少し遅いですが、アンケートにご協力して頂いた方々……大変ありがとうございました!ここでの発表等は特にしませんが、ここから先を見て行けば結果は分かると思うので、楽しみにしていて下さい。
それと同時に、謝罪をば……。前回の『あの人が出る』的なあとがきですね。どうにもこの発言が誤解を招いてしまったようでして、大変申しわけなく思います。
冒頭ですが、変に期待をさせてもアレなので……。カブトの登場人物ではありません!というか、これ以上はカブトの登場人物は出ない可能性の方が大きいです。期待させてしまった方、重ねてお詫び申し上げます。
それでは、今回もよろしくお願いします。
ZECTを飛び出した真は、あても無く地元の付近をフラフラとしていた。そこいら一帯は、それなりの繁華街となっていて、学校帰りの学生たちがひしめいている。
恐らく皆、ゲームセンターに寄ったり、ファストフード店に入ったりして、学校の愚痴だとかを語らいながら遊ぶのだろう。
そんな中を、真は異様な雰囲気で歩く。何の目的がある訳でも無い……そんな少年が、目元に隈を作って死人のように歩いているのだ。異様と言う他に表現しようがない。
学生たちの中には、真の異様な雰囲気に気付いて一瞬立ち止まってみたり、余裕があるのに道を開けて見せる者もいた。そして真が離れると、友人とヒソヒソと噂話を始める。
「…………」
本当に何処にも行くあての無い真は、ただ『歩いている』……それだけなのだ。自分でも何故足が動いているのか、不思議なくらいである。
しかし、そんなにフラフラ歩いていると、アクシデントに見舞われるのは必然だ。真は前から歩いて来たガラの悪そうな連中に、肩がぶつかってしまった。
それでも真は、何の興味も示さずに歩を止めない。本来ならば、たとえ相手がどれだけ悪そうな人間だろうと、自分に非があれば真は一言入れる。
この場合は相手が相手なので、どちらにせよ絡まれるのは必須だ。三人の男は、ニヤニヤとした顔で真を取り囲む。年齢は真より少し年上で、見た感じ高校生と言った所だろう。
「あ~いって~!こりゃ折れちまったかなぁ~!」
「人にぶつかっといて詫びも無しかよ!」
「オラ、分かったら慰謝料払え!」
「…………」
真は、少し俯いたまま何も答えない。自分達よりも身長の高い真だが、ビビッていると勘違いしたのだろう。これはいいカモが釣れたと、ぶつかられていない内の一人が、真の襟をつかんだ。
最悪な状況だ……。凄むように顔面を近づけると、脅し文句であろう言葉を次々と発した。そこでようやく、真は表をあげて、不良の顔を見て言う。
「俺に、干渉するな……殺すぞ」
「……!?おい、止めとけ……そいつ、ヤバそうだぜ……」
真の顔を見たうちの一人が、襟をつかんでいる不良に警告した。それは……真の顔を見たからだろう。目も顔色も、明らかに常人の『ソレ』でない。
警告をした不良は、恐らく本能的に『ヤバイ奴』だと察したのだろう。ここで離しておくのが正解だが、愚かな事に襟をつかんだ不良は止まらない。
「あぁ?こんな野郎……ただの病人だろ。おら、こっち来い」
グイッと襟を引っ張られた真は、特に何の抵抗をするでもなく、簡単に裏路地へと引き込まれてしまう。そのまま壁に押し付けられ、不良は更に真を脅すような言葉を言う。
ますます状況は最悪に……。ところでだが最悪と表現しているのは、決して真の方では無い。脅している不良の方だ。いい加減に鬱陶しい不良に、痺れを切らした真は動き出した。
「…………」
「テ、テメェ!あんまし舐めてっと痛い目……『グシャッ!』あっ、あぁ?あぁああああ!?」
「ひ……ひぃ!?」
「足がああああ!!!!」
真は襟首を掴んでいる不良を突き飛ばし間合いを取ると、手加減の欠片も無い前蹴りを不良の膝関節へと放つ。膝関節は、当然前にしか曲がらないように出来ている。
つまり膝関節の骨は、鈍い音を立てて逆方向へ折れ曲がったのだ。あまりの激痛にもだえ苦しむ不良の膝を、あろう事か真は踏み潰す。
「ぎゃああああ!?」
「お、おい!もう止め……てください!俺らが悪かったです!」
「あぁ……?何言ってんだ……アンタら、自殺志願者だろ?俺は干渉したら殺すって言ったよな、にも拘らず俺に絡んで来たってこたぁ……死にてぇんだろ?なぁ?!そうだろうがよ!!!!」
「め、滅相も無い!もう関わりませんから!」
