デート・ア・リベリオン 副題『男なのに精霊に転生しました』 作:岸温
区切る場所が分からなかったんです! 切りのいいところまで書きたかったんです!
全部、折紙さんの心理描写を書くのが楽しすぎるのが悪いんだ!!
……つーかこの作品始めてからずっと折紙さんのタグ付けてたのに、折紙さんが登場することを遂に指摘してもらえなかった……。
分かりやすすぎる伏線なんだから、誰か突っ込んで欲しかったよ……。
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私にとって精霊とは、両親の敵であり、復讐の相手であり、滅ぼさなければならない存在。
精霊を殺すことが私の――鳶一折紙の全て。私の人生はそれを達成することに帰結している。
あの日から――精霊に両親を殺されたあの瞬間から――私は全ての時間を、精霊を殺すために費やしてきた。
精霊を殺すため、<
血反吐や胃液を幾度も吐くことがあった。復讐のことばかり考えるうちに、自分の表情が凍てついていった。
でもそんなことは精霊を殺せることに比べれば些末事で、どんなに身を削ることになっても私は諦めなかった。
全てはそう――――復讐のため。たとえ地獄の業火に身を焼かれることになっても、私の意思は変わらないだろう。
――復讐のための機械になっている私だが、そんな私にも幸せを感じることがある。
彼――私の恋人の五河士道と一緒にいる時と、…………亡き家族との時間を思い出す時。
五河士道は同じ学校に通っている、とても心の優しい、正義感のある、素敵で素敵な私の愛しい
困っている人や動物を見過ごせなくて、捨てられた子犬や子猫を見つけたりすれば町中を探して新しい飼い主を見つけようとする。
唯一の家族である妹の五河琴理ために、ほぼ毎日タイムセールで戦っている。
ASTの訓練がない時は、私はいつも彼と共にある。彼が新しい飼い主を探している時は、ちょうど動物を飼いたがっている家を探し当て、彼のことを教えたり、タイムセールで彼の狙っている商品をこっそり手に入れ、彼が目当てを取り逃がした時にこっそり彼の買い物かごに入れたりする。
そうして目的を達成した彼の笑顔を見ると――凍り付いたはずの私の心に熱がともる。
この淡く温かな気持ちを――人は、幸せと言うのだろうか。
『鳶一三曹! CR―ユニットの装着はまだ終わらないの!』
「今終わった。すぐにそちらに向かう」
『なら早くしなさい! もういつ空間震が起きてもおかしくないんだから!』
無線の向こうから
私は今、この天宮市に現れようとしている精霊と戦う準備をしている。
精霊は空間震と共に現れ、回りの土地に被害を及ぼす。また、精霊によっては進んで人を殺す者もいる。
…………私の両親を殺した精霊は、今だ私の前に現れていない。しかしこうして<魔導師>として戦い続けていれば、いつか必ず相まみえることができる。
「今回の精霊は、誰が相手?」
『……<
「どういう意味? 未確認の精霊でも現れたの?」
『実質その通りよ。この前の「ヴァイスホルン大空災」と同じ霊力反応が出ているわ。それ以前の出現報告がない新種の精霊。相手は<魔導師>30人をたったの3分で殲滅させた、正真正銘の化け物よ』
「………………」
『さすがの天才も、この話には怖気づくかしら?』
「いいえ。どんな精霊が相手でも、必ず私が殺してみせる」
『凄い自信ね。ま、他の皆は腰がひけちゃってるし、早いとこあんたが来て皆を引っ張っちゃいなさい』
「了解」
他の隊員の元へ向かう前に、私は自分の荷物の中から写真立てを取り出す。そこに写っているのは、子供の頃の私とお父さんとお母さん。
……これを撮ったのは、大火災が起きるちょうど1日前だった。写真に写っている3人とも、幸せの絶頂のような笑顔を浮かべている。
事実、これが幸せの絶頂だった。二人は死んで、私は精霊を殺す機械に成り下がった。
「……………………」
