それに気合いで勝った橘さんっていったい……。
「雑魚ばかりが次から次へと!」
「いくらなんでもキリがなさすぎだよ」
麟と鍠の言う通りだった。俺達は大量にいる敵を休む間もなく斬り払っているのだが、その数は減ることがなく、魔方陣から敵が送り込まれてくる。
俺は旧校舎の方も気になっていた。ギャスパーが無事かどうか……。
「ハジメは旧校舎にでも行ってきたらどうかな?」
俺の思考を見透かしてるかのように鍠がオールオーバーで敵からの攻撃を捌きつつ、そんな提案を出した。俺がそれにうなずき、後ろを振り返ろうとしたその時だった。
「鍠、お前もハジメについていけ」
麟がまさかの言葉を発してきた。
「まさか、麟ちゃんがそんなことを言うなんてね。じゃあ、僕もそうさせてもらおうかな」
鍠が茶化しながら、そう呟く。
「ハッ。一人の方が気兼ねなく敵を殺れる。ただそれだけの話だ」
そう言いながら、麟は体中至るところにある鋭利な牙を敵が密集したところに掃射させた。命中すると、それは巨大な爆発を複数回に分かれて起きていく。煙が晴れるとそこにいたテロリスト達の数は半分近くまで減っていた。
俺はそれを確認し終えると、旧校舎に向かって駆けていった。
◼◼◼
あの二人がこの場から去っていった後も、俺ーー金居麟は双剣ヘルター・スケルターを振りテロリストどもをひたすら葬っていた。
敵の連中も魔術で練ったエネルギー弾を俺に向けて放ってくるが、どれも俺のバリアを貫くことはなく、体に傷ひとつ付くことすらない。
「もう少しマシな相手はいないのか?」
俺がなんとなく呟いたその時だった。さっきまで会談が開かれていた場所からふたつの何かが飛び出してきた。それらの正体はアザゼルと露出度の高い服を着た見知らぬ女で、そいつらは戦闘を始めた。
しばらくすると、木場祐斗にゼノヴィアも外に出てきた。あいつらは雑魚の掃除にでも来たようだ。
しかし、アザゼルと戦闘をしているあの女、格好は完全になめくさっているが、実力は本物らしい。あの堕天使総督を相手に互角とはいえないものの、予想以上に食い下がっている。
突然、女は懐から小瓶を取り出した。中には黒い蛇らしきものが入っていて、何を思ったかそれを呑み込んだ。
その瞬間、奴の纏っているオーラが膨れ上がり、禍々しいものと化していく。
アザゼルが無数の光の槍を投げ飛ばすが、それを右腕の凪ぎ払いだけで消滅させた。俺はアザゼルとその女の間に割って入っていく。
「フン、ようやくだ。ようやく骨のある敵と戦える!」
「何ですか、この化け物は?」
余裕そうに、女は見下した態度で俺のことを見ている。……こいつは確実に殺してやりたいところだ。
「お前は…………ハハッ、そういうことか。あのカードに封印されてたものか」
アザゼルは俺の正体に勘づいた様子だった。
「貴様の相手。ただそれだけのことだ!」
俺は牙状の榴弾を牽制するかたちで放ち、女との距離を一気に縮める。
しかし、この場に介入してくるものがいた。それは俺とアザゼルの横から不意打ちを仕掛けてきた。俺はその気配にすぐさま反応し、両手に持つ双剣で防ぐが、アザゼルは反応しきれずまともにくらい地面に落ちていく。
「おい、アザゼル。これはどういうことだ!」
「……まったくだ。身内がこれとは、俺もやきが回ったもんだ」
俺達を襲撃したそいつは白龍皇のヴァーリだった。
◼◼◼
旧校舎2階の窓を突き破り入っていった。そこには外にいるのと同じ風貌をした敵が複数人と部長にイッセー、それと縄で椅子にくくりつけられているギャスパーがいた。
「ッ貴様は!」
「ハジメ来てくれたのか!」
「部長にイッセーまで。ギャスパーを助けに来たんですね」
