性が悪いのはグリーゼが相手だった場合もだろう。それを考えると、やはり彼らは自分を殺すために近くに据えられたのだと納得してしまう。
裏切られた。
悲しい。
裏切られた。
苦しい。
裏切られた。
泣きたい。
それらを抱くのはすべてが終わってからだ。
そこで思考が停止する。終わるとはいつのことだろう。どうすれば終わることができるのだろう。
生きるという覚悟だけでは解決することのできないものが、目の前でそびえている。
「あ、ぁ、あぁ……」
金色の瞳が大きく揺れ動いた。
この戦いは、自分が死ぬことだけでしか終局を迎えないのではないのだろうか。
そう考える時間もアネットは与えてくれない。
アネットは細長い腕を天に振り上げ、ニルフィに向けて薙ぐ。
とっさの判断でニルフィが横に転がった。それが正しいと解ったのは、背後を見たときのこと。
砂漠どころか空間を漂っていた霊子に至るまで一気に灰になっている。ほんの数センチの幅でしかないが、空高くそびえる壁が作られてすぐに崩壊した。あのまま立っていたらニルフィは左右に半分になっていただろう。
「じゃあ、王様みたく
この時もやはり、アネットの両の瞳は冷め切っていた。
ーーーーーーーーーー
その場所に織姫を抱えてやってきたグリムジョーは舌打ちをする。
「やっぱりそうかよ」
砂漠の真ん中で、喉の下あたりに穴を開け、全身くまなく傷を負った一護が息絶えていた。
ウルキオラがやったのは明らかだ。彼は、意識しているかどうかは別として、気に入った獲物には自分と同じ部位に穴を開ける癖がある。
瞠目する織姫に治せとだけ言って投げ下ろす。
何度も繰り返して言う暇がないのは、自分にはまだこれからやることがあるからだ。
その場から離れた場所にグリムジョーが移動すると声が届く。
「……なにをしている? グリムジョー」
ここにグリムジョーが来ることを見越していたのだろう。
「どうした、訊いているんだ。俺の倒した敵の傷をわざわざ治してなんのつもりだ」
グリムジョーは睨みながら沈黙を続ける。
「答えないのか。……まあいい。ともかくあの女は、俺が藍染様から預けていただいたものだ。渡せ」
「断るぜ」
「ーーーー。なんだと?」
「てめえが最初からそのつもりなら、どうしてアネットが連れて行くのを黙って見てたんだよ。俺が気づいたくらいだ。
口をつぐんだのはウルキオラだった。
そんなことはどうでもいいとばかりにグリムジョーが歯をむき出しにする。
「それと、このことも解ってるハズだ。ヒトの獲物に手ェ出すことが、どういう報いを受けるのかもな」
霊圧を
しかしウルキオラは据わった目をして相手を見返した。
「お前が本当にやるべきことは、この場所ではできないはずだが」
「そりゃあ誰が決めた」
「お前自身が決めると、俺は予想していた」
ウルキオラがアネットの霊圧を感じる方向に顔を向ける。
「俺が、あの二人の戦いを止めに行くと言ったら……、お前はどうする?」
「勝手にしやがれ。どうせ、テメエは藍染から命令されて止められてんだろ。それくらいは解るぜ」
「解るなら話は早い。あくまでこれは仮定の話だ。その上でもう一度訊かせてもらうが、お前はどうする?」
犬歯を見せ、グリムジョーが苛立ちの片鱗を覗かせた。
「答えは変えねえぞ。勝手にやらせときゃ、すべて終わってんだろ」
「
「……ああ」
「そうか」
淡々と確認を済ませたウルキオラが頷く。
普段は手持ち無沙汰にしている両腕をだらりと下げ、わずかに低くなった声で言った。
「ーー期待はずれもいいところだ」
言ってから、ウルキオラは目を見開いた。彼も意図して口にしたわけではないのだろう。グリムジョーでもそこまで察せるほど、大きな変化だった。
「テメエが俺に何を期待しようがどうでもいい。ちょうど、目の前にやることが出来ちまった」
「奇遇だな。俺もそう思っていた所だ」
どうせ、話し合いなど最初から無理だったのだ。
いや、ウルキオラに『止めに行くつもりだ』と言っていれば、こうはならなかったのではないか? そしてウルキオラも渋々ながら協力をしてくれたのではないか?
