デート・ア・リベリオン   副題『男なのに精霊に転生しました』   作:岸温

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転生しました

 ――朧げな意識が覚醒すると、そこはまるで死の世界のように闇が広がっていた。

 

 

 かつての『自分』は覚えている。

 オタク中二病で大してモテもせず友達も少ない。学校の成績も凡庸だし、将来やりたいこともなく、ただただ時間の流れに任せて生きていた。

 

 

 そして。ある日突然『自分』は死んだ。

 トラックに轢かれて交通事故で死んだ。

 

 

 だとしたらこの闇は、死後の世界ということになる。

 ――だとしたら、このまま俺はずっとこの闇の中で過ごすのか?

 

 

「嫌だ!」

 

 

 声が出た。

 まだ肉体が残っていたのかという疑問が浮かぶが、そんなことよりも俺は、何よりもただ叫びたかった。

 

 

「嫌だ! 嫌だ! 嫌だっ!! 助けて、誰か! 誰かぁ!! ここはどこだ!! 俺は死んだのか!! 嫌だ!! このままっ、ここで、死にたくないぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!! 誰かぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 力の限り叫び続けた。……けれどいつまで経っても喉が枯れることはなかった。

 もしかしてここは夢なのかもしれない。なんて都合のいいことまで考え始めた。

 5分か、1時間か、とにかく心が擦り切れるまで叫び続けた。……けれど闇は一向に晴れなかった。

 

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 

 どれだけ悲しい気分になっても、どれだけ寂しい気持ちになっても、涙は出てこない。

 確かに生前『自分』だった頃はあまり泣くような性格ではなかったけど、死んだのに泣かないというのは人間としてどうかと思う。

 いや、『死んだらもう泣くこともできなくなる』って誰かが言っていた気がする。

 冷静になれば冷静になるほど、むしろ泣かない方がいいとさえ思えてくる。

 もし俺が本当に死んでいて、もしここで永遠の時を過ごさなければならないなら、喜ぶことも泣くこともなくただ無感動でいた方がいい。感情があるとどんどん辛くなるから。

 

 

「そういえば、体は動くんだよな?」

 

 

 地に足がついた感覚はしないけれど、手を握ったり足を曲げたりすることはできるようだ。

 けれどその手で自分の体を触ったりしてもその感覚はない。その感覚はとても空しくて、やはり俺は既に死んだ身なんだと実感してしまう。

 

 

「ん? なんだこれ?」

 

 

 手に力を込め続けると、『何か』が体に纏わりつく感覚があった。

 温かい空気とも上気した体温とも違う奇妙な感覚。しかも『何か』は力を込めるごとにどんどん大きく、重くなっていく。

 しまいには、手に力を込めなくても『何か』を纏わせることができるようになっていた。

 

 

「気持ち悪い、……っていうより酔っているみたいな感覚だな」

 

 

 とにかく変な感触には間違いないので、手に纏わりついている『何か』を振り払った。

 

 

 ――すると、『何か』が払われるのに合わせて闇が蠢いたように見えた。

 

 

「!!」

 

 

 蠢く闇の先に、何かが見えた気がした。ならもうやることは決まったも当然だ。

 今度は両手に『何か』を纏わせて闇に放った。

 ――先ほどよりは揺れたみたいだが、まだ足りない。

 さらに多くの『何か』を溜めて放つ。

 ――――まだ足りない。

 今度は連続して『何か』を闇に放つ。

 ――――――まだだ。

 より強く。より多く。より濃く。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も――――!!

 繰り返す度に闇が揺れている。終には自分の周りの闇すべてが胎動しているように揺れ出した。

 ――――――――――――もっと! もっと! もっと!!

 

 

 

 

 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンンンンンンンンッッッッ!!!!

