ハイスクールD×D~スペードの切り札~   作:保志白金

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遅くなりました。


対生徒会「終幕」そして・・・

『イッセー君は毎度のことながら、ハラハラさせてくれるね』

 

『まったくもって、そのとおりですよ』

 

(アハハハ……)

 

嶋さんと霧はギリギリの戦い方をしていたイッセーにそんな感想を述べていた。

 

『フン、あのバカがそう簡単にくたばるはずが無かろう』

 

『あれぇ~?さっきまで凄く溜め息ついてた麟ちゃんが急にいきいきしてる~』

 

『……アイツの戦いにイライラしてただけだ』

 

そして、鍠はいつものように他人のことをおちょくっている。

 

ゲームの進行状況は、すでに終盤戦に差し掛かっていた。戦況は部長達が有利……ではあるが、まだ油断はできない。駒の数では、部長達は相手の「兵士」2人と「戦車」、「騎士」をそれぞれ1人ずつ撃破。対する会長達は、ゼノヴィアとギャスパーの2人を撃破している。

 

戦力的に部長達が圧倒的優勢だと予想されていた当初の評価とは、やや異なっていた。なので、観戦している重役達の一部はざわついている。もっとも、それだけが理由ではないのだが。

 

「ハハッ、ついにアイツはやってくれたな。これで俺も修行を手伝った甲斐があるというものだ」

 

小振りのドラゴンが俺の肩にちょこんと乗りながら、話しかけてくる。

 

そのミニドラゴンの正体はタンニーンさんだ。……補足しておくと、タンニーンさんが行事に出席するときは、基本的には体を小さくさせているそうだ。

 

「そうですね。タンニーンさん」

 

俺はその言葉に頷きながら同意した。

 

そう。この会場が騒然となったもうひとつの理由は、イッセーがとうとう禁手化(バランスブレイク)したからである。

 

「ううむ、現赤龍帝はもう少し修行が必要なようじゃな。……しかし、最近の若い者は胸の発育が良いのぉ」

 

……まったく、どこのエロジジイだ。俺はその声が聞こえてくる方向を振り向いた。その声の主はさっきゲームが始まる前に声をかけてきたあのじいさんだったので、俺は思わず二度見してしまった。

 

\パァン!/

 

すると突然、後ろにいた鎧を纏った女性が、ハリセンでじいさんの頭をひっぱたいた。……あのハリセンはどこから出したんだ?

 

「オーディン様、卑猥な目は禁止だと、何度言ったらわかるんですか!北欧の主神としての自覚をお持ちになってください。これでは、ヴァルハラの名が泣きます!」

 

オーディン?……どこかで聞いたことがあるような名前だが、欧州辺りの神話に出てくる神様だったかな?

 

『あのおじいさんは神様だったんですね……』

 

霧も思わず、やや引き気味な反応を見せていた。

 

それにしても、あの付き人の女性は苦労が絶えなさそうだな。

 

『あの女の子の生真面目な雰囲気は、どことなくハジメにそっくりだねぇ~』

 

こいつはこいつで別のところに着目しているし。

 

(……そうか?それはーー)

 

「お前はもう少し心に余裕を持たせたらどうじゃ?そうすれば勇 者(エインヘリヤル)の一人や二人よってくるはずじゃろうに」

 

「ど、どうせ、私は彼氏のいない歴=年齢の戦乙女(ヴァルキリー)ですよ!私だって、私だって、彼氏欲しいのにぃ!うわ~ん」

 

その手の類いに触れられるのはその女性にとってタブーだったのか、突然泣き出した。しかし、この神様、なんとなくではあるが、アザゼルと性格的にどこか似ている。スケベ具合といい、あの適当な感じが。

 

『あっ、見てください!全員が一ヶ所に集まりはじめましたよ』

 

『ついにゲームも大詰めといったところか』

 

いよいよ本当の最終局面に入ったか。イッセー、勝ってくれよ。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

ショッピングモールの中央広場まで進んだところで、俺ーー兵藤一誠と小猫ちゃんは足を止めた。なぜなら、目の前にソーナ会長がいたのだから。

 

「ごきげんよう、兵藤一誠君、塔城小猫さん。その姿を見ると、赤龍帝の力を覚醒させたようですね。すさまじいまでの波動を感じます」

 