その思考自体、もはや意味のないものだ。
初手を狙ったのは同時。
ここでもまたひとつ、新しい戦いが幕を開けた。
ーーーーーーーーーー
剣を一合交えるごとに、砂漠に破壊がぶち撒けられた。
並みの強者が割って入っても、即座にミンチにされてしまうことが想像に難くない、圧倒的な力のぶつかり合い。
死神にもここまで戦える相手はそういないだろうと剣八は思う。
かつて戦った
しかし、剣八の顔色は優れない。劣勢というわけでもなく、むしろそうならば彼は嬉々として戦っているだろう。
不機嫌そうなのは単に、
もう一度言うが、グリーゼは強い。
今でさえ、剣八の大上段からの斬撃を豪槍で、さながら闘牛士がマントを操るごとくいなし続けている。
しかし最初の数合、そして剣八に二本の斬撃の傷をつけてから、ふらりふらりと避けるか、鉄壁の防御だけでいなしていた。
それが不満だ。まどろっこしい。
ついにこらえきれず、
「オイ、ちゃんと真面目に斬ってこいよ。最初の
しかしグリーゼの返答はそっけない。
「……何故だ?」
「俺ぁ、こんなチャンバラをしに来たわけじゃねえ。つまんねェんだよ」
「……戦えるならそれだけで楽しいのではないか? これも、戦いだ。ならば楽しんでいるということにならないのか?」
「
こうして会話している間でも戦闘は続く。
片方が攻撃を仕掛けているのに対し、片方は亀の甲羅に篭ったような守備をする。
「……難しいものだな」
グリーゼが剣八の刀を弾き、自分から距離を取った。
「……三度だ」
「なに?」
「……三度、お前を斬った」
「なに寝ぼけたこと言ってやがんだ。どう見ても多いだろ」
槍によって斬られたことで、剣八の死覇装には切断面がある。肉体にも裂傷があった。それも二回分だけで、本人の自覚も少ないがもう塞がりかけている。
そう思って、すぐに考え直した。
二回目のグリーゼの斬撃は剣八に届いただけで、傷にはならなかったことを。
「……お前は、黒崎一護が現れるまで敗北を喫したことがないらしい」
「よく知ってんな」
「……俺にはそれが不思議で仕方がない。情報に疑いは無いが、卍解も習得していなかった黒崎一護よりも強い存在と戦ったこともあるはずだ」
「んなこと言われても知らねェよ」
負けたから、それだけだ。剣八の中ではそう自己完結している。
とはいえ、いい加減面倒になってきた。
頭がよくはないと自覚している剣八も、グリーゼが自分をここに縫いとめていることは察している。
眼帯を取るか?
