はい初っ端からお詫びしたいのですが、今回……メチャクチャ長いっす。7000から8000文字代でも長い方なのに、今回は破格の12000字代です!
どうしてもね、どうしても『とあるシーン』で終わらせたかったのでね……纏まらなかったんです。
あっ、後……台詞も多いと思われます。それこそ、あのシーン辺りにいちいち地の文を入れてると、もっと長くなったでしょうから……。
それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。
「わざとね?」
「……なんだ、藪から棒に」
真が束と再会して居た頃、大雨の降りしきる様子をソルは何をするでもなく眺めていた。するとリビングに戻るなりスコールは、ソルに問いかける。
振り向かずに外を見たままのソルだったが、短い一言に込められた怒りを感じた。マドカと同じく、ソルもスコールの怒りを小言くらいにしか考えていない。
いつも通りに深く被ったフードを、溜息を吐きながら更に下へと引っ張る。そうしてようやくソルは、スコールの方へと向き直った。
「彼との戦闘の記録映像を見たわ。……クロックアップ中に何をされたかは分からないけれど、彼に頭部アーマーを壊させたのは……わざとでしょう?」
「……わざとだったとして、それが何だ」
「ふざけるのも大概にして頂戴。彼に正体を明かしたうえ……殺さなかったなんて、最悪だわ」
スコールの指摘は、大正解であった。腕を極められ、右ストレートを喰らい、地面に激突したあたりまでは間違いなくソルも真の成長を過小評価し油断した結果だ。
だからこそソルは、油断した後にエクステンダーに捕まるなんて言うミスは犯すはずが無い。それはスコールが、一番よく理解していた。だからこそ、正体を明かしたのはわざとだと考えたのだろう。
「奴が、怖いか?」
「どういう意味かしら」
「奴が第三フェーズに至るのが、そんなに怖いかと聞いている」
「…………」
ソルのこの言葉に、スコールはほんの少しだけ苦い表情を見せた。怖いか怖くないかと聞かれれば、後者なのだろう。しかしソルの馬鹿にするような言い方に、プライドが肯定するのを許さない。
そんなスコールの胸中を察してか、ソルは聞こえない程度に鼻を鳴らす。何を恐れる必要があるのか……と。ソルは肩を竦めながら続けた。
「だとすれば安心しろ、奴がもう第三フェーズに入る事は無い」
「何故、そう言い切れるの?」
「俺達がフェーズを引き上げるには、心的要因が欠かせない。むしろ必要なのはそれだけだ。奴の心は完全に折れている。そんな奴が、次なる段階へ進もうと言う意欲が沸くはずも無い」
妙に確信付いた口調でソルは言う。あんな事を聞かされて、平然としていられる方がおかしい……そう思っているのもある。それとは他に、真が存外に脆いと言うのを知っていた。
だからこそわざと正体を明かすようなマネをし、真の心を圧し折りにかかったのだ。だがスコールは、それでも安心しきれない。なぜなら、やはり命を奪う事……それが確実だからだ。
「……次は殺しなさい。必ずね」
「フッ……了解した。この際だから、奴が俺に殺してくれとでも言って来れば面白いのだがな」
「それと、勝手な行動をしたペナルティよ。ZECT統括先進技術研究所、通称ラボラトリ……あそこ、潰しちゃって。彼のサポートは、させない方が良いわ」
「ペナルティ……か、オレ一人に行ってこいと言う事だな。多少虫は借りるぞ」
スコールはそのくらいなら構わないと、それだけ言い残してサッサとシャワー室へと消えていく。例え真が第三フェーズに至ったとして、それでも負けるはずが無いと口元を歪める。
もう少しボーッとするつもりだったが、余計な仕事が増えてしまった。ソルは大人しく、眠りに着こうと寝室へと向かう。しかし……その前に、マドカが立ちはだかった。
「何か用か?」
「……頬のソレは、何だ」
「これか?何、オリジナルの蹴りでな」