この写真を撮った幸せな時間を思い出し、そしてこの最高の幸せを壊した、あの精霊に思いをはせる。
そうしてこみ上げるこの胸の炎が、私を『鳶一折紙』だと自覚させてくれる。
「…………行ってきます」
――こんな親不孝な娘でごめんなさい。自分から幸せを捨ててしまう娘でごめんなさい。
――世界一幸せになって欲しいと言っていたのに、それを無視してごめんなさい。
写真立てを荷物にしまい、湧き上がる悔恨の念をスラスターに込め、私は空へと飛び出す。
精霊をこの手で殺し尽くすために。
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鳶一折紙と俺は、よく似ていると思う。
目的を達成するために突き進む姿勢とか、クールビューティーな見た目とか。……あと、何気にチート臭いところとか。
そして………………殺したくなかった人を殺してしまうところが。
俺は『ヴァイスホルン大空災』で<魔導師>たちを、折紙ちゃんは5年前の天宮市の大火災で自らの両親を殺している。折紙ちゃんは未来の話だけど、起きていることに違いはないはず。
俺も折紙ちゃんも過去に縛られ、行き場を失っている。俺は償いを求め、折紙ちゃんは復讐を果たそうとする。
俺たちは、幸せを手に入れることから逃げ続けている。
方向性は全くの真逆。でも、どこか鏡写しのように折紙ちゃんを他人とは思えなかった。
だからだろうか――――
不幸になることが分かっている彼女を、俺は救おうとしないのは。
…………まあそんなシリアスな理由で見捨てる訳じゃないんだけど。
だってさあ、あの『鳶一折紙』だぞ!? そう、あの『
恋人に言われたからって犬耳犬しっぽスク水首輪リードになっちゃう女だぞ!?
作者に「士道とのデート話を考えたら士道がとって食われる話しか考えられない」とか言われる あ の ライオン娘だぞ!?
無理だぁ!! 俺にはそんな女の子救えても、背負える気がしませぇん!! 絶対に無理です!!
そんなわけで、折紙ちゃんは原作通り士道くんに任せることにします。そもそも11巻で出るはずの士道くんと折紙ちゃんの馴れ初めを俺が知らないからね! 成り代わりようがないんだよ! うん!!
でも見た目女の俺が折紙ちゃんを救っても、惚れられないような? 新しい家族として見られるくらいじゃないか?
いや、多分絶対恐らく間違いなくスキンシップが激しくなるはず!(混乱)
――そもそも俺は始めから、精霊は全員原作通りに士道くんに救わせるつもりなのである。
そう――これから起こる『未来』が、起きたはずの『過去』が変わっていない限り。
「さてと、行きますか」
――この前の<ファントム>の対峙からさらに1週間。遂に俺は
前回の<魔導師>の説得はどうしたかと言うと…………、ただ<魔導師>の目の前に出て行ったら、勝手に解決しちゃいました。
あの時の俺は霊力を隠した状態だったので、<魔導師>からすれば俺はどこをどう見てもただの一般人だった。だから<ファントム>のことも精霊のことも知らぬ存ぜぬで「寝ていたら避難遅れた」と言えば簡単に納得されてしまった。あとは二、三小言を言われて、建物の周囲から追い出されて終わり。
拍子抜けしてギャングたちの元へ帰ろうかと考えたが、やはり思いついたアイデアを実行しないといけないので、名残惜しくもアメリカを後にした。
――そして現在、俺は『目的の人物』をおびき寄せるため、空間震と共に天宮市に現界した。
目的の場所への現界は結構簡単で、イメージさえあればうまくいく。あの
しかし空間震を起こすとはいえ、みすみす被害を大きくする俺ではない。現界する直後に<
そうして起こした今回の空間震の規模は――――
パン、と紙風船程度の破裂音。誰がこんな規模の空間震を予想できるのか、と笑ってしまう。
出現したのはよくあるデパートの中だった。近くに専門店が多数ある。