 

 

 

 

 ……闇の向こう側で爆発音が鳴ると共に、俺の体がそこに向かって吸い込まれていく。

 闇がかき消え、目の前には光が満ちるとともに――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭の中に『言葉』が入り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『精霊』『霊結晶(セフィラ)』『空間震』『現界』『消失(ロスト)』『天使』『静粛現界』『霊力』『■■■■』『隣界』『■■』――――――

 

 

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

 

 まるで大容量のデータをダウンロードしたパソコンのように、頭がオーバーヒートした。

 光に引き寄せられながら熱がともる頭で考えたのは。

 

 

 

 

 ――これ、デアラじゃねえか!

 

 

 

 

 無駄に略称を使ってかっこつけた思考だった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 視界が吹雪に覆われていた。

 座り込んだ地面には雪が積もっていない。軟らかい地面が露出しているから。それもあと数分もすれば雪で埋まってしまうだろうけど。

 現界した初めは空間震の影響で空が晴れていたけど、すぐに雲が流れ込んでまた空が灰色になっている。

 俺は今、自分で作ったクレーターの中心で体育座りをして現実逃避を敢行している。

 

 

「……デート・ア・ライブに転生とか。ってか男が精霊に転生とか、どんな需要だよ………………」

 

 

 鏡がないので今の自分の容姿が分からないが、どう考えても美少女で間違いないだろう。

 ラノベで表紙に写るようなキャラクターだ。絶対上方修正がかかってるはず。

 とりあえず分かるのは、髪は茶髪でショートヘアだということ。胸はそこそこ(恐らくB、日本人女性の平均以下)あること。尻も腹も出ておらず体型はスレンダーだ。

 ……しかし外見が良かろうが悪かろうが、何もかも台無しにし、物語を根本から壊してしまう要素がある。

 

 

「……俺、男だよ? どう考えても士道くんに好意持たないし、――キスとか絶対嫌だからなぁ!!」

 

 

 自分と士道がキスをしているイメージをしてしまい普通に吐き気に襲われたので、気持ち悪さを払拭すべく叫んだ。

 やまびこになるような山もないので、叫び声は空しく消えていった。

 ……というか、やまびこになりそうなものは俺が壊しちゃってるのだ。

 どうも闇の中――臨界で力を込め過ぎたようで、込め過ぎた分強大な空間震となってこの山を襲い、結果地平線が見えるくらい大きなクレーターができてしまっている。

 

 

「標高下がってないといいなあ……」

 

 

 山のはずなのに、今いるクレーターの断面が水平に近い。よって、少なくとも半径数百メートル規模の空間震でごっそり山を削り取ったと分かる。

 ここが標高数千メートルの高山で、削れたのが山の中腹であることを祈る。

 いきなり空間震で大自然破壊とか、俺マジ精霊だな! ……などど開きなおる。

 

 

「とりあえず状況の把握からだな……。今は原作の言うところのいつぐらいで、ここがどこなのか、後一応静粛現界もマスターしないとな」

 

 

 現状の整理をしていると、遠くの空から何かが近づいてくるのを感じた(・・・)

 精霊になってから感覚も強化されたらしい。明らかに視界が悪い中数百メートル先にいる人影を捉えていた。

 

 

「AST……<魔導師(ウィザード)>か」

 

 

 空間震を起こしたんだから、当然来るか。

 どうせ説得なんて通じないんだろう。自然破壊まで起こしてるし、そもそもこっちは精霊だからな。

 精霊はCR―ユニットでボコボコにされても死なない上、向こうは空間震に巻き込まれれば簡単に死ぬ。弱い種族である人間は自分の身を守るため対抗しないといけない。

 そもそも精霊になったばかりだとか、元々男だとか、そんな戯言が言い訳になるはずがない。

 自分が精霊だと理解した瞬間、俺は人類の敵になる覚悟を決めていた。

 

 

「でもまあこれでも精霊だし? 天使くらいはついてるよな?」

 

 

 体の中に意識を傾けると、すぐに『それ』らしいものは見つかった。

 体中に霊力を漲らせ、『それ』を体の外に押し出した。

 どうかザコい能力じゃありませんように!