仲間意識が一応はあるのか、足の折れた不良を抱えてそそくさと逃げて行った。真は特に追う事はしない。ただ虚ろに去っている背中を眺めるだけだった。
「…………」
何事も無かったかのように、真はその場を後にする。そしてまた、目的の無い旅路へと足を運んでいくのだった。フラフラ……フラフラ……。その足取りは、やはり死人の様だ。
いや、実際に死んでしまっているのだろう。『加賀美 真』は、死んでいる……。こんなのは、既に真だなんて呼ぶことはできない。
やがて真の様な何かが辿り着いたのは、更に家の方に近い付近だ。長く真っ直ぐな通路の先に、何だか人だかりが出来ているのを見つけた。
そんな事は、今の真には関係の無い事だ。しかし、その人だかりは……決して真と無関係とは言い難い。人だかりに中心は、チラシを配っているようだった。
「親父……」
「ご協力お願いします!俺の息子が行方不明なんです!」
そこに居たのは、新だった。どうやら、真が行方知らずと言う事は連絡がいったらしい。服装は警官の格好でなく、私服だ。仕事を休んでまで、真の目撃情報を探していたのだろう。
そんな新を見て、真は声を押し殺しながら涙を流す。この涙は、新たに対する申し訳なさと、立ち直れないでいる自分への情けなさ。そして、自分の憤りのはけ口に人を傷つけてしまった事に対してだ。
気が付けば、真は走り出してしまっていた。ただし……新の方向とは、真逆だ。ボロボロと涙を流しながら走る少年は、これはこれで異様な光景と言えよう。
「ゴメン!ゴメンなぁ……!親父……ゴメン!」
ただ真は、新への謝罪を口にしつつとにかく走る。目的地は、やはり真にもわからない。いや、体が覚えているのか、真の足は『ある場所』へと向かっていた。
**********
「うわぁああああ……!ああああああっ!!!!」
真は、とある河川敷で声を抑えずに大泣きしていた。この河川敷は、新との思い出の場所だ。キャッチボールをしたり、語らったり、何をするでもなく佇んだり……。
新と真が、親子の絆を育んだ場所とも言っていい。やはり真にとっても、大事な場所だとインプットされていたのだろう。
ここへきてしばらくたつが、真が泣き止む事は無い。……その時、さっきまでの快晴が嘘のように雨が降ってきた。まるで、真の心模様を反映させたような大雨だ。
雨でびしょ濡れになるが、真が泣き止む事は無い。雨音は、真の良く通る声をかき消すほどの轟音を鳴らす。しかしそんな雨が、誰かの手によって遮られた。
「泣いてても、しょうが無いよ?って、私が偉そうに言える事は何もないけどね」
「しののの……たばねぇ……!」
真の背後で、不思議の国のアリスが傘をさしていた。一応だが真の中でも、会いたい人物の一人だった。まさか自分から会いに来てくれるとは思っておらず、少し面食らっているらしい。
束は何処からか、プラネタリウムのような機械を取り出した。それを自分と真の中間ほどに投げ捨てると、そこからドーム状のようにアリーナのシールドのようなものが現れた。
「俺を……殺しに来たか?」
「ん~ん?だって、もう意味ないもん。分かるよね、アレを第三フェーズまで入らせちゃうと、止められないって」
地面にもシールドが張られているのか、束はなんの躊躇も無く真の隣に座った。この様子を見ると、束も真に話があってやって来たらしい。
真は涙と鼻水でグズグズな顔を、服の袖で拭う。すると四つん這いの状態から胡坐をかいた状態で、乱暴に腰掛けた。そうして、束が口を開くのを待つ。
「ま……この間の事だけは、謝っておくよ。まさかもう第三フェーズだなんて思わなくってさ」
この間の事……と言うのは、専用機持ちタッグトーナメントでのことだろう。キャノンボール・ファストでハイパーフォームになったソルを見て、束は既に手遅れだったことを察したのだ。
『だけ』と表現したと言う事は、それ以前の事は仕方が無いと言う事らしい。真は、束が一体何のために自分を殺そうとしていたのかを考えた。
「ハッ……そうか、アンタ……優しいんだな」
「何の話かな。トチ狂って束さんとお友達になるつもり?」
「俺を殺そうとしてたの……人類の為だろ?俺が奴を進化させると、世界は半分……連中のみたいなモンだから」
「…………」
真の言葉に、束は肯定も否定もしない。ただ黙って、目の前に流れる川を見つめるのみだ。そんな束に真は、畳み掛けるように続けた。
