久方ぶりに仕事が忙しいでござんす……。別に投稿に支障が出るほどでは無いんですけれども。基本仕事中も、片手間にネタの事考えてたりしますし。
考えてると言えば、オリジナル展開に入るタイミングをどうしましょう。私としては、もうしばらくグダグダやってたいんですけどね。
と、言うよりは……そうなると思います。なぜなら、オリジナル展開っつってもそこまで長い話にならないでしょうから。
言っちゃえば、オリジナル展開に入り次第に最終章って所でしょうか。ま……それまで私のペースでいかせていただきましょう。
それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。
「楯無先輩、言われた書類は終わったぞ」
「…………」
生徒会室にて、俺は自身の仕事をこなしていた。それもひと段落ついたので、会長席に座っている楯無先輩に書類を渡そうとしたのだが……。
見ての通り、完全に無視である。まるで俺が、始めからそこに居ないかのような態度だ。そっちがその気ならと、俺はしつこく呼びかけるが……それでも全く反応しない。俺は観念して、『ある呼び方』で楯無先輩を呼んだ。
「……姉貴」
「あら、弟くん。どうかしたの?」
……これだよ。俺と簪が、晴れて恋人同士の関係になった途端だ。楯無先輩は、姉と呼ばないと反応を示さなくなり、向こうは俺の事を『弟くん』と呼ぶ。
そんで、この今気づきましたみたいな顔が腹立つ……イラッと来る。俺は黙って、バン!とデスクに叩きつけるようにして、書類を置いた。
「仕事、早いわね。いつも助かってるわよ、弟くん」
「楯無先輩……それ、もう止めてくれよ」
「…………」
「ああ、クソッ!姉貴!これで満足か?!」
本当に……姉と呼ばなきゃ会話にならんってのは、どういう事だよ!俺が講義をしようと口を開こうとした瞬間、楯無先輩は扇を開いた。
『◎ お姉ちゃん』『〇 姉さん』『△ 姉貴』と……閉じたり開いたりするごとに、次々と文字が変わる。つまりは何だ?お姉ちゃんと呼べと言う事か?
「アホか、姉貴でも妥協してやってる方だっての」
「もう……。一回くらいはお姉ちゃんって呼んでくれても良いんじゃない?」
「最終的にはそうなるだろうが……。別にいいだろ、今は学生なんだから」
ガタッ!
よく分からない問答を繰り広げる俺と楯無先輩。そうしていると、生徒会室の入口の方から音がした。何かと思って見てみると、そこに居たのは簪だ。
なにやら顔を赤くして、俺を見ているような……それで、なぜこちらに寄って来ないのだろう?まぁいいや、簪の方から来ないなら、俺から出向けば良いだけの話だし。
「簪、どうかしたのか?」
「ほ……本当……?」
「? 何が?」
「最終的には……お姉ちゃんが……お姉ちゃん……」
簪はどうも言い辛そうにしているが、まぁ仕方の無い事だろう。付き合い始めても、その辺りは特に変わらないと言うか……。俺はどうも、簪に対してオープンになっている部分もある。
つまり簪が言いたいのは、楯無先輩が義姉と言う事は、自身は俺の妻。俺が簪を妻にしたいと思ってると言うのは、本当の事かと聞きたいらしい。何を当たり前のことを言っているのだろうか?
「当然だろ。ずっと一緒って、約束したばっかじゃねぇか」
「…………!」
「それとも何だ。今すぐちゃんとプロポーズした方が良いか?」
「あっ……それは……今度で良い……」
だよな、今言うには幾分か勿体ない。もうちっと先の未来で、俺がしっかり稼ぐようになったら、指輪を贈ると同時に言わせてもらう事にしよう。
あ~……しかしそうなると、打鉄弐式の待機形態が指輪なのが悔やまれる……。なんか、俺が一番で無い気がしてしまうと言うか……。ま、いいか……気持ちなんて伴って無いんだし。
「ゴホン!弟く~ん、簪ちゃ~ん。後にしてくれないかしら?お姉ちゃん胸焼けしそうなの」
「やだ」
「即答された!?」
アホか、お前……アレだぞ、一度空回りし始めた俺は、妙に止まらんぞ。と言うよりは、そんなん簪を目の前にして、愛でないなどという行為は万死に値する!