冷静かつ淡々とした口調で会長は言った。

 

しばらくすると、副会長がこの場に姿を現し、それを追ってきたような形で木場がやって来た。どうやら、先ほどやられた「騎士」はゼノヴィアだったんだな。

 

「……ソーナ。あなたが前線に出てくるなんて、らしくないわね。それとも、あなたの作戦の内なのかしら?」

 

部長の声が後ろから聞こえてくる。振り返ると、そこには部長が到着していて、アーシアと朱乃さんも後ろからついて来ていた。

 

そして、俺が怪我を負っていることに気がついたのか、アーシアは俺のところに寄ってきて、回復の神器をかけてくれた。

 

「リアス、それは違います。それにあなただって「王」自ら移動しているではありませんか」

 

「どちらにしてももう終 盤(エンディング)でしょうし、こちらの予定が崩された形となったわけだから」

 

部長は悔しそうな表情を浮かべて言う。

 

「兵藤君、サジはどうでしたか?」

 

「……アイツは恐ろしいほどしぶとくて、それで強かったです」

 

俺の言葉を聞くと、会長は小さく笑みを漏らした。

 

「そうでしたか。……ここからは小細工なしの総力戦といきましょうか」

 

「臨むところよ!」

 

会長の宣戦布告に部長は応じた。すると、二人は背中から翼を広げてデパートの屋上へ向かっていった。

 

「部長!俺もーー」

 

俺も後を追おうとするが、木場に止められた。

 

「イッセー君、ここは僕に任せてくれ」

 

俺にそう言い残して、木場が部長達の後を追った。

 

これでこの場に残ったのが、相手が3人でこちらが4人。でも、アーシアは戦えないから、数はほぼ同じと考えていいだろう。

 

副会長は長刀(なぎなた)を構えて、戦う態勢をとっていた。そして、残りの「僧侶」二人も手を俺達に向ける。

 

「では、推して参ります!」

 

そう言うと、俺に向かって駆け出してくる。

 

「アーシアは下がってて!出ろ、アスカロン!」

 

『Blade!』

 

回復が完了していたので、アーシアに後ろに下がるように言った。そして、俺もそれに対抗して、左手から剣を抜き取り応戦する。さらに、副会長の後ろからは「僧侶」二人による援護射撃が俺へと放たれる。

 

しかし、禁手に至った今の俺には全く効かない。それを相手もすぐに悟ったのか、攻撃を止めた。

 

「……先輩にばかり負担をかけさせるわけにはいきません」

 

小猫ちゃんはそう言いながら、「僧侶」の一人に詰め寄り接近戦に持ち込もうとしていた。そして、朱乃さんはいつもの笑顔を浮かべながら、体の周りに雷をバチバチと走らせていた。

 

「うふふ、そろそろ私も彼にいいところを見せないと」

 

……それに加えて、Sモードに入っている。

 

「ここに来てよそ見とは、ずいぶん余裕ですね!」

 

ッと、二人を心配するよりも目の前の敵に集中しないとな。

 

俺が気を引き締め直した刹那、副会長は何かの液体が入った小瓶を俺に投げ、それを長刀で壊した。……あれはフェニックスの涙?

 

反転(リバース)!」

 

俺に涙がかかった瞬間、強力な回復力をダメージに変換させるつもりか!だったらーー、

 

「オラァァッ!」

 

左手から高温の火炎を撃ち、俺にかかる前に空中で涙を蒸発させた。

 

「そこです!」

 

相手は長刀で鋭い突きを放ってくる。匙もそうだったように、会長の眷属は常に先読みをして戦うよう、教え込まれているのだろうか。

 

しかしーー左脇で長刀を抱え込み、右手に持つアスカロンでへし折った。

 

「ハァァッ!」

 

長刀の残骸を放り投げて、副会長に斬りかかった。完全に捉えた。ーーと思ったその時だった。

 

「ーー神器、『追憶の鏡(ミラー・アリス)』!」

 

俺と副会長の間に突如、巨大な鏡が出現する。

 

『ッ!相棒、攻撃を止めろ!』

 

(チッ、わかってる!)

 

俺もドライグもそのまま攻撃するのは危険だと察したが、剣を振り下ろした勢いを殺すことができない!

