俺は今、ライザーの女王と対峙していて、ブレイラウザーで斬りかかろうとしているところなのだが……、
『おい、ハジメ!!お前はふざけてるのか?』
俺の攻撃はさっきから空を斬っていた。
(しょうがないだろ?初のジャックフォームなんだしさ。しかも、これ速すぎんだよ!)
初めての高速飛行に慣れていないせいか、うまくコントロールができなかった。〈フロート〉で飛ぶ時とはわけが違う。
「た、ただのこけおどしのようですわね」
余裕ぶった発言を相手はしているが、声をわずかに震わせていた。
「はっ!だが、貴様はそのただのこけおどしに一撃も当てられていないだろう!」
麟はそれに対して、挑発的な言葉を返した。たしかに奴の爆発は俺をかすめることすらなく、全て不発になっていた。
『ねぇ、ハジメ。ここは適当なカードを使って終わらせよう』
(このままじゃ埒が明かないのも確かか)
〈バイオ〉
ブレイラウザーから植物を出して、相手を絡め取った。
「くっ、切れない!」
抵抗しているようだが、そう簡単に抜けられるはずがないだろう。その後、俺は拘束したまま相手を振り回し、地面に叩きつけた。
『……これはアブゾーバー使った意味がありませんよね』
困惑気味な霧のツッコミを食らった。
(まぁ、結果オーライじゃん?)
『おい、のんきにしてる場合じゃないだろう。相手はまだ健在だぞ』
砂煙が晴れるとそこには無傷の女王が立っていた。
「なんで……無傷なんだよ?」
『あいつ、手に小瓶を持ってるけど恐らくあれの中身が特効薬か、それに近い何かだったんだろうね』
鍠がそう言ったその直後、俺の周りで数発の爆発が巻き起こる。
\ドォン!/\ドドン!/
「わっ!……あ、あれ?」
しかし、自分でも驚くほど、俺へのダメージが全く無いようだった。
しかし、奴はあの場所から動こうとしない。……いや、さっき叩きつけたことでまともに動けないのか。なら、次は一撃で決める。さっき使った回復道具をまだ持ってるかもしれないから尚更だ。
〈サンダー〉
〈スラッシュ〉
〈ライトニングスラッシュ〉
俺は高速で敵との距離をつめて、横一閃を放つ。
『ライザー・フェニックス様の女王1名、戦闘不能』
かわす余裕すら与えず、ひと振りで仕留めた。
『ハジメよくやったわ。疲れてるところ悪いけれど、大至急校庭にいるみんなの方へ加勢に行ってちょうだい。私とアーシアも今そっちに向かってるから』
喜ぶ暇もなく、すぐに部長からの指令がくだる。
『ライザー・フェニックス様の兵士3名、騎士1名、僧侶1名、戦闘不能』
これは俺達が優勢じゃないか?……そう思った時だった。
『リアス・グレモリー様の騎士1名、戦車1名、戦闘不能』
木場と小猫ちゃんがやられた?いったい誰に?
『どうやら、焼き鳥が自ら出てきたね。この気配は』
……あの男が自分から動くとは。……急がないと、残っているイッセーと朱乃さんが危ない。
俺はすぐさま向かおうとするが、その行く手を阻むものがいた。騎士、戦車、僧侶が1人ずつ、そして兵士が2人。
「5対1か。これはキツいな」
そのように俺がぼやくと、
「いえ、私は戦いませんので4対1ですわ」
僧侶のお嬢様っぽい子がそう言った。……がそれでも数的不利に変わりは無い。いくら通常形態よりもスペックが上がっているとはいえ、油断はできない。
『どうするハジメ、僕を使うかい?』
(いや、まだだ。キングフォームはライザーとやり合う時の切り札だからな)
多少面倒だが、1人ずつ撃破するしか無いか?
