戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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ようやく初戦闘になりました。

そんでもって今回ちょっと長いですね、一万文字を超えちゃいました。

戦闘描写が拙い部分があると思いますが、ご容赦ください。

それでは、今回もよろしくお願いします。


VSセシリア・オルコット(奮闘)ですが何か?

 一悶着あった月曜日からはや一週間。クラス代表決定戦の日となった。決定戦っつーか、そんなのこっちからするとノーサンキューなわけですけども。まぁ勝った奴が代表って事にはなるわな。

 

「わ~、すごい人だね~」

 

「ん、そうな」

 

 現在俺と本音が居るのは第三アリーナの観客席だ。というのも、このクラス代表決定戦だが、三日かけて行う予定になった。

 

 そうでなくてはお互いがいろいろキツイということで、俺、織斑、オルコット、この三人の話し合いのうえで決まった事だ。

 

 今日は織斑VSオルコットの試合となってる。順番を決める際に「そもそもこうなった原因はお前らだろうが」って言ったら、織斑先生も納得し初戦は簡単に決まった。

 

 俺としては最高の順番である。織斑、オルコット両者のデータを記録しておけるのだから、かなり大きなアドバンテージになるはず。

 

 ま、オルコットの専用機についてはある程度データは集まってるがな、普通にネットで調べても出てきたし、ZECTにも協力してもらっている。

 

「それにしても遅いね~、おりむ~」

 

「ふむ…専用機の搬入が遅れてるのかもな」

 

 さっきから当たり前のように、俺の隣に座ってる本音だが、あの時一緒に飯を食って以来、不思議と一緒に行動する機会が増えた。

 

 まぁ別にいいけど?てか何で言い訳じみたこと言ってんだ俺は。それよりさっさと記録用の媒体を呼んでおかないといけない。

 

「ガタックゼクター」

 

『キュイィィィィ…』

 

「あれ~?がっちゃんを呼んでどうするの~?」

 

「あぁ、こいつに織斑やオルコットの動きを学習させるんだよ」

 

 ガタックゼクターはただのビデオカメラとは違う。AIで行動しているのだから、当然見ること=学ぶことだ。データをバンクしていけば、そのうちある程度の行動予測をしてくれるようにもなるとか爺ちゃんが言ってた。何そのゼロシステム。

 

 ってなことを本音に説明してやると、妙に感心したような表情になる。本音のこういった顔つきを見るのは初めてだ。

 

「学習するISか~」

 

「なんか妙に真剣だな?」

 

「うん~、私ね~整備課志望なの~。だから~、一応少しは知識があるんだけど~」

 

「ガタックは珍しいってことか」

 

「そうだね~、そもそもISにAIを積もうっていう発想がZECTらしいかな~って」

 

 やっぱりZECTは変態だったとさ。それもそうか、自立進化の可能性を秘めているISのコアに、いまどきAIなんざ古臭いか。

 

「あ~、出てきたよ~」

 

「オルコットだけか…織斑はやっぱ専用機の搬入が予定通りにいかず…ってことか」

 

 アリーナには先にオルコットのみが現れる。織斑が現れたのは少しどころか数分遅れでだ。しかも、見ると初期化も最適化も住んでいない状態らしい。

 

 よくあれで出させたな、織斑先生。でもあの暴君のことだから「試合中にすればいい」とか言ってそうな気がする。

 

「おりむ~、勝てるかな~?」

 

「ま、普通に考えたら勝てねぇだろうな。だた………」

 

「ただ~?」

 

「あいつなら、面白いものを見せてくれると思うぜ」

 

 口ではうまいこと説明できないが、織斑の野郎なら一発ぶちかましてくれそうな気がしてる。それは単純に「織斑が主人公だから」とかそんな話ではなく、信頼感?に近いものを俺は抱いていた。

 

「(さて、織斑。お前の底力ってもんを見せてみな)」

 

 今、試合開始のブザーが鳴り響いた。

**********

『試合終了 勝者セシリア・オルコット』

 

 試合終了の合図が鳴る。しかし、釈然とした表情の者はだれ一人としていなかった。なぜなら、織斑がオルコットに切りかかる寸前で、試合終了となったからだ。

 

「………本音。解説を頼む」

 

「う~ん多分だけど~。単純なエネルギー不足とかかな~」

 

「あ~…なんか織斑の近接ブレードが、これ見よがしに光ってたな…」

 

