戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです。

久々の真の出番!……と言いつつも……ねぇ?簪ルートだった場合に、やって見たかったシチュエーションをした結果……大変な事になってもうた……。

いや、でも無意味ではないのです。カッシスワーム達と同じく、とある理由があるってのも間違いでは無く……。

まぁ……ウチの基本方針は主人公に厳しく、ですからねぇ。久しぶりにそれが発動しちゃいました。

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


ただ君の為に(粉骨砕身)ですが何か?

「ハハハハ!そら、どうしたどうした!」

 

(相変わらずうっせぇな、この女!)

 

ガン!ギャリィ!ガン!ギャリィ!

 

 交戦開始と同時に、オータムはアラクネで突進を仕掛けてきた。キャストオフする間もなく、こうして腕や足を用いた防御と、回避しか出来ないでいる。

 

 それでいて、この姿を変えたアラクネ……非常に厄介だ!以前の形状だと近接攻撃に用いられる装甲脚は、前方の脚に集中していた。

 

 しかし今は装甲脚が背中から生えている形状になっているため、8本同時に襲って来る。いや……正確に言えば、オータム自身も両手でカタールを振るっているため……同時に10!

 

 だが、俺の回避能力を用いれば……!と、言いつつも先ほどから何度もあちこちに掠らせてしまっている。やはりこの数は、無理があるらしい。しかし、何も俺は……一人という訳では無い。

 

「そこ……!」

 

「おおっと、危ねぇ!」

 

ドン!バチイ!

 

 オータムの背後に回った簪が、春雷を放つ。しかしオータムは、装甲脚を一つに纏める事で盾とし春雷を防ぐ。全く、危なげなく感じられるほどに……。

 

 なるほど、腹立つな……。日頃から、俺がよくやってる煽り方とよく似ている。って、んな事を言っている場合では無い。背後に数瞬でも気を取られたオータムに、バルカンのチャージショットを撃った。

 

「喰らいやがれ!」

 

「へへっ、残念!」

 

ドゴォ!

 

 何ッ!?チャージショットでもビクともしやがらねぇ……。あの装甲脚、見た目に反した強度らしいな。が、オータムは後ろへ飛びのきながら盾で防いだ。

 

 それは、衝撃を殺す目的なのだろうが……そっちに誰かいるのを忘れちゃいないかい?簪は、既に夢現を手に追撃を開始している。

 

「ふっ……!」

 

「抜け目のねぇお嬢ちゃんだ。……だが!」

 

シュルッ!

 

「えっ……!?」

 

 オータムは握っていたカタールをパススロットにしまうと、掌から蜘蛛の糸の様な物を射出した。糸が天井へと付着すると、オータムはそれを縮める事で一気に宙へと飛び出る。

 

 そのせいで、簪の攻撃は思い切りの良い空振りとなった。更にオータムは、すぐさま天井との接続を断ち頭上からの急襲を仕掛ける。

 

「チッ!簪……掴まれ!」

 

「真……。うん……!」

 

 それを見た俺は、すぐさまシザーアンカーを展開させる。そのまま打鉄弐式目がけてアンカーを射出すれば、簪はそれを掴んだ。

 

 ワイヤーを巻き取り始めたのと、同時ほどだろう。アラクネは、けたたましい音と共に着地した。見れば足場には、装甲脚が見事に突き刺さっている。

 

「ケッ!確か……ソイツに良いようにやられたんだっけか?」

 

「その通り……アンタに取っちゃ、苦い思い出だろうよ」

 

 シザーアンカーを見たオータムは、忌々しそうに言う。そう……あの時は、シザーアンカーが大活躍したらばこその勝利だ。

 

 俺はシザーパーツを閉じたり開いたりして見せつけるが、やはりオータムは面白くなさそうだ。しかし……あの言い方からすれば、警戒されているだろうな。

 

(真……)

 

(どうした?)

