そして、ただでさえ低かった評価が
更に下がった(゜ロ゜)
2対1と、俺達にとって有利な戦況で戦闘が開始された。最初にヴァーリが仕掛けた。空中を光速に近い速度で駆け回り、ヒットアンドアウェイを繰り返していた。
『Divide!』
その音声がヴァーリから断続的に鳴っているのだが、イッセーのオーラはいつまで経っても衰える様子を見せない。
俺はヴァーリの攻める合間を見て、キングラウザーとブレイラウザーの二刀構えで攻撃を加えようとする。イッセーも俺の動きに反応して、こちらを向いた。
俺が放った二つの剣戟はイッセーの胴体を的確に斬りつけた。しかし、まったくと言っていいほど手ごたえがなかった。
「どうした?手加減していたら、こちらがやられるぞ」
「んなこと、わかってる!」
ヴァーリは俺が全力で剣を振るっていないことに気づいていたようだ。
鎧が薄そうなところを狙って、ピンポイントにそれらを突いていたのだが、どこも堅さは変わらなかった。なら、力技でいくしかないだろう。
「ヴァーリ!5秒でいい。時間を稼いでくれ!」
「……悪いが、今は無理な頼みだな」
「どうして?」俺がそう言おうとしたとき、前から無数の赤い弾丸が俺達に向かって襲いかかってきた。
ヴァーリは瞬時にその場から離脱するが、避けきることが困難だと判断した俺は〈メタル〉の力でブレイドアーマーを硬質化させ、それらをまともに受けた。
「ぐっ……がっ!」
俺の全身に激しい衝撃が走る。致命的なダメージではないが、キングフォームでここまで辛くなるなんて。しかし、イッセーが弾丸を乱発したことで、砂煙が舞っている。このワンチャンスに賭けるしかない!
「ヴァーリィィ!」
「チッ、無茶を言ってくれる!」
そんなことを言いつつも、ヴァーリは牽制をするように魔力弾をイッセーに投げつけていく。俺はそれを見て、黄金に輝くギルドラウズカードを高速で読み込ませた。
〈スペードテン、ジャック、クイーン、キング、エース〉
〈ロイヤルストレートフラッシュ〉
俺とイッセーの間には5枚の光の壁が現れ、俺はキングラウザーを両手でしっかりと握る。
「ハァァァァァッ!」
俺が走り出そうとしたその時だった。なんと、イッセーが俺の動きを察知してこちらに向かってきたのだ。そして、イッセーによって、俺が発現させた光の壁は砕かれてしまった!
「な……に?」
それを見て、俺は一瞬止まったことで、イッセーの拳を食らってしまった。それにより俺の体は勢いよく宙を舞う。
『まさか、あれを破られるなんて……。大丈夫かい?ハジメ』
「これが大丈夫に見えるか?」
あまり余裕のない俺は、思わず鍠にきつめな口調で言葉を返してしまう。
『ハジメ、このままだと埒があかない。戦法を変えよう』
それは俺も思っていたことだ。しかし、ワイルドサイクロンを放てば、全て解決するのか?もしくは、フェニックスと戦った時のように頭にストレートフラッシュを当てれば、あいつは倒れてくれるのか?
わからない。そもそも、何者かに洗脳されてるかのような状態にあるイッセーの意識を刈り取ることができるのだろうか?
さっき、あんなことを言ったばかりだというのに、俺はどうすることもできていないじゃないか!
「あれを兵藤一誠と思うな。あれはもはや別人だ!」
ヴァーリは声を大にして言う。たしかにヴァーリの言う通り、今のイッセーはいつもと違う全くの別人格。
…………別人格?それが俺の頭に引っ掛かった。
そうだ!俺にはまだ他の手段が残っている。問題はそれを扱えるかどうかだが、今はためらってる場合じゃない。俺はクラブのクイーン、キングのカードを取り出し、心の中で呟いた。
(嶋さん、力を借ります!)