「興味が無い奴には冷淡……ってのは、フリだな?なるべく、他人を巻き込まない為だろ。アンタが興味を示してる人間は……少なからず俺を倒せる可能性のある奴。俺が……向こうに寝返ったら困るもんな」
真の言葉は、どれも寸分の狂いも無く正解だった。それと、真は気付いていないようだが……ISに乗るなと言う警告も、その一部だ。
ある程度だけ、怪しい雰囲気を漂わす言葉をわざと放った。そうすれば、多少は事実を受け入れやすくなる。束の警告が無ければ、真が負った精神的ダメージは、もっと大きかったはずだ。
そして、ソルや真を倒せる可能性があるとすれば……一夏と箒、白式と紅椿だろう。少なくともこの二機には、他の専用機よりも可能性は高い。
だが続けられた言葉にも、束は決して反応しなかった。そうして話の流れをぶった切るように、自身の身の上話を始める。
「ある日……さぁ。見覚えのないデータが、束さんのPCにあってね。もう何年前くらいかなぁ……?」
「…………」
「あの時の束さんは子供で……あ、いや、今も頭の中身ハッピーだけど。特に深くも考えずに、跳び付いちゃうよね。だって、天才だからアレの凄さは計り知れなかったよ」
送られてきたデータ……カブトのデータの事だろう。束は送られてきたデータに目を輝かせ、夢中になった時を思い出す。
束が言うには、そこから無駄であろうもの。つまりゼクターやキャストオフやプットオンを省いたものが、ISの始まりであることを伝える。
「でも、第一世代型が全身装甲なのは名残だね。あと第四世代の展開装甲は、キャストオフとかを流用してたり」
「そうか……」
「興味無さそうだねぇ、聞きたいのはそこじゃないか。それじゃ……。え~っと、そう!奴らの陰謀だって気付いた時には、ぶっちゃけもう手遅れでさ!」
「だからこそ……ISの世代を上げて行った……」
ぼそりと呟いた真の言葉を聞き逃さずに、束はピンポ~ン!と拍手して見せた。これも理由は同じだろう……気付いてしまったからこそ、ISをより強い物にせざるを得なかった。
束は策を二重三重に重ね、何とかしてソルを止める方法を模索していたのだ。その第一が、真を抹殺する計画で。それがダメなら、既存のISでソルを倒す……。
「だけど無理っぽいよね、この間のを見る限りじゃあさ。消耗してたとは言え、まさか専用機を同時に五機も落とされるのは想定外だったな~」
原作カブトを知っている真からすれば、当然と言えば当然なのだが……。なにせハイパークロックアップは、単純なタキオン操作にとどまらずに、時空間移動まで可能なのだから。
だがそれをここで説明しても話がこんがらがるので、あえて伏せておく。と言うよりは、真が実際にハイパークロックアップを使ったわけでは無いので、何とも言えないと言う方が正しい。
それからしばらくは、既に真も知っている事柄が多かった。無気力に『知ってる』を連呼する真に、何処か束はつまら無さそうだ。
「じゃあ束さんからのお話は終わり!あっ、いらないからソレ上げる。中からは出られるけど、逆は無理だから……出る時は必ず装置を止めてから出てね。じゃ!」
「もう一つ、聞いても良いか……?」
「何?束さんのスリーサイズとか?」
「アンタ、なんで俺を回りくどい方法で殺そうとした。もっと言えば……ガキの頃でも殺せたはずだ」
これは真が、事実を知ってからずっと疑問だったことだ。正直な話、わざわざイベントごとに刺客をけしかける事は、全く持って意味が無い。
むしろ真が勝利した時の事を考えると、ソルの言った通りにヒントを与える事となる。そんな事を、束が理解できていないはずが無い。
「あ~……それ?前者は君を殺せた時にさ、表向きには誰かさんのせいにするつもりだったから」
「亡国機業か……」
「ピンポ~ン!後者はね、君……守られてたんだよ?ず~っと前から、ZECTにね……」
「!?」
その言葉は、幼い真の殺害を試み失敗した裏付けだ。それでも真は、小さなころからZECTに守られていたことが、衝撃だったらしい。
真の目元に、またしても涙が滲んだ。グイッと涙を拭ってみると……もうそこには、束の姿は無かった。響くのはまた……激しい雨音のみ。
「…………」
あと真が確認していない物と言えば、光葉が遺したメッセージのみだった。どうにも真は、その事が解せない。わざわざメッセージを……と言う事は、やはり光葉は自身が死んでしまう事を知っていたのではないか。
そう考えると、どうにも……手が止まってしまう。だが今の真に、心の拠り所は他にない。真は一縷の望みをかけ、ハンディカムを起動させる。
