ハイスクールD×D~スペードの切り札~   作:保志白金

23 / 43
吸血鬼「解禁」

無事?授業参観が終わった翌日。オカルト研究部の部員全員は放課後、とある場所に集められた。

 

そこは旧校舎一階の「開かずの教室」とされている部屋の前だ。話では例のアーシア以外の『僧侶』がいるらしい。

 

いままで出てこなかった理由は能力が危険なものらしく、上から封印するように言われていたのが本音。しかし、今の部長なら扱えるだろう、という評価を悪魔のお偉いさんから昨日いただいたそうで、その封印を解いて良いという許可が下りた。

 

たしかに、いかにも「封印してます」っていう感じの刻印があったりする。不気味な教室だと前から思っていた。

 

そして、部長が封印を解きながら説明をしてくれる。

 

「あの子は一日中、ここに住んでいるのよ。一応深夜には術が解けるようになっていて、旧校舎内限定ならどこでも歩き回れるのだけど、それを拒否してあの子は出ようとしないの」

 

「つまり、引きこもりなんですね?」

 

イッセーはストレートに訊くと、部長はうなずいた。まさか、俺の冗談半分の予想が当たっていたなんて。

 

しかし、朱乃さんが言うにはその引きこもりがグレモリー眷属一番の稼ぎ頭らしい。なんでも、パソコンを介して人間と契約を取るという特殊な形を使っていて、取引率高いそうだ。

 

「さて、扉を開けるわ」

 

いつの間にか封印の解除は終わっていて、残すはただの扉となっていた。部長がついに開く。

 

「ワァァァァァッ!」

 

耳が麻痺しそうなぐらいの声量による絶叫が中から響いてくる。部長と朱乃さんは気にすることなく部屋の中へと入っていった。

 

「元気そうね。ごきげんよう」

 

「………なんですか?」

 

声から察すると男子のようだが、酷く狼狽している様子だ。

 

「あらあら、封印は解けたのですよ?さぁ、私達と一緒に出ましょう?」

 

朱乃さんが優しく声をかけて、外に出ようとうながしている。しかし、

 

「嫌です、外には出ません。僕はこの世アレルギーなんですから!」

 

………この世アレルギー?そんなもの存在するわけがないんじゃ………。

 

(しかし、これは霧ほどじゃないな。楽勝だろう)

 

『そんなに私酷かった覚えありません!』

 

俺は部屋の中を思いきって覗いてみた。

 

中に入ってみるとカーテンが閉めきってあり薄暗い。ヴァイオリンが壁にかけられている。それと棺桶が部屋の一角に置いてあった。

 

部長と朱乃さんはその奧にいる。近づくとそこには茶髪で赤い双眸をした、端正な顔立ちの美少年だった。しかし、俺を見るなりサングラスとマスクを着けてしまい、顔を隠してしまった。

 

そして、俺の後を追うように他のメンバーも入ってきた。

 

「……この方達は誰ですか?」

 

この男子は俺、イッセー、アーシア、ゼノヴィアを指しながら部長に訊ねる。

 

「あなたがここにいる間に増えた眷属と協力者よ。『兵士』の兵藤一誠、『騎士』のゼノヴィア、あなたと同じ『僧侶』のアーシア、人間で神器使いの剣一」

 

……と紹介されたので俺達は挨拶をするが、怯えているのかただ震えていた。

 

「お願いだから、外に出ましょう?もう封印は解かれたのよ?」

 

部長はそう優しく言うが、

 

「嫌です……。そもそも、僕が外に出たところで迷惑をかけるだけですから……」

 

『これは霧ちゃんと同レベルかそれ以上の可能性が出てきたねぇ~』

 

とうとうしびれを切らしたのか、イッセーがその引きこもり君に近づき、腕を掴んだ。

 

「なぁ、とりあえず外に出てみようぜ。なっ?」

 

イッセーが引っ張っていこうとしたその時だった。

 

突然、視界に写る景色が灰色になり、引きこもり君以外のみんなは動きを停止させている。そして、動ける引きこもり君はものすごいスピードで部屋の隅に行き、身を丸めていた。

 

(これは……)

 

『彼が時間を停めたと見て間違いないだろう』

 

そして、元の景色に戻り、みんなも動き始めた。イッセーとアーシアとゼノヴィアはこの現象に戸惑っていた。他のメンバーは苦笑いしているだけなので知っているようだ。

 

「うふふ、ハジメ君は驚かないのですね。彼は視界に映した全ての物体の時間を一定の間、停止させることができる神器を持っているのです」

 

朱乃さんが説明してくれた。俺の停止が不可能であることはまだ黙っておこう。

 

部長からも補足説明が加わる。名前はギャスパー・ヴラディといって、彼は神器『停止世界の邪眼』を制御できないがために封印されてきたらしい。それで、彼は悪魔に転生する前は人間と吸血鬼のハーフ、という話だそうだ。

 

「しかし、そんな反則クラスの神器を持った奴をよく下僕にできましたね。しかも、『僧侶』の駒ひとつだけの消費で済むなんて」

 

イッセーはそんなことを口にする。お前も十分反則な存在なんだけどな。

 

「それは『変異の駒』だったからできたことなの」

 

「なんですか?それは」

 

イッセーが訊ねる。俺も始めて聞く単語なので気になる。

 

「通常の駒とは違い、明らかに駒を複数消費しなければ、転生できないであろう者がひとつの消費で転生できてしまう、特異な現象を起こす駒のことなんだ」

 

「部長はその駒を有していたのです」

 

木場が俺達の疑問に答えて、朱乃さんがさらに続けた。その駒は上級悪魔の10%は持っていて、存在そのものがイレギュラーであったものの、あえてそのままにしたので、持っている悪魔はそれをうまく使っているようだ。

 

「問題はギャスパーの才能よ。彼の神器は無意識のうちに力が高まっていくみたいで、将来的に『禁手』へ至る可能性もあるという話なの』

 

バランスブレイカーといえば、木場の聖魔剣もそれだったな。でも、あれって普通じゃ起こらない危ないものなんだよな?

