イッセー視点がメインになります。
生徒会ーーシトリー眷属とのレーティングゲームが翌日に控えたその夜。俺ーー兵藤一誠とグレモリー眷属の全員は先生の部屋に集まり、最後のミーティングをしていた。
ちなみに、この場にハジメは参加していない。今回のゲームに出ないこともあるのだが、どうしてもハジメの力を頼ってしまいそうになるので、あえて呼ばなかったのだ。
美猴や小猫ちゃんのお姉さんが襲来した時も、結局はハジメがいてくれたからあんなにあっさりと引いてくれた。ハジメがあの場にいなかったらあの場がどうなっていたのか俺にはわからない。
「イッセー、難しい顔してどうした?」
「えっ?すみません、ボーッとしてただけです」
悪いように考えてはダメだ。今は明日のゲームに集中しよう。それに俺だってあの二人を相手に修行してきたんだし、もっと前向きに考えないとな!
「ところで、リアス。ソーナ・シトリーはグレモリー眷属の戦力をある程度知っているんだろう?」
先生は部長に訊いた。それに部長はうなずく。
そういえば、フェニックス家とのレーティングゲームもコカビエルが襲ってきた時も会長はその場で見ているから、俺達の使う武器とかは認知されてるんだった。
それに対して、こっちは知らないことが多すぎる。俺がまともに知ってるのは、匙が敵の力を吸いとる神器を持っていることぐらいだ。他のメンバーのことはさっき話で聞いた程度で、いまひとつよくわかっていない。
「こちらにも不利な面があると。まぁ、実戦でもゲームでもよくあることだ。細心の注意をはらってかかれば、それでなんとかなる。……相手の数は8名か」
「えぇ、『王』1、『女王』1、『戦車』1、『騎士』1、『僧侶』2、『兵士』2で計8名。こちらと同じ数でまだ全部の駒は揃っていないわ」
同じ人数だったのか。それでこちらは部長、朱乃さん、木場、小猫ちゃん、アーシア、ゼノヴィア、ギャスパー、俺の計8名。
次に先生は事前に用意していたホワイトボードに分布図のようなものを書いていき、それについて説明をしていく。
その説明によれば、レーティングゲームはプレイヤーに細かいタイプ分けがされていて、一撃必殺を狙うパワー、スピードや技で戦うテクニック、魔力全般に秀でたウィザード、戦闘を補助するサポートの4つがある。
そして、俺達にそのタイプを当てはめてみると、ウィザードタイプが部長と朱乃さん。
テクニックタイプが木場。
サポートタイプがウィザードに近いアーシアとテクニック寄りのギャスパー。
パワータイプが小猫ちゃんとスピード方面にも秀でているゼノヴィアとサポートタイプもいける俺。……ザックリとではあるがそう分かれた。
こうして見てみるとバランスがよさそうだが、テクニックタイプが木場しかいない。これはどうなんだ?