 つまり、織斑は高出力で高火力な「何か」をしようとしたが、武器の特性を把握しきれておらず、あえなくエネルギー切れというわけか。

 

「面白いもんって…そういう意味じゃねぇっつーのバカヤロー…」

 

 さっきまで織斑に期待を寄せる発言をしていたのが、急に恥ずかしくなってきた。俺は片手で額を抑えるようにしながら、ハァ~…と大きなため息をついた。

 

「明日はかがみんの番だね~」

 

「お…おう。まかせとけ…」

 

 本音は悪気はないんだと思う。だけれど、まるで思い出させるように言わなくたっていいじゃない。ヤベ、まだ明日の事なのに、少し緊張してきた。

 

 とりあえず今日は、部屋に帰ってガタックゼクターに記録もとい学習されたデータを基に対オルコットの傾向と対策ってとこか…。

 

「善は急げってね…」

 

「帰るの~?」

 

「ああ、これから忙しくなりそうだ」

 

「じゃあ私も帰る~」

 

『キュイィィ…』

 

 俺が立ち上がるとそれにならって本音とガタックゼクターもついてくる。ゼクターのほうはともかく、本音には随分となつかれたものだ。

 

「かがみん~」

 

「あん?」

 

「応援してるからね~」

 

「…あぁ」

 

 何はともあれ、こうして期待してくれているんならタダで負けてやる訳にもいかんわなぁ…。とにかく、できることはやろう。

 

 うん。そうだ、頑張ろう。とにかく頑張るんだ。今の俺に出来ることなんてのは、そのくらいだから。そう思うと、不思議と足取りが軽い気がする。

 

 俺は決意を新たに、歩を進めていくのであった。

**********

「真。いよいよだな!」

 

「いろいろ言いたいことはあるが、なんで当たり前のようにお前らがピットにいるんでしょうねぇ?」

 

 あれだぞ、これから試合本番だぞ?なんで緊張感を削ぐレベルの人数が集まってるんだ?そして篠ノ之、アンタは織斑の付添だからって、わざわざ来なくてもいいじゃん。

 

「かがみん~、応援に来たよ~!」

 

「また増えた!?」

 

「え~、ひどいよ~…」

 

「あぁ…いや、悪い。今のは言葉のあやと言うか」

 

 遅れて現れた本音に、ついツッコミを入れてしまう。俺の言葉を聞いて本音はシュンとしてしまった。ううむ…こういう時はどうして良いか対処法を知らん…。

 

「そっか、真はのほほんさんと仲が良かったんだっけ?」

 

「のほほんさん?」

 

 それは本音のあだ名だろうか?「のほとけ ほんね」を略してのほほん?随分と秀逸なネーミングだな、言いえて妙というか、本音のイメージにぴったりだ。

 

「(いや、実のところ本名を知らなくてさ…あだ名の方しか聞いたことなくて)」

 

「(それはクラスメイトとしてどうよ?)」

 

「聴こえてるよ~、おりむ~」

 

 声を潜めて俺にそう告げた織斑だったが、どうやら本音には聞こえてしまっていたらしい。「ハハハ…」と織斑は笑ってごまかした。

 

「で?お前ら本当になんなの?応援はありがたいが…ピットにまで来て怒られねぇの?」

 

「私は昨日、いたって普通にここにいたが別に何も言われなかったぞ?」

 

 篠ノ之ェ…。意外と常識知らずだったよこの娘。いたって普通にってなんだ?試合前のピットに来るのがまず普通じゃねぇだろーよ。

 

「…ってことをしののんから聞いたから来たの~」

 

「しののん!?」

 

 あだ名で呼ばれることに慣れていないのか、篠ノ之はかなり面喰っている様子だった。本音と篠ノ之のコンビ、ほっとくだけで面白いコントが見れそうな気がする。

 

「加賀美君~?あっ、ちゃんと時間どおりですね!」

 

「余計なのが数人いるがな…」

 

 奥から我らが担任コンビが…って、おぃィ?あんたらもこっちのピットに顔を出すんかい。これで俺含めて六人になったぞ。オルコットのピットって…やめとこう、想像するだけで寂しくなってくる。

 

「さて、加賀美。準備は良いな?」

 

「いつでもOKっす」

 

「よし、ではISを展開しろ」

 

 織斑先生のご命令通りISを展開…させる前にやるべきことがある。まず肩に乗せていたベルトをしっかりと腰に装着。次に右手を軽く上げる。すると………。

 

ブォン!