この規模の空間震だと、せいぜい余波に強い風が吹く程度。床のタイルにヒビも入らない。
しかし建物の中であることに変わりないので、<魔導師>が入ってきにくいはず。こちらから外に移動しておこう。
「ただ待つのも味気ないし、近くからイスでもかっぱらっとくか」
結構躊躇なく商品を盗む決心をした。どう考えてもアメリカで過ごした影響です。
今回の目的は対話だし、相手方の分含め2つ盗むことにする。他の奴は話に関係ないし、立たせるかうるさければ蹴り出そう。店のロゴが書かれた値札つきを狙えば、ASTが元に戻す時分かりやすいはず。
……というか俺が
「え~っと、……近くに家具屋ないじゃん」
実を言うと、俺はASTや八舞姉妹のように空を飛んで高速で移動することができなかったりする。<
なので、まずはインテリアショップを見つけるため案内板を走って探すという、およそ精霊らしくもない行動を俺は取るのだった。
俺が天宮市に来た目的――――それは、とある人物の『過去』を確かめること。
そのとある人物の名は――――『鳶一折紙』。
そして確かめる『過去』とは――――『精霊となった折紙が自分の両親を殺した過去』のことだ。
残酷だと笑いたければ笑えばいい。元々この
ならその前提が崩れているのだとすれば、それは俺のせいに他ならないではないか。
確かめなければならない。精霊たちの幸せが、崩れていないかどうかを。
もし『未来』が変わっていたなら――――
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『半径1メートルの空間震ですって? 何かの間違いじゃないの?』
無線から聞こえてきた言葉は、精霊を知る者としてとても信じられないような内容だった。
『でも、霊力反応はしっかり出てますし、この機器も新調したばかりです。最新型の機器がいきなり壊れるとは思えません』
『バグでも残ってるんじゃないの? そんな極小規模の空間震なんて聞いたことがないわ』
私も聞いたことがない。しかし精霊は基本イレギュラーな存在。この空間震だって、地震で言うところの初期微動の可能性だってある。
それに精霊の反応が出ている以上、そこに向かわなければいけないことに変わりはない。
『目標発見! ポイント「23-G」!』
『そのまま追跡を続けなさい。接触はまだよ! 相手の力が未知数だから、配置が完了するまで攻撃は禁止よ!』
『了解!』
先行していた隊員の1人が目的の精霊を発見したらしい。精霊の映像が送られてくる。
映像に映っているのは――ダッフルコートを来た短髪の少女。どこかの店から盗んできただろうモダンデザインの椅子に座り、もう一つ同じイスを傍に転がせている。<魔導師>の存在など気にも留めていないのか、肘をついて退屈そうに佇んでいる。
余裕そうな精霊の姿を見て、沸々と怒りがこみ上げてくる。今すぐこの精霊の顔を歪ませたい、この精霊の胸に風穴を空けたいと武器を握る手に力がこもる。
スラスターを加速させ、数分で精霊のいるポイントに辿り着いた。他の隊員も既に配置についている。
全員が配置に付いたのを確認し、日下部一尉が指示を出す。
『第一班、精霊に接近! 射撃を開始せよ! 第二班はそのまま待機!』
全方位の物陰から一斉に隊員たちが飛び出す。飛び出した隊員の中に私もいる。CR―ユニットの銃口から次々と弾がばらまかれる。
もしあのダッフルコートがあの精霊の霊装でないなら、無防備なあの精霊に風穴が空くだろう。しかし精霊は埒外の存在。そんなに甘く傷つけられるとは思っていない。何より相手は<魔導師>30人を殺し切った化け物。引き金を引いても私は一切気を緩めず、照準の向こうの精霊に集中していた。
――そして、私たちはこの精霊が正真正銘の化け物だと知る。
撃たれたことに気が付いた精霊が、肘をついていなかった左手を天にかざす。
その瞬間、銃弾は全て破裂した。
次の瞬間、私たちの
「!!?」
