戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです。

今更ですがドライブの映画「サプライズ・フューチャー」の情報が、かなり公開されましたね。進之助はいったい何度犯人扱いされれば良いのか……。

それと、劇場版フォームの「超デッドヒートドライブ」がぐうカッコイイですね。あの無骨な感じと言うか、無理矢理にでも作っちゃった感が個人的に痺れます。

これは……8月8日が待ち遠しいです!

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


更識姉妹の怒り(爆発)ですが何か?

「おらぁ!」

 

ゴッ!

 

「…………!!」

 

 オータムのミドルキックが、真の脇腹へと深くえぐり込む。サンドバック状態となってからしばらく経つが、もはや真は叫び声すら上げはしない。

 

 血みどろで、ボロボロで……意識もほとんど保ててはいない。だがそれでも、真が膝をつく事は全くなかった。今の真を支えているのは、簪に対する愛……それだけだ。

 

 常人ならば、とうに気絶するか死んでいるかだ。いや……真も、十分に常人である。だがそれでも倒れないとなると、愛の偉大さという物が窺える。

 

 心底から、オータムは焦っていた。自分は真を殺す気で殴っている……なのに、全くダウンすらしない。こんな……半分死に体な状態なのに。

 

「クソがぁ……ふざけんな!なんで……倒れねぇ!?」

 

 最初こそは、嬉々として真を嬲っていたオータムだったが……まさに不屈な真に対して声を荒げた。人と言う生き物は、頑丈であるかと思えば案外脆い……そんな物だ。

 

 それこそ殴られて当たり所が悪ければ、簡単に死んでしまう時だってあるのだ。なのに……真は、死なないどころか倒れすらしない。

 

「死にぞこないがぁ!とっととあの世に逝っちまいな!!!!」

 

メキッ!!!!

 

「…………!!!!」

 

 苛立ちをそのまま真へとぶつけるような、そんなパンチだった。オータムは、長い助走を付けつつ全体重を乗せた拳を真の顔面へと見舞う。

 

 真の身体は、弓なりに後ろへとのけぞる。ぐらぁ……とゆっくり、ゆっくりとだ。これはこのまま後ろへと倒れる!そうやって、オータムがほくそ笑んだ途端の事だ。

 

 まるでストレッチかのように真ののけぞりは、ピタリ!と止まる。そこからまたゆっくり、ゆっくり……ググググと、体を起こしていく。

 

「…………」

 

「なんでだ……!?」

 

 そうして真は、また元の体勢に戻った。無事で済むはずが無い……今ので倒れないはずが無い!オータムの焦りは、パニックへと変わった。

 

 それをよそに、真は宣言通りに立ち続けるのみ。まるでその様は、武蔵坊弁慶を思わせる。目は虚ろなはずなのに、真からは確かな気迫が放たれている。

 

「こんなはずじゃ……!」

 

 オータムの予定では、それなりに殴りさえすれば真はダウン。そしてそのまま子蜘蛛を起爆し、簪を殺害……真を絶望の淵に叩き込み、それから真も殺す算段だった。

 

 しかし……どうした事か。言われた通りにサンドバックにされ、言った通りに真は倒れない。オータムには、真が強大な『何か』へと見えて仕方が無かった。

 

 虚ろな様子でこちらを覗く目、オータムには睨んでいるように見える。半開きで息を漏らす口、オータムには歯をむき出しにしているように見えた。すさまじい程の真の気迫、オータムには……殺気に感じられた。

 

ザッ!

 

「…………!?」

 

 オータムは無意識のうちに、その足を一歩退けた。それは、オータムが真に呑まれた確かな証拠だ。怯えたのだ……こんな、瀕死の真に対して。

 

 それに気づいたオータムは、憎らしく歯を食いしばる。屈辱でしかないのだ……あろう事か恐怖を覚え、それどころか無意識に一歩退いたなどとは……。

 

「認めるか……私がぁ!こんなガキに、ビビッてたまるかああああ!」

 

 その叫びは、恐怖を振り払うためのものか。オータムは、再度アラクネを身に纏い装甲脚を真に向けて突いた。装甲脚は、確実に真の頭部を捉え……。

 

ガギン!