 

「うぉ!?危なっ!!」

 

 勢いよく飛んできたガタックゼクターが、何のためらいもなく織斑の鼻先ぎりぎりを通過。そして俺の右手にすっぽり収まった。

 

「変身」

 

『henshin…』

 

 ガタックゼクターをベルトにスライド挿入させると、光が俺を包み込む。光が一気に周りに飛び散ると、アーマー形成は完了。こうして俺の専用機ガタックは展開されるわけだ。

 

 しかし、演出が物足りねぇなぁ…。原作みたいに六角形が徐々に広がりつつの変身のほうが燃えるんだが。変身と言ってもパススロットからアーマーを引っ張り出してるだけだから、まぁしょうがないか。

 

「全身装甲か…珍しいな」

 

「でしょうね」

 

 とだけ答えておく。珍しいってもんじゃ無いだろうな、なんたって今の時代ISと言えば胴体部には装甲が存在しないタイプのほうが主流だし。全身装甲といえば、第一世代、第二世代型が主になるのかね?

 

「かっこいいなぁ…そのIS」

 

「そうなのか?…私にはよく分からんな」

 

「きっと~、男のロマンってやつだよね~」

 

 俺のISを見て、三人はそれぞれ感想を述べた。本音よ、よく分かっているじゃないか。男ってのはいつまでたってもロマンってのを忘れない生き物なのさ。

 

「後にしろ、お前たち。加賀美、行ってこい」

 

「うっす!」

 

 とりあえず俺はその場で浮いておく。見ての通り、飛べちゃうんだよねガタック。なんか爺ちゃんが反重力デバイスがどうのこうの言ってたが、理解できなかった。ま、細かいところは気にすんな、ガタックも他のISと同じで飛べるってだけわかれば。

 

「かがみ~ん!頑張ってね~!」

 

 ピットゲートが開き切り、今まさに出撃しようとしたその時。本音が少しだけ前に出てきて、元気に腕を振りながらそう言った。

 

「おうよ!」

 

 俺は振り向きサムズアップをしながら返事を返す。すると本音も俺に向かってサムズアップ。それを確認すると、俺は今度こそゲートから飛び出した。

 

「真の奴。なんか俺らと態度違うよな?」

 

「む…?そうだな…」

 

 なんてことを織斑と篠ノ之が呟いていたのは、俺に知る由も無かった。

**********

 俺とオルコットがゲートをくぐったのは、ほぼ同時だった。ほんと、時間通りに事が進んでよかった。織斑みたいに遅刻したんじゃ何言われるか分かったもんじゃねぇ。

 

「来ましたわね」

 

「さぁ?来たのはアンタのほうかもしれないぜ、同時だったからな」

 

 挑発じみた口調で頬をひねりあげながら(といってもガタックになってるから表情は分からないはず)減らず口を叩いてやる。さてさて、どんな返しが待ってるか…。

 

「試合の前に、貴方に言っておかなければならないことがあります」

 

「へぇ?どんな?」

 

「その節は、無礼な振る舞いをしてしまい大変申し訳ありませんでした」

 

 さっそく何か言われると思い、いつでも言い返せる準備をしていたのだが、なんてことは無い。謝罪の言葉だった。

 

「ノブレス・オブリージュ…。高貴なふるまいには高貴なるふるまいで返せ。あなたの言っていたことは今ならよく分かります。そもそもわたくしが、高貴なふるまいを見失っていたのですから…貴方達男性を怒らせてしまうのも無理はありませんわね」

 

 そういうとオルコットは、自嘲めいた笑みを浮かべた。どうやらこれは、俺を油断させようとかそんなのじゃなく、オルコットの心からの言葉らしい。

 

「わたくし、男性と言いうものは女性の顔色を窺っているものだとばかり思っていました。ですが、先日の一夏さんとの試合で完全に目が覚めました。ただ、わたくしの偏見なのだと」

 

「………」

 

「ですから、わたくし今日から心を入れ替え…」

 

「つまんねぇ」

 

「なぁ!?なんです人がせっかく!」

 

 オルコットの言葉を遮りそういってやると、以前のようにヒステリックな声を上げながら俺を指さす。心を入れ替えるとはいったいなんだったのか。

 