 

(とりあえず今回は……遠距離……)

 

(……そうだな、それが良い)

 

 簪の言う通り、あの手数に無理矢理に攻め入るのは得策とは言えない。遠距離重視の姿勢で、どうにか隙を見出すのが良いだろう。

 

 俺は、片方の肩部武装をキャノンに変更。あの装甲脚の感じからすると、ガトリングじゃあちっと瞬間的火力不足となってしまう。

 

「よしっ、行くぜ……簪!」

 

「了解……」

 

「はぁ~ん?近づかねぇつもりか」

 

 俺と簪は、ワームが積まれている棚と棚の間にある狭い通路を全力で飛んだ。そしてそのまま、オータムの真横まで着け挟み撃ちの形となった。

 

 しかし、オータムは気味が悪い程に余裕綽々だ。……でも、弱気になったって何も始まらない。俺はキャノンを、簪は山嵐のミサイルを、それぞれオータム目がけて撃った。

 

「これで……!」

 

「どうだよ!」

 

「悪かねぇ……。……が、相手は悪かったがな!」

 

シュホン!

 

 オータムは、ミサイルのほうにエネルギーネットを飛ばす。すると先端が、まるで蜘蛛の巣のように広がりながら前へ進む。そこからミサイルを包み込んでいき……手中へと捕えた。

 

 しかし、まだ終わってはいなかった。オータムはエネルギーネットをブンブンと振り回すと、キャノンのプラズマ火球目がけて振り下ろす。

 

「そらよ!」

 

ズガアアアアン!

 

「そんな……!」

 

 すさまじい爆音と、煙を上げながらキャノンとミサイルは……相殺されてしまった。しかも状況が悪いのが、煙幕となってしまっている事だろう。

 

 もちろんハイパーセンサーで位置は確認できるが、次にどう来るかが予測できない。俺は急いで青子にオペレートを命令する。青子は、慌てながらも的確な指示をくれた。

 

『前方に二本のエネルギーネット……これは、スリングショットの原理でしょうね』

 

『つまりは……』

 

『ええ、突っ込んできます。備えてください』

 

「おおらあっ!」

 

 エネルギーネットの引張力を利用した突進は、凄まじいスピードであった。煙を突き破って現れたオータムは、既に目と鼻の先である。しかも装甲脚を突き刺してやろうと、後ろへ引いて力をためる真っ最中。

 

 一か八かのつもりで、その場でブリッジ!すると幸運な事に、装甲脚を躱す事に成功した。俺はそのままバク転の要領で装甲脚を蹴り飛ばす。体勢が元に戻ったと同時に、バルカンとキャノンを同時に放った。

 

「おらぁ!」

 

ドゴォン!

 

「ぐおあっ!チィ……!ハハッ、やるなぁ!」

 

(……?おかしいぞ、この女)

 

 バルカン&キャノンを喰らって、相当なダメージが入ったはずだ。それなのに、こんな楽しそうにしてやがる。前回からの印象と、まるで違う。

 

 まず自分の思惑が外れた時点で……『小癪な!』とか、そんな事を言いながら癇癪を起しそうなものだが。煽り耐性の低さに関しちゃ、俺の知る中では断トツのワースト1だったってのに……。

 

「だが……反撃はそのへんにしてもらうぜ」

 

「はぁ?意味分かんねぇ事を言うなよ。まだまだこっから……」

 

「そうかい?テメェがそう言うんなら、私は別にどっちでも構わねぇけどな」

 

 そう言うと、オータムは自身の後方をクイッと親指で指した。……その方向に、何かあるってのか?ここからだと、暗くてよく見えねぇ距離だな。

 

 罠を警戒しつつも、ハイパーセンサーでオータムの背後をアップにして見る。すると、そこに映し出されたのは……エネルギーネットに捕縛された簪だった。

 

「かん……ざし……?簪!?貴様……簪に何を!?今すぐ簪を離せ!」

 

「おいおい落ち着けよ、実害は加えちゃいねぇって……『まだ』……な」

 

「クソがぁ……!地獄の底までぶっ飛ばしてやらぁ!!!!」

 

「あ~?テメェ、その取り乱しよう……。……ああ、お前らもしかしてそう言う関係か?ハッ!こいつぁ好都合だぜ!」

 

 いきなり完全に冷静さを失った俺を見て、オータムは俺と簪の関係を察した。好都合だと……?一体、何のつもりだ……このクソアマがっ!!!!

 

 今すぐにでも飛びかかってやりてぇ……が、反撃はそのへんにってこたぁつまり……俺がオータムに何かすれば、簪が危うい可能性が捨てきれない。

 

「とりあえず、だ。こっちに顔貸せよ!」

 

シュホン!グイーッ……ズダァン!