俺はブレイラウザーで邪魔者を凪ぎ払いながら言う。
「そこまでにしなさい。これ以上動けばこの子を殺すわよ」
ここのリーダーらしき女性がギャスパーの首もとに刃を突きつけ脅してくる。しかし、俺はまったく焦っていなかった。何故ならーー
\バリンッ!/
天井から鍠が降りてきて、その女性を蹴り飛ばした。
「まったく、僕に感謝してよ?」
「あぁ、助かったよ」
ギャスパーが安全になったことをイッセーは確認すると、
「アスカロン!」
『Blade!』
左手の籠手から青龍刀のような剣を出現させた。そして、それを使ってなんと自分の右の掌を斬ったのだった。
「イッセー?」
その行動に部長もよくわからないという様子。それに構うことはなくイッセーは左腕を伸ばして、血のついた剣をギャスパーの口に付着させる。
「ギャスパー!飲め。最強のドラゴンを宿しているとかいう俺の血を。それで男を見せるんだ!」
その言葉にギャスパーは覚悟を決めたのか、強い眼差しでうなずく。そして、イッセーの血をギャスパーが口にすると、一瞬にしてギャスパーは無数のコウモリに姿を変えた。
その赤い瞳をしたコウモリの群れは残っていた他の敵達に襲いかかると、体中に貼り付き、噛んでいく。どうやら、ギャスパーは血を吸うだけではなく魔力も吸い出せるらしい。
「くっ!だったらこれで!」
相手はイッセーと部長に手を向けて複数の魔術の弾丸を放ってくる。ーーが、それら全てが空中で停止した。これはギャスパーの能力。イッセーの血を飲んだ影響でコントロールできるようになっているのか。
俺はその隙を見逃さずに一気に畳み掛けた。
〈スラッシュ〉
〈ブリザード〉
〈ブリザードスラッシュ〉
「ハァァァァァ!」
ここにいる敵全てを斬り払い、凍結させた。
「ふぅ、なんとかなったな。後は外だけだ」
俺が外に出ようとした時、部長が俺を止めた。
「ハジメ、そこの彼はいったい何者よ?」
そういえば、アンデッド達の説明がまだだったかもしれない。どう言ったらいいものか……?
「……そうですね、悪魔でいうところの使い魔みたいなものです。俺の仲間ですから警戒しないでください」
そう答えて、俺はプロパーブランクを鍠に向けて投げた。鍠は吸い込まれるように封印されていく。そして、封印が終えると俺の手元にカードが返ってきた。
「ねぇ、いきなり封印とか酷くない?」
鍠はそうぼやいた。
「悪い悪い。でも、こうすれば信じてくれるだろう」
それで、この光景を見ていたイッセー達はというと、それぞれ異なった反応を見せた。部長は苦笑いをしながらため息を吐き、イッセーは口を開いた口が塞がらないという感じで、わかりやすく驚いていた。ギャスパーに関しては目を輝かせながら、
「ハジメ先輩はすごいですね!」
ーーと感動していた。……どこにそんな要素があるのやら。
\ドッガァーン!!/
突然、旧校舎近くに何かが落ちたような爆音が響いた。
俺は窓から直接降りて様子を見た。そこにいたのは手負いの堕天使総督ーーアザゼルだった。そして、いままで戦っていたと思われる麟も俺の近くに着地する。
「まさか、この状況下で反旗をひるがえすとはな。ヴァーリ」
「そうだよ、アザゼル」
その言葉に俺は耳を疑った。白龍皇が裏切ったというのだ。
そのヴァーリの横には露出度の高い服を着た女性がいる。生えている翼の数、形からしてレベルの高い悪魔だということはわかった。
「白龍皇。本当に裏切ったのか?」
「あぁ、本当だよ仮面ライダー。コカビエルを本部に輸送する途中でオファーを受けたんだ。アースガルズと戦ってみたかったんでね、『
こいつは戦争を起こしたいってのかよ!ふざけるな!