「いやさ…別に謝れるほど気にしてねぇし。それにホラ、俺らこれから試合だぜ?んな萎えるようなこと言うのはナシにしようぜ」

 

「…そうですわね、少々無粋でしたわね。それでは、お互い誇りある戦いにしましょう」

 

「それに関しては大いに賛成だね」

 

『試合開始!』

 

「さぁ踊りなさい。ブルー・ティアーズの奏でるワルツで!」

 

 織斑の時にも言ってたセリフと同時に、オルコットは四機の自立起動兵器である「ブルー・ティアーズ」のレーザーを乱射。開幕での乱射はなんとなく想像できた気がする。

 

 俺のガタックは全身装甲。よって、ISの大きなエネルギー消費を狙える絶対防御は装甲でもぶち破られない限り発動は無い。

 

 そこで、主兵装である高火力のレーザーライフル「スターライトマークスリー」の射撃よりも、より手数のあるBTで削りきる。そう考えていたのは正解らしい。

 

 そこで俺は試合開始と同時に全力でバック。残念ながら、アンタの弱点は割れてるんだよ。

 

「くらいやがれ!」

 

 ガタックマスクドフォームの肩部についている「ガタックバルカン」をとにかく何の考えも無しに連射。体を少し左右に振りながら、適当な弾幕を張る。

 

「そのような狙いの甘い射撃…!」

 

 オルコットはガタックバルカンから発射されたエネルギー弾を、ヒョイヒョイと華麗に避けていく。ああ、分かってたさ、アンタがこのくらい簡単に避けることくらい。

 

「そこだ!」

 

 今度はしっかりと四機のBTの内一つをロックオン。そのまま再びガタックバルカンを連射だ。すると、面白いくらい簡単にBTの撃墜に成功する。

 

ドオオオオオン!

 

「まず一つ」

 

「そんな…こんな簡単に…」

 

「アンタの弱点は、昨日どっかの誰かさんが大声で喋ってくれたんでね」

 

「一夏さん…!」

 

 昨日の試合の最中、俺は織斑が「オルコットが制御に意識を集中させなければ、BTの動きと他の動きを両立できない」みたいなことを言っていたのを確かに聞いた。

 

 オルコットは眉間にしわを寄せているが、まぁ無理も無いだろ。大衆の前で自分の弱点をばらされるなんてたまったもんじゃ無い。

 

「そら、どんどん行くぜ!」

 

「くっ…二度と同じ手が通じるものですか!」

 

 さっきと同じく、弾幕を張った流れから精密射撃を行うが、宣言通り今回は難なく避けられてしまう。チッ…対策を取られるまでこの戦法を続けるつもりだったが、代表候補生相手にそう上手くはいかないか。

 

「さっきは意表を突かれましたが、ここから先はどうですか?」

 

「あ~…やっぱ不意打ちだったから当たっちゃった感じ?ヤベー…なんも考えてねぇや」

 

 オルコットは残った三機のBTを総動員で俺の方に向かわせる。とにかく俺は動き回ってBTから距離を置こうとするものの、ピッタリ俺の近くを飛び回る。

 

「さしずめ籠の中の鳥…と言ったところかしら?」

 

「へへっ…それを言うなら虫篭のクワガタムシじゃね?」

 

 ハイ、詰んだ。どうしてくれようか、これ?ジリジリと距離を近づけられてしまい、BTに取り囲まれる形になってしまった。

 

「その軽口がいつまで続くか見ものですわね!」

 

 BTが一斉に射撃を開始した。クソ、考えるよりも先に動かなければ…何もできないまま終わってしまう!

 

「(大きく避けるな…自分から当たりに行く形になっちまう…)」

 

 俺が狙うのは最小限の回避だ。自分で言うのもなんだが、案外なんとか避けられている。しかし、それはクリーンヒットがないってだけの話だ。

 

 命中はしていない。しかし、どのBTのレーザーも確実にガタックの装甲を擦れてしまっている。これでは、いくらガタックが全身装甲だとは言え、長くはもちそうもない。

 

「なろっ…!」

 

 とにかく反撃しなくてはと、一瞬の隙を見てガタックバルカンをオルコット本体に向けて発射。が、距離が離れているせいで、ゆっくりとした横移動のみで避けられてしまう。

 

「これだけ離れていれば、避けるのはたやすいですわ。しかも…」

 

「ガッ!」

 

「貴方が攻撃したタイミングは、わたくしにとってチャンスでしかありませんわよ?」

 

 やってしまった…俺が数秒止まったのをオルコットは見逃さない。背中に一発レーザーが命中してしまう。やばいぞ…悪循環してやがる!