そんなわけで、簪をヒョイっと横抱きに抱える。そのまま元の席に座ると、簪は俺の膝の上に乗ったような状態になった。簪は露骨に照れているようだ……うむ!照れる簪もまた一興!むしろ、照れてる簪の可愛さったらない!
「あ……あの……真……」
「ん~?気にすんな、こっちの方がはかどるから」
「そうじゃなくて……。私も……お仕事……」
「良いよ、俺がやる。簪は本当そのまま……。むしろ、そうしてくれてないと仕事しねぇぞ」
「も、もう……。真の……馬鹿……」
むしろ褒め言葉です!簪の為ならば、何処までも馬鹿になろうではないか!なんだかんだで簪も、俺の首に腕を回してくれてるし。
って言うか、いつの間にか楯無先輩はいなくなってんな。よし、これで邪魔ものは消えたわけだ。ようやく簪に集中……違う、仕事に集中できる。
冗談で言ったつもりだったのだが、本当に仕事が捗るわ捗るわ……。何なのだろうか?愛の力か?とにかくして、今後は仕事をするときは簪を抱えてやることにしよう(真顔)
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「なぁ、真。答えたくなかったら、それで構わないんだけど……」
「どうした?」
「ISの声ってどんな感覚なんだ?」
授業の合間に、一夏が声をかけて来て質問を投げかけた。そりゃあ確かに、気になる所だろう。今更ながら、そう言われると俺も深く考えた事が無い気がする。
ISの声は……耳に届いているのでなく、心に響いてる……感じと言えば良いか?だから声ってのは、声帯から発せられているようなのとは違う。
例外として、青子の声はキチンとした声だ。俺の専用機だからか、暴走していないせいか良く割らんが。俺はまとめた考えを、一夏に伝えた。
「それってさ、第二フェーズって奴なんだよな」
「ああ、確か……ISとの対話だ」
「俺達の専用機とかもさ、声が聞けるのかって思ったんだ」
言われてみれば……そうだな、今まで暴走したISか、青子以外の声は全く聞いたことが無い。第二フェーズってのはつまり、ISの生み出している心象世界へ入り込むのがそれだろう。
一夏は確か、似たような体験をしたと言っていたな……。これは、どこまで出来るか検証してみた方が良いのかもしれない。もし他人のISの……ガタックで言う青子に遭遇できるとすれば、それは相当な事だ。
「一夏、お前もたまには良い事を言うな。少し検証してみる」
「へ?いや……興味本位のつもりだったんだが……」
「気にすんな、俺は……もう俺が普通じゃねぇのは受け入れてるさ」
「……止めろよ、そんな言い方……」
俺の言葉に、一夏は悲しそうな表情を見せる。おっと、いけね……失言だった。つっても……別に自虐のつもりとか、全然そういう事では無いんだがなぁ……。
まぁ……恐らく、心配させたのが尾を引いているのだろう。思い出したくもねぇよ……あんならしくねぇ俺……。もともとメンタル面は、決して強くは無かったが。
「悪い、そう言うつもりじゃねぇんだ」
「なら、良いんだ……」
「ま、俺の心配はほどほどにな……親友」
「……!?あっ、ああ!」
立ち上がりつつ、一夏の背中を叩きながら立ち去る。すると一夏は、とてつもなく意外そうな声を上げながら返事をした。俺が何の用事かって、そこは普通にトイレへ向かうだけである。
さて、問題は……俺の能力の検証方法だな……。今までやろうと思ってやっていたわけでは無いし、どうした物か。とりあえず……協力者を募る所から始めなければ。
**********
「悪いな、簪。協力して貰って」
「ううん……真の為なら……」
うん、もう最初から一択だった。簪に声をかけると、快く協力してくれたさ。ここはいつものZECT管轄区……そこには、打鉄弐式が鎮座している。
ここまでは良いのだが、本当にどうすれば意図して声が聞けるのだろう。青子との会話は、基本的に秘匿通信と変わりない感じだし……。テレパシーとか、そう言うつもりでやって見ればいいのだろうか?