ソルは真に正体を明かしても、目深にフードを被り口元のストールも外さない。流石に声を分からなくする機能は切っているらしいが、それでもだ。
完全に顔の全体がほぼ隠れているわけだが、マドカはソルの頬に張られている湿布を見逃さなかった。ご存知ガタックやカブトは全身装甲だが、アーマーの下にしっかりと絶対防御機能は存在する。
それでも真の全力の蹴りに連撃を喰らい、打撲痕は残ったようだ。クロックアップ中ゆえ、ソルも何をされたかまでははっきりわかっていないが、アーマーを砕くとなるとライダーキックだと予想していた。
「少し顔を貸せ」
「…………」
ソルは知っている。こういう時のマドカは、一度言い出したら聞かないと。マドカはソルのコートを掴むと、強引に引っ張り自室へと連れて行く。
そしてそのまま投げ捨てるようにソルをベッドへ座らせると、フードを邪魔だと言わんばかりに退けて、頬に張られている湿布を強引に剥いだ。
ソルの頬に鈍い痛みが走るが、そんな事はお構いなしに救急箱を引っ張り出して居るようだ。今から何をされるのかと、細い目でマドカの背中を見た。
「これを使え」
「何かと思えば湿布か……市販ので十分だろうに」
「此方の方が治りが早い」
出てきたのは、湿布だ。ただし、マドカが自作した物である。治りが早いと言うのは全面的に肯定だったが、それでわざわざ痛い思いをさせられるのは、意味が無い気がした。
とは言え、ソルは分かっていた。こういう時のマドカは、話を聞かない。言うや否や、反論の余地なく湿布をソルの頬へと張った。
「はぁ……もういいか?では、俺はもう寝るぞ」
「おい、待てソル。自分の部屋で寝ろ」
「俺はもう疲れたんだ。何ならマドカが俺の部屋を使え」
本当に何かと疲れたソルは、コートを脱ぎ捨てモゾモゾとマドカのベッドへと潜り込んだ。引っ張り出そうか迷ったマドカだったが、ソルの言う通りにするつもりなのか、部屋を後にしようとする。
しかしベッドの中から腕が伸びて来て、マドカを摑まえベッドへと引き込んだ。言うまでも無く、犯人はソルしかいない。
「何のつもりだ?」
「そこで、出て行こうとするのは違うだろう?」
「私の知った事では無い。離せ……!」
「知っているだろう、俺はしつこい」
狭いベッドの上で子供の様に抵抗するマドカだったが、まるで意味を成さない。成さないどころか、抵抗中も堂々と眠る気満々なソルに、マドカは早々に脱出をあきらめた。
何故こんな事を……と思いつつも、マドカの頬は紅い。本人もどうしてか分からないようだが、深く考える事は止め……マドカも静かに目を閉じた。
**********
「…………」
ザザーッザザーッと、寄せては返す波を虚ろな目で見る少年が一人……そう、加賀美 真だ。真が失踪してから三日目の朝となるが、何処へ居るのかと言うと、IS学園だ。
IS学園と言っても、校舎など人が寄り付きそうな場所には立ち入ってはいない。今もこうして、滅多に使われる事の無い船着き場で、黄昏ていたのだ。
灯台下暗し、その言葉がピッタリ当てはまる状況だ。IS学園に一応ながら帰ってきているとは、夢にも思うまい。真は単に、行くあてが無さ過ぎて仕方が無く戻って来たらしいが。
「…………」
これは些か、戻って来たとは言い難い。真が本当に帰って来たと言えるのは、皆と胸を張って会えた時の事だろう。コレから真は、やはりどうするでも無くボーッと……。
「おやおや、珍しいお客ですね。と言うか、授業中では無いのですか……加賀美君」
「……十蔵の爺さんか」
「おっとこれはいけない……校務員ともあろうものが、まるで教師のような言葉を言ってしまいました」
なんて朗らかな笑い声を上げるいかにも好々爺といった風体のこの人は、IS学園の良心こと校務員の轡木 十蔵だ。とは言っても、あくまでそれは仮の姿だが。
こう見えてこの人、実はIS学園の学園長だったりする。表立って学園長をするのはいろいろ不味いのか、こうして校務員のフリなんかをしているのだ。