 

「ぐはっ……!?」

 

 エネルギーネットを胴体に付着され、そのまま一本背負いの様な形で投げられる。すさまじい衝撃が、背中から全身に伝わった。

 

 ファーストコンタクト時の比じゃねぇ……!あの女、始めの奴はやっぱジャブだったか……。とは言え、これで簪は手を伸ばせば届く距離だ!

 

「簪っ!!!!」

 

「真……。ごめんなさい……私……!」

 

「謝るな!今助けて……」

 

「おーっと!触んねぇ方が良いぜ?愛しのお姫様を吹っ飛ばしたくなけりゃぁな」

 

 !? オータムの言葉に、俺は寸前で手を止めた。そしてよく見てみると、簪を捕縛している簀巻き状のエネルギーネットの上に、何やら子蜘蛛の様な物が大量に張っている。

 

「これは……!?」

 

『どうやら、爆発物の様です……。くっ!あの煙幕の際に、すぐ出て来なかったのはこういう理由で……!』

 

 爆発物……。そんなものが、簪に……!青子の言う通り、全ては俺に突っ込んでくる前に終わっていたのだ。こうすれば、俺と簪の関係がどうだろうと抵抗できなくなる。

 

 そうオータムは思ったらしいが、悔しいなぁオイ……大正解だぜ。むしろ、もっと酷い……。俺は本当に、何も出来なくなる。いや……まだだ!ガタックには、クロックアップが……。

 

「おっと、そこまでだ。ゼクターに手を掛けた瞬間に起爆するぜ」

 

「くっ……!」

 

 クソが!やっぱり無理を推してでもキャストオフしておくべきだった……!いや、コレは全て後悔であって、言い訳でしかない……。

 

 何も出来ない……!何も……何もする訳にはいかない……!俺は襲い来る絶望感の真っただ中……ガタックゼクターに添えた手を、無気力に手放した。

 

「ダメ……真!私の事は良いの……戦って……!」

 

「だってよ。どうする……お・う・じ・さ・ま?」

 

「……できない……俺には……!」

 

「クッ……ハハハハ!恋人同士で組んだのが間違いだったなぁ!」

 

 本当……それはオータムの言う通りだ。これが簪で無かったら、俺ももう少し策を練る気力も沸いた事だろうよ……。だが、無理だ……。もう既に、何も考えられない。

 

 本来なら、頭に来るであろうオータムの高笑いも……俺を呼ぶ、簪の悲痛な声も……。例えるならば、モノクロだ。色が付いていない……全て、おぼろげに感じられる……。

 

「何が望みだ……?」

 

「話が早いじゃねぇか。オラ、とっととISを解除しやがれ」

 

「お願い……真……!従わないで……!」

 

「……簪の安全が保障されるんだったら、喜んで従う」

 

 俺にとって、重要なのはそこでしかない。俺の命とか、そんなのどうなったって構わん。まぁ……ソルとの決着がつけられないのは、アイツにもなんとなく申し訳なく感じられるが……。

 

 あ、あと親父にも……簪にも……つか、俺に関わってくれた全ての人に対してだ。なんか死ぬことばっか考えてないかって?だってよ、ハッキリ見えるんだ……オータムの背後に、殺意って奴がよぉ……。

 

「あぁ?……ハッ、良いぜ。嬢ちゃんの命は助けてやらぁ」

 

「そうか……」

 

『マスター、正気ですか!?あの連中が、素直に約束を守るなど……』

 

『黙れ、青子。黙らないなら、俺とお前は今日までだ』

 

 こんな状態の俺でも、青子が俺の心配をしてるのは分かる。奴らが、約束を守らないのだって分かる。しかし……ほんの少しだって、簪が助かる道があるんだったら……俺は、それで良い。

 

 それっきり青子も大人しくなったので、そのままガタックゼクターをベルトから引き抜いた。いつもと違ってガタックゼクターは、飛び立たない。なるほど、変身できるタイミングがあるかも……と言う事か。

 

「これで満足か?」

 

「いいや、まだだ。ゼクターとベルトを、届かねえ辺りまで投げ捨てな」

 

「どぉぉぉぉおおるぁぁああああ!!!!」

 

「全力投球かよ……。いや、こっちとしちゃありがてぇが……」

 

 オータムに指示された通り、ガタックゼクターとベルトを体力測定時ばりに投げ捨てる。あまりの清々しさに、敵であるオータムでさえ困惑気味なようだ。

 