私は飛び続けることを早々に諦める。このままの勢いで地面にぶつかれば骨折の恐れがある。だから受け身を取ることに思考を傾ける。スラスターは動くようだが、下手に動かせば周りの者のようにスラスターの勢いに振り回されるだろう。
しかし
無用の長物となった銃器を空中に捨てながら、射矢となって精霊に突貫する。
「はあああああああああああああああああああああああっ!!」
――精霊と目があった。なぜか精霊は嬉しそうに笑う。
私は背負っていた剣を取り出し、切っ先を体の前に持っていく。
当たるとは思っていない。こんなものは勢いだけの突進だ。当然、精霊はイスから立ち上がり、難なく私の突進を避けた。
避けられた瞬間、
十数メートルほど地面を削って静止する。衝撃に後引く体に鞭打ち、すぐさま精霊に接敵しようと足に力を込める。だけどその前に精霊から声がかかった。
「凄まじいな、鳶一折紙。魔力を10分の1にされてそこまで動けるのか」
――――精霊は、私の名前を呼んだ。
「ああ、ちょっとタンマ。俺はアンタらと戦いに来たわけじゃない。話があるんだ」
ダッフルコートをたなびかせて、二つのイスを引きずりながら精霊は私に向かって歩いてくる。
なぜ、この精霊は私の名前を知っている?
私は精霊を見た。精霊も私を見ている。私は微動だにせず精霊の一挙手一投足に目を配る。
そうして見ていると――――私は他の精霊と相対した時とは違う感情をこの精霊に覚えた。
いつも精霊に向ける火のような怒りではない。まるで氷のような冷たい感情。嫌悪にも似たその感情が私を冷静にする。
そして精霊は――――『決定的な』一言を口にする。
「答えてもらいたい。鳶一折紙、君の両親を殺した精霊はどんな姿だった?」
…………この精霊は、私の名前を知っていた。
…………この精霊は、私の両親のことを知っていた。
…………この精霊は、私の両親が精霊に殺されたことを知っていた――――!
――理解した。この感情は、『歓喜』だった。この精霊を一目見た時から、本能的に理解していたのだろう。
ようやく、ようやく、ようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやくようやく…………
ようやく、会うことができた……!
「お前か――――――――」
思わず口が開いてしまう。さっきまであったはずの着地の疲労が消え去っている。
ああ、とても気分がいい……。自然と頬が吊り上がってしまう。
みっともなくて構わない。この瞬間だけは、この一瞬だけは、感情のままに動いていたい――!
「お前が…………、」
頭と体が離れ離れになる。今の自分の頭は喜びで満たされている。
体は痛覚も重みも感じずに、
「お前が私のお父さんとお母さんを、殺したのかぁあああああああああああああああああああ!!!!」
体が滑るように動き、精霊の首へと剣を振るう。
今日、この時をもって――――私は復讐を遂げる!!
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
――――――――――――――――――――――――――――――
「はい?」
折紙ちゃんの『過去』を確かめようとしたら、両親の仇だと勘違いされました。
どうしてこうなった……?
当初の予定では、折紙さんは主人公の質問に素直に答える展開だったんですが、
「自分の名前と自分の両親が殺されたことを知ってる精霊って、どう考えても仇だと思われなくね?」
ということに気づいて、主人公への勘違いを追加することにしました(笑)。
チート能力ありの勘違い小説って人気なの多いし、何よりこっちの方が展開として面白いしね!
おかげで折紙さんの描写が進む進む。愉悦なり(悪笑)。
あと、3話の設定で霊装の名前を追加しました。どうせほとんど使わない設定ですんで(超克天魔あれば防御の必要なし)、小説内では多分登場しないでしょう。
ちなみに語源はダンテの神曲の原題です。