 

「何ッ!?」

 

 捉えはしたが、突き刺さる事は無かった。寸前の所で、ランスが飛んできてそれを防いだのだ。どちらにせよ、妨害された……もはや約束を守る義理も無い。

 

 そう思いつつ、子蜘蛛の起爆を……したつもりだった。しかし何の反応も無く、簪もいつの間にか消えている。そう思った瞬間の事だ。

 

「はああああ!」

 

 何者かかが、通路の奥から猛スピードで迫ってくる。そう……IS学園生徒会長の更識 楯無だ。楯無は、弾かれたランス……蒼流旋を引っ掴むと、まるでバットのように用いてアラクネを吹っ飛ばす。

 

 そのままズタボロの真を引っ掴むと、急いで後ろへ退く。すると隠れていたのか、田所隊の人間がワラワラと出てきて真を保護した。

 

「なっ!?まさかテメェら……」

 

「ホント、ZECTの科学力ってすごいわよね」

 

「光栄です。まぁ、我々はラボラトリの力を借りているだけですが」

 

 田所隊の人間はボラトリの開発した機械により、子蜘蛛爆弾とエネルギーネットを処理したのだ。これにより簪は無事解放されたと言う事。

 

 一方の真は、衛生兵らしき人物が世話をしている。怪我は大きいが……呼吸と脈拍に異常はない。このまま適切な処置を行えば、まず命は問題ないであろう。

 

「真……!?」

 

「ん……?あ~……何ここ、天国か……?」

 

「!? 真くん!」

 

「おお……姉ちゃんか、そういや……ピンチになったらアンタの出番だっけ」

 

 簪が駆け寄ると、真はすぐさま目を覚ました。縁起でもない事を言うが、とにかく簪が無事で安心したらしい。すると真は、楯無が居る事に気が付いた。

 

 そうすると、思い出したようにつぶやく。そして思った……自分が耐え忍んだのは、決して無駄では無かったのだと。ついでに、自分の無力さも……。

 

「……すまねぇ、姉ちゃん。約束……早速守れてねぇや……」

 

「そんな事無い……!真は……私を守ってくれた……!」

 

「そうよ、この場合は誇りなさい。貴方は最高の弟よ」

 

 申し訳なさそうな真に対して、簪は涙を浮かべながら、楯無は笑顔で真にそう言った。それでも真は、小さく『済まない』と呟く。

 

「クソがぁ……台無しにしてくれやがって!覚悟は出来てんだろうな!」

 

「あらら?それはこっちのセ・リ・フ♪だって私も簪ちゃんも……本気で怒ってるから」

 

「貴女だけは……許さない……!」

 

 吹き飛ばされたオータムが、アラクネの脚部を鳴らしながら戻ってきた。怒気を孕んだその言葉にも、二人は全く怯む事は無い。

 

 それまで笑顔だった楯無の表情も、今は氷のように冷たい。簪も弐式を纏いながら、まるで似合わない目つきでオータムを睨んだ。

 

 こうして戦いの火ぶたが、再び切って落とされる。その最中に安全圏へと引いた真が、周りの田所隊の人間に対して息も絶え絶えながら口を開いた。

 

「あの……頼みが、あるんですけど……」

**********

 真との一連のやり取りをこなしてから、何かがおかしい。調子は良かった……だが、今はどうだ?楯無はともかく、簪の動きにもオータムはイマイチついて行けない。

 

 8本の装甲脚を動かしつつ、自身も行動を行うのは至難の業だ。それこそブルー・ティアーズのBTと原理は似ているかもしれない。しかしそれが、オータムの精神状態を顕著に表していた。

 

「やあっ……!」

 

「くっ!」

 

ガギン!ガギン!ガギン!

 

 簪はアラクネへと肉薄し、夢現を何度も振るう。やはりオータムは、手数の有利を生かせていない。全てのヒットは装甲脚へだが、圧倒されているのがよく解かる。

 

「後方不注意は、危ないわよ?」

 

「チィッ!」

 

ババババ!

 

 オータムは後方に迫る楯無に対して、4本の装甲脚を向ける。そのまま装甲脚固定砲を乱射するが、ミステリアス・レディの水操作の能力により、厚い水の壁が張られた。

 

 弾丸の威力はそれにより弱まり、もはや威力の欠片も無い。そしてさらに言えば、上手く扱えていない装甲脚を半分楯無に回すと……。

 

「隙だらけ……!」

 

ズン!

 

「ぐおっ!」

 

「余所見はダメって言ったじゃない」

 

ガガガガガガガガ!