 

 

 

 

 

 

「さあ、実験台になってもらおうか! 来い! <超克天魔(ルシフェル)>!!」

 

 

 

 

 

 

 ――あ。これやばい……。

 天使が発顕すると同時、自分の天使がとんでもなく『凶悪』な能力を持っていることを理解する。

 しかし俺は、天使の発顕を止めることができなかった。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……………………」

 

 

 ASTが襲いかかってきて、五分も経っていないだろう。

 たったそれだけの時間で数十はいた<魔導師>たちは全員撃墜され、一人残らず凍死体(・・・)となっていた。

 言葉が通じないのでどこの国かは分からないが、全員が日本人ではないことは分かる。

 

 

「やりすぎたぁ……。つーかマジ『チート乙』だよ、コンチクショゥ…………」

 

 

 そりゃあ元々精霊の天使は軒並みチートだけどさ。<鏖殺公(サンダルフォン)>とか<刻々帝(ザァァァフキェェェェェル)>は言うの及ばず。何気に<氷結傀儡(ザドキエル)>も随意領域(テリトリー)ごと凍らせて<魔導師>を無力化したり、氷の結界で士道くんを殺しかけてたりしてるからな。

 琴里ちゃんもきょうぞうちゃんを普通に圧倒してたし、<颶風騎士(ラファエル)>も<破軍歌姫(ガブリエル)>もよくよく考えると強いし。――この二つは地味だけど。

 ……自分の精霊がチートに思えなくなった。

 

 

「でも…………人を殺せる力なのに変わりないか……」

 

 

 死んでしまった<魔導師>たちに目を向ける。全員の目に恐怖が宿っている。軍人とはいえ、やはり生きている以上死にたくなかったんだろう。

 なのに殺した。

 俺は殺した。――俺『が』殺した。

 何の罪もない人を死後の世界に送ってしまったのだ。

 中二病だった俺は天国を信じていない。だから死後の世界に幸せが待っているとは思えなかった。

 ……それになにより、自分が臨界で味わったあの恐怖。それをこの人たちにも味合わせていると思うと罪悪感で押しつぶされそうになった。

 

 

「………………………………泣けないなあ。なんでたろう?」

 

 

 悲しい癖に、辛い癖に、なのに俺の目には涙が浮かばない。

 

 

 

 

 

 

 ――人間を滅ぼせる力を持ちながら人間の姿をし、人間と同じ感情を持つ精霊。

 ――人と滅ぼし合う運命を背負わされた不運な少女たち。

 ――その運命から逃れる術は、戦闘による死か、|五河士道に惚れる(俺か士道がオカマになる)ことのみ。

 

 

 

 

 

 

「つまり、俺に救いはないって訳だ」

 

 

 笑ってしまうほどに詰んでいる。

 俺はただ死ぬしかない、呪われた存在だ。

 

 

「でも、死にたくないよ。……死にたく、ないっ」

 

 

 

 

 

 

 ああ――こんな苦しい思いをするくらいなら。

 転生なんてされたくなかったよ。

 

 

 どうして俺を殺してくれなかったんだ。

 教えてくれよ、神様――――――

 

 

 

 

 




ありそうでなかった設定。精霊に転生もの。

なんでないんだろうなあ。チート能力振るえるのに。とか疑問に思ったが、自分で書いてその理由が分かった。



   倫 理 観 の 問 題 に ぶ ち 当 た る 。



つまり私の大好物です! やったぜ!!(悪笑)

どんどん筆が進んで、気づけば一話が完成して勢いで投稿しました。

まあ私の趣味にどストライクなわけだけど、オリ主か士道くんがホモに走る展開も見たくないわけじゃない。

しかし私はギャグが書けないので、そっちは他の作者に期待しましょう。(誰か書いて)


感想くれると嬉しいです。これからもよろしくお願いします。

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