デート・ア・リベリオン   副題『男なのに精霊に転生しました』   作:岸温

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コミケ行って、その上内容がシリアスだったから書くスピードが遅くなってました。

活動報告で昨日の夜に投稿するって書きましたが、内容考えるのに四苦八苦してたら寝落ちしました。すいません。

でも「思考の整理学」でもあるように、寝て起きたら頭がすっきりしたのでようやく書き終えることができました。

それではどうぞ。



<ファントム>との対峙

 ――つか<ファントム>現れるの早すぎるだろ。さっきの思考はフラグか。

 まあ2週間も現界しておいて今更だとは思うけど。

 

 

【私の与り知らない精霊ね……】

 

 

 顔は見えないが、それでもこちらを伺うような表情を浮かべているのは分かる。

 姿も、声も、何も感じない。けれども存在するのは分かる。目の前の精霊は、まさしく幻影と例えてしまえる『もの』だった。

 

 

【ねえ。あなたは何者かしら?】

「………………」

 

 

 別に返事をする義理もないので、完全無視を貫くことにする。

 こういう黒幕相手には、とにかく目を付けられないことが重要である。余計な印象を与える前に隣界に逃げてしまおう。

 <ファントム>から顔ごと体を逸らし、<ファントム>とは反対方向へ向かって隣界に渡ろうとした。

 ――しかし、俺は<ファントム>を無視し続けることができず、<ファントム>の質問に反応してしまった。

 

 

【もしかして、自分でも何者か分かってないのかしら】

 

 

 ――落ち着け、こんなの鎌かけだろ。

 でも俺は質問の答えを探そうとする。

 

 

 どうして自分なんかが転生しているのか。

 どうして精霊なんかに生まれ変わったのか。

 何か理由があるのだとすれば――もしかしたら、その理由がコイツなら分かるのかもしれない。

 

 

「(バカらしい……)」

 

 

 今更何を考えているんだか。もし俺が生き返った理由が分かるのだとして、それを知ってどうなると言うんだ。

 死に返って、さっきの決心と覚悟を反故にしてどうする。

 俺はやると決めたんだ。ならその気持ちを最後まで貫かなければならない。

 それでも俺の足を止められたのは事実なので、振り返って<ファントム>を睨んだ。

 ようやく俺が反応したのが嬉しいのか、<ファントム>は楽しそうに言う。

 

 

【ようやく反応してくれたね。始めまして、謎の精霊さん】

「…………ふん」

【おやおや、私は随分嫌われてるみたいね。私とあなたは初対面のはずだけど、あなたは私のことを知っているのかしら】

「うっさい黒幕」

【あっはははははははははははははっ!! 黒幕! すっこいこと言うねぇ! まさにその通り!!】

 

 

 その通りなのかよ。自分で言ってどうすんだ。

 

 

【私が霊結晶(セフィラ)を使って精霊を生み出してるんだからね。そのことも知ってるんでしょ?】

「だとしたら何か? 口止めでもすんの?」

 

 

 お前相手でもやられるつもりは毛頭ないからな?

 ……てか、俺のことを口止めしとかないといけないんじゃね?

 

 

【となると……あなたは、<刻々帝>の【十二の弾(ユッド・ベート)】で過去に飛ばされた未来の精霊かしら】

「うっ……」

【当たりのようね】

 

 

 なんだかすっごい勘違いされてる! それって原作の折紙ちゃんへの予測じゃなかったか!? 大丈夫か今それやって!!

 突かれるつもりもなかったことを突かれて、思わず図星みたいな反応を取ってしまい、<ファントム>に勝手に納得された。

 呆気に取られて固まる俺に、<ファントム>はするりと近づく。

 

 

【ふふっ……】

 

 

 <ファントム>の右腕が俺の胸の――心臓辺りに向かって迫ってくる。

 ガッ……! と俺は自分に向かってきた<ファントム>の右腕を掴み返した。

 とりあえず、コイツの霊力を半分にしておこう。

 

 

【あら……。これは凄い能力ね】

「全く動じてないのに、何を言うかバケモノ」

 

 

 腕の力は少し弱まっているみたいだが、それでも<ファントム>たる所以の霧のような体に一切変化がない。

 お互い顔が接してもおかしくないくらい近づいているのに、相手の正体は掴めない。得体の知れない相手。自分のキャパシティを越えた存在。どう対処していいのか分からない。

 ――でもそれは<ファントム>も同じだった。

 

 

【手を離してくれないかしら】

「何をしようってんだ」

【確かめたいことがあるの。恐らく、あなたにとっても気になる話だと思うけど】

「確かめたいことってのは?」

【あなたの正体について】

 

 

 明らかにぼかされているが、その言い方が俺の気を引くと思っているんだろう。

 さすがにそこまで俺は甘くない。…………つもりだ。

 反抗の意味を込め、<ファントム>の霊力をさらに下げていく。

 この反応にはさすがに<ファントム>も困ったようだ。すぐに減退を止めるよう言ってきた。

 

 

【ま、待って待って! このまま霊力を減らしても私がここから消えるだけよ! 私が隣界に行くだけで、殺せるわけじゃないのよ!?】

「むしろそれもアリだな。ていうかさっさと詳しく話せ」

【あなたの霊結晶について調べたいの!】

 