 さて、これで俺は完全に抵抗不可になった訳だが……。あぁ……殺されるんだろうなぁ……。俺が死んじまった後は、簪はどうなるのやら……。絶望したって、生きてさえいてくれればそれで満足だが。

 

「んで、俺を殺す準備は出来たかい?」

 

「っ……!?真……!」

 

「まぁ……最終的には、そうだろうよ……。だが、私はスコールにちょっと遊んで来いって言われてここに居る。クソガキの代わり……ってのが気に食わねぇが」

 

「ソルの代わり……」

 

「とにかくだ……。遊んで来いって命令……忠実に守らして貰おうかぁ?」

 

 そう言いながらオータムは、ⅠSを解除しつつ俺に歩み寄ってくる。? 全っ然……意味が解らん。とりあえず、本気でソルの事が気に食わんって事だけは伝わった。

 

 するとオータムは、凶悪な笑みを見せながらその拳で俺を殴り飛ばす。痛い……普通に!女の拳とは思えん威力……って、参考にならんか……織斑先生のは、もっと痛い。

 

「……何のつもりだ?」

 

「……チッ!生身のテメェは……見れば見るほどあのクソガキだ!その舐めた目つきと物言い……気に入らねぇ」

 

「おいおい……何かと思えば、八つ当たりか?」

 

「そうだね、八つ当たりだ!本当はサックリ殺してやりてぇが、ただじゃ死なせねぇぞ……クソガキィ!」

 

 開き直りも良い所だった。オータムは、完全に俺をソルに見立てているらしい。矢継ぎ早に、殴る蹴るの暴行が加えられていく。

 

 俺の頬は内出血を起こし、口内は切れ、鼻血が流れる。聞こえるのはオータムのヒステリックな声と、俺が殴られる音……そして、簪の嗚咽だ。

 

「ハッ……ハハハハ!最高だぜ加賀美 真ぉ!テメェのやられっぷり……ゾクゾクするぜ!」

 

「そりゃ……どうも……。カーッ……ペッ!」

 

「なっ、このガキ……!自分が置かれてる状況を……分かってんのかぁ!?」

 

バキィ!

 

「ぐっ……!おぉ……ぁ……!」

 

 オータムに向かって、血交じりのタンを吐き飛ばしてやった。そうすると、先ほどまで機嫌がよさそうなのは何処へやら……。

 

 眉間に皺を寄せてこれまたヒステリックな声を上げながら、俺の顔面へ数歩分ステップを踏み込みつつ右腕を振りぬいた。あ~……痛てぇ……歯ぁ折れるんじゃねぇの?

 

「フーッ……フーッ……。……そうだ、良ぃ~事を思いついたぜ。加賀美 真……私と、ゲームをしようじゃねぇか」

 

「あん……?内容にもよりますけどねぇ……」

 

「何、ただ殴るだけじゃ……それこそ面白くねぇ。ここは一つ、お姫様の命を賭けた方がテメェも燃えるだろ」

 

「場合によっちゃぁだが……乗った!」

 

 ニヒルな笑みでそう答える俺に対して、オータムは再び機嫌がよさそうになった。うん……きっと、敵でさえなければ、仲良くなれた自信がある。

 

 だがこう……この女は、取り返しのつかない所まで歪んでる。ちょっち情緒不安定気味なとことか、その表れだろう。この女に何があってそうさせただとかは、興味も無い。今はただ……ゲームとやらに興じよう。

 

「テメェは今から、私のサンドバックだ」

 

「ほう……それで?」

 

「口答え無し、反撃無し、防御無し、回避無し、ダウン無し!ただ私が飽きるまで殴られ続けやがれ!」

 

「どれか一つでも破ったら……ドガン!……ってか?」

 

「物わかりの良い奴は好きだぜ!ま、どのみちテメェは死んでもらうがな……ヒャハハハハ!」

 

 つまりは、何をされようが……立ってりゃ良い訳だ。オーケー、分かり易くて良いじゃねぇの。俺のタフさ、舐めてもらっては困る。

 

 ……と、言うよりは……立ち続けるしかねぇだろうが、そんなモン。俺が立ってりゃ……簪が助かる可能性も見いだせる。ここは、言う通りにするしかない。

 

「分かった……それで良い。ただし、再度言うぞ……簪の安全を保障しろ。俺が求めるのは、それだけだ」

 

「ヘッ……私が飽きるまで耐えて見せたら考えてやらぁ」

 

「十分だ。だが、守らなかったその時は……死んでも貴様をぶっ殺す!」

 

「いい度胸だ。とりあえずそのセリフは……私が飽きるまで取っときな!」

 

ゴッ!