それでも、まだグリーゼの実力が測りかねていない。
刀を持っていない手を下ろし、剣八はまだ本気での戦いをしないことに決めた。
相手の実力を把握していない剣八と異なり、グリーゼは剣八の本来の実力を見破っていた。
この
だから疑問もない。
目の前にいるこの死神が、比喩でもなく藍染に匹敵する霊圧を所持していることに。
ーーなるほど、見えてきたな。
グリーゼは
ゆえに考える。
相手が格下であるはずの黒崎一護に敗北した原因と、そこから導き出す鬼退治の方法を。
まともに戦っても負けるつもりもないが、自分には他にもやるべきことがアネットに押し付けられていた。
できるならば瞬殺が望ましい。
ーー三度、たしかに三度斬った。
初撃はそれなりの斬撃。剣八は反応が遅れて深い傷を負う。
しかし二撃目、同じレベルの斬撃をギリギリの霊圧硬度で剣八は防いだのだ。しかも反応ができている。まさしく、ギリギリのレベルで。
そして三撃目、今までよりも少しばかり霊圧を乗せた斬撃。
斬れた。それもまた乗せたぶんだけの薄い傷であったし、もう塞がっている。そしてそれだけ、剣八の纏う霊圧が濃くなったのも見えていた。
霊圧を無尽蔵に喰らう眼帯による手加減の他にも、剣八は
剣八の霊圧察知能力はかぎりなく低い。
だから斬られることで、肉体で実際に相手の強さを測ることで、自分の力もその段階にまで押し上げる。
これこそが一護が剣八に勝てた理由だろう。
一護が勝てたのは、瞬間的な成長による実力が剣八の本能が導き出した
「……皮肉なものだな」
最初から全力ならば剣八は一護に勝っていた。
負けたのはひとえに、戦いを楽しむために手加減をしていたから。
だが、藍染と同レベルの霊圧を持つだけに危険なのは変わりがない。
ーーここで潰す。
アネットがいる場所まで通すつもりなど、グリーゼにはさらさら無かった。
槍から変化させて大剣を構え、見るからに攻勢に出るような姿勢を取ったからだ。
「ハッ、いいじゃねえか」
やる気になってくれたのならば、剣八はこれ以上相手にどうこう言うつもりがなかった。本来の斬り合いが楽しめる。そう思い、刃こぼれの激しい己の斬魄刀を持ち上げる。
「…………」
グリーゼが無言のまま先に間合いを詰めた。
予備動作のない、無拍子。
この時点で剣八はワンテンポ遅れた。
それはもはや踏み込みの領域を飛び越え、衝撃は指向性をもって、剣八の足元だけを見事に崩して足を潰す。
体勢が崩された剣八は満足に刀を振るうことも出来なくなり、反撃の手段までもかき消されていた。
さらに正体不明の脱力感が剣八を襲う。
まるで、沼に全身を浸かったような違和感。
指一つを動かすことすらこれで不可能になった。
そして、次。グリーゼが瞬間的な霊圧の出力を異常なレベルまで跳ね上げる。
剣八は、霊子に包まれて極限までに斬れ味のみを追求した大剣を、片方の目で見ることとなる。
並みの者では到底不可能な、鉄板のような大剣を居合腰で抜き放とうと、グリーゼが全身を
抜刀術の利点は、間合いの読みにくさはもちろんのこと、受身の能動性を使用したものである。
神速の抜刀術とはよく言ったものだが、居合い切りとは、実際には振り下ろしたほうが速いのだ。
それでも。
グリーゼのその一撃は。
他者では及びも付かない神速と化した。
「ーーーーッ!!」
大量の血が剣八から噴き出る。想定以上の威力であった斬撃に、肉体は耐えられなかった。
はるか後方まで弾き飛ばされる剣八。
だが、舌打ちをしたのはグリーゼである。
「……仕留め損なうとは、俺も実力が足りなかったか」
「いいや、初めてだぜ。……腕が吹っ飛ばされるってのはよォ」
そう言った直後、剣八のそばに彼の刀が突き刺さった。それには異物がくっついていて、剣八にあるはずのものがなかった。
刀を持っていた腕だ。それはそばにある刀を握り締めたままで、その執念は見る者に畏怖さえ覚えさせる。
