ハイスクールD×D~スペードの切り札~   作:保志白金

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遅くなりました。

他の小説も書きはじめてしまいまして……。


白龍の「救援」

「なんだよ、ここは……」

 

俺は今の状況に戸惑いを隠せないでいた。さっきまでいた空間とは構造が根本的に違うということは、なんとなく理解していた。……が、それだけでなぜ、アーシアは苦しそうにしているんだ?

 

ここに強制的に飛ばされてから、アーシアの呼吸が運動もしていないのに、荒くなっていたのだ。

 

ようやく、全てが片付いたというのに、ほんと、迷惑極まりない連中だ。ふざけやがって!

 

「あれ?こんなところで会うなんて、偶然は恐いねぃ」

 

不意に、後ろから声がかけられた。この声質と口調は、まさか!

 

「会談の時以来だな。剣一」

 

美猴に白龍皇の鎧を纏ったヴァーリ、それともう一人、眼鏡をかけている俺の知らない男がそこにいた。俺はキングラウザーの切っ先を前に向ける。

 

「今は戦うつもりはない、剣を下ろしてくれ。それにその状況を見る限りでは、ここに来たのは本意ではないようだな」

 

ヴァーリは冷静にこちらのことを分析するが、なぜそれがわかる?俺はキングラウザーを下ろしつつ、疑問に思っていた。

 

「ここがどこなのかわからないようですね。今、私達がいるこの場所は次元の狭間」

 

眼鏡をかけた穏やかそうな男が言う。次元の狭間といえば、グレートレッドが住み着いていて、オーフィスが帰りたいと言っていたあれか。

 

「そして、ここの『無』に対抗できる力がない者は、それにあてられて、時間が経つと消失していきます」

 

……ッ!じゃあ、アーシアはまさか!横を見やると、アーシアは目を閉じていた。気絶してる!

 

「ここから、どうすれば出られる?」

 

「あなたは敵である私達に助けを求めるんですか?」

 

「そう言うあんただって、俺達に危険を報せてくれたじゃないか。それに、アーシアを無事に送り届けないと、親友にブン殴られそうなんでね」

 

俺がそう言うと、その男はクスッと笑う。

 

「フフッ、ヴァーリ、彼はたしかに面白いですね」

 

ヴァーリの方を向きながらそんなことを言った。そして、ヴァーリは笑みを浮かべつつ、俺の質問に答えた。

 

「キミの力を持ってすれば、この次元の壁に穴を開けること位、容易にできるはずだ」

 

それを聞くと、俺はすぐさま行動に移した。

 

〈スペードテン、ジャック、クイーン、キング、エース〉

 

「なんで、俺達にあっさりと教えてくれたんだ?」

 

〈ロイヤルストレートフラッシュ〉

 

俺が訊くと、ヴァーリはまた、薄く笑いながら答えた。

 

「キミにも、兵藤一誠にも、まだ死んでもらっては困るからね。俺のためだ」

 

……そうかよ。また、こいつと戦うのは遠慮したいところだけど。

 

俺は脳内で空間そのものを斬るイメージを最大限しながら、キングラウザーを振り抜いた。すると、いとも容易く空間が裂けて穴ができた。

 

「よしっ!」

 

俺はアーシアを抱き上げると、その穴の中へと飛び込んでいった。

 

さっきヴァーリが言っていた言葉の意味を、この時、俺は本当の意味で理解していなかった。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

空間の裂け目を潜り抜けて、俺達は元いた場所に戻ってきた。

 

「……これは!」

 

眼前に広がっていた光景に俺は戦慄した。真っ赤な鎧を纏った人間大の龍が神殿内を暴れまわり、破壊の限りを尽くしていた。そして、俺にはその龍に見覚えがあった。あれはイッセーだ!

 

「うおおおおおおおん……」

 

暴走状態にある、そのイッセーであろう者は、どこか哀しみに満ちた咆哮を上げていた。

 

「おい、イッセー!お前、一体どうしたんだ!?」

 

俺の声に気付き、こちらに向かって、すさまじい速さで近づいてくる。

 

「グギャァァァッ!ハジメェ!アーシアァァ!!」

 

俺に襲いかかってくるイッセー。俺とアーシアのことを全く認識できないでいるのに、イッセーは無意識に俺達の名前を呼んだ。

 

「……ッ!」

 

アーシアを重力操作で、俺の後ろに持っていき、キングラウザーでイッセーの攻撃を捌いた。

 

くそっ、これがイッセーの『覇 龍(ジャガーノート・ドライブ)』なのか?この馬力はそうと見て間違いないだろう。

 

〈クラブシックス、アンド、ハート、ダイヤセブン、アンド、スペード、クラブエイト〉

 

左手からツタをイッセーに向けて伸ばして絡ませた。そして、あいつの体を石化させた上に、凍結して、完全に拘束した。……いや、そうしたつもりでいた。

 

イッセーはそれでもなお、体を動かせていた。鎧についた石や氷にはヒビが入っていく。このままだと、気休め程度にもならない!