旧校舎にいた3人も外に出てきた。この状況を見て部長とイッセーは言葉を失っている。
「あの冴えない彼が赤龍帝なのですか、ヴァーリ?」
「あぁ、そうだよ。ごく普通で平凡な宿主なんだ」
「おい、普通って言うなよ!つーか、その露出狂のおばさんは誰だよ?」
俺はそのイッセーの言葉に笑いそうになった。
「……クククッ、ハハハ!」
麟に関しては既に爆笑しているが……。
「下級悪魔風情が……いい気になるんじゃないわよ!」
「ハッ、事実だろ。この変態が」
「さっきから言わせておけば、この化け物がぁ!」
女悪魔は麟に向かって突進してくる。それに応じて麟も迎え討つ構えを見せた。
「こいつは俺が相手する。邪魔はするな」
そう言うと、そのまま麟と彼女は戦闘を始めた。そんなことはお構い無しにヴァーリは胸に手を当てながら語り出す。
「俺の本名はヴァーリ・ルシファー。死んだ先代魔王ルシファーの血を引く者だ。しかし、俺は旧魔王の孫である父と人間の母との間に生まれた混血児。」
つまり、半分人間であるから神器を手に入ったと。そういう話か。旧魔王とかについては詳しくわからないが。
「嘘よ……。そんな話……」
部長ですら驚きの表情を見せている。
「残念ながらこれが事実だ。俺が知っているなかでも過去現在未来においてあいつは最強の白龍皇だろう」
しかし、アザゼルは肯定した。実際に戦っている場面を見ていないから、そんなことは実感できないのだが、相当な実力を持っているらしい。
「くっ!」
「さっきの威勢のよさはどこにいった?」
ヴァーリがしゃべっていた最中、麟は有利にことを進めていたらしく、相手をしている女悪魔は忌々しそうに麟を睨み付けている。
「私は偉大なる真のレヴィアタンの血を引く者!貴様のようなどこの馬の骨とも知れないものに負けはしない!」
この女悪魔がレヴィアタン?まぁ、会長のお姉さんが現役のレヴィアタンであるはずだから、あっちは偽物と考えていいだろう。
「まったく、よく吠える女だ。やれるものならやってみろ」
「なめるなぁ!」
先ほど以上のオーラを纏って、レヴィアタンを名乗る女性が麟に攻撃をしようとするが、麟は双剣でそれに対してカウンターの要領で十字に斬り裂いた。
\ブシュッ!/
敵の体からは大量の血が吹き出しながら、その場に膝をついた。
「こんな奴に……しかし、ただではやられません!」
彼女は自分の腕を触手のように変化させ、麟の体に巻き付こうとするが、
「無駄だ」
麟はその両腕を切断し、さらには体を縦から真っ二つにした。
「キミもなかなかやるね。まさか彼女を倒すなんて」
「想像してたものよりもつまらない相手だったな。俺はまだ無傷だが、どうする白龍皇?」
麟はまだやる気のようだが、その言葉を無視しているのか、ヴァーリはイッセー達の方を向いて話し出す。
「しかし、運命ってのは残酷だよ。ライバル同士のドラゴン神器とはいえ、その所有者2名の間の溝は深すぎる」
これはイッセーに対して言っているのだろう。ヴァーリは続ける。
「キミのことを少し調べさせてもらった。両親、その血縁者、先祖全てが普通。そして、キミ自身やその友人関係においてもだ。つまり、キミはブーステッド・ギア以外、何もない。そこでだ!俺がキミの両親を殺そう。そうすれば、復讐者として俺と戦うことになる」
俺にとってその考えは理解できない話だった。
「なぜ、関係のない人間を巻き込もうとする?」
「どうせ、人間の寿命は長生きして百年くらいなんだろう?だったら、俺の話した設定の方が華やかだと思わないか?」
「ッざけんなぁぁぁ!そんなことやらせねぇぇぇ!」
『Welsh Dragon Over Booster!!!』
イッセーの怒りに呼応するかのように、赤色の鎧が発現し、イッセーの体に装着されていく。
「そうだな。今わかったことはお前が最低な存在だってことだ!」
俺もアブゾーバーからハートスートのカードを取り出した。
〈アブゾーブクイーン〉
〈フュージョンジャック〉
胸には狼のハイグレイトシンボルが現れ、鎧は金色となり、通常よりも細みになっている。そして、右腰にはディアマンテエッジのついた短剣が収めてある。
「また、違う姿か。面白い、まとめてかかってきなよ!」
ヴァーリは余裕そうな笑みを浮かべつつ、顔面をマスクで覆い、臨戦態勢を整えた。