するとそこには、一つだけ録画データがあった。他に録画記録が無いとすると、そのためだけに光葉はわざわざハンディカムを買ったらしい。やはり微妙に、ヌケた女性なようだ。
真はハンディカムを操作し、録画された映像の再生を始めた。すると、家にあるテーブルの向こう側に座る加賀美 光葉その人が映し出された。
『……っと、聞こえていますか?……コレ、本当に撮れてるのでしょうか……心配です……』
するといきなり、光葉はガタガタとハンディカムを引っ捕まえる。どうやら、しっかりと録画が始まっているかが心配なようだ。本人も、自身がドジな自覚があるらしい。
『……大丈夫そうですね。では、改めて……。初めましてですね、真。私があなたのお母さんですよ?』
「俺の名前……」
『あっ、あなたの名前は……僭越ながら私が決めさしてもらいました。ほら、男の子でも女の子でも通じる名前でしょう?』
確かにそうだ。日本人ならではと言うか、男でも女でも通じる名前は多々ある。シノブやらカオルやら……マコトも十分にそうと言える。
自分が名前を決めた事を嬉しそうに語る光葉は、どうにも可愛らしい。どう逆算したって二十代後半なのだろうが、とてもそうには見えないだろう。
『さて……あなたがこの映像を見ていると言う事は、私は既にこの世に居ないのでしょう……って、なんだかありがちなセリフですね……フフ……』
「!? お袋……やっぱり……!」
『私は、あなたを産むと死んでしまう……そう言う、運命なんです。例外は、ありません……』
やはり光葉は知っていた……自らが出産をすると、死んでしまう事を……。真はこの時点で、思わず再生を一時停止しながら立ち上がった。
そして、ハンディカムを投げ捨てようとするが……出来なかった。ここに、光葉が自分の為に遺した『何か』があると考えると、自然に手は止まる。再び座ると呼吸を整えて、再生を始めた。
『恐らくあなたを産めば、あなたのそっくりさんも生まれてしまう。そしてそれは、同時に世界が危うい事になる……。私もそれは、理解しています』
「じゃあなんで……!!」
『新さんに、私が死んでしまう事を伝えれば……あの人は、子供なんていらないと……そう仰ってくれるでしょう……。ですが、それでも私は……あなたを授かる事に決めました』
「…………」
映像の中の光葉は、ずいぶんともったいつける。今は亡き母の喋る姿が見れて、真としては構わないが……割と落ち着かないのも確かだった。
どうして死ぬと分かって、世界が危ういと分かってまで、自分を産んだのか……。真の最も知りたい事は、やがて光葉が語りだす。
『なぜなら……あなたが、絶望で無く希望であると……疑う余地が無いからです。滅ぼすためではありません、繋ぐための……あなたなんです』
「っ!?」
『ええ、分かっています……。これは……私のエゴの他ありません。ですが!きっとあなたや、あなたの周りが考えている以上に……恐ろしいんです!あの人達は!』
光葉はガタガタと震えながら……涙を流しながら俯いた。恐らくだが、かつて実験体であった時の事を思いだしてしまったのかもしれない。
美しく笑う光葉が、これほどになってしまうのだ。言葉通りに亡国機業とは、恐ろしい連中であるらしい。涙を振り払った光葉は、顔を上げて続けた。
『むしろ……私があなたを産まなければ、希望はありません。あの人達は……もっと他の手段で、世界を陥れようと企むはずですから』
「…………」
『私は外に出て知りました……美しく尊い世界と、そこに生きる命を。そんな世界を……身勝手な目的で穢されるのを、私は見過ごせない。だから……あなたと言う名の希望に、託したいのです……』
「お袋……」
その言葉を言い切る頃には、光葉はなんとも凛々しい表情へと変わっていた。しかし、その表情にはどこか慈愛を感じさせ……まるで聖母の様だ。
ある意味では、本当にそうなのかも知れない。真という名の希望を、命と引き換えに産み落とす。他でも無く、世界の為……それだけの為にだ。
『ですが……どう生きるのかは、貴方の自由ですからね。世界を恨むのならば……思うままに動いて下さい。私は、理不尽な押し付けをしているに過ぎないのですから』
「…………」
『…………。……めんなさい……!ゴメンなさい……!ダメなお母さんですね、私は……!身勝手な事ばかり言って……過酷な運命を背負わせる事しかできない……ダメな母親です……!」