 

アスカロンの斬戟が鏡にぶつかると、儚い音と共に砕け散る。そして、割れた鏡の隙間からとても大きな質量を持った波動が俺に襲いかかってくる。これがカウンター系の神器か!

 

「ドライグッ!」

 

『おう!』

 

ジェットを最大出力で吹かして、上空に飛び上がる。

 

「ぐっ……!」

 

その波動は俺の脚に数回当たったものの、致命的なダメージを負うという最悪の事態は避けた。

 

『ソーナ・シトリー様の「僧侶」二名、リタイア』

 

小猫ちゃんと朱乃さんは勝負を決めたようだ。残るはこの場にいる副会長と、屋上で部長と戦っている会長のみ。

 

「こちらもそろそろ勝負を決しましょうか」

 

副会長はさっき折ったものとは別の長刀を取りだし、翼を広げて飛翔してきた。俺はさっきの神器のことを頭に入れつつ、アスカロンを握り直し、体を自由落下させた。

 

「「ハァァァァッ!」」

 

ーー長刀ごと斬り、副会長に一太刀浴びせた。そして、深刻なダメージを負わせたので、副会長は光に包まれていく。

 

『ソーナ・シトリー様の「女王」一名、リタイア』

 

投了(リザイン)を確認。リアス・グレモリー様の勝利です』

 

「女王」のリタイアがアナウンスされた後、間もなくして俺達の勝利が知らされる。

 

 

 

相当、苦戦を強いられた。恐らく部長の評価を下げてしまっただろう。それでも、俺達はこのゲームで勝ったんだ。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

ゲームが終わってしばらく経過して、俺はあの場から立ち去っていた。みんなの治療も一通り終わった頃だろうしな。

 

「今回のゲーム、なかなか面白かったのぉ。少年」

 

ふと、誰かが声をかけてくる。この声は……またあのじいさんか。

 

「そうでしたね、俺もそう思いました。……ところで、あの女の人が見当たらないんですけど、いいんですか?」

 

じいさんの後ろには、付き人であるあの女性がいなかった。

 

「ああ、ロスヴァイセなら、今ごろわしのことを探しておるじゃろうな。ほっほっほっ」

 

……本当にあの人のことがかわいそうに思えてくる。いくら神様といえど、部下のことをぞんざいに扱いすぎだろ!

 

「そのロスヴァイセさん?のことを少しでも労ってあげたらどうですか……ね?」

 

「……むぅ、あやつもお主のような男とくっつけば、万事解決しそうじゃが」

 

ニヤニヤしながら、じいさんは言ってくる。

 

「じいさん、冗談は止してくれよ……」

 

俺は顔をひきつらせながら、瞑目して顔を手で覆った。どうせこの神様のことだ。これも本心ではないだろう。

 

「まぁ良い。これからも四体の使い魔と仲良くのぉ、少年」

 

「ッ!なぜそのことをーー」

 

俺が目を開けて、それを問おうとした時にはすでにいなくなっていた。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

8月も後半に入り、長かった夏休みも残り少ない。そして、今日、冥界ともお別れだ。俺達は行きと同じように列車に乗って、人間界に帰って来た。

 

余談ではあるが、見送りに来ていたサーゼクスさん、グレイフィアさん、そして、ミリキャス君のスリーショットを見て気付いた。サーゼクスさんの奥さんが誰かということを。

 

ようやく、長かった冥界旅行が終わった。駒王駅の地下ホームに列車は到着し、俺は大きな欠伸をしながら一番最後にホームへと降りた。

 

「よ~し、帰ろう」

 

俺が出口の方に歩き出そうとした時、前の方ではアーシアが一人の見知らぬ男性に絡まれていた。その間にはイッセーが立っている。しかし、アーシアの表情を見る限り、お互い顔見知りではあるようだ。

 

「僕の名前はディオドラ・アスタロト。あの時は挨拶できなくてゴメン。でも、アーシア、僕はキミのことを愛している。僕の妻になって欲しい」

 

その男性は俺達の目の前でアーシアに求婚したのだった。

 

その男性を除いた全員は、時間が止まったように沈黙していた。




次回から原作6巻に入ります。

短編についてですが、
原作7、9巻後に書こうと思います。

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