「……何……やってるの……?」
「へ?いや、その……念じてみてる……」
打鉄弐式よ~……俺の声に応えるのだ~……ってな感じで、頭の中で念じてみるが、ウンともスンとも言わん。俺の様子を見守っていた簪の視線が痛い。
何をやっているのかと言う問いに答えると、少し可笑しそうにクスリと笑われた。可愛いから全然オッケー。違う……そんな事を言ってる場合じゃない。
「ガタックに……聞いてみるとか……」
「む、それは一理あるな。ガタックゼクター!」
俺が頭上に掌を広げると、ガタックゼクターが現れた。だが……なんか、少し様子がおかしいような……。嫌な予感がしつつも、俺はベルトにガタックゼクターを挿入する。
その途端、青子の声が脳内に響く。どうやら小声でブツブツ言っているようだが……だいたい何が言いたいかは分かる。俺は諭すような声で、青子に語りかけた。
『おい……青子』
『マスター……いい度胸ですね。堂々と浮気などとは……』
『やっぱりそう言う話か……。命令、黙っていう事を聞け』
『くっ!マスター……私のツボを心得ていらっしゃる!だけれど……高圧的なマスターもそれはそれで……』
これまでの経験からすると、どうやら青子は俺の命令に背く事は出来ないらしい。自分で言うのは何なのだが、俺に仕える事が喜びなようだし。
時間も惜しいので、てっとり早く『命令』だと告げる。すると青子は、なにか『はぁ……はぁ……』と興奮したような声を響かせた。……これは、一体どういう状況だ?
『はっ!?し、失礼しました……。何か、ご用でしょうか?』
『意図的にISの声を聞こうと思うんだが、どうすれば良いか意見を聞かせてくれ』
『そうですね……。確認させていただきますが、前例は全て暴走したISないし、マスターへの敵対を示すISでよろしいでしょうか?』
『そうだな、それで合ってると思うぞ』
ここで、少しおさらいをしておこうか……。まず初めは、暴走したシュバルツェア・レーゲンだ。故意に暴走させられた影響か、苦しいと助けを求めていたんだったな……。
次に、暴走した福音だ。福音の場合は、助けを求めると言うよりも……操縦者であるナターシャさんを守ろうと、叫び声をあげていた感じか。そして……福音との戦いで俺は完全に第二フェーズとなった。
三度目が、篠ノ之 束が寄越した無人機。アイツらは『コロス』と何度もつぶやいていた訳だが、今となっては俺を殺そうとしていたのだろう。
『それら全ては、マスターが聞こうとした……と言うよりは、聞こえてしまっていた……と言うのが正しいのでしょう』
『なるほど、行き場の無い声なき声……って事か』
『となると、やはりマスターが本気でISと対話しようとするしかないのでは?』
『だから、その方法がピンとこねぇ訳よ』
『そうですね……マスターが直接、ISに触れるとか、そういった事が大切かと』
そうなるのか……?俺が本気で、俺の能力を使おうと意識してみればいいわけだ。まぁ……とにかく、トライしてみるしかなさそうだ。これでダメなら、他の方法を考えるしかないな。
俺は青子に礼の一言を述べると、ガタックへの変身を解除する。ガタックゼクターがどこかへ飛んで行ったのを確認すると、簪が声をかけてきた。
「どう……だった……?」
「ああ、ISと本腰入れるつもりでやってみろ……だと」
「本当に……聞こえてるんだね……」
「ん……まぁ……な。悪い、やっぱ変だよな」
さっきは気にしないと言ったが、やっぱり簪と一夏では話が違うらしい。俺は本当に、つい簪から視線を逸らし謝ってしまっていた。
もちろん簪が、そんな事を想うはずも無い。それは……分かってる。だけどやっぱり、どうしてもなぁ……普通じゃないのは確かだし……。