 

 前方からは、夢現の重い斬撃。後方からは、蒼流旋による連続突きを喰らう。これにはたまらずオータムは、防御の姿勢を取った。

 

 遅い来る攻撃に、オータムは苛立ちを募らせた。当初は割と調子が良かっただけに、その反動も大きいらしい。オータムは、ほぼヤケクソに近い行動に出た。

 

「テメェら……鬱陶しいんだよ!!」

 

「お姉ちゃん……!」

 

「ええ、大丈夫よ!問題ないわ」

 

 オータムは周囲に向かって、やたらめったら巣状のエネルギーネットを飛ばす。しかし、案外有効な戦術なのかもしれない。

 

 そこらあたりに張られた巣に、不注意で接触してしまえばそれは大きな隙だ。とりあえずは、二人とも乱発した分だけはしっかり回避した。

 

「……ハッ、どうだ!これで簡単には近づけまい!」

 

「ふ~ん?じゃ、近づかなければ良いわ。簪ちゃん『お願い』ね」

 

「…………。うん……任せて……」

 

 妙にお願いねを強調して言う楯無に、簪は何やら考えがあると察した。いや、その実それどころでは無い。簪は楯無の考えを、その表情や様子からのみで全て読み取る。

 

 そうすると簪は、スフィア・キーボードを呼び出す。オータムは知っていた……それが、山嵐の制御用だと言う事を。思わずオータムは、バイザーの下でほくそ笑んだ。

 

「忘れたかよお嬢ちゃん!そいつぁ効かねぇぜ!」

 

「やってみないと……解からない……!」

 

 基本的に声の小さい簪だが、この言葉の後にさらに小さく『真ならそう言う』と呟きスフィア・キーボードへと入力を開始する。

 

 すさまじい数のロックオン警報が鳴り、流石のオータムも冷や汗をかくが、対処の仕方は既に心得ている。自分に問題ないと言い聞かせ、山嵐を待ち受けた。

 

「行って……!」

 

ドシュウ!

 

「四方からの同時攻撃か……!」

 

 山嵐から放たれたミサイルは、複雑な軌道を描き飛んでいく。そして、十字路の左右と前後ろからオータムへと迫っていった。

 

 しかし、オータムは慌てない。通路の四方へエネルギーネットの巣を張ると、これで完全防備だと満足気だ。だがオータムの言う通り、粘着性と伸縮性のあるネットでは、巣のバリアを突破できない。

 

ドゴォン!

 

(へっ、今の内……)

 

 巣へと溜まっていくミサイルは、対に行き場を失い同士討ちを始めた。この爆音と煙を利用し、オータムは十字路からの離脱を図る。

 

 四方は自身が逃げ場をふさいでしまったために、出れるとすれば頭上だ。オータムは静かにふわりと浮いて、だんだんと上昇していった。

 

「ふふ~ん……まさに、飛んで火に居る夏の虫よね♪」

 

「蜘蛛……虫じゃないけどね……」

 

「あら、そうだったかしら?まぁどっちでもいいじゃない!」

 

ギャリイイイイ!!!!

 

「何!?ぐおおおお!!!!」

 

 逃げようと思ったら、凄まじい勢いで更識姉妹が降って来た。そのまま蒼流旋と夢現を腹部に当てられつつ、エネルギーネットへと押し込まれる。

 

 これは所謂、誘い込みだった。四方から襲えば、四方を塞ぐ。さすれば残ったのは、上のみだ。そうすれば比較的に単純であるオータムは、確実にそこを選ぶと楯無は踏んだ。

 

「簪ちゃん、このまま押し切るわよ!」

 

「うん……!」

 

「ふざけんな……何でテメェは、そんなに元気なんだ!更識 簪ぃ!?」

 

「……愛してるから!心の底から……真の事を……!」

 

 オータムの言葉には、真のあんな姿を見てなぜそこまで戦えるのかと言う意味が込められていた。それに対しての簪の気持ちはただ一つ……真の事を、愛しているからだ。

 

 理屈で無い……単純な言葉では片付けられない。だからこそ、真も簪の為に立ち続けた……。そう、コレは……真実の愛がもたらしたこその状況だ。

 

「…………ッ!!」

 

 これには、オータムもだんまりを決め込むしかなかった。自身のエネルギーネットに押し付けられ、残ったミサイルが背中で爆発を起こしても……ただ真と簪の愛の深さに言葉を失うばかり。

 

 そしてやがてミサイルの爆発と、二人の近接武装に押し付けられたことにより……エネルギーネットは、限界を迎えた。ブチブチと千切れ、オータムはそのまま通路の奥へと進んで行く。

 

「簪ちゃん、合わせて!」

 

「うん……!」

 

バキィ!