 

この状況を脱却させようとすればするほど、余計なダメージを受けてしまう。何よりこのマスクドフォームの重鈍な動きならなおさらだ。

 

「(ええい!予定よりもかなり早いが、使うしかない…!)」

 

 俺はガタックゼクターの顎に指をかける。本当は演出的に半分くらい開いた状態にして、アーマーが少し浮くのが見たいんだが、そんな事を言っている場合じゃない。俺はガタックゼクターの顎を一気に引っ張り、完全に開いた状態にする。

 

「キャストオフ!」

 

『cast off! change…stag beetle!』

 

 その音声と共に、マスクドフォームを包んでいたアーマーが一気にパージされる。これぞガタックの真の姿ともいえるライダーフォームになった訳だ。

 

 少し動いただけで分かるが、やはりスピードが格段に違う。レーザーの嵐を何とかかいくぐり、囲まれていた状態から突破。すぐさまオルコットとの距離を詰める。

 

 

「これは一体…。とにかく反撃です!」

 

「遅せぇ!」

 

 オルコットがスターライトマークスリーを構えるが、すでに懐には潜り込んだ。俺はライダーフォームの肩部に取り付けてある「ガタックダブルカリバー」を手に取る。

 

 そして、左手に握られた「マイナスカリバー」でライフルの銃口をカチ上げ、右手に握られた「プラスカリバー」でがら空きになったオルコットの胴体を狙う。

 

「クッ…!」

 

 しかし、ギリギリのところで回避され胴体に斬撃は入らなかった。でも確かにブルー・ティアーズの装甲に一太刀浴びせることに成功だ。

 

「なんですの、その姿は…?」

 

「残念だけど言えねぇよ。ま、脱皮したとでも思えば良いんじゃねぇの」

 

 と言いつつダッシュでオルコットに接近を試みる。キャストオフの影響でガタックバルカンもパージされてしまっているから、近接で挑むしかない。

 

 プットオンと言う機能で吹き飛んだパーツを元に戻せないことも無いが、それではまた取り囲まれるのが関の山だ。とにかくここからはスピードを生かした戦いを仕掛ける!

 

「取り囲むのが無理でも、追いかけることくらいならできるスピードですわ!」

 

「何ッ!?」

 

 後ろをぴったりとは言わないが、確かにBTは俺の追跡を始めている。このままでは真っ直ぐオルコットに突っ込んでも反撃されてしまう。

 

「うっとおしい…!」

 

 BTは射撃を開始する。後ろを取られているため、さっきとは違い大きな回避で問題は無い。だがこのままではいつ直撃を受けてもおかしくないぞ…。

 

「(だったら!)」

 

 ある考えが一つ浮かび、俺は地面目がけて急降下を開始する。当然オルコットは追撃の手を緩めない。そうだ、それでいい…しっかりついてこい。

 

 俺の考えというのは、地面ギリギリで急上昇し、ブルー・ティアーズのBTを地面に叩きつけてやろうと言う魂胆だった。

 

 どんどん地面は俺の目の前へと迫ってくる。だが、まだだ…このタイミングではBTを地面に叩きつけるには至らない。

 

「(…今だ!)」

 

 十分に地面までひきつけ、後は急上昇のみ。俺の体が浮き上がり始めた瞬間、俺の右肩に衝撃が走った。確認するまでも無い、BTのレーザーだ。

 

「残念ですが、貴方の作戦はお見通しですわ」

 

 どうやらオルコットは釣られたフリをしていただけだったらしい。あぁ…今のタイミングはバットだ。俺は浮き上がろうとした瞬間を狙われたため、空中での制御がままならなくなる。

 

 地面ギリギリにいたのだ、後はもう分るはず。俺は思いっきり地面に叩きつけられる。

 

「ぐぉっ…!カハッ!」

 

 

 表現しようも無い衝撃が俺を襲った。そのまま地面で数回バウンドし、ズザザザザ!と大きな音を立てながら地面をスライドし、ようやく止まることができた。

 

「(あ~…だっせぇ…。何やってんだよ、俺)」

 

 俺は地面に大の字になって寝そべりながら、そんな事を考えていた。何か、地面をバウンドした時にやる気も振り落されたような感覚だ。

 