「そんな事……ない……。変じゃないし……凄いと思う……。悲しい事を……言わないで……」
「……ありがとう、簪。ごめん、ちょっと……撫でても良いか?」
「う、うん……。どうぞ……」
やっぱり簪は、俺が変でない事を全力で否定した。それでいて、俺を咎めるような……そんな感じの事を言ってくれる。俺はたまらず、簪を撫でさせてもらう事に。
それはもう……某動物大好きな老紳士のように、よーしよしよし……と、簪を撫でる。こうしてみると……簪は子犬っぽいな、くすぐったそうにしてる所とか。うむ……満足。
「さて……んじゃ、始めるか。簪、ちょっと触るぞ?」
「え……!?ど、何処を……?」
「悪い……主語が抜けてたな。打鉄弐式の話だ」
「…………」
簪は俺の言葉に、顔を真っ赤にしながら黙って何度も首を頷かせる。本当にスマンかった……紛らわしい事を言ったな……。……言ったら、触らしてもらえ……いやいやいや!アホか!調子乗り過ぎだっての!
と、自分に喝を入れつつ打鉄弐式へと手を伸ばす。ピトリと、無機質な鉄の冷たい感覚が俺の掌に伝わった。そして、そおっ……と目を閉じ、打鉄弐式に語りかけてみる。
『……聞こえるか?もし聞こえてたら、返事をくれ……』
『…………。貴方は、だあれ?』
『!?』
まさか本当に聞こえると思っていなかった俺は、驚きを隠せない。つーか……頭に、ノイズが……。暴走したISよりは酷くないが、打鉄弐式が警戒をしているのかもしれない。
とにかく、話を聞いて貰えない事には始まらない。痛みを堪えつつ、ゆっくりと……だ。俺は穏やかな心を意識しつつ、続けて語りかけた。
『えっと……。俺は、アンタの持ち主の……あ~……か、彼氏?』
『ああ、貴方なんだ。初めまして。私に、何か用かな』
『不躾とは思うんだがな、アンタの領域に……入らせてもらえないかと思ってな』
『うん、いいよ。貴方は特別みたいだから。じゃ、待ってる』
なんというか、打鉄弐式から受ける印象は、淡々としている……と言った感じだ。少しばかり、簪に似ているのかもしれない。
俺が領域への侵入の許可を取ると、思いのほかあっさりと……と言うか、やっぱり淡々と了承された。打鉄弐式の待ってると言う発言の後、俺の意識はブラックアウトする。
**********
ポチャン……
「ぬ、うう……?」
ああ、またこのパターンか……と言っても二度目だが。どうやら、打鉄弐式の意識へ潜る事には成功したらしい。俺は顔に落ちた水滴を拭い取ると、目を開いた。
するとそこに広がっていた光景は……見事な物だった。何と言うか……水晶洞窟?まるでファンタジーの世界に迷い込んだかのようだ。
武骨な岩肌のあちこちから美しい水晶の塊が生え、強い水色の光を放っている。奥の方を見ると、此処からでも大きい事がよく分かる巨大な水晶があった。
俺は自然と、そちらの方に足が進んでいた。近づいて行くごとに、水晶はどんどん見上げるようになっていく。そして、その麓に位置する場所で……少女が水晶を背もたれにしながら眠っていた。
「すぅ……すぅ……」
「…………」
恐らく、打鉄弐式……だよな?見た目まで、簪に似ているような……。長い水色の髪を、細かく八つに纏めてる……ってのは、山嵐の特徴からなのかもしれない。
年齢的には、俺と同世代ほどか……。服装は、スカート部分がこんもりなってる……こういうスカートってなんて言うんだったっけ。とにかく、コレはウィングスカートを模しているらしい。
「ん……?ああ、早かったね。もっと時間がかかると思ってた」
「そ、そうか……。えっと、弐式で良いんだよな?」
「そうだよ。呼び方は好きにして」
「じゃあ、弐式って呼ばせてもらおう」