 

「ハジメ君!こっちだ!」

 

不意に下の方から俺に声が届く。それは木場の声だった。下に視線を下ろすと、そこには剣によって作られたドームがたたずんでいる。

 

後ろにいるアーシアを抱き抱えて離脱し、俺はそのドームがある場所に降りた。中には、他のみんなの無事な姿があった。

 

「ハジメ、アーシア、よく無事に戻ってきてくれたわ」

 

部長は俺達のことを視認すると、安心したような声をかけてくれた。俺はアーシアをそっと降ろして、口を開けた。

 

「また心配をさせてしまったみたいで、すみませんでした。でも、アーシアと一緒に無事ーーッイ!?」

 

いきなり腹部に衝撃が走った。誰かが俺に飛びついてきたからだ。

 

「本当に心配だったんだから、……バカ!」

 

「朱乃……さん?」

 

その誰かは朱乃だった。彼女の目には涙が溜まっていて、光っていた。まさか、そんなに心配してくれてたなんて……。俺は彼女のその様子を見て、抱き締めようかとも思ったが、それは思いとどまった。

 

「まだ、イッセーが帰ってきてません。安心しきるのはそれからですよ。それで、あいつがどうしてあんなのになってるんですか?」

 

「それは……」

 

俺が訊くと、木場が答えてくれた。

 

まず、俺とアーシアを次元の狭間に飛ばした張本人がいて、そいつも自分のことを魔王だと思い込んでいる頭の固い上級悪魔の一人だった。それが俺達のことを勝手に死んだだのなんだの言ったことで、それを信じてしまったイッセーが『覇 龍(ジャガーノート・ドライブ)』を発動させた。要点だけ説明すると、そんな話らしい。

 

問題はイッセーの暴走をどう止めるかだ。あのまま勝手にガス欠になってくれれば心配は何もいらないんだが。

 

「予想通り、赤龍帝は『覇 龍(ジャガーノート・ドライブ)』を発動させたようだな。もっとも、見る限りでは中途半端な姿のようだが」

 

さっき聞いたはずの声がどこからか聞こえてきた。すると、空間に裂け目が生まれ、その中からはついさっき次元の狭間で会ったヴァーリ達が現れた。

 

「これはどうやったら元に戻る?」

 

俺はヴァーリに訊く。

 

「不完全であるから、戻らないこともないだろう。ただし、このまま元に戻れず命を削りきって、死に至る可能性もある。まぁ、今のこの状態が続くのは兵藤一誠にとって危険ではあるな」

 

ヴァーリは目を細めて、淡々と語る。そして、話を続けた。

 

「それから、元に戻す方法だったな。何か彼の真相心理を大きく揺さぶるか、もしくは、戦闘不能にして気絶させるか」

 

結局はそれか。今のこの状況と可能性を考えると、戦って止めるしかなさそうだ。

 

「なぁ、力を貸してくれないか?さっきもわざわざ助けてもらった上に、俺達は敵同士なのもわかってるけどさ」

 

俺はダメ元でヴァーリに言った。しかし、当のヴァーリからは意外な答えが返ってきた。

 

「いいだろう。俺も赤龍帝の覇龍と戦ってみたいと思っていたところだ。ただ、殺しても恨むなよ」

 

なんと、形はどうであれ、それに同意してくれたのだ。そして、ヴァーリはそう言うと白色の翼を広げて、飛翔した。

 

「じゃあ、イッセーを止めに行きます。絶対にあいつを連れて帰りますから!」

 

みんなが心配そうな表情で見ているのを尻目に俺もイッセーの方に向かっていった。

 

「剣一。殺さずに止める術はあるのか?」

 

俺の前を飛んでいるヴァーリが、こちらを向いて訊いてくる。

 

「そんなことはわからない。けど、たとえどんなに辛く、達成が困難な状況におかれていても、それを成し遂げる。それが仮面ライダーなんだ!」

 

「フッ、そうか。キミらしい単純明快な答えだ」

 

「グルルウァァァァッ!」

 

俺達の前には、ほんの数分前に俺が足止めしていたはずのイッセーが、完全に拘束を破り、万全なコンディションで待ち構えていた。

 

「無駄話はここまでか。では、やらせてもらおう!」

 

「絶対に勝ってみせる!お前を必ず止めてやる!」

 

異色のタッグ(俺とヴァーリ)異形のドラゴン(イッセー)の戦闘が始まろうとしていた。


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