「おふ……くろぉ……!」
光葉は先ほどとは違う意味合いで、涙を流し始めた。今度は大泣きだ……ワンワンと泣いて、嗚咽も止まらない。必死に泣きながら謝る母親を前に、真はもらい泣きのような形で涙を流した。
そこからしばらくは、光葉はまるで泣き止まない。それもそうだ……自分は、もう真と会えないのは分かっている。その上で、真に押し付けのような事を言ったのだから……追い詰められても仕方の無い事だ。
『……はぁ……ゴメンなさい、泣いてしまって。結論から言わせると、気が向いたら……ですかね?気が向いたら、あなたのそっくりさんを倒しちゃってください。ドーンッ!って感じで!」
「…………作り笑いじゃねーか……」
真は店長の言っていたことに、合点がいった。光葉は終始笑顔だが、今のは毛色が違う。どうやら無理して、明るい雰囲気を作っているのだろう。
『では、最後に……あなたの名前の由来だけ話させてください。さっきも言いましたが、どちらにも対応可……と言うのは、あくまでおまけですからね』
「俺の……名前……」
『あなたの名前は『いつだって真新しい気持ちで、光を目指して歩いて行けるように』……と言う意味です。『真新しい』は、『新』の文字は新さんですね、光は……私から取らせてもらいました。あなたの名前には入っていませんが』
「…………」
『少しでも、あなたに私を刻んでおきたかったので……ね?アハハ……なんだか照れてしまいます……」
光葉はかなり百面相な性格らしい。今度はモジモジしながら顔を赤くし、自分のネーミングセンスが心配だと照れ始めてしまった。
真が冷静な状態だったとすれば、母と分かっていても『やられて』しまいそうなほど、可愛らしかった。なるほど、新が惚れるのもよく分かる。
『それでは、真……。私は、あなたと一緒に居てあげられませんが……いつでも、見守っていますよ。そして、私や新さんだけでなく……多くの人があなたの周りに居る事を、決して忘れないでください』
「…………」
『私の可愛い……愛しの真……。身勝手ながら、あなたの幸せを願っています……。それでは!』
「…………」
映像はそこで止まらず、どうやって録画を止めるか分からない光葉が四苦八苦しているのだが、ご愛嬌と言った所だろう。真はそこで映像を止めて、ハンディカムをしまった。
さて、母の想いを知った真のリアクションやいかに……。真は空を仰ぎ、まるで怒鳴り付けるかのように叫んだ。それは、誰に対するものなのか。
「どいつも……こいつも……!俺に選べ!?選べる訳があるかよ!」
やはり真は、自分がこれからどう動くかを決めかねているらしい。だからこその、この言葉だった。今の真は、あらゆる事に板挟みになっていると言って良い。
皆の事は守りたい……だが、傷つける可能性があるとすれば、自分のせいだ。母の願いはかなえたい……だが、奴を更に進化させては、元も子もない。
光葉の言葉が、偶然にも陸が放った言葉と似ていたのがまずかったのだろう。選ぶのは真自身……どう力を使うのかは、真自身……。だが今の真は、選べないのだ……。
「何が……何が転生だ!聞こえてんだろ、神ッ!どうして俺が、こんなものを背負わないといけなかったんだ!」
真は言葉通りに、神を呪った。転生した時の事だけは、はっきり覚えていただけに……文句も言いたくなるだろう。しかし、返事は無い……ただ雨が降りしきるのみ。
歯をギリリと食いしばりながら、真は膝を曲げた。ドシャリと、数日前のように膝をつく事しかできない。様々なジレンマに襲われる真は、もはや崩壊寸前であった。
「返事……しろよぉ……!黙ってないで、何とか言ええええええ!!!!」
真の心も、実際の空も……雨はまだ……止む気配はない……。
まだ真は、這いつくばって貰います(ゲス顔)
普通だったら光葉さんのメッセージで立ち直る所なんでしょうけれど……甘い甘い。ウチの方針は、主人公に厳しく……です!
ところでですけど、『希望』って言葉を多用すると某指輪の魔法使いっぽくなっちゃってません?大丈夫ですかね?これ以外の表現の仕方が、見つからないんだよなぁ……
さて、次回ですが……まだまだシリアスお変わりでお願いします。真が居なくなった後のIS学園等の様子をお送りしようと思います。
それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。