 周りもざわついてるな…。よっぽどマズイ落ち方にでも見えたのか?これが全身装甲でなければそれほど心配されることも無かったろうにな。

 

「(はぁ…なんかもう面倒くせぇ…)」

 

 このままピクリとも動かなかったら気絶とか思ってくれるだろ。やっぱりそもそも勝てるわけがなかったんだ。相手が悪すぎる。初心者の俺がどうこうしたって見苦しいだけだ。

 

『迷った時は、馬鹿になれよ』

 

「ッ!?」

 

 ネガティブな考えが俺の頭をよぎる中。突然あの時話した親父の言葉が頭の中で再生された。…なんだってこんな時に、親父の言葉なんか思い出しちまうのかね?

 

 きっと、それは今俺が苦しいからだろう。いつだってあの人はそうだった。俺が苦しいとき、悩んでるとき、屈託のない笑顔で俺を励ます。

 

 俺にとって親父の言葉は起爆剤みたいなもんだ。笑って軽口でも言い合えば、いつの間にか苦しみも悩みも吹っ飛んじまってるんだもんな。

 

 だったら、今の俺の姿を見たら、あの人はなんていうだろうか?

 

『おっ、どうした真。もうギブアップか?』

 

「(うるせぇよ…)」

 

『はは、いくつになっても反骨精神だけは一人前だな』

 

「(だけってなんだよ、これはアレだ。そう、ちょっと休憩してるだけだっ)」

 

『よし、だったら休憩終わり!ほら、立て立て!』

 

「(あ~…悪いけど、手ぇ貸してくんね?)」

 

『「手を貸してくださいお父様」って言ったら貸さないことも無い』

 

「(…さっさとしやがれクソ親父)」

 

『分かったよ。ホラ!もうひと踏ん張りだ!』

 

 俺の右手はガッと虚空をつかんだ。が、確かにその右手には温かみがある。よし、立てる。全然さっきと気持ちが違う。無理?無駄?アホか、親父がそんなこと言うかよ?

 

 そう、親父だったら相手が誰だろうと決してあきらめるはずがない。そんな親父の息子である俺が、こんな情けない奴で良い訳がない。惨めがなんだ、ダサいからどうした。とにかく立てよ、俺。話はそれからだ。

 

「! 加賀美さん?よかった…気絶したのかと…」

 

 立ち上がった俺に会場はまたざわつき始めた。やっぱり余りにも動かなかったためか、気絶したと思われていたようだ。もはや、そんなことはどうでもいい。親父、アンタのアドバイスを参考にさせてもらうことにするよ。俺は思いっきり息を吸い込んだ、そして…。

 

「おおおぉぉぉぉおおぉおおおぉおおおおおおおおッッッ!!!」

 

 腹の底から叫ぶ。俺の雄たけびは、まるでアリーナ全体を…いや大気や地面さえも震わせている。ひとしきり叫び終わると、フウッ…っと一息つく。

 

「よしっ、スッキリした」

 

「な…な…?」

 

「オルコット」

 

「ハイッ!?なんでしょう!」

 

「待たせて悪い。こっから勝負だ」

 

 俺はオルコットにプラスカリバーを突きつけそう宣言した。一方のオルコットはキョトンとした表情を見せる。当然だな、俺の心の葛藤なんてオルコットが知るはずもない。

 

「行くぜ!」

 

「まっ、真っ直ぐこっちに!?」

 

 小賢しいのはもうやめだ。BT?そんなもん知らね!せっかくの全身装甲なんだ、思いっきり受けてやろうじゃねえの!

 

「くっ…!」

 

 オルコットは当然俺に反撃を加える。また背後からレーザーの嵐だ。しかし、あいにく今の俺は馬鹿なんでね、避けるとかそんな言葉は知らねぇのよ。

 

「グアッ!クッ!」

 

「なっ!?意に介さないですって!?」

 

 いいリアクションだね、さっきから焦ってるみたいだが、どうやら俺の雄たけびにビビッちまったらしいな。だったら、しっかりそこには付け込ませてもらうぜ。

 

「オラぁ!!!」

 

「キャア!」

 

 ダブルカリバーでX字にオルコットを斬る。今度は完全に胴体をとらえた。ここから、オルコットは当然俺との距離を離しにかかるはず。俺はいち早く行動し、ガタックゼクターの顎を正位置に戻す。