 

「ぐふぅっ……!!??」

 

 この……女ぁ!初っ端から鳩尾なんざ分かり易い急所を狙いやがって!俺の腹部付近の奥底へ、鈍い痛みが走る。それだけで無い……呼吸が……乱れて……!

 

 苦しい……今すぐにでも膝をついてしまいたい!だが……そうは問屋が卸さないんだ!簪の為に……ただ簪の為だけに立ち続けなくてはならない!そう……ポジティブに行け、コレは言わば……俺に課せられた愛の試練であると!

 

「嫌……もう止めて……!真……!」

 

「だってよ……どうする?」

 

「言わ……無くたって……グフッ!分かってんだろうが!続けろ……俺は、立つ!」

 

「その威勢が、どこまで続くか見ものだぜ!」

 

 オータムの叫び声とともに、俺はきつく歯を食いしばった。それは……俺にとっての覚悟の現れである。次々と繰り出される一方的な暴力……それを、ただ耐え続けなくてはならないのだから。

 

 耐え続けた所で、俺に待っているのは死でしかないが……。はぁ……やっぱあん時に、簪の全部を貰っとくべきだったか……。もし俺が生き残れたら、精一杯……簪を愛する事にしよう……。

**********

「回線はまだ繋がらんのか!」

 

「申し訳ありません……!このレベルのプロテクトに対処できるのは、岬主任しか……」

 

 作戦本部では、途絶えた通信の復旧作業が急ぎ行われていた。しかし……この様子を見るに、結果はあまりよろしくない。決してラボラトリの面子がだらしないのではなく、亡国の防御プロテクトが難解すぎるのだ。

 

 この中でただ一人対処できる岬は、汗をダラダラ流しながらブツブツと何かを呟き同時に複数のキーボードを叩く。この光景を見たラボラトリの一員が、悔しそうに壁を殴りつけた。

 

「ええい……!どうすれば……」

 

「落ち着け、三島。こういう時だからこそ、悠然と構えるのを忘れるな」

 

「会長……!何を呑気な事を仰られるのですか!状況把握が出来ないのが、どれだけ致命的か……」

 

「本音くん、虚くん。君たちならば、何とか出来ないかね?」

 

 どんよりとした空気感を切り裂いたのは、毅然とした態度の加賀美 陸であった。陸は焦る三島をよそに、布仏姉妹へと話を振る。

 

 ぽけ~っとしていた妹はハッとなり、隣の姉を見つめる。姉はクイッと眼鏡のつるを押し上げつつ、妹の余った袖を引っ張った。

 

「お姉ちゃ~ん!?」

 

「とりあえずやって見ましょう。3年生主席の力を見せる時よ、クラッキングは専門外だけど」

 

「私も専門外だけど~……主席でも無いし~。でも~……言ってる場合じゃないよね~!」

 

 本音の言う通り、四の五の言っている場合ではないのだ。とりあえずやって見る事……。そのチャレンジ精神は、この場において重要な要素である。

 

 グイッと袖から素手を出すと、たれ目ながらも引き締まった表情となる。そんな本音に負けまいと、虚も気合を入れ直す。そして、PCの画面を覗いた。

 

「無理ね、完全復旧は早々に諦めましょう」

 

「そだね~……映像だけ出せれば~オッケーかな~?」

 

 虚はPCを覗くなりにそう言ったため、周囲がかなりざわついた。だが……虚の言っている事は、至極まっとうなのである。

 

 今は一刻を争う事態……無理な物は無理と早々に諦め、無駄な物は切り捨ててしまった方が効率が良い。そうと決まれば、と言った感じで……虚はすさまじい勢いでキーボードを叩く。本音は……いつも通りだとだけ言っておこう。

 

「お姉ちゃ~ん。たっちゃんとだけなら通信いけそ~」

 

「そうね、本音は本音のペースでプロテクトの妨害を。切り崩すのは……私がやるわ」

 

「あ~い!ま~む!」

 

 ここに来て岬は、ようやく手助けが入っている事に気が付いた。しばらく呆然と二人を眺めた後に、ニヤッと笑いながらやるべきことに従事する。

 