「パワータイプが一番気をつけるべきなのは、カウンターだ。テクニックタイプのなかでも厄介な部類で、カウンターの一発だけで逆転されることもある」
たしかハジメの持っているカードで、飛び道具ならなんでも跳ね返すものがあったな。あれと同じ要領で接近戦にも対応されたら怖い。
「それならば、力で押しきるだけだ」
ゼノヴィアは自信たっぷりにそう言う。しかし、先生は首を横に振り否定する。
「それで解決できる場面もあるかもしれんが、相手がその道を極めていれば話は別になる。要するに何事も相性の良し悪しがあるってことだ。パワータイプがテクニックタイプと戦うにはリスクが高いんだよ」
そう説明されると、ゼノヴィアはまだ何か言いたそうにしていたが、黙ってしまった。対戦相手を上手く見極められるかが大切になってきそうだな。おそらくはあいつと戦うことになるだろうけど。
「お前達が今回勝利する確率は80%以上とも言われている。当然、俺もお前達が勝つと思っているが、勝負事に『絶対』なんか存在しない。俺は長い間生きてきて様々な戦いを見てきたが、勝てる見込みが一割以下でも勝利してきた連中はいた。でもな、『絶対』に勝ちたいとだけは思え。これが俺から言える最後のアドバイスだ」
その最後のアドバイスは、いつにも増して心の奥に響いた。
その後、俺達は戦術的な話し合いを行うのだった。
◼◼◼
「あれ、観戦会場はどこだ?」
ついに決戦当日を迎えたのだが、そんな中、俺ーー剣一は道に迷っていた。
他の勢力のVIPも招待されてるという要人専用の会場に、なぜか俺も呼ばれることになったのだ。それを言い出したのは当然アザゼルだ。まぁ、大画面でみんなのゲームの観戦をできるというのは一応嬉しいことではある。
しかし、試合開始までもう少し時間があるうえに、あの空間でずっと待っているのがとても気まずいと思ってしまい落ち着かなかったので、俺はこの建物内を散歩していた。
……で、結果的に迷ってしまい今に至るわけだが。
「人間の若造がこんなところで何をしておる?」
突然、後ろから声をかけられた。振り向くと、そこには白い髭を生やしていて、杖をついている、全体的に質素な服装の隻眼のお爺さんがいた。その後ろには西洋の騎士が着ているような鎧を装着した銀髪の女性がいる。見た感じでは俺と歳が近い……と思う。
「えっ?それはレーティングゲーム観戦するためにいるんですけど……。あなたは誰ですか?」
俺は戸惑いながらも答えて、逆にそのお爺さんに訊く。
「わしは北の田舎のジジイじゃよ。それ以上でもそれ以下でもない。ほっほっほっ」
お爺さんはそう答えてこの場を後にした。自分のことをあんな風に言っていたが、どこかのお偉いさんの誰かなのは間違いないだろう。
『ゲーム開始は30分後に予定しております。それでは、作戦時間です』
グレイフィアさんのアナウンスが聞こえてくる。そろそろ戻らないとな。
〈スコープ〉
俺は壁を全て透視して、どこに会場があるのかを確認した。……この方法に気づいたのはついさっきなんだけど。
『なるほど、その手があったねぇ~』
(お前はあえて言わなかっただけだろ?)
鍠のわざとらしさを察したので、俺は毒づいた。
『アハハ、バレたか~』
◼◼◼
そろそろ、作戦時間が終わる。俺ーー兵藤一誠は俺達の陣地に待機して、開始の時間を待っていた。
今回のバトルフィールドは駒王学園近くに存在するショッピングモールを再現している。そして、俺達の本陣がショッピングモール二階の東側。シトリー眷属の本陣が一階西側である。
ちなみに、東西がとても細長い造りとなっていて、そこには立体駐車場もある。
『開始の時間となりました。ゲームスタートです。なお、このゲームの制限時間は三時間の
約束の時間を回り、ついに俺達の戦いが始まった。
それにしても今回は特別ルールが多すぎる。支給品として「フェニックスの涙」が両チームにひとつずつ配られたこと。バトルフィールドを破壊し尽くさないこと。制限時間が存在すること。
特にバトルフィールドを破壊するな。というものは俺達にとってとても不利に働くルールだ。
「指示はさっき言った通り。さて、かわいい私の下僕悪魔達、絶対に勝つわよ!」
「「「「「はい!」」」」」
全員気合いの入った返事を部長に返した。
木場とゼノヴィアが立体駐車場から、俺と小猫ちゃんが店内から、それぞれ敵の本陣を目標に進行する。ギャスパーがコウモリに変化して店内の監視と報告。部長と朱乃さんとアーシアが戦況次第で俺達の後を追うように進行する。というのが今回の流れだ。
「では、ゼノヴィア、行くよ」
「ああ、了解だ」
先に木場とゼノヴィアが動いていった。
「よし、俺達も行こう。小猫ちゃん」
「はい」
俺と小猫ちゃんもこの場を後にし、歩きだした。そして、速くもなく遅くもないスピードで足を進めていった。
「……近づいてくる者が二人います」
今、小猫ちゃんは猫耳と尻尾を生やしている。この状態だと仙術の一部が使えるらしく、センサーに近いものとなっているようだ。
「どれくらい離れてる?」
「……このままの速度なら10分弱で出会います」
もう戦闘を避けられそうに無い。そろそろ覚悟を決めたほうが良さそうだ。アスカロンを使うか?それとも遠距離砲一発で決めるか?