真は十蔵の正体を知らないが、親交があった。たびたび仕事をする十蔵に見つかっては、手伝わされていたのだ。真も嫌々という訳でなく、かと言って率先してという事も無かったが。
「どうして、こんな所へ?」
「……それは、アンタにも言える事だろうが」
「失敬。私は、ただの散歩ですよ……。校務員とは言え、暇な時もあります」
これは嘘偽りなく、本当の事だった。たまたま散歩をしていたら、真を見つけた。ちなみに十蔵は、真の事情を知っている。楯無経由で報告があり、心底驚いたことはつい最近の事だ。
IS学園の学園長と言う立場は抜きにして、十蔵は真をどうにか安定した状態へ戻せない物かと考えていた。その矢先の遭遇だ……千載一遇のチャンスと言えよう。
「酷い顔ですね……。ちゃんと、食事や睡眠を摂っていないのでは?」
「……余計な御世話だ」
それもそのはず、真はもう数日は何も口にしていない。生きねばならないと歯止めが効いているのか、きちんと水分だけは摂取していた。
睡眠に関しては……寝ようとしても眠れないのだ。それこそ今の真が眠ろうとすると、過労により限界を迎える他方法は無いのかもしれない。
「何やら、事情があるようですね」
「…………」
「ではこちらへ、私が良い場所を知っています」
有無も言わさず真を引っ張って十蔵の表情は、何処か楽しそうだ。対して真は、全く抵抗する事無くされるがままである。
二日前ほどの状態であれば、抵抗するくらいはしたのだろうが……。今の真には抵抗する事すら面倒に感じられていた。それほどに、今の真は無気力そのものなのだろう。
**********
「さぁさぁ、冷めない内にどうぞ」
「…………」
真がなし崩しに連れて来られたのは、十蔵が(仮の)居住スペースとして用いている一室だった。IS学園の学生寮は洋風な装いだが、ここは和風で質素な印象を受ける。
それこそ真が今上がっているのは、畳の上だし……まるでこの一室だけIS学園ではないようだ。断っておくが、女尊男卑の影響がどうこうでは無く、十蔵が好んで設計した一室となっている。
そして真が座っている前の机には、何故だかホカホカのご飯で握られた握り飯が沢山並んでいた。日ごろの真ならば、『なんでだよ!?』と突っ込んでいる所だろう。
「ああ、これですか?私の手製です。温かいのは、私がこっそり食堂の物を横流しして貰っているんですよ」
「…………」
あからさまにニコニコと語る十蔵に、流石の真も何やってんだこの人……と言うような視線を送る。それに気づいているのか、十蔵はまた朗らかに笑った。
真はなんだか、陸と話している感覚になる。今の真にとっては、少々地雷であった。無意識にムスッとなるが、そんな顔でそんな表情をされると、非常に怖い。
「何か……辛い事があったのでしょう。君の顔を見れば、分かります」
「っ!?それ以上は言わないでくれ……」
「ですが、人という物は食べて寝る……それが本分とは思いませんか?何が起きたかは聞きません、忘れろとも言いません。しかしせめて、お腹に何か入れなくては」
十蔵は、真の懇願するような言葉を無視しながら続けた。恐らく十蔵は、無理を通さなければ聞き入れてもらえないと、そう言う思惑なのだろう。
そうすると十蔵は、皿の上に置かれている握り飯を一つ掴み取って、口へと運んで見せた。中の具はどうやら、紅鮭らしい。十蔵は、満足そうに握り飯を飲みこんだ。
「ほら、毒などは入っていませんよ。だから今は何も考えなくともいいのです。だだ、お腹に叩き込んでしまえば……ね?」
「…………」
非常に安心させるような口調で、十蔵は真に告げた。もちろんこの言葉は全て、単純に真を心配しての事なのだが。ここで真はようやく、ゆっくりと握り飯へと手を伸ばす。
そのまま小さな一口で握り飯をかじると、確かな温かみを感じる。俺は単に物理的な温かさだけでなく、十蔵の温もりも含まれているようで……真は知らぬうちに、涙を流していた。