 むしろ岬は、自分が主では無く虚のサポートへ移行した。虚の類まれなるセンスに感嘆としながら、着々と防御プロテクトを解除していく。

 

 もちろん、この作業に本音の技術も欠かせない物だ。落ち着きのある的確な妨害のおかげで、虚と岬の作業の進みもペースが上がって行くばかり。そして……。

 

「来た……!各ポイントの映像だけですが、出せます!」

 

「!? モニター!」

 

 三人の尽力のおかげか、各工場の監視カメラを奪還に成功した。岬は二人にバッチリとウィンクをして見せる。それに二人も同じく、ウィンクで返す。

 

 ……が、すぐさまそう言う状況でない雰囲気に戻った。なぜなら、各ポイントの映像のせいだろう。みな善戦しているのに対して、ただ一人……真が一方的に嬲られているのだから。

 

「これは……!?」

 

「……岬主任。楯無くんへは繋がるか?」

 

「あ……?はっ、はい!」

 

 ラボラトリ、田所隊、三島、虚、本音……全員が言葉を失いつつその光景を眺めている中……あくまで冷静に、陸が岬へ指示を出す。

 

 反応が遅れてしまったが、すぐさま回線を楯無の乗っている潜水艦へと繋ぐ。ノイズ混じりながらも問題なく会話が出来るレベルだ。

 

『何かしら、お爺様!』

 

「至急ポイント1へ移動を頼む」

 

『悪いけど、もう動いてるわよ!なんか……すっごく嫌な予感がするの!』

 

 この場合は楯無の単独行動だが、ファインプレーとしか言いようがない。すぐに向かわなければ、真が危うい。陸の決断は、決して身内だからと言う事ではないが。

 

『それで……ピンチなのは、私の妹?それとも弟?』

 

「楯無どの……それは」

 

「良い、三島。楯無くん、そちらに映像を送る」

 

「会長!?」

 

 楯無の真に対する弟扱いは、決して冗談でなかった。安心して、妹を預けられる義弟なのだ。それを知っているだけに、三島は言い淀んでしまう。

 

 だが、即断即決。躊躇いのひと欠片も見せずに、陸は岬に映像を送るよう指示する。岬は困惑しながらだったが、キーボードのエンターキーを叩いた。

 

『…………。そう……ありがと、お爺様。状況把握は完璧よ』

 

「礼には及ばん。それで、到着は後どのくらいだろうか」

 

『遅くて10分……速くて5分……って所ね』

 

「了解した。それでは、健闘を祈る」

 

 それだけ言うと、陸は回線を切ってしまった。周りの人間は、気付いている……陸が、一言たりとも『真』と発していない事に。

 

 あくまで、最もピンチであるから……陸が下した決断に、私情は一切入っていない。……が、確かにその手が震えているのを三島は見た。それは、恐れか、怒りか、はたまた……。

 

「三島。このくらいやってのけて見せろ、お前はいずれ……ZECTを背負う事にもなろう。今のままでは、この椅子を譲る訳にはいかん」

 

「…………。それは、感情を押し殺せと……そう仰りたいのですね?」

 

「うむ。それもまた……上に立つ者に必要な要素だろう」

 

「…………肝に、銘じておきます」

 

 三島が焦ってる間に、陸はせっせと事を片付けてしまった。陸が指示を出した途端に、現場の流れが変わったのだ。三島は思う……この人には、一生敵わない。この人は紛れも無く、王の器だ。

 

 だからこそ、絶対王者の元に就く事こそ……自身の生きがいでもある。しかし王が、自身に後釜を望むのなら……従者はただそれに従うのみ。三島は感服と了解の意味を込めて、頭を深々と下げて見せた……。

 

 

 




主人公が役立たずでも良いじゃない、そう言う小説なんだもの。

完全にサンドバックにされる二次創作主人公は、そう居ないでしょうなぁ……。ですが、こういった泥臭さこそあらゆる面で『ガタック』ですよね。

天道だったら、スマートに助けちゃうことでしょう。だけど真にはそれが出来ないから……せめて、情けなかろうと立ち続ける事を選択させました。

新の息子らしく、たまには男らしい一面も表現……出来てたら良いなぁと思ってます。さて、次回……真と簪の運命やいかに……。

それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。

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