剣八は強引に体を動かして致命傷を避けていた。
その代償は、肩と腕、それから脇腹にかけての大きな裂傷。
今まで何度も傷を受けたことがあるが、まさか
だが剣八は笑った。
「……俺としてはもうこれで戦いを終えたい。死神ならば他にやることがあるだろう。この場から去るのなら、命の保証などできないぞ」
「ハハハハハハハハッ!! そりゃあーー本望だよ!!」
刀を握ったままの利き腕を強引にはずす。残った方の腕で柄を握り、眼帯をえぐるようにはずした。
まだ一本の腕がある。なくなれば、口で挟んで振るえばいい。剣八の頭には自分の命など勘定に入れていなかった。
霊圧が自分の肉体に満ちる中、剣八は笑い続ける。
この相手ならば、心置きなく戦える。それが最初から解っていたならばどれだけ良かっただろう。腕が斬り飛ばされたのが残念でならない。
血はいまだに流れている。
それがどうした。
横っ腹からいまにも内蔵が飛び出しそうだ。
それがどうした。
相手は強すぎる。
ならばいいじゃないか。
「あぁ、いいぜ、いいぜ! 楽しめそうじゃねえかよ!!」
そんな剣八を見て、グリーゼは目の前に自分の斬魄刀を突き立てる。
目は呆れたようでいて、別のなにかを見ているようだった。
「……そこまで戦いを楽しめるお前が羨ましいことだ」
紡ぐ。
「踏み
全身甲冑の騎士の姿となったグリーゼが、さらに巨大化した大剣を引き抜いた。
有無を言わせぬ圧力がその全身から噴き出す。
「……時間があまり無いんだ。余計な手間を掛けさせるなよ、死神」
ーーーーーーーーーー
右腕の肘から先が灰色になって散っていく。
傷による痛みとはまた別種の凄まじい苦しさに、ニルフィは悲鳴を上げることもできなかった。
「ア、ネット……」
「…………」
「アネット!」
「うるさいっ」
必死に、名を呼ぶ。迷子の子供が親を求めるように。
しかしアネットは聴きたくもなさそうにして炎でニルフィを追い払った。
「ッ、ぁ!」
アネットが『
半分になった右腕に力を込めた。
超速再生
ウルキオラのものを模倣したチカラで元に戻す。
「
それでも代償がある。
そもそもニルフィが通常の状態でノーリスクに技を模倣できるのは、最終的には誰でも扱えるものに限られていた。
超速再生は魂魄レベルでの適性が必要で、それを強引に捻じ曲げて行使しているに過ぎない。回復するたびに、頭の中が真っ白になる痛みで、精神にかなり負担が掛かった。
もうこのまま寝てしまいたい。
夢だったのだと、思いたかった。
起きたら今まで通りの日常が広がっているのだ。
グリーゼがご飯を作ってくれて、アーロニーロが遊びに付き合ってくれて、グリムジョーが不器用に頭を撫でてくれる。ーーそしてアネットが優しく抱いてくれるのだ。
最高ではないか。
現実逃避をして泣きそうになった。
ニルフィは子供でありながら
ーー最初は、こんなハズじゃなかったのに。
「しぶとすぎるわね」
辟易したようにアネットがぼやく。
彼女が大ぶりな攻撃しかしてこないため、辛うじてニルフィは直撃を受けていない。ただし死覇装は用をなしておらず、ボロ切れを纏っているだけのような姿だ。
「……ねえ、アネ、ット。やめようよ、こんなの、やめようよ! もう、嫌なんだ!!」
「うるさいってーー言ってるでしょ!」
「……ッ!」
アネットの怒りに呼応するように、地面から火柱がいくつも噴出した。
「やめて、どうなるのよ」
炎から影になっているせいでアネットの浮かべてるであろう表情が、ニルフィには解らなかった。
「何も変わることなんてない。そんなのがアタシは許せないから、ただやってるだけなのよ」
どんな顔をニルフィはしていただろう。泣き崩れそうで、ひどく情けないことだけは自分でもよく解った。
当たり前になっていた日常を求めるのが間違っているのか?
自分は、なにをするのが正解なのか?
