不死鳥「襲来」
アーシアが悪魔として、転生して1週間ほど経った。彼女は今、イッセーの家で世話になっている。それまでは旧校舎の部屋を使っていたのだが、一緒に住みたいなら、イッセーがいいとの本人の希望でこうなったようだ。
そんなわけで、イッセーとアーシアは登下校がいつも一緒なので、周囲では「付き合ってるのでは?」と噂になっているが、イッセーはそんなことに一切気づいていない様子。
………とまぁ、最近変わったことはそれくらいだろうか?あと、最近の部長はどこか上の空な気がする。俺の気のせいだったらいいんだけど……。
◼◼◼
「イッセー、アーシアおはよう!」
「あ、ハジメさんおはようございます」
「……あぁ、ハジメおはよう……」
ん?イッセーがいつも以上に眠そうにしている。
「おい、イッセーどうした?」
「……今この場では話せない。アーシアがいるから」
と、小声で耳打ちをしてきた。しかし、アーシアに聞かれたくないというのはどういうことなんだ?
そして、学校に着いたあと話を聞いたが、内容は信じがたいものだった。
なんでも、イッセーが部屋で読書をしていたところにリアス部長が転移してきて、服を脱ぎだし、「私を抱きなさい」と押し倒してきたらしい。
……がイッセーはなんとか正気を保ち、部長を説得しようとすると、今度はメイドさん(恐らく悪魔?)まで出てきて、部長とともに帰っていった。というなんとも奇想天外な話である。
正直これを聞いて、うらやましいと思うよりも、混乱して頭がついていかないという感じだった。………たしかにこんなことがあれば誰でも睡眠不足になるだろう。
「なぁ、これって最近、部長が元気無いのと関係があると思うか?」
「たしかに関係は大有りだと思うが、その理由まではわからないなぁ」
イッセーもそう思ってたってことは、俺の気のせいではないようだ。いったい何が?
◼◼◼
「入りまーす」
放課後、俺はいつも通り旧校舎の部室に入っていった。……のだが、中の空気はいつもより重苦しい。それに見知らぬメイドさんまで居るし。しかも、ほぼ無表情で……。
「全員揃ったわね。部活前に話があるの」
「お嬢様、私がお話ししましょうか?」
メイドさんの申し出に手を振って、いらないと部長が合図する。
「実はね………」
部長が何か言おうとした瞬間、部室の床の魔方陣が光だした。しかし、いつものグレモリー眷属の紋章ではなく見たことのない魔方陣が描かれていく。
その後、勢いよく炎が巻き起こり、中から何者かが出てきた。
「ふぅ、人間界は久しぶりだ」
そいつは見るからに、チャラそうでちょいワルなのが第一印象だ。なんとなくホストっぽくて、イケメンに部類されると思われるが、木場とは別カテゴリのそれだった。
「愛しのリアス。会いに来たぜ」
こいつは何言ってんだ?明らかに部長は歓迎してる雰囲気じゃないし。
「さて、さっそくだが、式の会場を見に行こう」
チャラ男全開だな、こいつは。いったい何者なんだ?それより、部長が明らかに不機嫌そうな顔をしている。
「ところで、あんた誰だよ?」
イッセーが突然口を開いた。俺も気になっていたからナイスだ。
「……あら?リアス、俺のこと下僕に話してないのか?つーか、俺を知らない奴がいるのか?」
「話す必要がないから話していないだけよ」
「相変わらず手厳しいねぇ。ハハッ」
『ホント、こいつなんなの?』
鍠も嫌そうにしている。
「兵藤一誠様、剣一様」
「「は、はい」」
突然メイドさんが介入してきた。………あれ?俺、名前なんていつ言ったっけ?
「この方はライザー・フェニックス様。純血の上級悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家のご三男であらせられます」
不死鳥ねぇ、そんなのが部長とどんな関係なんだか?