 

 その言葉を聞いて、言葉の意味を考え、俺は<ファントム>の手を離してやる。

 霊結晶か……。

 

 

 

 

 霊結晶とは、精霊が精霊たる力の源。人間に霊結晶を埋め込めばその人間が精霊になるように、霊結晶があるからこそ精霊は精霊たり得る。

 そして『セフィラ』という読みの通り、霊結晶はセフィロトの木のセフィラに対応した性質を持っている。

 十香ちゃんの持つ霊結晶は、セフィロトの木の10番目のセフィラ<王国(マルクト)>で、霊装の名である<神威霊装・十番(アドナイ・メレク)>はセフィラの神名から来ており、<鏖殺公(サンダルフォン)>は文字通り守護天使の名から来ている。

 反転した十香ちゃんの出した魔王<暴虐公(ナヘマー)>も、セフィロトの木と対になる邪悪の木の、10番目のクリフォトの名前だ。

 こう言ってはなんだが――――十香ちゃんは十日に会ったから『十香』という名前になったのではなく、作者の都合で10番目のセフィラに対応しないといけないから『十』の字の入った名前になったのだ。

 もちろん、他の精霊の名前に漢数字が入っているのも対応するセフィラがあるからで、『士道』の名前がが11番目のセフィラ<ダアト>と対応しているのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 ……なんでこんなに詳しいのかって? 中二病だからさ。

 そしてここまでつらつら無駄知識を披露して何を言いたいのかって言うと――

 

 

 

 

 『ルシフェル』が守護天使のセフィラなんかねえよ!!

 つまり十中八九俺にセフィラはないってことだ!!

 

 

 

 

【………………】

 

 

 結局俺は<ファントム>にされるがまま、胸を触れられている。無視しようっていう決心はどこ行ったよ。

 結果が予想できているので、開き直って触らせることにした。

 <ファントム>の触り方はまるで触診のそれで、いやらしさなんて微塵もない。なのに心が男である俺は内心ドギマギしていたりする。

 

 

【――――霊結晶が見つからない】

「やっぱりね」

 

 

 予想していたことが当たっただけで、驚くようなこともない。そもそも霊結晶があってもなくても、俺が精霊なのに変わりはない。

 …………むしろ変わるのは――

 俺は<ファントム>の手を振り払った。

 

 

「つまり俺はお前の手にも負えない存在ってわけか」

【…………そうね】

「そんなに怯えなくてもいいよ。俺はあんたに干渉する気は元からなかったんだから」

 

 

 むしろ気負っているのは、俺の方なのだ……。

 士道くんが<ダアト>に対応しているなら、霊結晶のない俺は士道くんの能力の対象外となるはずだ。つまり、元から薄かった希望がこれで更に薄くなったわけだ。

 ……まあ、男とキスして得られる希望に縋るつもりはなかったけど。

 でもこれで士道くんとのキスを拒む理由が増えた。それが唯一変わったことだろう。

 

 

 

 

 ――――より救いが遠のいた、とも言うが。

 今更、俺は救いなんて求めていないけどな。

 

 

 

 

【……あなたの目的は何?】

「ははっ。大して凄くもないことだよ。目についた不幸そうな奴を片っ端から救うことさ」

【何それ? そんな子供か、聖人君子みたいな願いがあなたの目的?】

「悪いかよ」

【……それって、精霊も人間も区別なくかしら?】

「そうさ。んで、特に不幸そうじゃないお前は俺の救う対象じゃないってわけ」

【……あなたさえ良ければ、私の手伝いをして欲しいんだけど?】

「つかお前さあ」

 

 

 俺は今更ながら指摘する。

 

 

「お前が出てきたせいで外の<魔導師>が今にも入ってきそうなんだけど。四糸乃ちゃんが消えて、お前の霊力反応が新しく見つかって、お前が現れるまでタイムラグがあった。<魔導師>からすればどういう状況か全く説明つかないぞ」

 

 

 想像できたとして、四糸乃ちゃんが普通に消失(ロスト)して、新しい精霊が空間震を起こさず現れたってところが限界だな。それで大体合ってるんだけど。

 それにしたって、静粛現界のことを<魔導師>が把握してるか分からないし。

 

 

【理解できないから偵察に来るってことね】

「だから俺としては、とっとと隣界に帰りたいんですがね」

 

 

 ホントさっさと帰りたい。俺、こいつと一緒にいる意味ないもん。

 だけど、そう話は上手くいかないのだ。

 

 

「一応、お前が外の<魔導師>にちょっかい出さないように、お前を消失(ロスト)させてから行きますか」

【待ちなさい】

「ん?」

 

 

 正直、そろそろ問答無用で送ってやろうかと俺は少しキレかけている。

 そんな苛立った俺に対し<ファントム>は尋ねた。

 

 

 

 

【目についた人を幸せにする………………、それが本当に『あなた』の望みなの?】

 

 

 

 

 ――俺はその質問に即答できなかった。そのことを自覚さえできていなかった。

 

 