 

「ぐはっ!?」

 

 二人は、それぞれの近接武装をオータムの腹部から離し蹴りを入れる。その勢いで、オータムはなかり後方まで吹き飛ばされた。

 

 オータムは思う。馬鹿だ!コイツら……みすみす私を見逃したようなモンだぜ……と。だが同時に、オータムは楯無のニコニコとした表情に違和感を覚える。

 

(あの女……私にトドメも刺せてねぇのにあんな……)

 

「私、言ったわよね。後方不注意は危ないわよ……って」

 

「お姉ちゃん風に言わせると……。う・し・ろ……」

 

 不思議だと感じていると、半分の答えを二人が喋ってくれた。簪なんか、かなり無理して楯無のマネをし結構恥ずかしそうだ。

 

 オータムが何事かと背後をハイパーセンサーで確認すると、そこに立っていたのは……紛れもない。自身がタコ殴りしたはずの……加賀美 真その人だった。

 

「馬鹿な!?」

 

 既に真は、ガタックハイパーフォームへと移行している。真が田所班の人間にお願いした事とは、ガタックゼクターを拾ってもらう事と、自身をオータムの背後へと連れて行ってもらう事だった。

 

 それと同時に、ゼクターを回収した真は楯無に通信で『お願い』していたのだ。オータムを、自分の元まで運んで欲しいと……。そうして、それは叶った。

 

 全ては、自身の愛する簪に危害を加えた……その報復の為。真はハイパーゼクターの顎を倒し、そして押し戻す。その後、マキシマムスイッチを3回叩いた。

 

『―MAXIMUM RIDER POWER―』

 

『―ONE TWO THREE―』

 

「アンタの敗因は……ただ一つだ……。アンタは……俺の……俺の愛する女を傷つけた!」

 

「ち……くしょうがああああああああ!!!!」

 

「ハイパー……キィィィィッッッックッ!!!!!!!!」

 

『―RIDER KICK―』

 

 真は今にも消え入りそうな意識の最中、ガタックゼクターの顎を開いた。それと同時に、凄まじいイオンエネルギーは右足へと充填される。

 

 オータムは、吹き飛ばされた衝撃をPICで相殺する事も出来ない。エネルギーネットも、既に間に合うはずも無い。真は父から受け継いだボレーキックを、オータムに目がけて放った。

 

「うぉらあっ!!!!」

 

ドゴォォオオオオ!!!!

 

「ぐああああああああ!!!!」

 

 無理を推してハイパーキックを放ったせいか、空中に跳びあがった時点で体制は大きく崩れてしまう。が、これまでにないほどの威力のキックだった。

 

 そのたった一撃で、アラクネのバイザーは砕け散る。そのまま吹き飛ばされたオータムは、床を何度もバウンドしながら、遥か遠くの壁へと激突してようやく止まった。

 

 そうするとオータムは、ガクリ……と言った様子で気絶した。アラクネが解除されたオータムを眺めて、真もようやくして安心したようにその両膝を地へと着けた。

 

「は……ぁ……っ……!」

 

「真!」

 

「っ!?加賀美 真の保護を優先!亡国の女は二の次だ!」

 

 膝から崩れ落ちた真を見て、簪がすぐさま近づいて行く。ガタックが解除されるのと同時ほどに、田所隊の人間が真を支えた。

 

 それもそのはず、真の願いを当初衛生兵は拒否したのだ。自身が死に体なのに、つまらない事に拘る気か……と。この一言に、真は激怒したのだ。

 

 『つまらない事』……他人から見たら、きっとそうなのであろう。しかし……真にとっては、大事だったのだ。しかしそれでも、真がとうに限界を迎えていた事など明白……。田所隊は、慌てて搬送の準備を進めた。

 

「担架を急げ!呼吸と脈拍の把握を随時報告せよ!」

 

「簪ちゃん、弟くんに着いていてあげて。今の彼には、簪ちゃんが必要よ」

 

「うん……!でも……お姉ちゃんは……?」

 

「私?私は……ちょっと気になる事があるのよね。大丈夫……心配いらないわ。だって私は、学園最強だもん☆」

 

 楯無が隠し事をしている事など、簪には丸わかりだった。それでもおちゃらける楯無に対し、簪は自分が踏み込むべき事情ではないと悟る。

 

 姉の心配をしつつも、力強く頷いた。そして弐式を解除すると、担架で運ばれる真へと着いて行く。手をグッパグッパしながらそれを見送ると、楯無は大声で叫んだ。

 

「居るんでしょう?隠れてないでお話ししましょうよ!」

 