「そして、グレモリー家次期当主の婿殿でもあらせられます。リアスお嬢様とご婚約されておられるのです」
………俺とイッセーはその衝撃の真実を聞いて、言葉を失ってしまった。
その後も、ライザーという男はソファに座る部長の隣につき、嫌がっているにも関わらず、色んなところを触りたい放題。
「いい加減にしてちょうだい!」
部長の我慢も限界がきたようだ。しかし、あの野郎の表情はニヤニヤしている。
「私はあなたと結婚なんてしないわ!」
「あぁ、以前にも聞いたよ。だが、リアス、そういうわけにはいかないだろう?」
そして、俺にとってはよくわからない話がどんどん展開されていく。まぁ、要点としては戦争で悪魔が激減した。それで、純血悪魔の血統を途絶えさせないためのこの縁談?ということらしい。あと、悪魔の出生率は極端に低いとのこと。
………で今、ライザーが「ここのみんなを燃やし尽くしてでも、キミを連れ帰る」みたいなことを言って、一触即発な雰囲気である。俺もいつでも変身できるように、ブレイバックルを手に持っている。しかし、またメイドさんが介入してきたことにより、無意味となった。
「お嬢様、ご自分の意志を押し通すのでしたら、ライザー様と『レーティングゲーム』にて決着をつけるのはいかがでしょうか?」
………この人のプレッシャーは尋常じゃない。いや、それよりもレーティングゲームってなんだ?そんなことを思っていると、説明が続いていく。
要するに、公式なゲームだと、成熟した悪魔同士が下僕を戦わせるゲーム。しかし、今回のような場合は半人前の悪魔でも非公式のゲームとして認められているそうだ。
「いいわ。ゲームで決着をつけましょう」
よほど頭にきてるのか、部長のその言葉には怒気と殺気が満ちていた。それでも、その物言いにライザーは動じず、余裕そうにニヤニヤしている。
………そういえば、俺は下僕じゃないからゲーム自体に参加できないのか?
「承知いたしました。私がこのゲームの指揮を執らせてもらいます。今回は人間である剣一様も参加できますが、どうなさいますか?」
非公式だから、というわけかな?まぁ、部長も嫌がっているし、何よりもあの男が気にくわない。俺も部長に力を貸そう。
「はい、俺もそのゲームに参加します」
「ライザー様よろしいでしょうか?」
「あぁ、たかが人間ひとり加わったくらい構わないさ。それにここにいる面子がキミの下僕なのだろう?」
こいつ俺のことを、いや俺達のことを完全に見下している。そんな言い方だ。
「だとしたらどうなの?」
「話にならないんじゃないか?『雷の巫女』ぐらいしか俺の下僕に対抗できそうにないな」
『さっきから言わせておけばこいつは!!おいハジメ、俺を出して戦わせろ!!!!』
(落ち着け麟!ゲームまで我慢しろ!)
『ぐっ、お前は悔しくないのか?』
(たしかに俺も腹は立っている。けど、今は我慢だ!)
麟をなんとかなだめようとしていると、ライザーは自分の眷属悪魔らしき者たちを集結させていた。数は15名で駒をすべて使いきってるようだ。………それにしても全員女性とは、正真正銘の女ったらしだな。
「お前みたいな女ったらしと部長は不釣り合いだ」
「下級悪魔の分際で偉そうに、お前が決めることじゃないだろう」
イッセーが食ってかかるが軽くあしらわれる。
「この女の子達大したことなさそうだなぁ~」
「「「「?」」」」
ここにいる全員が疑問符を浮かべた。もちろん俺も。
(おい鍠!お前何やってんだ!)
『だって、こいつムカつくんだもん』
「なんか言ったか?人間風情が!」
「い、いや、別に「だからぁ~、ここにいるみんなが弱そうだって言ってるんだよぉ~」……」
……これは腹をくくるしかないな。
「ミラ。やれ」
「はい、ライザー様」
そう命令されると、小柄な女の子が長い棍を取り出し、前に出てきた。……と同時に俺に向けて突いてくる。
\ガンッ/
ブレイラウザーでそれを防ぎつつ、蹴りを打ち込み相手をダウンさせる。
「………」
ライザーは絶句している様子だ。あの女の子には悪いけど、少しすっきりした。
『ハハッ、さすがだね。あいつはハジメのこと舐めすぎなんだよ』
「あの……、続きはゲームで。ってことで、ここは引いてください」
「……くっ、ゲームは10日後だ!それくらい時間があれば、キミなら下僕をなんとかできるだろう」
そんな捨て台詞を残して、悔しそうな表情を浮かべながら、あの男とその眷属は消えていった。