「……ああ、そうだよ」

【そう】

 

 

 それだけ言って、<ファントム>は何かを納得したようだ。

 そして――事実、俺のことを看破してしまった。

 

 

【あなたは、自分が精霊であることに責任を感じているのね。……いや、罪悪感かしら】

 

 

 <ファントム>は容易に俺の根底を暴いていた。

 

 

【そこまで強い天使を持っているなら、精霊か人間のどちらかに肩入れして自分を示すものなのに――――あなたは『償い』しか頭にない】

 

 

 自分が今どんな『貌』を浮かべているか分からない。

 自分の見たくない一面が|面(おもて)に現れているのだろうが、――――けれど今の俺にその一面と向き合う余裕はない。

 

 

 ――遠くから、スラスターの高音が聞こえてくる。

 <魔導師>が痺れを切らし、この建物に突入してきたのだ。

 

 

【そんなあなたなら確かに、私の邪魔はできないのかもね】

 

 

 そう言って、<ファントム>は消えていった。

 じゃあ頑張ってね、と無気力な挨拶を残して。

 

 

「――――――――」

 

 

 状況が変化しているというのに、俺の体は動こうとしない。

 いや――指が震えている。様々な感情が体の中で渦巻いていた。

 俺の内心を見抜かれたことによる恐怖、不安、躊躇い、反抗心。

 そして、<ファントム>が最後に俺に向けていた目。あいつは――俺に同情していた。

 ふつふつと、怒りが湧き上がる。

 

 

「なめやがって…………!」

 

 

 今にも何かを(減退)してしまいそうな怒りが体から膨れ上がっている。

 大声を張り上げ、すぐ近く<魔導師>に鬱憤をぶつけたかった。

 ――だけど、俺は踏み留まった。今にも爆発しそうな感情を抑え込む。

 

 

「そりゃあ原作であいつの目的が明かされてないんだから、迂闊に干渉できないけどさ。別に何もできないって訳じゃないんだぞ」

 

 

 不敵に笑う。怒りを反抗心に変え、自分の目的を思い出す。

 そうだ――――俺がやりたかったのは、<ファントム>への復讐じゃない。

 

 

 

 

 

 

「俺が、やりたかったのは…………」

 

 

 顔を前に上げる。心の迷いを断ち切り、今――俺の体を前に進ませる。

 

 

「原作への反逆だ」

 

 

 

 

 

 

 俺は自ずと<魔導師>のいる方に向かって足を動かしていた。

 ゆっくりと、どこか胡乱な足取りで。……ただ消失(ロスト)はしなかった。俺は逃げようとはしなかった。

 四糸乃ちゃんが消え、そして<ファントム>も消えた今、<魔導師>たちは何の霊力反応も感知していない。自分たちの目標はもういない。

 けれど、不安にはなっていると思う。結局のところ2体もの精霊が現れたことに変わりはないからだ。

 だから俺は……<魔導師>たちを安心させるために、これから<魔導師>と話をつけにいくのだ。

 

 

 俺が<ファントム>に成り代わり、俺が四糸乃ちゃんを消したことにすれば――

 ……いや、四糸乃ちゃんが消えた後に現れたことにした方が矛盾がない。

 まあとにかく。

 

 

 俺は目の前で困っている人を、どうあっても見捨てたくないらしい。

 指摘されたからなんだと言うんだ。『これ』がそんなにもおかしいことなのか。

 たとえ、俺が異常者だったとしても――人を救うことが間違いなんて言わせない。

 それに人を救い続ければ、マザーテレサやナイチンゲームみたいに偉人にだってなれる。

 ――精霊が偉人になれるか分からないけど。

 

 

 

 

 

 俺は言う。原作のキャッチコピーになったあの言葉を。

 この2週間、考えに考えアレンジした俺なりの決め台詞を。

 

 

「さあ。たった一人の、俺だけの反逆(デート)を始めようか!」

 

 

 ――これから俺は、原作(運命)と対峙し続ける。

 

 

 

 

 




あー、長かったー!

いつもなら頭空っぽにして書いていたんですけど、今回ばかりは真面目に考えないといけなかったから、余計時間が長く感じました。



<ファントム>と那由他の対決では、<ファントム>の勝ちみたいな形を取りました。

やはり原作で精霊折紙を圧倒した相手なので、主人公を勝たせず強キャラムーブすることにしました。

ただ<ファントム>が那由他の力を見て「人間か精霊のどっちかに味方しないの?」と言ってますが、これは女子特有の「仲間にならない奴は人間じゃない思考」から来ているだけです。

男なら忠義や使命のために死のうと思うのは、普通にありふれた考えですから。



あとこれからの話の展開上、<ファントム>に負けても那由他は前向きじゃないといけなかったのですが……、なんだか英雄に近い(人にあらずな)思考を持ったキャラクターになってました。

……まあ、まどかや渡辺早紀なんかも似たような感じですし、別に王道から外れてるわけじゃないと思います。



次回は『過去』の確定に入るわけですが、頭のいい人なら次に登場するキャラが分かるかもしれません。

……とはいえ私の伏線って分かりにくいのばっかりですから、そう簡単に当たらないと思いますが。

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