〈エボリューションキング〉
スペードのエースに加えて、クラブスートのカード全てとの融合。鎧の色は金色と新たに紫が加わり、右腕には大きめの盾が大剣の代わりに発現した。その盾には、蜘蛛の脚のようにアンデッドの紋章が8つ配置されていた。
ーーこれが最後の可能性。
「行くぞ!」
俺は右腕の盾から剣を抜き、今融合しているアンデッド、8体の力を解放した。すると、盾に張り付いていた8つのアンデッドクレストがそれぞれ分離し、鋭く尖ったひし形の刃物に変化した。
異なる紋章を持つそれらは不規則かつ、縦横無尽に飛び回り、イッセーを攻め立てた。そして、そのうちのどれかがイッセーの脚に突き刺さると、その一部分だけが瞬時に凍りついていく。
〈クラブツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス〉
〈ストレートフラッシュ〉
右腕を前に伸ばして、剣を持っている左腕は後ろに引くような構えをとった。俺はそのままイッセーの方へと駆け出した。
「ウェェェェェェイッ!」
イッセーも近づいてくる俺に気づくが、もう遅い。俺は凍気纏った刃をイッセーに突き立てて、顔以外を凍りづけにし、動きを完全に止めた。今度こそはイッセーに拘束を振り切られることはなかった。
俺は唯一露出しているイッセーの頭に右手を当て、キング、クイーン、エースの力を解放させる。
(三人共、俺に力を貸してください!)
『言われなくとも、わかっているさ』
俺は三体のアンデッドの力を使い、イッセーの精神に強く干渉させた。
すると、いままで獰猛な唸り声をあげていたイッセーはおとなしくなり、龍の鎧は儚い音をたてて砕け散った。
「ったく、アーシアを死なせるわけないだろ?俺の誓ったことなんだから」
俺が氷の拘束具を解除させるとほぼ同時に、部長達が近づいてきてイッセーを抱き抱えた。
……予想以上に長引いたな。くそっ、今回もまた無理しすぎたか。すさまじい眠気が俺に襲いかかってくる。
俺は意識を保てなくなり、その場に倒れこんでしまった。
◼◼◼
「ところで、あの時なんであの場で二人共助けたんだい?だいたい、仮面ライダーならあの場にいても死なないはず。わざわざ、癒しの姉ちゃんまで助けるなんて、お前らしくもねぇ」
「なぜだろうな。自分自身でもああした理由がわからない。ただの気まぐれだったのか。……あるいは」
「……それと、お前さっきから気持ち悪いぐらい笑ってるけど、どうした?」
「いや、
「ほんと、生粋のバトルバカだねぃ」
「フフ、俺にとっての最高の誉め言葉だ」
◼◼◼
「…………ここは、俺の家……か」
あの異空間でイッセーを正気に戻してから、どれくらい時間が経ったんだ?
「ようやく起きたか、ハジメ」
「ゼノヴィアか。いつからここにいたんだ?」
いつの間にやらこの場にいたゼノヴィアに訊く。
「朱乃副部長と交代でハジメのことを看ていたんだ。一日経っても目を覚まさないから心配したよ」
話を聞くと、どうやら、俺は倒れてから約一日半寝ていたらしい。そして、イッセーもあの後気を失っていて、あいつはまだ目を覚ましていないようだ。
「他のみんなも本当に心配していたぞ。まったく、私以上に無謀な奴だよ、キミは」
でも、俺があの手段を選んでいなかったら、俺もイッセーも今ごろ死んでいたかもしれない。……さすがにそれは大袈裟に言い過ぎか。
「しかし……、あれだな。あの時、アーシアを助けてくれてありがとう。改めて、礼を言ってなかったからね」
「俺は当然のことをしただけだよ。俺も仲間を失いたくないから」
ゼノヴィアは他の部員達と比べても、アーシアとは別段仲がいいから、あの時は大分焦らせてしまったかな。俺こそゴメン、ゼノヴィア。
「さてと、時間もちょうどいいし、朝食の準備でもするか」
時計を見ると、針は朝の6時を指し示していた。
「そうだな。私も安心したら、急にお腹が空いてきた」
「ったく、少しは手伝ったらどうだ?」
「私の料理の腕が上達したら、そうするよ」
そうなるために手伝いをするのが普通だろ?ーーと、言おうとも思ったがやめた。
俺は約二日ぶりに台所へと入っていくのだった。
終わらせかたが強引だったかも