「くっ……!うぅ!うぁ……!!」
「あぁ、落ち着いて……私は食べませんから、ゆっくり喉に詰まらせないようにして下さい」
「ず……み゛ま゛ぜ……ん……!」
相当な空腹が襲っていた中の食事だ。もとより良く食べる方の真には、すきっ腹にクリティカルヒットと言った所だろう。真は涙を流しながら、次々と握り飯を胃へ運んでいく。
そのペースたるや、凄まじい物だ。よほど腹が減っていたと言うのを、本人がようやく自覚した。空腹に、心に、十蔵の優しさが沁み渡っていくのを感じた。
**********
「で、あるからしてISにおける多人数の連携とは……」
一年一組では、いつも通りに千冬が教鞭を振るっている。内容は、何の因果か連携に関してだ。本音や専用機持ち達は、嫌でも真の席が気になってしまう。
そこは当然ながら空席で、もう既に三日も誰も座らない。キャノンボール・ファストの襲撃事件明けの欠席故か、クラスメイトの間には様々な憶測が飛び交っていた。
とはいえ、それらの全ては真を心配する内容だ。もしここで批判的な事を言う物が居たのならば、恐らく一夏達が黙っていない。
そんな折、バタバタと騒がしい足音が聞こえる。授業中に一組の付近を走るとは、命知らずな……などとクラス内の大半が考えるが、どうやら足音は一組目当てで急いでいるらしい。
「織斑先生……たったたたた……大変です!とにかく大変なんですぅ!」
「山田先生……?落ち着いて下さい。いったい何があったのです!?」
いつも以上に騒がしい様子で、真耶が一組の教室へ飛び込んできた。いつもの事とは言え、どうにも慌てふためき用が尋常じゃない。
千冬はザワつく生徒を黙らせたのち、真耶の報告を待った。息も絶え絶えな真耶だったが、ようやく乱れていた呼吸は戻り、信じられない言葉を口にした。
「ZECT統括先進技じゅちゅ……もう!ラボラトリです……ラボラトリから、救援要請です!」
「何!?」
「「「「「「!?」」」」」」
正式名称を述べようとしたのか盛大に噛んだ真耶は、珍しく苛立ちを露わにした。そうして、再度言い易いであろう横文字の方で報告する。
いち早く反応したのは、真と関わりがある面子だ。特に親交が深い本音は、思わず立ち上がってしまっている。千冬は舌を打ちながら、指揮を開始した。
「各専用機持ち!今すぐ準備を始め、整った者から随時ラボラトリへと迎え。私はこれから管制室にて指揮を執る。残った生徒は、大人しく自習をしておくように。いいか……罰を受けたくなければ、他言は無用だ!」
「織斑先生。こちらが現地の様子です」
「助かります。チッ!やはり亡国か……」
そう呟きながら、千冬と真耶は足早に一組を去っていく。一般生徒は明らかに動揺を隠せないようだが、千冬の脅しもそれはそれで効果的だったようである。
「皆!」
「ああ!」
「ええ!」
「うん!」
「うむ!」
一組専用機持ち五名は、一夏の合図を機に教室を飛び出る。ラボラトリは、真にとって大切な場所だ。それを今狙うとなると、悪意しか感じられない。
皆は奔る。ただひたすらに、友の大事な場所を守ろうと言う一心で。
**********
「んっ……?」
腹を満たした真は、いつの間にか眠ってしまっていた。それでもやはり眠りは浅く、体は非常に疲れを残したままだ。寝ぼけた状態で部屋を見渡すと、十蔵の姿は見えない。
すると机には、書置きがしてあった。見てみると、『気が済むまで、そこに居てください』との内容だ。十蔵には悪いが、いつまでもここにはいられない。
誰かに見つかる前に、早く学園内を出なくては。そんな感じで、十蔵が掛けてくれたであろう毛布を振り払う。と同時ほどに、十蔵の部屋の戸を何者かがドンドンと叩く。
「…………」
まずい事になった……やはり学園内に入るべきでは無かったと、真は座り直した。仕方が無いので、居留守を使う事にした。しかし、真の思惑に反して戸は強引に開かれた。
バタン!