 

「プットオン!」

 

『put on!』

 

 再びアーマーが形成され、ガタックに装着される。読み通りオルコットは、俺から離れようとする途中だ。それを逃さずガタックバルカンを発射する。

 

「そう易々とはやらせません!」

 

 これはオルコットにかわされるが、それならそれで構わない。オルコットとの距離が離れないうちに、俺は再度キャストオフを実行した。

 

「キャストオフ!」

 

『cast off!』

 

 オルコットが体勢を立て直さないうちに接近。ダブルカリバーを両手に携え、一気に仕掛ける。

 

「もうアンタにゃ、考える暇も与えねぇ!」

 

「キャアアアア!」

 

 ダブルカリバーを振る振る!とにかく振る!剣の扱いなんかは分からないが、親父もなんか滅茶苦茶に振り回してたみたいだし、ガタックはこれでいいと言ってる気がする。

 

「これ以上は…やらせません!」

 

「ぐっ…!」

 

 また背中にレーザーを浴びてしまう。その隙をついてオルコットは俺から脱出。が、俺はまたすぐさま距離を詰めるために、また真っ直ぐ突っ込む。

 

 さっき小賢しいのはナシだ。そう言ったが、流石にこれ以上はもう苦しい。このまま真っ直ぐ行くと思わせといて、フェイントでそのままオルコットを通り過ぎる。

 

 そして急いでそのまま反転!するとオルコットはこちらを向いていなかった。

 

「(やれる…。届く!)」

 

 ここしかない。俺に残された最後のチャンスだ。俺は両手に握られてるプラスカリバーとマイナスカリバーを連結させ、オルコットを挟み込み…。

 

「!? そこですか!!!」

 

 何…!?おい、なんでだよ!?どうしてその角度から反転してこっちを向けるんだよ!?スターライトマークスリーの銃口は、完全に俺をとらえていた。

 

「う…おおおおおお!プットオン!!!」

 

『put on!』

 

 せめてもの抵抗だった。少しだけでも防御力を上げておけば、まだどうにかなるかもしれない。そんな俺の考えは、すぐに消え去る。

 

バチィイッ!!!

 

 けたたましい音を立てながら、レーザーは俺にヒットした。BTとは比べ物にならないほどの威力をその身で感じる。至近距離でレーザーを受けた衝撃と爆音の最中、ハッキリと俺の耳には決着の合図が届いた。

 

『試合終了 勝者 セシリア・オルコット』

**********

 まだ重い足取りでピットに足を付けた。それを確認するかのように、ガタックゼクターはベルトから離れどこかへと飛び去っていく。

 

 入れ替わるように、俺の目の前には織斑先生。バシン!と俺に出席簿を叩きつけた。いつもより軽いその一撃は、俺の目を覚まさせるには至らない。

 

「…なんて顔をしているんだ、お前は」

 

「え…?」

 

「まるで葬式だぞ」

 

 そういわれても仕方が無いという自覚はあった。とにかく今の俺は悔しかった。前世の事は分からないが、こんなに悔しい思いをしたのは初めてだと思う。

 

「明日は織斑との試合だ。今日はゆっくり休め」

 

「かっ、加賀美君。あまり気にしちゃダメですよ?加賀美君は立派に戦って…」

 

「山田先生!…今は、そっとしておいてあげてください」

 

 突然大声をあげられたことにビックリしつつ、山田先生は織斑先生を追いかけて行った。ありがたい話だ…本当にそっとしておいてくれて。

 

「真…」

 

 俺も帰ろうと思い歩を進めようとする。だが織斑が俺の目の前に立ちはだかる。俺に何を言おうか迷ったような仕草を見せ、ようやく言葉をひねり出した。

 

「明日は…負けないからな!」

 

「ハッ…言ってろよ。返り討ちだぜ」

 

 軽めに織斑の胸を小突き、そう言ってやると、織斑は少しだけ微笑んだ。大丈夫だよ、んな心配しなくても試合の時までには立て直すさ。

 

 言葉には出さないが、今の小突きでそういうのが伝わったらしい。後は織斑は何も言ってこない。とっとと着替えて帰ることにしよう。

 

 そんな俺についてくる人影が一人、言わずもがな本音だった。本音は俺に声をかけることなく、ただついてくる。織斑たちとの距離が離れると、ようやく口を開いた。

 

「ね~かがみん~」

 