「ん?俺の顔に何かついてる?」
小猫ちゃんが俺の顔をまじまじと見つめていることに気づいた。
「……いえ、なんでもありません」
しかし、小猫ちゃんはどこか別の方向を向いてしまった。本当になんだったんだ?
俺がどうでもいいことに思考が一瞬回ったその時だった。小猫ちゃんが突然、斜め上を見上げた。
「……上から来ます!」
その言葉に瞬時に反応して、俺も小猫ちゃんの視線の先を追った。すると、上から自分の神器をターザンロープのように扱い、匙が降りてくる!それに匙の背中にもう一人誰かが乗っている。
「兵藤か!まずは先制させてもらうぜ!」
その勢いのまま膝蹴りを俺目掛けて打ち込んでくる。俺はそれを横に跳んで避けた。
「かわしたか、兵藤」
「俺だってそう易々と攻撃をもらう気はないからな」
ここに来た二人は匙と、あの女の子はたしか一年生の後輩だったかな。
匙の右腕についている神器は、以前ギャスパーの特訓の時とは形が違っている。つまり、あいつも強くなったってことか。
「俺達だって修行してきたってことさ。それで俺もこの通りだ。天井から様子を見ようとしてたら、近づいてくる二人が見えたんだ。そんでもって気づいてないようだったし、ターザンごっこで奇襲したわけだ」
なるほど、俺達の位置はそっちにバレていたわけだ。
「こっちだって死にそうな思いをして修行したんだ。だから、負けられない!行くぜ、ドライグ!」
俺はブーステッドギアを左腕に出現させて戦闘態勢を整える。しかし、それと同時に違和感を覚える。いつもの音声が聞こえてこないうえに、よく見れば、左手の甲に埋め込まれている宝玉に光が灯っていない。
(どうしたんだ?ドライグ!)
『……神器が動かん。神器が曖昧な状態になっている』
(それはどういうことだ?)
『神器が変化を起こしそうなのだが、その選択肢が多くてどちらに進むべきなのか、ブーステッドギア自体が混乱しているのだ。それが禁手の可能性もあるかもしれんが、普通のパワーアップということもある』
よりにもよってなんでこんなときに、タイミングが悪すぎるぞ!
『普通のパワーアップなら、気合い一閃でいけるかもしれない。しかし、相棒、これだけは言える。今、禁手に至れるチャンスが到来している。これを活かす活かさないはお前次第だ』
(なぁ、ドライグ。アスカロンを取り出すこともできないのか?)
『あぁ、不可能だ』
くっそ、マジかよ……。なら、この場は素手で殴り合うだけだ。このゲームでの本命は木場とゼノヴィア。だったら俺は陽動らしく仕事を果たす!
「っしゃあ!」
俺は匙を目掛けて駆け出した。対する匙はラインを俺に向けて伸ばしてくる。
アスカロンが使えない今、このラインには捕まりたくない。俺はそれを避けたーーが、匙はその隙をついて、俺の腹に蹴りをいれてくる。
\ドンッ/
俺はなんとか反応して両腕をクロスさせて防いだ。
「へぇ、この攻撃を防ぐなんてな。お前も相当キツいトレーニングを積んできたんだな」
俺は直撃するのは避けたものの、いつの間にか腕にはラインが繋がっていた。腕以外からもラインは繋げられるのか!
こうなってしまったら、距離を取ることや逃げることはできない。あとは自分の体を信じて戦う。ただそれだけだ!
俺は拳を握り直し、再び匙へ殴りかかっていった。
ロスヴァイセに一言でも喋らせればよかったと、
ちょっと後悔。