「かがみ~ん!」
「スミマセン、加賀美君……悟られてしまいました」
現れたのは、意外や意外……本音だった。あれから本音は、居ても立っても居られずに生徒会の裏を知る者の場所を虱潰しに回ったのだ。
そこで十蔵と遭遇し問いただしてみると、どうにも本音には怪しく感じられた。だから襲撃をかけるようにやって来てみると、案の定という訳だ。
「……退いてくれ」
「いや」
「ああ、この言い方だと伝わらないか……。退け、邪魔だ」
「いや」
真は必要以上に手早く部屋を後にしようとするが、本音が立ちはだかった。あろう事か真は、本音に出さえ苛立ちをぶつけるような態度で接する。
しかし本音は、いつもの間延びした口調で喋らずに、臆す事無く真の前に立ちはだかる。二人の間に、何処か不穏な空気が流れ始めた。
「何の用だ」
「……ラボラトリが~……襲われてるの~」
「…………」
「それでね~……かんちゃん達が~、戦ってるんだよ~」
少しでも思う所があるのか、真の眉がピクリと反応した。しかし……それで真の心が動く事は無い。深い溜息を深呼吸のように吐くと、言い放った。
「俺には……関係ない話だ。もう俺は……ISには乗らない」
「!?」
「どうせ、アイツも来てるんだろ?俺は……アイツには勝てないからな」
「っ~!かがみんの~……ばかぁ~!!!!」
バチィン!
目にも止まらぬ速さで本音は腕の袖を捲って、真の頬をビンタした。その様はまるで抜刀術か何かの様で、予想外の威力に真も困惑している。
本音はと言うと、片手で真の服を掴みつつ、もう片方の腕で真をポカポカと殴る。本音はしきりに『馬鹿』と呟きながら、泣いているようだった。
「そんなの~……かがみんじゃ無いよぉ!戦う前から諦めるなんて~……皆がどうだって良いなんて~……。かがみんも、絶対そう思ってないんでしょ~!?」
「…………」
小さく見える大きな真を、本音は見上げながら訴えた。それはもちろん、そうだ。自分の因縁のせいで、皆が傷ついて良いはずも無い。
しかしだ……結果的に、ソルに勝てなければ何も意味は無いのだ。より状況は最悪になるかも知れない。その恐怖との葛藤が、真を前へと進ませないでいる。
「着いて来て~!」
「…………」
もはや真に、抵抗の意思など無いし……本音も真を逃がす気は無かった。とうに十蔵の存在など忘れ、真をどこかへと引っ張って行く。
「いやはや、なかなか悲しい物ですな……」
悲しいかな、十蔵の呟きは……誰の耳のにも届かない。
**********
「織斑先生~!」
「布仏!?それに……加賀美だとっ!?」
「ひいっ!?な、慣れて来たのに、加賀美君……怖いですぅ……!」
本音が真を連れて来たのは、管制室だった。千冬はまるで夢でも見ているかのような目で、真を見る。言いたい事は色々あったが、水を差すのは無粋と判断したらしく、ただ二人を見守った。
本音はモニターを八つに分けると、それぞれに専用機持ちを映し出した。みな、必死にワームやソルと戦っている様子だ。そんなタイミングで、謀ったように会話を始める。
『ったく……真ぉ!いつまでウジウジしてんの……よっ!』
『仕方あるまい。戦友は……ナイーブなのだ!』
『そんな自信満々に言われましても……ねぇ!』
鈴が文句を言うのを皮切りに、真の話題となった。戦闘中に何をやっているのだ……と、言うべきなのだろうが、片手間とは思えないほどに、ワームは駆逐されていく。
『それにしても、彼……どうしようか?温存してるよね……ちょっとムカつくかも』
『シャルロットの言う通り、あの余裕……腹立たしいな!私が斬ってやろう!』
『安心しろよ、箒!あんな奴……パパッと真が片づけちまうって!』
ソルとは更識姉妹が戦闘しているが、どうにもクロックアップもハイパー化する様子も見られない。もっと言えば、更識姉妹を相手に互角の戦いを繰り広げている。