「ん~?」

 

「悔しいの~?」

 

「あぁ、滅茶苦茶悔しい。勝てない試合じゃ無かった…だけど、俺は最後の最後で油断したんだ」

 

「かがみん…」

 

「あんな角度から振り向けるはずがないって!もし振り向けたとしても照準が間に合う訳がないって!油断…したんだ…!それだけに悔しくて悔しくて仕方が無ねぇんだ!」

 

 俺は腹に収まっていた黒いモヤモヤを吐き出す。それだけ言うと、ハッとなる。これではまるで八つ当たりでしかない。

 

「それでいいと思うよ~」

 

「…何が?」

 

「油断くらいするよ~!かがみんだって人だもん~、油断くらいでそんな顔しちゃダメ~」

 

「………」

 

「それに~、かがみんが悔しいのは~きっと強くなってる証拠だよ~。かがみん頭良いもんね~、きっと次は反省を生かして勝っちゃうよ~!」

 

「………」

 

「それにね、それにね~、かがみん凄かったよ~。うおおおお~!って叫んだ後…」

 

 そう言って本音は、身振り手振りで俺がいかに凄かったかを解説し始める。この子はこの子なりに、俺を励ましてくれているんだろう。しかし、必死過ぎて…。

 

「…ブッ!」

 

「あ~!加賀美ん今笑った~!ひどいよ~」

 

「あぁ、悪い悪い。本音が必死そうでつい…」

 

 心にどっかりと乗ったようなモヤモヤは、本音の励ましによって消え去った。本音の言うとおりだ…反省も悔しさも、しっかり生かせば俺にとっては経験値だ。今日の事は教訓だな、うん。

 

「詫びに、なんか甘いもんでも奢るさ」

 

「ほんと~?やった~!」

 

 俺の言葉を聞いて、本音は目を輝かせてピョンピョンと飛び跳ねる。元気だなぁ…少し見習わなきゃな、この間も親父に考え過ぎって言われたばっかだし。

 

「じゃ、俺は着替えてくるから。本音は先に食堂に行っててくれ」

 

「うん~わかった~」

 

「なぁ、本音」

 

「なに~?」

 

「…ありがとな、元気出たよ」

 

「えへへ~、どういたしまして~」

 

 俺がそれだけ言うと、本音は振り返って歩き出す。…相変わらずスローだな、これならすぐに追いつけそうだ。なら、さっさと着替えてしまおう。俺は更衣室を目指した。

**********

三人称視点

 

 本音は真に言われた通りに、食堂を目指していた。彼女の足取りは、幾分かいつもよりも早い。といっても本当にごくごくわずかな差で、見かけでは判別できないほどのものだ。

 

「えへへ~」

 

 上機嫌、と言ったような感じの微笑みを浮かべながら本音は歩く。いつもニコニコしている本音だが、さすがに一人の時にこれだけニヤついていると、多少周りに不信がられる。

 

 しかし、本音は気にしない。というか往来の性格から気にならないのだろう。とにかく本音は笑みを浮かべ続ける。

 

『…ありがとな、元気出たよ』

 

「えへへへへ~」

 

 本音は真のこの一言が嬉しくてたまらなかった。なぜかまでは本人もよく分かっていないようだが、ただ漠然と「自分の言葉で真が元気になった」ことが嬉しかったのだ。

 

 考えれば考えるほど、本音の頬は吊り上っていく一方だ。それと比例するかのように顔が紅潮していくのも感じ取れた。

 

「(なんでだろ~?かがみんのこと考えてると…あったかいな~)」

 

 考えても考えてもしっくりこない本音は、その事に関してはまた後回しにすることを決めた。次は真に何を奢ってもらおうかと思考を巡らせる。

 

 その後の食堂で、大きめなパフェを分け合いながら、楽しそうに笑う本音と、対照的に気恥ずかしそうにしている真が目撃されたとかいないとか…。




敗北の悔しさを知ることと、それをどう生かすかを学んだ真。今回も一歩前進です。

ぶっちゃけいうとセシリア戦なんて勝たせる気はさらさらありませんでしたし。

負けから学ぶことって本当に多いと思うんです。今後も真には泥臭く成長していってもらいたいと思ってます。

さて、次回はVS一夏ですね。

区切りかた的に中国からの転校生くらいは出せるでしょうか?

それでは皆さん、また次回にお会いしましょう!

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