ふつふつと湧き出る疑問に、当然ながら正しい答えなどあるはずもない。
アネットの答えはすべてを否定するもので、ニルフィは肯定をするだけ。すべてが平行線で交わらないように見えた。
いまだに踏ん切りがつかないニルフィを
「それじゃあ、アタシがこの後、あなたを殺すことに反対してたリリネットを殺しに行く。なんて言えばやる気は出るかしら?」
「……え?」
呆けた声が喉から零れた。
「あらら、反応したわね。まぁ、それでどうする?」
「なに、言ってるの?」
「言ったとおりよ。リリネットは終始反対してたみたいだってこと。他にも何人かそういうのがいるみたいだし、これってニルフィを殺したら反乱分子になりそうでしょ? 殺したって藍染は咎めたりしてこないわよ」
自分を信じてくれるヒトがいる。
それは最後の希望であり、絶望の片道切符だった。
「そんなこと、アネットはしないよね? キミは、そんなヒトじゃないよね?」
「勝手にヒトのことを決め付けないで欲しいわね。アタシが何人殺してきたか解ってるの? ああ、解ってないから訊いてきたのよね」
「……やめてよ。リリネットは、関係ないから、さ」
「関係ないってひどいわね。あなたの大切な友人でしょ。だからアタシは、仲間はずれは良くないって思ったのよ」
アネットはせせら笑う。
しかしニルフィの脳裏には、あの大切な少女の姿が浮かんだ。
「壊れるまで弄ぶのも面白そうね。あなたのモノだった娘を陵辱し尽くすのって、どんなに楽しいのかしら。それに、そうね。泣き叫ぶときの言葉は今からでも想像できるわ。あなたの名前ーー」
炎に焼かれるのも関係なしに、ニルフィが霊子の刃を両手に顕現させてアネットに肉薄していた。
それを容易くアネットが握りつぶす。幻影の
本物は背後を取っており、しかし、今までとは様子が違っていた。
ニルフィが吼える。
少女の血が混じった霊圧が巨大化し、無数の砲門を造り上げた。
閃光が至近距離でアネットを飲み込んだ。それでも光線は勢いを止めず、はるか遠方まで届くと、月を壊すかのような爆発を引き起こした。
だが、駄目だ。それでもアネットを殺せない。
致命傷レベルのダメージを受けたはずなのに、煙幕から歩いて出てきたアネットには傷ひとつ残っていなかった。
アネットがかすかに笑う。
「なんだ、やればできるじゃない」
それを聞いて、憤怒と悲哀で顔を歪ませるニルフィ。
殺したくない。でも殺さなければ、自分の大切な相手が
「愛し合った相手を奪われるのが我慢ならなかったのかしら。あらら、アタシも嫉妬しちゃいますね」
「やめ、て。やめて! リリネットだけは、なにもしないで! 私ならすぐに死ぬから! だから、リリネットだけは助けてよ!」
「さあ、どうしましょ。死んだらあの娘は守れませんよー?」
もはや、子供の心では気持ちが抑えられない。
いままで我慢していた感情を押し流すように、ポロポロ、ニルフィの頬を涙が転げ落ちていく。
「もうっ、やめてよ……! こんなの、間違ってる。だから、アネットーー」
「……前言撤回するわ。まだ甘いこと言うつもりなら、今度こそーー消す」
吐き捨てるように言ったアネットが膨大な霊圧を振り撒いて、圧縮し、凝縮し、濃縮させていた炎を解放した。
役者を包むように生まれるは摩天楼。
舞い散るは不死鳥の翼。
これこそ暴君が最強であることの代名詞となる、主君以外、何者をも存在できない楽園。
ふと、ニルフィは己の肌に触れる。
「なんで……」
灰になっている。炎が触れたわけでもないのに、全身が徐々に灰と化して崩れてきている。
「それじゃあ、茶番劇の閉幕の拍手を喝采でお願いしようかしら」
おどけるように、孤高たる暴君が宣言した。
Q.どうして更新が遅かったの?
A.春って忙しいよね!!
ーーというのも大きな理由になりますが、他にももうひとつ。
詳細はWebで! ……じゃなくて、活動報告に載せてます。