その上でまだ喋る余裕があるようで、専用機持ち達の言葉に耳を傾けているようだ。嘲笑うかのようにフッ……と漏らし、一夏達へと言葉を投げかける。
『まさか貴様ら、本気で奴が駆け付けるとでも思っているのではあるまいな?』
『な~に言ってるのかしら?当たり前でしょ、私の未来の弟君なんだから!』
『貴方は……ただ顔や声が、真と同じなだけ……。貴方は……真の何も解ってない!真と同じ声で、そんなことを言うのは許さない……!』
簪は夢現で怒涛の連撃をソルへと仕掛ける。台詞と共に迫力が増しているところを見ると、どうやらヒートアップしているのだろう。
ソルにさっきまでの勢いがないのは、困惑しているからだ。どうせ一夏達は、虚勢を張っているだけだと思っていたのだから。
馬鹿げたことを、なぜこうも自信満々に言いきれる……?ソルには、皆の言葉が理解できない。とは言え、未だに戦況は互角だろう。
「これでも~……平気~?」
「なわけ……無いだろうが!俺だって、飛んでいきたいよ!でも……俺は……俺はぁっ……!」
真は、本音に卑怯だと言う感情を抱いた。こんなものを見せられて、本心を語らずにはいられまい。だって皆は、真にとって宝なのだから……。
「かがみ~ん……!だったら~、それで良いんだよ~!」
「本音……」
「かがみんがソルを進化させちゃっても~、それで良いよ~!私の知ってるかがみんだったら~、すぐに追いついちゃうも~ん!思い出して~……かがみんは~、一人じゃないから~!」
『私や新さん以外にも、多くの人が貴方の周りに居る事を……決して忘れないで下さい』
ふと真の頭に、光葉の遺したメッセージが過った。沢山の人……本当に、自分には贅沢過ぎるほどの沢山の人だ。こうも自分を慕ってくれて、涙が止まらない。
『真、模擬戦しようぜ!いやっ、違っ……生身の話じゃないって……!?』
『お前は鍛錬を怠らないな、真……。私も、見習わなければ』
『真さん、わたくしに……お料理を教えていただけませんか!?』
『今日も相変わらずデッカイわね~……ちょっ、近づくなぁ!首が疲れるのよ、見上げるから!』
『わぁっ!?真……?運んでくれるの?ありがとう!真は頼りになるなぁ……』
『戦友よ、今日も今日とて組技の指南をしてやる!何、そう照れるな……私と戦友の仲だろう?』
『真く~ん!楽しいお仕事が……あん、いけずな事言わないの!』
『あら、真君。新作のケーキを焼いてみたんです……味見してくれませんか?』
『真……。その……一緒に、チャージマン……見ない……?』
真の頭に休みなく過ったのは、皆と過ごしてきた何気ない日常の風景だった。ほんの一例でしかなく、まだまだ……沢山の人達が、真の名を呼んでいる。
「……そう……か」
「かがみ~ん……」
「……来い!ガタックゼクター!」
ブォン!
「変身!」
真が大きく空中へ手をかざすと、待ってましたと言わんばかりにガタックゼクターが飛んできた。そのままゼクターのパススロットにあるベルトを取出し、腰へと巻く。
ベルトにガタックゼクターをスライド挿入させると、真を光の粒子が包みガタックのアーマーが出現した。そのままの状態で、真は本音の頭を撫でる。
「ありがとうな、本音……。お前は俺に、大事な物を思い出させてくれた」
「うん……う~ん!かがみ~ん!てんだ~君……いつでも飛べるからね~!」
「了解!」
真はガシャン!ガシャン!と、管制室を踏み荒らしながら走り去っていく。あまりにも清々しい荒らしっぷりに、千冬は額を押さえた……が、何処かその表情は、生き生きとしているようだった。
**********
「なるほど、流石に学園最強とその妹を同時に相手するのは骨が折れる」
「あらあら?もうギブアップかしら」
「そうは言わんが、あまり時間が無い。恨むなよ、死ぬか生きるか……戦場ではそれだけだ」
ヴヴヴヴヴヴヴヴ!