もしかして、時間がかかると思っていたから居眠りか?なるほど……これは淡々としているのもあるが、無気力なのが大多数を占めているらしい。
なるべく受け答えは、手短に済ませようとしているようだ。まぁ、別に持ち主とISが似るって事ではないのだな。現に俺と青子は、凸凹コンビって感じだし。
「それで、何か用?」
「……スマンが、コレと言って用事がある訳じゃないんだ。俺の能力の検証……と言うか」
「へぇ、好きに使えないんだね。これは偶然?」
「ああ、だから少し感想を聞かせてくれないか?」
俺がそうやって弐式に感想を求めると、そっかぁ……なんて小さく呟きながら、考え込んでいるようだ。ISだろうと、いきなりそういう事を言われても困るだろう。
根気よく待っていると、途中から寝息が聞こえてきた。もしやと思って弐式の方に目をやると、案の定……考えている内に、眠ってしまったらしい。
「弐式……」
「ん……?ああ、ゴメンゴメン。感想だよね?初めは、急に話しかけられてビックリした。でも、君だって分かってさ、こっちへおいでって思ったんだよ」
「なるほど、良い事を聞いた」
ビックリした……ってのはやはり、頭に走ったノイズだろう。そこから拒絶反応が取れて、弐式にここへ招き入れられた……。
つまり、鍵となるのはISへ受け入れられる事……これに違いない。青子の言っていた通り、本気で対話する覚悟が出来れば、俺の知り合い連中の専用機なら領域に入れそうだ。
「しかし……この水晶は?」
「これ?簪の心象はを映してるんだ。と言うか、この空間そのものだけど」
「ああ、やっぱり影響はあるんだな」
「うん。この水晶の放つ光は、彼女の内なる輝きって事だよ」
俺の心象の影響は、月の見え隠れの具合だと青子が言っていた。やはりこういった空間は、持ち主の影響が最たる物らしい。
つまり簪の場合、そもそも洞窟であるのは、簪の引っ込み思案な部分を表している。かと言ってただ暗いだけでなく、こうしてまばゆい光を放つ意志……それを、この水晶が表現……か。
「なるほどな……。邪魔して悪かった、そろそろ戻る。何か、簪に伝えておいた方が良いか?」
「いろいろあるけど、そうだね。まずは、私を諦めないでくれてありがとう。これは、貴方や他の子にも言えた事だけど」
「俺は、ほとんど何もしてないけどな」
「それと、会えるのを楽しみにしてる」
前者は、専用機の開発が凍結したのに、自分たちの力で弐式を完成させた事に関してだろう。本人からすれば、嬉しいのだろうな。あのまま放置されるのが、妥当な所だったのだから。
後者は……なんだろうか?やっぱり、普通の人でも会える可能性はゼロではないと言う事か?事実、一夏が臨海学校の時に似たような体験をしているって言っていた。
俺はそういう段階を踏まなくてはいけない事を、すっ飛ばして行う事が出来る……そう言う能力か。しかも、もっと言えば他人のISでも行える訳だし……。やっぱ、とんでもねぇな。
「分かった。しっかり伝えとく」
「うん。それとは別に、貴方にお願いがあるんだけど」
「俺にか?」
「簪を、守ってあげて。私はあくまで、力を貸すまでしかできないから」
「……ああ、約束する。必ず守って見せるさ」
俺がそう言うと、ずっとボーッとした表情しか浮かべていなかった弐式が笑った……気がした。後は俺に向かってゆっくり手を振ると、スヤスヤと眠り始める。……随分と省電力な事で。
弐式が眠ってしまったら、本格的にここに居る理由が無くなった。俺は臨海学校の時の経験を生かし、ゆっくりと目を閉じて、元いた場所のイメージを行う。
**********
「ん……?」
目を開くと、俺は弐式に触れたままの状態だ。無事に、戻って来れたらしい。あそこから帰れないと、精神だけ取り残されてしまうのだろうか?