「……流石だな、17代目。いつから気付いていた?」

 

 オータムが倒れている付近に現れたのは、なんとソルだった。ワームが鎮座している棚の影から、お気に入りであろうコートをバサリと翻しながら現れる。

 

 ここはハワイ近海だと言うのに、さらに暑苦しい事だ。ストールもしっかり忘れない所を見れば、ソルはよほど自身の顔を見せない事が落ち着くらしい。

 

「貴方って、居るだけですっごいイライラするのよね。弟くんと同じ声と見た目なんて……」

 

「酷い言い様だな。仕方が無い部分はあると自覚しているが」

 

「それと、音声阻害機能があるなら使ってくれない?更にイライラするわ」

 

『承知した。これで満足か?』

 

 楯無は、ソルが信頼する真と同じ姿形をしている事を心底から嫌悪していた。それだけに、顔が見えなくとも声が同じと言うだけで相当に苛立ちを覚える。

 

 ソルは案外素直な物で、すぐさまストールの音声阻害機能をオンにした。妙に物わかりのいいソルに対して、楯無は逆に不安を過らせる。

 

「その人、助けなくても良かったの?」

 

『この女か?どういう形であれ、倒されるのは想定済みだ。故に、無駄な労力を使う事はしない』

 

「……貴方が介入すれば、私達は負けてたと思うのだけれど」

 

『加賀美 真が瀕死の時点で、その可能性は高いだろう。だが……我々はここを守りたいわけでは無い』

 

 楯無の質問に対して、ソルは非常に意味深な言葉で返した。流石にこの言葉だけで、ソルの……いや、亡国機業の思惑を、楯無は悟る事が出来なかった。

 

 もちろんソルだって、それだけで分からせるつもりはない。全ては、『真の目的』を悟らせないためだ。変に推測されるよりも前に、ソルは言葉を続けた。

 

『オレとしては、この女を回収できればそれで満足だ。上からの命令なのでな……』

 

「どうかしら……貴方は弟くんを殺したかったみたいだけど?」

 

『……こんな形での決着は、望んでいない。全力全開の奴を殺さなければ意味は無い……。貴様らの目的は、この工場の破壊。俺の目的は、この女の回収……さすれば、お互いにこれ以上の損害はこうむるハズ』

 

 ソルの既に目的は果たした……という言葉が本当ならば、その目的自体は工場を犠牲にしてまで必要な事だったのだろう。そう考えるならば、これ以上の交戦は既に意味を成さない。

 

 楯無はそれを理解しつつも、首を縦に振れないでいた。ソルの言葉に、嘘が無いとは限らない。と言うよりソルは、敵な上に信頼できる要素が何一つない。

 

「……良いわ、好きしなさい」

 

『心より感謝するぞ、17代目。それと、奴に一つ伝えて貰えれば……さらに助かる』

 

「…………伝えておきましょう」

 

『次だ……次で確実に、貴様と1対1での場を用意する。そこでオレは、全てを貴様にぶつけよう。だから貴様も……同じく覚悟を決めておけ。以上だ』

 

バチバチバチバチ!

 

 ソルがオータムを肩に担いでそう言い切ると、ジョウント現れた。再びコートを翻すと、ソルとオータムは光の中へと消えていく。そしてジョウントが消えたのと同時に、楯無は大きく息を吐き出した。

 

「ぷはっ……!緊張したわ……」

 

 目的を遂行するために、他者の殺害を厭わない……。そんなソルと相対して、楯無もそれなりに気を張っていたようだ。楯無はISを解除しつつ、その場にヘタリと座り込む。

 

 脂汗が滲み出ると同時に、亡国の真の目的を考察していた。だが、特に何も浮かんでこない。とりあえずは、義弟が心配だ……その事は、後で陸とでも相談しよう。

 

 楯無は吹っ切れたように、勢いよく立ち上がった。魅力的なヒップに付いた埃を妙に扇情的にパンパンと取り払うと、急いで田所隊の背を追いかける。

 

 

 

 




ちゃっかり良いとこだけ持って行く主人公の鑑。

さて、VSオータム戦が終了した所で……八章ももうすぐ終わりです。オリジナル展開になって、章が極端に短くなるんじゃないかと心配でしたが……。

八章は、とりあえず後もう2話だけ予定してます。残った九章が最終章か、もしくは十章を最終章とし……この小説も終了って感じですね……。

とりあえず次回は、亡国の『真の目的』を明かすのと、その後の真の様子をお送りしたいと思います。

それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。

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