「何……!?」
一夏達の相手をしていたワームの一部が、簪と楯無にも襲いかかった。一部と言っても数はやはり手が足りないほどの数だ。
かと言って、一夏達もラボラトリを守りながらの戦闘だ。そのため二人のフォローをする余裕などなかった。恨むなよとは、そういう事なのだろう。
「キャッ……!」
「簪ちゃん!このっ……!」
簪と楯無は、数の暴力に押し負けつつある。前回にラウラが発見した対所法を試しているが、今回は防衛目標がハッキリとしているため、なかなか数を減らせない。
各々が、なんて事の無いミスで徐々に削られていく。ソルもタイミングを見計らって、仕掛けてくると言う苦しい状況だ。しかし……その時だった。
「!? 皆さん……お待ちかねですわ!」
「やっと来た!おっそいわよ、もう!」
「真ー!おかえりー!」
「フッ、戦友よ……遅刻だぞ!」
いち早くガタックの反応を捉えたのは、ブルー・ティアーズだった。ハイパーセンサーで見てみれば、エクステンダーに乗って飛んで来る真の姿が確認できた。
みなが、思わず足を止めて真の来る方向を見た。そして……肝を冷やす。なぜなら、あからさまに両肩のキャノンがチャージを開始しているからだ。
「そ、総員……退避!」
ドォオオオオン!
ガタックキャノンの威力がえげつないのは、皆よく知っている。ラウラが軍人らしく退避命令を出すと、エネルギー弾が大量のワームを蹴散らす。
そのまま真はキャストオフし、ダブルカリバーですれ違いざまにワームを切り伏せながらソル目がけて前進した。まさか来るとは思っていないソルは、動揺を隠せない。
「ソォォォォルゥゥゥゥ!」
「クッ!」
ガギィ!
「おらっ!」
ダブルカリバーとクナイがぶつかる密着状態のまま、真はカブトの胸部をビックブーツで蹴り飛ばす。これには思わず、ソルも大きくノックバックした。
「真……!」
「悪い、待たせた……」
「うん……うん……!ずっと……待ってた……!」
「でも俺は、もう大丈夫だ。それに、これからは約束する……俺は簪のヒーローになるって。簪がピンチだったら、俺は……どこにだって駆けつけて見せるさ」
真はソルやワームを完全にスルーして、簪の方へ向き直った。当然ソルが、その隙を逃すはずが無い。クナイガンをガンモードに戻し、真の背を狙う。
ドン!
「フッ!」
バチィ!
「…………」
すぐさま真は振り返り、マイナスカリバーを振るってクナイガンの弾を弾いた。ソルは意外そうな反応を示し、黙って真を見つめている。
「簪、下がっていてくれ」
「でも……!」
「アイツには、ちょっと言いたい事があるんだ」
「…………解かった……。いってらっしゃい……」
簪の見送りの言葉に、真は口元を緩ませ少し前へと飛び出した。空域は広く、これで真とソルのサシと言った所だろう。
それまで動く事はしなかったソルだが、ハイパーゼクターを手元に呼び、ハイパー化して見せる。それが終了すると、ゆっくり口を開いた。
「よもや……本当に来るとはな」
「知ってたぜ、お袋は全部な……」
「何……?」
「死ぬって分かって、俺を産んだ。俺みたいなクソッタレに、全部を託してな」
これまた……ソルにとっては、意外な事だった。もはや、混乱しつつあると言っても良い。本当に、心の底から理解できない。
何も知らずに育ったオリジナルは、自分に勝つ可能性は限りなく低い。そんなちっぽけな可能性に賭けて、自分は死ぬなど……馬鹿げている。
「でよぉ……お袋と本音の言葉で、思い出してたんだ。俺の周りに、誰が居てくれるのかを」
「…………」
「そしたら、全員が全員アホだったぜ。俺を仲間だって認めてくれる……アホな連中だ。本当……アホすぎて、涙が止まらねぇよ……」
口調こそ通常の物だが、真はアーマーの下で涙を流していた。しかし、その涙はこれまでの悲しい物とは違う。皆に対する感謝と、自分を想ってくれる喜びの涙だ。
「ソル、聞かせろ。お前にとって、進化ってのはなんだ?」
「知れた事……。進化とは、孤高なる物だ!邪魔なものは全て切り捨て……遥かなる高みを目指す!その先に掴み取った力こそ、進化の証だ!」