考えるだけでも恐ろしくなったので、すぐに手を離す。すると、背後に居る簪が、不思議そうにこちらを見ている。
「もう……良いの……?ほんの……数秒だけど……」
「どうもな、向こうとこっちじゃ時間の流れが違うらしいんだ」
どうやら簪から見ると、俺が弐式に触れていた時間は、相当に短いらしい。これは、臨海学校の時と同じだ。あの時は福音の攻撃を喰らう寸前で、そこから時間が動き出した感覚だったからな。
それはさておいて、打鉄弐式からの言伝を簪へと伝える。すると簪は、とても嬉しそうな反応を示した。どちらも、持ち主からすると感激物だろう。
「いつか……会えるかな……?」
「何、簪なら大丈夫だって。そのうち……っと」
「!? 大丈夫……!?」
「あ、あぁ……やっぱり、少し疲れるみたいだな」
言っている途中に足がふらつき、こけそうになってしまう。簪が支えてくれなければ、そのまま床とキスしていたところだろう。う~む、おかしいな……青子の時は、こんな事は無かったんだが。
とりあえず、休憩は必要なようだ。簪の肩を借りつつ、研究所内の休憩用ベンチに腰掛ける。ひと段落と思ったら、今度は猛烈な眠気に襲われた。
「うっわ……なんだこれ、眠い……」
「……ま、真……膝枕……使う……?」
「ん?おぅ、頼むわ」
簪の申し出に、俺は即答した。そのままベンチに横へなると、簪の膝へと頭を乗せる。しかし……やはり大きいと損だな、ベンチからかなりはみ出てしまう。
まあいいかと、諦め半分に正面を見てみる。すると、簪がジィッと俺の顔を覗き込んでいた。目が合うとすぐさまワタワタと焦り出す簪に、思わず笑みがこぼれる。
「どうして……笑うの……?」
「いやぁ、可愛いなと思って」
「も、もう……!」
「痛たたた……デコをペチペチするのは止めなさい……!」
からかい半分で、簪に可愛いと言うと、妙にリズミカルに俺のデコをペチペチと叩いた。地味に痛くて、眉間へと皺を寄せる俺を見て、簪もクスリと笑う。
「なぁ、簪……」
「何……?」
「おやすみ」
「うん……お休み……」
それだけ言うと、ゆっくりと目を閉じた。簪は、片手で俺の手を握り、もう一方の手で俺の頭を撫でる。簪の膝の柔らかさもあってか、まさに夢心地といったところだろう。
うん……幸せだ。こんな時が、ずっと続けばいい。いや、と言うよりは……終わらせない。簪と繋いだこの手は、絶対に離さないでいよう。俺は簪の手を強く握りしめ、深い眠りについた。
タイトル通りに、一応は簪がメイン回
どうなんだろう……恋愛描写……上手くいってる……のか?とりあえず膝枕は定番っぽいから入れておきましたが……。
と言うか、私の想像以上に真のキャラ崩壊が早かった!まぁ、うん……コレかいてる時は、ちょっとアルコール入ってたのもありましたけど……。
ま、まぁそう言うときだってあるさ!と、言い訳したいが……ダメですね、変なテンションで書くからこうなるんだよ……(と言いつつ投稿)
できれば、次あたりも簪メイン回を書きたいなぁと思っていたり。もしかしたら次はデートか、もしくは真面目な話だと思います。
それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。