 

イッセーも驚いているから、おそらく俺の考えはあってるだろう。

 

その後も、能力的には朱乃さんの次にあるとか、日中活動できる吸血鬼であるとか、吸血鬼なのに血が大嫌いであるとか、考えられない話が多々続いた。

 

「私と朱乃は三すくみトップ会談の会場打ち合わせをしてくるから、その間だけでも、イッセー、小猫、アーシア、ゼノヴィア、ハジメにはギャスパーの教育をお願いするわ。祐斗は、お兄様があなたの禁手について詳しく知りたいからと呼んでいたわ。ついてきてちょうだい」

 

「はい、部長」

 

部長も朱乃さんも多忙だよな。むしろ俺が楽してるだけかもしれないけど。それに加え木場も呼び出しとは、今ここで彼と元から面識あるのは小猫ちゃんだけになってしまう。大丈夫だろうか?

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

こうして俺達、居残り組はギャスパーのお世話を任されることになったわけだが………。

 

「ほら、走れ!軟弱な男ではダメだ」

 

「デュランダルを振り回して追いかけてこないで下さいよぉぉ!」

 

俺の不安は早速的中した。ゼノヴィアが聖剣を振り回しながら、ギャスパーと追いかけっこを始めたのだ。追い付かれたら滅ぼされる時点で追いかけっことは呼べない気もするが。

 

そして今ごろなのだが、ゼノヴィアがデュランダルという有名な聖剣を持っていることを知った。

 

「………ギャー君、ニンニクを食べれば健康になれる」

 

「小猫ちゃんまで僕をいじめるなんて……」

 

小猫ちゃん他人をいじる姿なんてはじめて見た。唯一の一年生同士だから仲も良いのだろう、多分。

 

「おーおー、やってるやってる」

 

突然、匙がこの場に現れた。

 

「匙か」

 

「よっ、どうしたんだ?」

 

「よー、剣、兵藤。俺達も引きこもり眷属が解禁されたって聞いてな。ちょっと見に来たぜ」

 

「そうか。あぁ、今あそこでゼノヴィアに追いかけ回されてるのがそれだな」

 

「おいおい、あれで良いのかよ?当たったら消滅するぜ?」

 

「大丈夫さ。あいつは男なんだからあれぐらいの根性は無いと」

 

イッセーはのんきにそう言っている。

 

「ところで、お前はジャージなんか着て何をやってるんだ?」

 

匙はジャージの格好に軍手をして、小さいシャベルを持っていた。

 

「花壇の手入れだ。一週間前から会長の命令でな。今度魔王様方がここにいらっしゃるから失礼がないようにってことだ」

 

要するに雑用をあてがわれたってわけだ。もちろん、匙もやる気に満ちているからそんなことは言わないが。

 

『この感じは前に会った彼か?』

 

嶋さんが突然そんなことを口にする。

 

(えっ?彼って誰ですか?)

 

その答えが返ってくる前にそれは姿を見せた。

 

「……アザゼル」

 

「なんだと!?」

 

「へぇ、悪魔さん方はここで集まってお遊戯してるわけか」

 

そこにいたのは堕天使の総督だった。

 

「また俺と戦いに来たのか?」

 

「いや、試したいとこなんだが、まだ調整が終わってない。今日は鼻からやる気はねぇよ」

 

「剣、アザゼルって!」

 

「あの堕天使の親玉だよ」

 

「あぁ、俺も何度か接触してるから間違いない」

 

俺が匙にそう教えるととイッセーも赤い籠手を出しながら反応した。

 

しかし、この男は俺達が戦闘の構えをしているにも関わらず何の素振りも見せなかった。

 

「やる気はねぇ、ってさっき言ったろ。ここにいる連中が集まったところで俺に勝てないことぐらいなんとなくわかるだろう?まぁ、ひとり例外がいるけどよ。少年、お前さんも戦う気はないんだろう?」

 

すると、俺に向けて訊いてくる。

 

「そうだな。しかし、だったら何が目的でここに?」

 

「ちょっと散歩がてらに聖魔剣使いを見に来たんだが、いないようだな。つまんねぇな」

 

今回は木場が目的だったのか。

 

その後、アザゼルはギャスパーを見つけるなり、なんと、その神器の特訓をする際、どうしたら良いかアドバイスをくれた。それに加えて匙の神器についての解説もしてくれた。伝説の五大龍王とか俺は初耳だったけど。ただ単に神器に興味を持っているだけでは無いことが今、はっきりとした。

 

そして、言いたいことを言って満足したのか一瞥してこの場を去ろうとする。

 

「アザゼル、アンタは俺達の敵なのか?」

 

それだけは気になっていたので、思わず訊いてしまった。

 

「それは俺もまだわからんな。だが、お前さんを敵に回したくない、と俺は思っている」

 

そう言い残してアザゼルは去っていった。

 

取り残された俺達はさっき言われたことを実行するかたちでギャスパーの神器修業が始まった。休憩を挟みながらその特訓は日が落ちるまで続いた。




変更点はギャスパーが「男の子」であることです。

他のシリーズの登場は未定と言った矢先にキバ系の何かが出そうなフラグが立ってしまった。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。