「そうか、それだったら。俺はやっぱり、お前に負ける訳には行かねぇな」
「なんだと!」
「俺がフェーズを上げた時の事も、思い出した。それは……いつだって、俺の後ろにいる大切な人達の為に……強くなりたいって思えたからだ!」
「…………」
「足枷になったって良い!足引っ張られても構わねぇ!俺の進化は……お前より遅いのかもしれない。それでも!何度だって追いついてやるよ、皆と一緒にな!」
遠くで聞いていた専用機持ち達は、なんだかムズ痒そうだった。初めて聞く真の本心に、そう思っていてくれたのかと……。
専用機持ち達は、一斉に想っている事を口に出す。おかげで何と言っているかは聞き取れないので、割愛しておこう。それでも、真はやはり嬉しそうだ。
「お前の孤高の進化の果てにある未来……そんな未来に、皆を連れてく訳にはいかん!」
「ならば……どうすると言うのだ!」
「ヘッ……!あの俺様主人公は、すでに未来を掴んでる……なんて言ってたが、俺にはちっと……難しい話だ」
「訳の分からんことを……!」
「俺は親父の息子だし、誰かに支えられるくらいでちょうどいい。だから俺は、皆と一緒に未来を掴む!コレから俺達が歩いて行く道こそが……俺達の創っていく未来だ!」
バチィン!バリリリリ……バリ……
「なっ……!?そうか……力、貸してくれるのか……サンキュー!」
真が手を前にかざし、空を握りしめようとした瞬間の事だった。目の前に紅い空間の歪みが発生したと思ったら、いつの間にかハイパーゼクターを握りしめていたのだ。
右手に収まっているハイパーゼクターを、左手の中にヒョイっと移すと、ソルに向かって見せつける。対してソルは、これこそ本気で信じられない光景だった。
「第……三フェーズ……!?馬鹿な!そんな事が……あの心身喪失状態から……辿り着いたと言うのか!?」
「ソル……良く見てやがれ!コイツは、お前じゃない……皆が俺にもたらしてくれた進化だああああああ!!」
「クソッ!」
「ハイパアアアアッキャストオオオオフッッッッ!!!!」
『―HYPER CAST OFF―』
ガタックのベルトの左腰に専用のハイパーゼクターを装着し、雄叫びと共にハイパーゼクターの顎を開いて、また閉じた。すると、凄まじい勢いでガタックが発光を始める。
頭部アーマーの顎は、巨大化し。徐々に各部アーマーが黄金と群青の鎧へと書き換わっていく。その様は、闇夜に浮かぶ満月を思わせる。最後にコンパウンドアイが紅く発光し、電子音を上げた。
『―CHANGE HYPER STAGBEETLE―』
「こんな……こんな事、ありえん……!」
「ハッ、やっぱテメェは俺だよ。不測の事態にゃ……滅法弱ぇ」
「貴様!いったいなんなんだ!?」
「あぁ?通りすがりの仮面ライダー……って答えたいとこだが、まぁそれはナシだ」
「…………?!」
「俺は……戦いの神ですが、何か?」
「っ!?」
真は堂々と、ズビシ!とソルを指さして少し首を捻った。その様子は、まるで何か問題でも?とでも言いたそうだ。これまで散々に真を挑発してきたソルだが、こう言い切られては返す言葉も無い。
「さぁ挑ませてもらうぜ、太陽の神!これが本当の……リベンジマッチだ!」
後ろに控えている歓声が、ここに来て一致した。それは『勝ってこい!』その一言に背中を押されるのを感じつつ、真はソルとの交戦を開始。神々の戦いが、今ここに始まろうとしている。
誕生、仮面ライダーガタック ハイパーフォーム!
長かった……ようやく出せました!初期の構想からこの展開を、ずっと書きたかったんです!ヒャッホウ!……と言いつつ、自己満足でないと良いのですが。
黄金と群青の鎧……と言う点で、察した方もいるかもわかりませんが、ハイパーガタックは、皆さんの知ってる見た目ではございません。
オリジナル要素を増し増しで、お送りいたします。細部等は、次回で明かす事にします。乞うご期待!
次回は、ハイパーVSハイパー……真の本当のリベンジマッチです!
それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。