「どうした?来ないのなら、こっちから仕掛けさせてもらう!」
考えを巡らせていると、仮面を被った女性が殴りかかってきた。その勢いでほかの人達も一斉にたたみかけてくる。
「はぁぁ!」
おもいきりブレイラウザーを振り抜くが騎士の子が持つ大剣によって阻まれる。
くそっ、〈ジェミニ〉で増やすにしても、何回もラウズさせる隙を相手も与えてくれないだろう。使うなら、単発で効果のある何かだ。
俺は真上に上昇して、1枚のカードを取り出した。
〈マグネット〉
こいつの効果で自分の周りに強力な磁界を発生させ、4人をまとめて引き寄せた。
「な、なんだ。これは?」
突然宙に浮き、バランスを崩しているところにそれぞれひと太刀あびせた。
『ライザー・フェニックス様の戦車1名、騎士1名、兵士2名戦闘不能』
「急がないと。……みんな早まるなよ!」
「あなた方は本気で勝てるとお思いで?相手は不死鳥ですのよ!」
「あぁ。でも、その不死鳥にだって弱点があるだろう?」
「精神がやられるまで何度でも倒すのかしら?それとも神クラスの一撃必殺?お笑いね。あなた方はそんな術を持っていないはずよ」
「それでも俺は諦めない。人間をあまりなめるなよ!」
俺はそう言い残し、空を全速で駆けていった。あのお嬢様はまだ何か言っていたようだが、それを聞く暇はもう無かった。
◼◼◼
校庭に着くと、そこではイッセー達がライザーを相手に3対1で戦っていた。しかし、あまり優勢とはいえず、むしろ圧されているようだった。その証拠にチームの生命線であるアーシアが気を失っている。
「すみません遅れました。ですが、ほかの駒は取りました。後は王だけです」
「よくやったわ、ハジメ!」
「ははっ。人間風情が今来たところで無駄だ。リアス、投了しろ!キミと女王の魔力はほぼ空、そっちの兵士君も満身創痍だろう?キミはもう詰んでいる、チェックメイトだ」
ライザーは3人を相手にしているにも関わらず、無傷の状態で余裕そうだった。
「黙りなさい、ライザー。私は諦めない!まだ王である私は健在なのよ?」
「そうだ、俺もまだ諦めません!……まだ戦えます。気絶しない限り最後まで戦います。いくぜ、相棒!」
イッセーはまだ気合い十分のようだったが……
『Burst』
普段聞き慣れない音声が籠手から発せられたかと思うと、イッセーが崩れ落ちるように倒れた。悔しいがあいつの言うように、イッセーの体はすでに限界だったのだ。
〈リカバー〉
「イッセー、よく踏ん張った。後は俺が何とかしてやるから、休んどけ」
俺はブレイラウザーの剣先をライザーに向けた。
「残念ながら俺が健在だ。チェックメイトを宣言するにはまだ早いだろう、ライザー・フェニックス!」
「ほう。ならば、貴様をこの場で消し炭にしてやる!」
その言葉通りに、火の玉をガンガン放ってくる。俺はそれをかわしつつ、奴の体を切断していく。……がそんな攻撃は意味もなく、瞬時に再生されていく。
「無駄無駄無駄ぁ!」
「なら、これはどうだ!」
〈ラッシュ〉
〈ブリザード〉
〈ポイズン〉
〈ブリザードヴェノム〉
「はぁぁぁっ!」
冷気を浴びせつつ、おもいきり助走をつけて刺し貫く。そして、そのまま毒を注ぎ込む。……しかし、これもあまり効果が見えない。
「ふん、その程度か!」
逆に、炎を纏わせた拳や蹴りで反撃される。さっきまでの攻撃には耐えられていたブレイドアーマーから火花を散る。
「がっ!」
「さっきまでの威勢はどうした?」
(ここまで不死が厄介とは、参ったな)
『アンデッドの不死とフェニックスの不死とでは概念が違うからね』
(たしかにな。どちらかと言えば封印ができないトライアルシリーズに近いだろう)
そう結論付けるなら、答えはひとつ。俺はラウズアブゾーバーから1枚のカードを取り出した。
『僕の出番か……。真の王者の実力、あいつに見せてやろうよ!』
〈エボリューションキング〉
その音声と共に、スペードスートのカード12枚との融合が始まり、完了する。
「姿が変わろうが、貴様の負ける運命が変わることはない。我が一族、フェニックスの業火をその身で受けて燃え尽きろぉ!」
さっき以上の出力で奴は打ち出してくるが、
「その程度の火で僕達を燃やせるわけないだろう」
俺は右手の裏拳でその火球をはじき飛ばし、すぐさまライザーとの距離をつめて、右ストレートを相手の顔面目掛けて打つ。すると、そのまま校舎の壁にめり込んでいった。
「ゴバッ!」
さっきよりも大きいダメージを与えるものの、それまた再生されていく。それを確認すると、追い打ちをかけるために距離を詰める。
「ちくしょうがぁ!」
奴も反撃をしようとするが、左手にキングラウザーを持ち、右手には疑似ブレイラウザーを生成させる。その双刀を使い、ただひたすら顔面を狙って振り回した。
「ま、待て!わ、わかっているのか!この婚約は悪魔の未来のために必要で大事なものなんだぞ?悪魔ですらない人間の貴様がどうこうするようなことじゃないんだ」
……そんなことを言い出すってことは、そろそろ限界が近いはず。しかし、こっちも長くはもたない。
「たしかにアンタの言ってることは正しいかもしれない。でも、部長は、俺の仲間達は、親友はそんなことは望んでいない。その思いのためにも俺はアンタに勝つ!」
〈スペード、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス〉
俺の体のいたるところから金に輝くラウズカードが飛び出し、キングラウザーに吸い込まれていく。
「はぁぁぁ!」
〈ストレートフラッシュ〉
俺の構えた二刀に雷のエネルギーが貯まっていく。
「ウェェェェェェイ!」
また、奴の顔面を狙い十字に斬り裂いた。
「うがぁぁぁあああっ!こ、こんなこ…とで……」
不死鳥はついに地面へと崩れ落ちた。
『ふん、ようやく落ちたか』
『まったく、あそこまで脳を揺さぶってもなんともないとは、ホント化け物だったね』
「あぁ、そ…う…だな…」
『ライザー・フェニックス様、戦闘不能。よって、リア……』
(あ、あれ?)
俺はグレイフィアさんのアナウンスを最後まで聞けずに意識を失ってしまった。
キングフォームを無理やりぶちこみました。